ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年5号
FOCUS
道路公団改革が頓挫した理由

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2004 80 説得力欠く債務返済計画 四五年後の完済は需要次第 「総理と秘書官、事務局長と私が総 理執務室で約二〇分間、立ったまま激 しいやり取りをした。
総理は『自分を 信じないのか』と語気を強めた。
だか ら逆に安心した」。
政府・与党が昨年 十一月にまとめた道路公団改革法案の 素案には、道路関係四公団民営化推進 委員会の意見が反映されていないとし て、同委員会委員長代理(当時)の田 中一昭拓大教授らは同十二月二日夜、 首相官邸に小泉純一郎首相を訪ねた。
道路公団改革に関して、「民営化委 員会の意見を基本的に尊重する」とし か語らない首相に対し、田中氏は二〇 〇二年十二月にまとめた同委員会の意 見を間違いなく尊重するよう迫った。
具体的には以下の五項目を盛り込んで こそ「基本的に尊重する」ことになる と首相に詰め寄った。
?四〇兆円にのぼる債務の早期かつ着 実な返済 ?地域分割 ?料金引き下げ ?新会社の自主的な経営権 ?一〇年後をめどに新会社の資産の買 い取り 冒頭のコメントは、田中氏がその時 の模様を振り返ったものだ。
しかし政 府・与党が十二月二二日に示した最終 案(左頁)は、民営化委員会の意向を 全く無視したものだった。
実際、田中 氏と松田昌士JR東日本会長は政府・ 与党案の内容を不服として、ともに委 員を辞任している。
政府・与党の最終案では、道路事業 を今後は「保有・債務返済機構」と 「民営化会社」に再編し、料金収入を 担保とした新規建設を可能にする一方、 保有・債務返済機構は四五年後の解散 を目指すなどの六項目を方針に掲げて いる。
このうち、四公団の計四〇兆円 の債務については、保有機構が民営化 会社から支払われるリース料を原資と して、四五年間で返済する計画になっ ている。
みずほ証券の香月康伸シニアクレジ ットアナリストは、民営化推進委員会 が二〇〇二年十二月に提示した意見書 と比べて、この最終案では道路資産が 国のものだということが、より強調さ れていると指摘する。
資産が国のものであるのなら当然、負債も国が面倒を みることになる。
従って四公団の既存 の債務や民営化会社が承継する債務は、 国債と同等とはいえないまでも、限り なく国債に近い信用力を持つと評価で きるという。
最後は国民が税金で穴埋 めするというわけだ。
「?一〇年後をめどとした新会社の 資産の買い取り」も最終案には盛り込 まれなかった。
民営化推進委員会は一 〇年という暫定期間の後、民営化会社 が保有・債務返済機構から資産を買い 取る「上下一体」への移行を主張して いた。
上下一体であれば、新会社は資 金調達や建設費について、効率性を重 んじるようになるという狙いだ。
しか し政府案では、四五年間にわたり保有 機構と民営化会社は分離したまま。
借 金も道路も機構に移るため、新会社は 資金を自分で調達すればいくらでも道 路を建設できる。
四公団の年間通行料金収入は、二・ 五兆円で、管理費や過去の借入金など の利子分を差し引くと、残りは一兆円 あまり。
政府・与党案によると、今後 一五年から二〇年をかけて、整備計画 九三四二キロのうち、残り二〇〇〇キ ロを一〇兆円で建設し、同時に四〇兆 円の債務も返済するとしている。
国土交通省は四月九日、二〇〇五年 度の民営化後、四四年で四三兆八〇〇 〇億円の債務返済が可能とする試算を まとめている。
しかし、こうした試算 も「将来の需要をどう予測するかで決 まる」(国土交通省幹部)というのが 実態で、与党内でも想定どおりの債務 返済は困難だとの見方も出ている。
交通評論家の角本良平氏は、「管理 費などを差し引いた一兆円あまりを全 部債務返済に充てても、(金利分など を含め)四五年はかかる」と指摘する。
つまり、債務返済と新規建設を両立す るには五〇兆円以上の規模になり、一兆円あまりの資金でやりくりするのは 難しいという。
公共経済にくわしい慶応義塾大学の 土居丈朗助教授は、国鉄改革と同様に、 道路公団改革も最終的には国民負担が 避けられないとみている。
土居助教授 は「財務省は道路四公団の債務返済が 無理なのを承知なはずだ」と指摘した うえで、「(政府は)いきなり国民負担 だと国民から責めを負うので、民営化 会社が破たん状態になり、『税金によ FOCUS 道路公団改革が頓挫した理由 道路公団改革法案が今国会で可決・成立する見通しだ。
民営化後 も採算を無視した道路建設は続き、公団が抱える四〇兆円に上る負債 のうち返済できなかった分は国民が税金で負担することになりそうだ。
小泉首相が公約に掲げた改革が、骨抜きに終わった理由はなぜか。
81 MAY 2004  
院〔臼腸修量榲等 ○「民間にできることは民間に委ねる」との基本原則に基づき、 i)約 40 兆円に上る有利子債務を確実に返済 ii )真に必要な道路を、会社の自主性を尊重しつつ、早期に、できるだけ少ない国民負担の下で 建設 iii )民間ノウハウ発揮により、多様で弾力的な料金設定やサービスを提供  
押〔臼腸修妨けた有料道路の対象事業等の見直し (1)高速国道の整備計画区間(9342km)の扱い ○従来、全て有料道路としての建設を予定していた整備計画区間のうち未供用区間(約2000 km)の事業方法等を見直し i)直ちに新直轄方式に切り替える道路 ii )有料道路事業のまま継続する道路(今後追加的に新直轄方式に切り替わりうるものを含 む)に分け、そのいずれについても、 iii )「抜本的見直し区間」(別紙参照)を設定 (2)建設コストを含めた有料道路事業費の縮減 ?建設費 既定のコスト縮減計画に2・5兆円程度を上乗せ、計6・5兆円(約3分の1)の縮減。
更に、新直轄方式に切り替える約3兆円を除くと、有料道路の対象事業費は最大で 10 ・5兆円(当初計画 20 兆円に対し半減。
会社発足後約7・5兆円)に縮減 ?管理費 平成 17 年度までに、3割のコスト縮減(対 14 年度)を図る。
民営化後は更なる努力。
ま た、長大橋の適切な保全に配慮  
魁/靴燭柄反イ箸修量魍 (1)会社と機構の設立 会社 ・公団事業を引き継ぎ、道路の建設・管理・料金徴収を行う特殊会社として設立 ・将来、上場を目指すものとし、その時期、方法等については経営状況等を見極め、判断 機構 ・独立行政法人として設立。
資産・債務を保有し、会社からの貸付料収入で債務を返済 ・会社経営の自主性を阻害しない必要最小限の組織とし、民営化から 45 年後に解散 (2)地域分割等(当初6社↓ 経営安定化時5社) ?道路公団は、3社に分割して設立。
高速国道の債務は機構で3社分を一体として管理 ?首都・阪神・本四を承継する会社は、国と地方が一体となって整備・管理すべき道路であること 等に配慮し、それぞれ独立して設立 ?本四は、経営安定化時点で、道路公団系近接会社に合併 (3)債務返済の考え方 ?機構は、民営化から 45 年後には債務を完済。
その時点で、高速道路等を道路管理者に移管し 無料開放 ?機構の有利子債務の、高速国道・本四関係分は非拡大。
その他も、極力上回らないよう努力  
粥[繕發寮格とその水準 ?料金の設定に当っては、利潤を含めない ?ETCの活用等により、弾力的な料金を導入し、各種割引により料金を引き下げ ?特に高速国道料金は、平均1割程度の引き下げに加え、別納割引廃止を踏まえた更なる引き 下げ具体的には、マイレージ割引、夜間割引、通勤割引等を実施 ?民営化後、会社はこれらの引き下げられた料金水準を引き継ぎ、更なる弾力料金設定に努力  
機〃設・管理・料金徴収5 (1)新規建設における会社の自主性の尊重 ○従来の、施行命令、基本計画指示等、国からの一方的命令の枠組みは廃止 (2)既供用区間に係る管理等 ○民営化時に既に供用中の区間は、会社が管理・料金徴収を実施 (3)事業中区間の取り扱い(経過措置) ?国土交通大臣は民営化後速やかに、当該地域会社が建設する区間について同社と協議 ?これが進まない場合は、他の地域会社と協議(「複数協議制」の導入) ?会社が建設しないことに正当な理由がある場合、会社が建設する区間とはしない(理由が正当 なものであるか否かは社会資本整備審議会で判断) ?首都高速、阪神高速については、道路管理者の意見が適切に反映される仕組みとする (4)今後新たに建設する区間の取り扱い(申請方式) ○新たな高速道路等の建設は、会社の自主的な経営判断に基づく申請方式。
国の許可の要件は 予め法定 (5)会社による建設における資金調達と返済等 ?会社は、自己調達資金で高速道路等を建設。
建設完了時に債務とともに機構に移管 ?機構を通して借入金債務を返済  
供‐儀僂垢觧饂此債務の内容 ?道路資産は、新直轄方式(道路管理者による事業)となるものを除き、機構が承継 ?SA/PA等、関連事業資産は会社が承継  
掘〇抉臍蔀崚 ?税制・金融上、必要な措置を講ずるため、民営化関連法に所要の規定を置く ?災害復旧への対処等のため、必要に応じ財政上の措置を講じ得るよう、規定  
検〆8紊離好吋献紂璽訶 ?民営化関連法案を次期通常国会に提出し、平成 17 年度中に民営化を実施 ?民営化後、概ね 10 年後に、民営化の状況等を勘案して、必要な見直し 道路関係四公団民営化の基本的枠組みについて(概要) 平成 15 年 12 月 22 日 政府・与党申し合わせ MAY 2004 82 FOCUS る処理もやむを得ない』という状態に なるのを待っているのではないか」と 不信の目を向ける。
国鉄改革では、債務総額は三八兆円 と算出され、分割民営化の際、JR七 社には経営の成り立つぎりぎりの水準 である計一四兆円が配分された。
残り 二二兆円は、国鉄清算事業団に承継さ れ、株式や土地などの売却により、返 済される計画だった。
しかし、バブル 期だったにもかかわらず、資産の売却 が思うように進められず、二二兆円の 債務が逆に二八兆円に膨らみ、結局は 国民負担となった。
それでも国鉄改革では政治と鉄道を 切り離すことには成功した。
これに対 して道路は今後も政治と一蓮托生だ。
JR西日本の井出正敬取締役相談役は、 「政府案で民営化が進められても、お そらく債務償還不能に陥り、早晩もう 一度枠組みについて見直さなければな らない時がくる」とみている。
債務返済の見通しが明確になってい ない一方で、与党内には新規の道路建 設への推進圧力がなお強い。
自民党の 額賀福志郎政調会長は、道路建設につ いて、「目先の利害関係だけで建設を 考えるべきではない。
二〇年、三〇年 先の将来の国家をにらむと、道路は必 要だ。
構想のない人が採算性はどうだ とか、スケールの小さい話をしている のだ」と述べている。
政府・与党案は妥協の産物 自衛隊イラク派遣問題も背景に 道路公団改革が、このように骨抜き になったのはなぜか。
ある自民党議員 は、背景にはイラク問題があると指摘 する。
小泉首相はブッシュ米大統領と の約束を果たすため、何としても自衛 隊をイラクに派遣させる必要があった。
しかし田中氏らが小泉首相と会談する 前日の昨年十二月一日、イラクで外交 官二人が殺害されたのを受けて、与党 内にも「自衛隊派遣の大義がなくなっ ている」(古賀誠自民党元幹事長)と の慎重論が聞かれた。
実際、古賀氏は 一月三〇日深夜の衆院本会議で、派遣 を決める採決前に退席、棄権している。
それでも、その処分は重いものではな かった。
これまで古賀氏は道路公団改革に一 貫して否定的な見解を示し、小泉首相 とは距離を置いてきた。
その古賀氏が 昨年十二月二二日の道路公団改革法案 は高く評価している。
しかもその後は 「自衛隊がイラクに派遣されて仮に犠 牲が出ても、それで小泉政権の政局が あってはならない。
不幸にして何か起 きたときは、平和に向けどう対処する かを一緒に考えていくことこそ政権を 支えていく道だ」と述べ、小泉政権を バックアップする考えさえ示している。
事実、「小泉首相と古賀元幹事長と の距離は、確実に縮まりつつある」(与 党幹部)ようだ。
ちなみに民営化推進 委員を辞任した田中氏は、小泉政権が 道路公団改革で族議員に配慮した結果、 構造改革のもうひとつの柱である郵政 民営化についても自民党内の郵政族議 員を勢いづかせていると指摘、郵政改 革の実現性に大きな懸念を抱いている。
問われる首相の改革姿勢 参院選後の政界再編も今後の国会論戦では、野党側が政府 案作成の不透明なプロセスを突く可能 性もある。
十二月二二日に示された政 府・与党案について、田中氏は、「(猪 瀬直樹委員が)石原国土交通相や日本 道路公団の近藤総裁らとつくったもの」 と指摘。
実際、日本道路公団の近藤剛 総裁は、昨年十二月一九日、猪瀬氏の 要請に従い、同氏の事務所に出向いた。
そこで、民営化会社の拒否権の問題を 含め、最終案の取りまとめに関して話 したことを認めている。
一方、最終案について「不満はある が及第点の六〇点はつけられる」と評 価する猪瀬氏は、田中氏の発言は「事 実と違う」と反論、全面否定した。
返 す刀で、田中氏とともに委員を辞任し た松田氏についても「しょせんは鉄道 業界への利益誘導者」と斬り捨てた。
「僕は他の委員と違い何ら利益を代表 していない。
僕のような存在を押しつ ぶす動きが高まれば、今後、?第二の 猪瀬〞は出てこないだろう」。
猪瀬氏 はそう述べた。
猪瀬氏の近著「道路の権力」には、 民営化委員会の初会合の際、審議を 「原則公開」にすること主張したとの 記述がある。
ところが最近になって、 ジャーナリストの桜井よしこ氏によっ て、この時、猪瀬氏は自分を同委員会 の委員長代理に推すよう他の委員に裏 で根回しをしていたことが暴露されて いる。
道路公団改革を進める理由につ いて、「国民のためだ」としている猪瀬 氏だが、今やその言葉に重みは感じら れない。
与野党の現議席数から判断すると、 政府案は今国会で可決・成立する見通 しだ。
大幅な修正が加えられる可能性 は少ない。
しかし、巨額の債務処理を 質す野党側に対して、政府側の説明が 不明確なままにとどまれば、小泉政権の構造改革への信頼がさらに低下する 懸念もある。
今年七月の参院選をにらんで、青木 参院幹事長は、九八年の参院選で自民 党が大敗し、当時の橋本内閣が退陣し たことに言及し、小泉首相に対してじ わじわとプレッシャーをかけ始めた。
自民党内には、小泉首相が目標として いる五一議席を確保できるかどうかは 微妙だとの見方もある。
( ジャーナリスト 吉池 威 )

購読案内広告案内