ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年5号
SCMの常識
SCMを取り巻く環境変化と今後の展開

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SCMの常識 講 座 ▼講師 理論編 草島孝之 ベリングポイント ディレクター      実践編 杉山成正 ベリングポイント ディレクター MAY 2004 52 今回は「SCMの常識」と題して過去十二回 にわたって解説してきた連載の総括です。
SC Mの概要に始まり、評価指標や需給調整の同期 化、グローバル・ロジスティクス、SCMのイ ンフラと、前回までの解説でSCMに関する全 般的かつ実践的な話題を提供できたと考えてい ます。
そこで今回は、「SCMを取り巻く環境変化 と今後の展開」と題して、 a)最近の環境の変化をどのように捉えるか b)それに対応するためのSCMモデル構築の 考え方 c)最近のSCMキーワード について解説・紹介します。
■■製造業を取り巻く環境の変化 九〇年代にマレーシアに駐在した経験があり ます。
当時の東南アジアにおける日系企業の台 頭と繁栄ぶりには目を見張るものがありました。
とりわけマレーシアはマハティール首相のルッ ク・イースト政策(敢えて欧米ではなく、日本 に学べとの意向)もあり、松下系列を筆頭に日 立、ソニー、シャープなどのメジャーな日系製 造業およびそれに主要部品を供給する日系部品 メーカーが進出し、安定稼動させている状況に ありました。
ところが昨年、再びマレーシア、シンガポー ルを訪れる機会があり、現状を見てみると、特 にマレーシアでは「この静けさは何だ」と叫び たくなるような停滞したムードが漂っていまし た。
世界的な景気低迷の影響もあるのでしょう が、それ以上に a)多くの日系企業で主力の生産が中国などに 移管したこと b)日本人駐在員から現地のスタッフへの技術・ マネジメント面の移管が進んだこと c)生産分野の「本社からの支援スタッフの駐 在・直営型」から自社主管工場のEMS等 への売却や分社化の推進が進んだこと などが大きいように感じました。
つまり日系メーカーの現地法人が「現地主 導・独立経営型」に変化したわけです。
このよ うな実態を踏まえて、製造業を取り巻く環境に 変化をもたらす最近の要因として大きく次の四 つを挙げたいと思います。
?グローバルな企業再編 単に一企業の事業統廃合のみならず、メジャ ーな企業間の事業再編・統合が進んでいます。
最近ではパイオニアによるNECのPDP(プ ラズマディスプレイ)事業の買収、少し前では HPのCOMPAQ買収、日立のHDD(ハー ドディスク)事業の分社化とIBMによる買収 などがありました。
このような事業特化型のボーダレスなメガ・ カンパニー統合が進むと同時に、ソニーとエリ SCMを取り巻く環境変化と今後の展開 理論編 〈最終回〉 図1 製造業を取り巻く環境の変化 グローバルな企業再編 中国(アジア諸国)の追い上げ アウトソーサーの台頭 IT徹底活用による差別化 ■事業再編/事業統合の増加 ■ボーダレスなM&Aの進行 (事業特化型メガ・カンパニーの台頭) ■グローバルな水平統合 ■グローバルな標準化・共通化の進展 による?EMSや優良外注の拡大、? 3PLの一般化 ■生産では、モノ作り請負型から、戦略 購買併用型や共同設計開発型への 変貌 ■サプライチェーン全体の計画をITで 管理するSCMツール導入が本格化 ■インターネット取引が本格化⇒SRM ■技術・ノウハウのIT化⇒DHW、KM、 PLM ■得意先との取引情報のIT化⇒CRM ■中国(アジア諸国)の生産技術向上 ■ポテンシャリティのある人材の増加(高 学歴・既業務経験者) ■低コスト・量産拠点から、設計開発を 含めた製造拠点への変貌 53 MAY 2004 クソンの携帯電話事業の統合などに見られるよ うな、グローバルなサプライチェーン・ネット ワークの再構成(設計・開発拠点の統合および 生産拠点、物流拠点、販売拠点の供給ルート再 編)による水平統合も、急速に進んでいます。
?中国(アジア諸国)の追い上げ 一九五〇年代のアメリカでは「メイド・イン・ ジャパン」のレッテルが、安かろう悪かろうの 代名詞になっていました。
しかし、その後の日 系各社の尋常ならざる努力によって、七〇年代 以降になると逆に「メイド・イン・ジャパン」 は高信頼性製品を意味する言葉として使われる ようになりました。
今の「メイド・イン・チャイナ」も同じ勢い です。
日本や韓国、欧米の電機メーカーに肩を 並べ、世界の白物家電メーカーとなりつつある ハイアール(海尓)、世界第二位(七千万台)の TV生産実績を有するチャンホン(長虹)など、 中国メーカーの成長には目を見張るものがあり ます。
昨日までは日系企業の技術提携先であっ たところが、今日では設計開発、生産技術を兼 ね備えたライバルになってきているのです。
人材的にも中国にはアメリカや日本などで業 務経験を積んだ高学歴で有能な労働力がUター ンしており、潤沢なリソースを内に抱えていま す。
中国企業は、拡大する中国市場を対象とし たビジネスのみならず輸出の販売チャネルの検 討を急速に進めています。
従来のような下請け 的な製造業者としての「世界の工場」から、「中 国企業による世界のための供給工場」へと位置 付けを変えようとしているのです。
?アウトソーサーの台頭パソコン業界に代表される部品の共通仕様・ コンポーネント化の進展にも支えられて、グロ ーバルな生産対応企業や物流企業が、従来の生 産・物流の外注請負型から、設計開発分野やV MI(Vendor Managed Inventory: ベンダー 主導型在庫管理)対応など、提案型の柔軟なサ ービスを提供するアウトソーサーに変貌しつつ あります。
生産対応企業としてはフレクトロニクスなど に代表されるEMS(エレクトロニクス・マニ ュファクチャリング・サービス)が代表格です。
また物流分野では、フェデックスやUPSなど を始めとする3PL(サードパーティ・ロジス ティクス)事業が拡大を続けています。
さらにIT系では単なるコールセンターの請 け負いから、開発保守管理やセキュリティ管理 などまで行う包括的なアウトソーシングが進展 しています。
従来の給与計算・経理業務のみな らず、人事業務に至るまで、今や経営のほとん どの領域においてアウトソーシングが可能にな りました。
これに伴い自社の強みとして発揮さ れる分野(コア・コンピタンス)以外は、外部 に任せるという考え方が広く一般化しました。
?IT徹底活用による差別化 サプライチェーンのオペレーションがグロー バルに広がったことに伴い、その同期性や可視 性の確保が、意思決定の迅速化の観点から重要 になってきています。
生産実績や出荷実績のリ アルタイムに近い把握と、それを踏まえた各種 計画(販売、仕入れ、生販、生産、購買)の連 携、インターネットやマーケットプレイスをイ ンフラとした商取引の進展および技術・ノウハ ウのIT管理は、今や「絵に描いた餅」でなく 「食べられる餅」になっています。
これらIT分野のツールは、当初のAPS (アドバンスト・プランニング・システム)ツー ルによる計画系SCMの枠を越えて、 a)サプライヤーとの協調的な調達、購買を実 現するためのSRM(サプライヤー・リレ ーションシップ・マネジメント) b)製品戦略から設計開発〜生産準備〜上市及 び終売、アフターサービスまでの製品のラ イフサイクル全般を効率的に管理するPL M(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント) c)顧客との取引履歴など諸々の情報を管理す るCRM(カスタマー・リレーションシッ プ・マネジメント) d)自社や他社関連情報、ノウハウをライブラ リー化したDWH(データ・ウエア・ハウ ス)やKM(ナレッジ・マネジメント) など、多様な分野に拡大し、進化を遂げてい ます。
■■環境の変化に対応するSCMの構築 自社資源をコア・コンピタンスに集中させな いと、対応スピードやボリューム、コスト的な スケールメリット、品質や機能性を確保できず、 MAY 2004 54 変化の速度に対応できません。
「集中と選択」を 繰り返しながら、既存のSCMビジネスモデル をリフォームする必要があります。
前述の環境変化要因に対しては、それぞれ以 下のようなアプローチを取ることで、SCMビ ジネスモデルを進化させてゆきます。
?グローバルサプライチェーン構築 企業再編や吸収合併による事業統合では、 a)市場(顧客)規模に応じた、納入リードタ イム、価格(コスト)、品質などのサービス レベルの設定 b)設計、生産、物流、販売の各拠点の統廃合 また親会社からの分離・独立である場合には、 c)アウトソース活用も含めた組織分割やIT 関連の分離・独立性の確保 が重要になります。
最近では製品単体の販売から、より付加価値 の高いシステム製品、例えばDVDレコーダ製 品にサラウンド・システムのスピーカー・ユニ ット、大画面TVを品揃えして納入する形態が 一般化するなど、単体製品のサプライチェーン・ ネットワークだけでなく、システム製品への対 応も加味したサプライチェーン・ネットワーク の構築がカギになりつつあります。
グローバルなサプライチェーン構築において は、例えば週次などのレベルで同期化したオペ レーションを、どの拠点からも一定のデータ精 度で行う必要が出てきています。
この同期化の 問題もグローバルサプライチェーンの大きなポ イントになっています。
?低コスト、高品質、短納期の製品供給 製造コストだけでなく、部品調達、顧客への 納入を包括したコストの検討と、品質確保や環 境問題対応、供給リードタイムの短縮が大切で す。
実際、次のような苦労話をよく耳にします。
a)安価な労働力を重視して海外進出したが、 部品や生産設備(金型などの治工具)の現 地調達は品質面と納期遵守で信用ならず、 結果的に日本からの供給から脱皮できない ので直材費は下がらないし、日本依存度も 下がらない b)直送による輸送リードタイム短縮を狙った が、週次配送では二〇フィートコンテナで も満載にならず、製品あたりの物流費は増 加した 部品の調達、物流効率、製品ごとのサービス レベル設定による差別化などを加味してビジネ スモデルに盛り込む必要があります。
またデル・コンピュータを典型とする後発参 入企業では、販売チャネル構築への投資よりも B to Cに着目したマス・カスタマイゼーション 対応、すなわち欲しい機器構成をユーザーが選 べるようにしたり、あるいはユーザーが送料を 負担する直送物流を採用するケースもあります。
製造・供給側の論理から、ユーザー側の論理へ の転換が必要になってきています。
?アウトソーサー、サプライヤーとの協調 EMSや3PLの活用は今や一般化していま す。
アウトソースの要否は、生産や物流拠点を 自社の資産として運用を含めて管理するのか、そ れとも自社のコア・コンピタンスは生産や物流 にはないと判断して、事業戦略や設計・販売に 特化するかによって決定します。
シスコシステムズに代表されるファブレスメ ーカー(自社で生産拠点を持たず、設計変更や テストも通信インフラの強化とWeb上でのオ ートテストなどにより対応する形態)は、EM Sを活用して生産しています。
これによって以 下のメリットが発生します。
a)EMSの拠点分散によってグローバルに最 短ロケーションの生産ができる b)生産実行(運用)人員の変動リスク(需給 バランスによる能力変動)をヘッジできる c)自社の資本投下(ヒト、モノ、カネ)をコ ア・コンピタンスに特化できるd)資材調達による部品在庫の管理をヘッジできる つまり自社が生産設備を保持することで生じ るリスクを回避できるわけです。
ただし、設計 変更の連動性遅延・誤伝達や、需給変動による 製品在庫、部品購買での増幅リスクもあるので、 EMS側との相互の情報可視性の確保と信頼関 係樹立が、この場合の前提条件であることを忘 れてはいけません。
物流においては、単にトラッキングや実績収 集のみならず、集荷や品揃え対応、配荷、ラス トワンマイルのキャリアとの連携や、部品物流、 物流コストのサービスレベルなどが妥当である かどうかがポイントになります。
需給計画の精 度向上による在庫レベルの最小化や輸送リード タイム短縮に伴う物流拠点の統廃合と、他業種 55 MAY 2004 との協調(空送配車の極小化)による改革効果 が大きいことは、多くの事例で紹介されている 通りです。
必ずしもアウトソーシングではありませんが、 間接材の購買改革もコスト削減効果の大きな分 野です。
サプライヤーとの協調においては、購 買先の淘汰や選定などの調達機能はグローバル に一元管理するものの、実際の発注管理や納入 管理の購買活動は個々の拠点で行うという傾向 が強くなっています。
また数百のサプライヤーを同列に扱うのでな く、サプライヤーの淘汰を実施した後に、取引 量や購入部品の重要性などに応じて契約内容や コミュニケーション手段、通信インフラを差別 化して管理することが定石化しています。
?EAIによるシステムの連携 サプライチェーンのグローバライゼーション により、複数の情報システムの同期化が必須と なってきています。
システムがリアルタイムに連 携されていないと、思わぬところでデータの不 整合に出くわします。
会計報告とは異なり、サ プライチェーン計画では厳密性よりも速報性が 重要になるため、ある程度の精度が確保されれ ば機能しますが、実績取得タイミングによって は、二重計上や計上漏れが正確性や意思決定上 の弊害となります。
しかし複数の情報システムを連携させる場合、 従来はそれぞれのシステムの運用タイミングに 即したインターフェースを個々に開発する必要 がありました。
これに対して近年はシステム間 を連結するツールとして、EAI(エンタープ ライズ・アプリケーション・インテグレーショ ン)が開発され、活用が一般化してきています。
■■グローバルSCM構築のキーポイント  グローバルSCMを構築する際のポイント は過去の連載でもとりあげてきましたが、簡 単にまとめると次のようになります。
前提条件はグローバルに業務標準が確立され ていることです。
例えばフレクトロニクス(E MS)では、全世界で同じ工程指示書を使って います。
指示書に使われている言語は違っても、 書いてある内容、順序、表現色やチャートは同 一です。
そのため組み立てや使用部品における 品質も、全世界でほぼ同じレベルだと見なすこ とができます。
同社のように業務標準はできるだけグローバ ルで統一(Unify )されていることが望ましいの ですが、実際には各国の規制や法規、商習慣も あるので、オペレーション・レベルと標準化の レベル(Standardization )の二つの軸のマトリ クスで、業務を現地化(Localization )する必要 が出てきます。
同じフレクトロニクス製品でもISOなどの規格取得・認定工場からでないと輸入を認めな い、イスラム圏などでは特定地域に対する輸出 が問題化する、あるいは市場側の生産国イメー ジ(「メイド・イン・チャイナ」より「メイド・ イン・ジャパン」を嗜好する)などの個別の事 象が存在します。
しかし今やそれらは製品の品 質確保において本質的なものではないといえる でしょう。
?生販業務の同期化 グローバルに業務タイミングが同期化してい ることが大切です。
これは単に計画系のみなら ず、EMSとの連携や部品調達(サプライヤー) との連携が、一つのタクト(指揮棒)で動くこ とを意味します。
またグローバルなオペレーシ 図2 グローバルSCM構築のポイント ■週次生販業務タイミングの同期化(週次業務運用設計) ■グローバルセンターによる有機的管理(需給、部品調達、設計開発連携) ■計画系・実行系・管理系の位置付け再定義 ■マスタ管理方法、コード定義、用語定義の統一化 ■グローバルSCM構築「プロジェクト」の成功要因 グローバルSCM構築は、 グローバルな業務標準化(プロセス、ルール)と、 水平統合対 応性の確保、を前提としている Standardize Localize Unify (Process, Rule, Timing, Coding, KPIs) Synchronize オペレレーション・レベル(Execution) 協調性のレベル ( Standardization ) MAY 2004 56 ョンでは各国の休祝日が不揃いなため、一週間 を目一杯つかった業務設計ではなく、余裕を持 った運用が肝要です。
先進事例では既に週次の レベルを超えて日次で運用しているケースもあ ります。
?グローバルセンターによる有機的管理 「グローバルセンター」とは、需給調整、需要予 測、部品調達、設計開発(部品表や購買関連の 基本データDB構築含む)をビジュアルに把握 する機能を持った組織です。
意思決定を行うの に際して、必要かつ十分な情報が「見える」常 態にあることに価値があります。
その会社のSCMオペレーション、例えば在 庫水準や在庫配置の適正化であれば、部品調達 やEMSとの取引状況がどのような状態にある のか、どこに何を指示すればよいのか、どのぐ らいのキャッシュ・フロー・インパクトがある のかを把握するのがこの組織の役割です。
?計画系・実行系・管理系の位置付け再定義 コンピュータの二〇〇〇年問題で、欧米系の 企業が主にERPに置き換えることで対応した のとは異なり、日系企業の多くはレガシー(既 存)システムの改修により対応しました。
レガ シーは自社のシステム要件を反映しているので 使い勝手は良いのですが、計画系と実行系の区 別や分析系の区別は曖昧になっています。
これ に対してERPは、どのパッケージでもサポー トしている機能範疇が実行系、計画系、分析系 に綺麗に区分けされています。
AS ―IS容認で 構築されたレガシーの存在は、昨今のERPへの移行において大きな障害となっています。
?商品マスター/用語の統一 この分野も、上記「?グローバルセンターに よる有機的管理」に関連します。
商品マスター やコードの統一は、改革による直接的・短期的 な効果が現れにくい性格を持っています。
その ため投資の判断にも二の足を踏む企業が少なく ありません。
実際、現時点でコード体系をグロ ーバルに統一できているという企業は、極めて 少ないのが実状です。
またレガシーを併用している場合、マスター 管理が複数のシステムに分散していて、運用が 煩雑化し、結果としてメンテナンスされていな いというケースもあります。
一方でカシオやキヤノンのようにグローバル なコードの統一に優位性を見出し、抜本対策を 行っている企業もあります。
その効果は以下の 通りです。
a)変換テーブル関連の無駄なシステム投資抑 制 b)システム運用の容易性・高速性確保 c)企業再編等によるITリスクのヘッジ (長期的な視点では、このメリットは実に大き い) ?プロジェクトの成功要因 以下の三点がとくに重要です。
一つ目は、プロジェクトの推進体制が確立さ れていることです。
プロジェクトリーダー(ステ アリング・コミッティ)、ユーザー部門、情報シ ステム部門の三位一体の協力体制に加えて、経 営コンサルタントやSIベンダーなどの外部の 強力な支援がグローバルに得られる体制を作る 必要があります。
二つ目は、業務標準化が進められていること です。
グローバルに統一する範疇とローカライ ズを容認する部分の明確化(パイロット→ロー ル・アウト)が行われていることも大切です。
三つ目は、改革の順序です。
プロジェクトの マスタープランを立案する時点で、改革テーマ の実行優先度(クイック・ヒット、ロング・ベ ネフィット)とグローバル展開計画が明確であ り、論理性を持っていることが大切です。
とりわけロール・アウトするときには、ロール・インされる側は、AS ―ISの業務からの変 更を要求されるだけに、プロジェクトの目的や 目標、アプローチが明示的でないと、反発心が 芽生えて改革が頓挫してしまうことが良くあり ます。
■■SCMの今後の展開 SCM改革には終わりはありません。
人間が モノを消費する限り、モノの供給連鎖は継続さ れます。
しかも昨今の環境の変化は、あらかじ め用意周到に準備をして対峙することが可能で あった旧来のパラダイムから、予期せぬ変化が 頻繁に発生し、常に進化を要求される新しいパ ラダイムへの転換が起こったともとれるほどダ イナミックです。
もはや環境の変化を事前に正確に予測するこ 57 MAY 2004 とは困難です。
「様々なビジネス環境の可変要素 に対して、素早く対応できるいろいろな仕組み (機能)を自社のSCMビジネスモデルに組み込 む」ことこそが今後のカギになります。
そこでキーワードとなる言葉が「アダプティブ」です。
渡り鳥は、指揮命令系統を持ってい るわけではないのに、群れ全体が自然に隊列を なして飛んで行きます。
一羽一羽の鳥が自律的 に周囲の環境に反応することで群れ全体が統制 されているのです。
今日、企業のSCMにも、こ の考え方が適用されようとしています。
サプライチェーン・ネットワークの見直し・ 変更と言ったドラスティックで戦略的・中長期 的なものから、直接材、間接材の電子調達やロ ジスティクス改革、あるいは生産形態の変更、税 効果対策といった短期的な成果を狙った取り組 みに至るまで、様々なレベルで「アダプティブ」 であることが必要とされています。
「サプライヤーは我々をどのように見ているので しょうか? 競合他社に比べて当社は優位な条 件で取引できているのでしょうか? ひょっと すると当社はないがしろにされているのではな いでしょうか?」 最近、組み立てメーカーや卸の方々から、そ んな質問をよく受けます。
一昔前まで、大手の家電メーカーやハイテク メーカーは、サプライヤーである部品メーカーの 経営に強い影響力をもっていました。
そのため 急な納期の前倒しや増産あるいは逆に減産する 単にITインフラやアプリケーションツール のみならず、業務ルールやビジネス取引運用ル ールを含めた広義の基盤という意味でのSCM にとって、ビジネス環境の変化に「アダプティ ブ」に反応して変化することが今後一層大切に なってゆきます。
図3 は、ITインフラの側面から見た「アダ プティブ」モデルのイメージ図です。
このIT インフラにのせる業務にもまたアダプティブな 対応が求められます。
そのためにはシンプルな 運用設計とオペレーションが大切なことは言う までもありません。
ITの徹底活用が重要であ ることは確かです。
しかし、その業務を運用す るのは今日そして今後においても、やはり人間 なのです。
データベース サプライチェーン メイン フレーム ERP カスタマイズした アプリケーション群 物流 eHub eHubexchange 友好的な取引パートナー マーケット・ プレイス インターネット ファイヤー・ウォール インターネット・ 情報交換統合 XML 情報交換統合 EAI (エンタープライズ・ アプリケーション・インテグレーション) 図3 内部/外部との多岐にわたる拡張的な情報交換のイメージ図 ダイナミックな 取引パートナー 〜強者の連鎖〜 改革の現場から 実践編 MAY 2004 58 といった場合でも無理が通りました。
どれだけ 無理がきくかでサプライヤーに対する(感覚的 あるいは心情的な)評価を上下させていたとも 言えるでしょう。
それが今日では、むしろ部品メーカーの方が 主導権を握っていると感じさせる場面に、往々 にして出会うようになりました。
なぜでしょうか。
部品メーカーは、グローバル市場を相手にコス ト競争力のある商品を開発してきました。
その 経験を通して組み立てメーカーを評価し、?強い サプライチェーン〞をもつ組み立てメーカーとの 取引を拡大していくという選択ができるように なってきたのです。
部品メーカーC社営業 「A社の内示情報は、あ てにならない。
誤差も二〇%程度あるし、何よ りも内示分の九〇%は引き取るという約束を守 らず、発注してくれないことがよくある。
A社 と取引していると他の顧客にも迷惑がかかって しまう。
これに対してB社の内示情報は確かだ。
ルールも守ってくれる。
B社との取引を拡大し た方が利益は上がる」 メーカーA社購買担当 「C社は最近無理を聞い てくれないなあ。
緊急だと事情を説明して増産 のお願いをしても最近は色よい返事がもらえな い。
計画縮小と言えば、残った部品の引き取りを要求してくるし…」いずれにしても確かなのは、企業規模の大小 によらず、強い企業と強い企業が互いに連携を 強め、「強者の連鎖」を形成していくことです。
この「強者の連鎖」つまり「強者のサプライチ ェーン」は、需要を的確にとらえ、効率的かつ 効果的に商品・サービスを提供していきます。
そ の結果、強い企業はその収益力をますます高め、 さらに強くなっていくことでしょう。
サプライチェーン・マネジメントが意味する ところは、単なるサプライチェーンメンバー間の 全体最適ではなく、サプライチェーンメンバー そのものの全体最適化、すなわちメンバーの淘 汰に行き着くのです。
最後に、SCMプロジェクトを一緒にさせて いただいたある顧客の言葉でしめくくらせてい ただきます。
「もうすぐSCMシステムが稼動し、プロジェク トは完了します。
でも、本当のSCMはこれか らですね。
この仕組みを使って、売上げと収益 力を向上させ、強いサプライチェーンにしてい かなければなりません。
今後、市場のニーズが かわり、新しいビジネスモデルが必要となった 時に、柔軟に形を変えていかなければなりませ ん。
難問です。
しかし、このプロジェクトを通 して社内にその風土はできてきました。
この財 産を大切に活動を続けていきます」 講座SCMの常識 くさじま たかゆきベリングポイント株式会社 ディレクター。
SCMソリューションのサービス ラインのディレクターを担当。
ハイテク企業(組 立加工系製造業)を中心に、コンサルタントある いはシステムエンジニアとしての実務経験がある。
得意分野は、SCMプロセス診断、生産管理(生 産日程計画、購買管理、工程管理)であり、 BPR(業務改善)とIT(情報技術)の両面から SCMに関与することができる。
広義のSCM全般 の知識と、SCM関連のソリューション開発の他、 ERPやAPS導入、プロジェクト管理に精通して いる。
PROFILE すぎやま・しげまさ機械電子メーカー、日系シ ンクタンクを経て、2002年にべリングポイント 入社。
SCM戦略の策定と推進、SCMシステムの 導入のコンサルティングに従事。
現在、同社ディ レクター。
著書に「図解サプライチェーンマネジ メント」(日本実業出版社・共著)、「ERP〜 SAP R/3〜によるSCMシステム構築技法」 (ソフトリサーチセンター・編著)、「図解でわか るビジネスモデル特許」(日本能率協会マネジメ ント・共著)。
中小企業診断士。
AGI認定TO Cコンサルタント“Jonah” PROFILE

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