ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2013年12号
物流指標を読む
第60回 燃料高と低運賃にいつまで耐えられるか 日本銀行「企業向けサービス価格指数」全日本トラック協会「トラック運送業界の景況感」日通総合研究所「企業物流短期動向調査」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む 第1 回 DECEMBER 2013  98 燃料高と低運賃にいつまで耐えられるか 第60 ●軽油価格は前年比10%以上の上昇 ●運賃指数小幅上げも先行きは不透明 ●人件費カットによる対応はもう限界 さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
全ト協が支援策を要望  本連載は今回で第六〇回を迎える。
スタートは 二〇〇九年一月号、すなわち、「一〇〇年に一度 の経済危機」と言われたリーマンショック直後の 大混乱の時であり、それから丸五年連載を続けさ せていただいたことになる。
その間、民主党への 政権交代(〇九年九月)、東日本大震災(一一年 三月)、自民党への政権交代(一二年十二月)と、 まさに激変の五年間であった。
 筆者の未熟な筆力では、そうした時代の大きな うねりをダイナミックに表現できたとは到底思えな いが、長期間にわたって書き続けることができた のは、ひとえに読者諸兄ならびに本誌編集部のお かげであると思っている。
これからもご愛読いた だければ幸いである。
 閑話休題。
去る十一月五日、全日本トラック協 会と道路運送経営研究会は、都内のホテルにおい て「トラック業界の要望を実現する会」を開催し た。
主な要望項目は次の通り。
1.燃料価格高騰対策 ?軽油引取税の旧暫定税率の廃止または一時凍結 ?燃料高騰対策補助金の創設 ?価格転嫁のための燃料サーチャージ導入促進 2.石油石炭税に係る「地球温暖化対策のための 課税特例」について還付措置適用 3.高速道路料金の引下げ  今さら書くまでもないが、安倍政権における大胆 な金融緩和政策の実施に対する期待などから、為 替(円ドル)レートは昨年十一月中旬頃より円安 傾向に転じた。
昨年十一月中旬時点では八〇円/ ドル前後であったが、今年五月には一〇〇円台を 突破し、その後はもみ合いが続き、足元では九七 〜一〇〇円台のレンジで推移している。
 一方、イランやシリア等、中東における地政学 的リスクなどから、原油価格は高止まったままだ (注:ドバイ原油価格は、今年一〇月の平均で一〇 六・三九ドル/バレル)。
 その結果、燃料価格は高騰が続いている。
資源 エネルギー庁「石油製品価格調査」によると、衆 議院解散直後の昨年十一月一九日における軽油の 給油所小売価格(全国平均:消費税込み)は一二 五・六円/リットルであったが、今年十一月十一 日には一三八・〇円/リットルと九・九%値上が りした。
 また、産業用軽油(インタンク納入)価格(全 国平均:消費税除く)については、昨年十一月の 一〇六・〇円/リットルから、今年九月には一一 七・三円/リットルと、こちらも一〇・七%の値 上がりとなっている。
 全日本トラック協会「経営分析報告書」(平成二 二年度決算版)によると、トラック運送事業者に おける、運送費に占める軽油費の割合(一〇年度: 全体)は一八・〇%である。
しかし、直近におけ る軽油価格は当時よりもさらに高騰していること から、その上昇率を勘案すると、足元における軽 油費の割合は二〇〜二一%程度まで高まっている ものと推測される。
日本銀行「企業向けサービス価格指数」 全日本トラック協会「トラック運送業界の景況感」 日通総合研究所「企業物流短期動向調査」 99  DECEMBER 2013 期ともマイナス〇・三%(注:前年同期比増減率、 以下同様)と微減で推移した後、七〜九月期は プラス〇・七%となっている。
また、貸切貨物輸 送については、今年一〜三月期:プラス〇・六% の後、四〜六月期、七〜九月期はともにマイナス 〇・一%と弱含んだ。
総じて見ると増減幅は小幅 なものにとどまっており、ほぼ横ばいで推移して いるもようである。
 これに対して、日通総合研究所「企業物流短期 動向調査」における運賃動向指数を見ると、一般 トラックについては、今年一〜三月期:マイナス一 の後、四〜六月期:プラス二、七〜九月期:プラ ス五であり、また特別積合せトラックについては、 今年一〜三月期:プラス一、四〜六月期:プラス 三、七〜九月期:プラス七と、ともに緩やかな上 昇傾向を示している。
 一方、全日本トラック協会「トラック運送業界の 景況感」における運賃・料金の水準の判断指標を 見ると、宅配以外の特積貨物については、今年一 〜三月期:マイナス六、四〜六月期:マイナス九の 後、七〜九月期(見通し)もマイナス九と水面下 の動きが続いている。
また、一般貨物についても、 今年一〜三月期:マイナス二一、四〜六月期:マ イナス一九、七〜九月期(見通し):マイナス二 三と低調に推移している。
大幅な運賃上昇見られず  いずれの指標を見ても、トラック運賃が大きく 上昇しているとは考えられない。
特に「トラック 運送業界の景況感」調査では、運賃が低下してい るとの回答がかなり多くなっている(注:四〜六 月期における一般貨物については、「やや低下」が 一八%、「大幅に低下」が三%)。
その背景にある 事情を関係者に聞いたところ、「中小零細のトラッ ク運送事業者の中には、これまで厳密な原価計算 をせずに丼勘定で運賃を決めていたところも少な くない。
そのためコストが上昇しても荷主に根拠 を示すことができず、その結果、運賃を上げられ ずに困っている事業者がかなりいる」とのことで あった。
 しかし、トラック業界を取り巻く今後の環境につ いて考えれば、このままでは早晩行き詰るのは火 を見るより明らかだ。
恐らくこれから為替レート が大きく円高に戻すことは考え難く、従って、燃 料価格は当面、高止まる可能性が高い。
 トラック運送事業者は、従来はこうしたコスト の上昇分をトラックドライバー等の人件費を削るこ となどにより吸収してきた。
しかし、東日本大震 災の後、人手不足感が全国的に広がっている。
さ らに、今後は国土強靭化計画や東京オリンピック に向けたインフラ整備のため、大量の人材が建設 業に流出する可能性がある。
従って、トラックド ライバーを確保するためには、もう人件費を削る ことは困難と考えられる。
 荷主の中には、一般トラック事業者は五万七〇 〇〇以上もあり、しかもまだ増え続けているのだ から、代わりの事業者はいくらでもいると考えて いる向きもあるかもしれない。
しかし、五年後に はどうなっているであろうか。
出入りの事業者か ら「この運賃では明日からもう運べません」と突 然告げられるなんてことも十分に起こり得ると思 うのだが。
 仮に軽油費の割合を二〇%、この一年間におけ る軽油価格の上昇率を一〇%と想定すると、運送 費は一年間で二・〇%も上昇した計算になる。
経 常利益率が一%に満たないトラック業界において は、こうした軽油価格の上昇がトラック運送事業 者の経営を大きく圧迫しているのは想像に難くな い。
しかし、コストの増加分をなかなか思うよう に運賃に転嫁できないのが現実だ。
そこで、前掲 のような要望が提出されたわけである。
 さて、実際のところ、足元においてトラック運 賃は上昇しているのか否か。
日本銀行「企業向け サービス価格指数」(CSPI)を見ると、積合せ 貨物輸送については、今年一〜三月期、四〜六月 日銀・CSPIと日通総研・企業物流短期動向調査の運賃動向指数の推移 1─3月 4─6月 7─9月 10─12月 1─3月 4─6月 7─9月 10─12月 1─3月 4─6月 7─9月 日銀CSPI 積合せ貨物輸送 日銀CSPI 貸切貨物輸送 特積トラック 運賃動向指数 一般トラック 運賃動向指数 101.6 101.6 101.6 101.6 101.6 101.6 101.3 101.3 101.3 101.3 102.0 99.2 99.5 99.6 99.6 99.5 100.2 100.2 100.1 100.1 100.1 100.1 -2 0 1 -1 1 0 -1 -1 1 3 7 0 2 3 3 1 2 1 -2 -1 2 5 2011年2012年2013年

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