*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
奥村宏 経済評論家
DECEMBER 2013 86
『マンスリー・レビュー』の論文
地球温暖化による気候異変が世界的に大きな問題になって
いる。 また、経済的には二〇〇八年の?リーマンショック?
以来、世界的に長期不況状態に陥っていることが問題になっ
ている。 これまでこの二つはそれぞれが別個の問題として取
り扱われていたが、今ではそれが重なりあった問題として認
識されている。
というのも地球温暖化の問題を解決するためには、これま
での社会のあり方を変えていくことが必要であるという認識
が高まっている一方で、現在、資本主義諸国が陥っている長
期不況から脱却するためには、資本主義国の体制のあり方を
変える必要があるという考え方が強くなっているからである。
私は五〇年以上にわたってアメリカの『マンスリー・レビ
ュー』という雑誌を愛読しているが、その最新号で同誌の編
集者であるJ・B・フォスターが「エポカル・クライシス」と
いう論文を書いている。
この中でフォスターは気候異変と世界的不況を関連付けて、
これを?エポカル・クライシス(画期的な危機)?だと特徴付
けている。
そのことをはっきりと打ち出したという点で、『マンスリ
ー・レビュー』二〇一三年一〇月号に載ったフォスターの論
文は大きな意義を持っていると言える。
『マンスリー・レビュー』はP・スウィージーが始めた雑誌
で、経済や政治問題を主として取り上げていたが、フォスタ
ーが編集者になってからは地球環境問題にも力を入れるよう
になっていた。
日本でもこれまで地球温暖化の問題と経済や景気問題は別
個の次元で、それぞれ異なった学者や評論家によって扱われ
てきたが、これでは問題の本質は分からないばかりか、問題
の解決に役立たないということがようやく分かりかけてきた
のではあるまいか‥‥。
エネルギー革命の構造
地球温暖化の問題は当然のことながらエネルギー問題と深
く関連している。
これまで人類が利用してきた石炭や石油などのエネルギー
が地球温暖化の原因であることは言うまでもない。 そこで地
球温暖化の問題を解決するためにはエネルギーのあり方を変
えていかなければならない。
そこで、今世界的にエネルギー革命が大きな問題になって
いるのだが、これについてはフランスの経済学者であるJ・
M・シュヴァリエが『世界エネルギー市場』(邦訳、作品社
刊)という本を書いて注目されていた。
そのシュヴァリエがP・ジョフロンとM・デルデヴェと一緒
に書いたのが『二一世紀エネルギー革命の全貌』で、この本
も邦訳が作品社からつい最近出版された。
そこで私はこの本を読み、『週刊東洋経済』に書評を書い
たのであるが、読んでいるうちに地球環境問題と世界的な長
期不況、というよりも世界的な経済問題がからみ合っている
ということを認識するようになった。
地球温暖化の問題を解決するためには政府がこれに取り組
み、国家次元の問題として取り上げる必要がある。
このことは誰にでも分かっていることだが、しかしどこの
国の政府も真剣にこの問題に取り組もうとしない。 それとい
うのも、世界的な不況下で、どこの国の政府もこれに取り組
んでいくだけの力がないからである。
問題は先送りされ、いっこうに地球温暖化の問題は解決さ
れそうにない。
とりわけ世界経済をこれまでリードしてきたアメリカにそ
のことがはっきりと現れている。
しかし、それはアメリカだけでなく、ヨーロッパや日本に
ついても言えることだし、さらに中国やインドなどの新興国
についても同じことが言える。
これまで地球温暖化と経済問題が同列に論じられることは
なかった。 しかしこの2つを企業のあり方と結び付けて考え
る新たな視点が注目されている。
第139回 地球温暖化と企業のあり方
87 DECEMBER 2013
問題は企業のあり方
先に挙げた『マンスリー・レビュー』のフォスターの論文
やシュヴァリエなどのエネルギー革命に関する本を読むにつけ、
政治と経済の問題に真剣に取り組んでいくことが必要である
ということを痛感した。
それは、もっと具体的に言えば政府と企業の関係にかかわ
る問題に取り組む必要があるということである。
このことは東京電力の原発事故で明らかになったことであ
るが、それは東京電力だけでなく、日本の企業全体、さらに
は世界的な企業のあり方にかかわる問題であると言える。
具体的に言えば、原子力発電の問題はそれを担っている電
力会社のあり方をどうするかということであり、さらに地球
温暖化やエネルギー問題に関して言えば、それを担っている
企業=会社のあり方をどうするかということである。
このことを私はこれまで何回も指摘したのであるが、残念
ながらそれはあまり受け入れられてこなかった。
先にあげたフォスターの『マンスリー・レビュー』に載った
論文も、そしてシュヴァリエなどの本もこの問題については
余り触れていない。
しかし、東京電力の原発事故は、改めて東京電力という会
社をどうするかということを問い掛けているのである。
同じように、地球温暖化の問題を解決するためには、地球
温暖化の状態を作り出している犯人としての企業をどうする
かということが問題になる。
二一世紀のエネルギー革命についても、それを担っていく
さまざまな企業のあり方をどうするかということが問題なの
である。
また、世界的な不況=恐慌を解決していくためにも、企業
のあり方を変えていくことが同じように必要であることは言
うまでもない。
問題は企業なのである。
東電事故が提起した問題
先に挙げたシュヴァリエなどが書いた『二一世紀エネルギ
ー革命の全貌』で、もう一つ注目されているのが日本、具体
的には東京電力福島第一原発の事故である。
そこではこう書かれている。
「福島第一原発事故により、日本の規制当局(原子力安全・
保安院)がまったく機能していなかったことが世界的に知れ
わたった。 日本列島は毎年地震や台風に見舞われているにも
かかわらず、日本の規制当局は、なぜ津波が起こることを想
定しなかったのだろうか」(同書、六八頁)。
それは日本の政治家や官僚が東京電力と癒着しているから
だという元経済産業省の官僚であった古賀茂明氏の指摘が取
り上げられているが、我々は改めてこの指摘について考えて
いく必要がある。
それというのも、地球温暖化の問題に取り組んでいく上で
大きな壁になっているのが政府と企業との結合関係であるか
らである。 このことが東京電力の原発事故でも明らかになっ
たのだが、これまで日本のマスコミはもちろん、学者や評論
家たちもこれについて発言しないか、仮に発言しても問題の
本質に触れようとしなかった。
東京電力の福島第一原発の後、ドイツではメルケル首相の
リーダーシップの下で原発廃止の方針を明らかにし、そして
スイスやイタリアもこれに同調している。
もっともフランスやイギリスなどは依然として原発依存の
方針を貫いているし、日本もまた安倍内閣のもとで原発維持
の方針を取っている。
地球温暖化の問題と原子力発電の問題は絡み合っている
ので、それに取り組む姿勢はバラバラになってしまうのだが、
ここでも地球温暖化のような環境問題と経済問題が密接にか
らみ合っており、そしてそれは政府と企業の関係にかかわる
問題であることが明らかである。
おくむら・ひろし 1930 年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷
大学教授、中央大学教授を歴任。 日本
は世界にもまれな「法人資本主義」で
あるという視点から独自の企業論、証
券市場論を展開。 日本の大企業の株式
の持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批
判してきた。 著書に『会社の哲学 会
社を変えるために』(東洋経済新報社)。
|