2023年3月号
特集

日本のフィジカルインターネット推進政策

パートナーシップの限界 ──フィジカルインターネット(PI)への関心が高まっています。
荒木先生はその火付け役でした。
 「『フィジカルインターネット』というキーワードが日本の表舞台に登場したのは、私が上智大の最後の授業として2019年2月に『ソサイエティ5・0時代のロジスティクス』というシンポジウムを開催した時、野村総合研究所(NRI)の藤野直明さんたちによって紹介されたのが初めてだったと思います」  「私が専務理事を務めていたヤマトグループ総合研究所でこれを取り上げることになり、NRIの藤野さんと水谷禎志さんに客員研究員になってもらって、その年の春から研究会の発足に向けて動き出しました。
同9月にはPIの生みの親として知られるブノワ・モントレイユ教授の米ジョージア工科大フィジカルインターネットセンターとヤマト総研で覚書を結び、同12月に輸送キャリア、フォワーダー、マテハンメーカーなど民間企業12社で研究会を発足しました」 ──その活動を引き継いで22年6月に、一般社団法人としてフィジカルインターネットセンター(JPIC)を設立されました。
 「それまではヤマト総研主催の研究会でしたが、PIはステークホルダー全員でリレーをしようという話ですから、JPICで完全に中立的な組織として再出発しました。
一方でSIPスマート物流サービスのプラットフォームもJPICが引き継ぐことになり、この二つをクルマの両輪として進めていきます。
人材からリソースまで、自分たちが持っているもの全てを他の人たちとシェアするシェアリングエコノミーを目指します」 ──PIに何を期待できますか。
 「私は当初から、『PIとは究極のオープンな共同物流だ』と説明してきました。
共同物流は絶対に必要なことです。
一緒に運べばコストが下がるのは誰が考えたって明らかです。
物流費を下げたいのであれば、あるいはドライバーが足りないのであれば、共同物流をやるしかない。
そのため私はPIという言葉が登場するずっと昔から共同物流を研究テーマにしてきました」  「しかし、従来の共同物流はオープンではありませんでした。
以前に加工食品業界の物流部長の勉強会を主催していたことがあります。
そのメンバーだったカゴメ、ミツカン、日清オイリオの3社が共配を実施することになりました。
私は3社だけでなくて、4社、5社と増やしていくように薦めました。
ところが、3社間でまとめた話に4社目が入って来ると、それまでの協議が全てやり直しになってしまう。
運用ルールを改めて調整しなければならないし、協力運送会社の問題もある。
そのためオープンにはできなかった」 ──しかし、その「3社共配」は後に、味の素やハウス食品グループなどを巻き込むことになり、加工食品メーカーの完全な物流共同化を目指すF−LINEの誕生へとつながりました。
 「最大の理由は小口化です。
最大手クラスのメーカーでも10トン車を満載にできるような時代ではなくなった。
それに対してF-LINEは大手6社(味の素、カゴメ、日清オイリオ、日清フーズ、ハウス食品、ミツカン)の荷物を集めて運んでいるから九州で走っているトラックでも満杯です。
しかし、そのやり方ではそれ以上の荷物は扱えません。
本来、目的地が同じ荷物はすべて一緒にやるべきなんです。
コンピュータで情報を共有すればそれができる」  「一方で物流リソースは遊んでいます。
通販の荷物が増えすぎて宅配便のインフラから溢れ出したと言われるけれど、実際にターミナルを見ていると、忙しいのは夕方から夜中にかけてで、午前中は閑散としています。
これは日本だけでなく米国の宅配会社をはじめどこへ行っても同じです。
設備を24時間稼働させているところなどまずありません。
50%も稼働していればいい方です。
だったら、設備を使っていない時には、その設備を必要としている会社に有料で貸し出せばいい」  「荷主にしてもトラックを借り切って、荷積みに3時間かけて2時間だけ走って、お客さまのところでまた荷降ろしに3時間、という使い方をしている。
手積み・手降ろしをやめれば1日に車両を2回転できるのに、いや1回転でいいんだ、と。
『それはおかしい』と私がいくら指摘しても聞き入れてくれません」  「ところが物流危機に続いてコロナが起きると、物流が世の中から大変注目されるようになった。
やはり届かないのは困る。
しかし、今のままではやっていけない。
となると何かを変えなければならない。
そのため宅配は置き配でOKになった。
世の中の意識が変わりました。
これは大きなチャンスであって、今ならPIを受け入れてもらえると私は思っています」 「究極のオープン」を提示する ──SIPとは別に、経済産業省の商務・サービスグループ物流企画室と国土交通省の総合政策局物流政策課が連携して21年3月に「フィジカルインターネット実現会議」を設置しました。
そこでの議論を受けて昨年3月には2040年を目標とする「フィジカルインターネット・ロードマップ」が発表されました。
日本政府がそこまでPIに入れ込むのかと、欧米の関係者を驚かせたと聞いています。
しかし、かなり先の話なので実務家としてはリアルに受けとめることが難しい。
 「当初、欧州のALICEは2050年にPIを実現したいと言っていました。
その後、彼らは40年のロードマップを発表しましたが、社会システムを変えるにはどうしてもそのくらいの長い時間がかかります。
それでも日本のロードマップに示されている2030年に向けたアクションプランは今のわれわれの問題です。
それに向けて25年には具体的に何か動かしたい。
現在、複数のアイデアを関係者にぶつけています」 ──例えば?  「ビジネスモデルに関することなので今はまだ言えませんが、やろうと思えばすぐにできる、聞いてみれば『それはそうだよね』という話です。
ICタグにしてもそうでした。
荷主の経営層に説明すると興味を示してくれる。
現場のパートアルバイトも仕事が楽になるので、一度運用に慣れてしまえばもう離さない。
ところがその中間にいる人たちがなかなか頭を変えられない」  「ネット通販には単品管理が必要です。
コンピュータ上に在庫はあっても実際にあるかは分からない、ということでは商売になりません。
ICタグを使えば最後の一つまで分かる。
注文を受けたものをきちんとお客さまに届けられる。
だから、ICタグを導入しようと、私は嫌になるほど荷主に訴えてきました。
しかし、『物流はコストセンター』という意識なので投資をしたがらない。
『それでいくら儲かるんだ』という話しかしない。
それが今ではICタグが当たり前に使われるようになりました」  「われわれが目指す『究極のオープン』も今はまだ、多くの人たちがイメージできないのだと思います。
JPICでその雛形を示したい。
30年に向けたアクションプランのワーキンググループは現状では業界別に分かれています。
しかし、最終的にはそれらが相互乗り入れすることになる。
そのことを今から意識しておく必要があります。
その調整役、テーブル作りがJPICの大事な役割の一つだと考えています」

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