2023年1月号
特集

Optimization:最適化 Hacobuが描く輸送ネットワークの近未来

ハブ・アンド・スポークを超えて ──連載第2回のテーマは「Optimization:最適化」です。
輸送ネットワークの最適化の話題を中心に、これから10年で何が起きるのかを議論していきます。
最初に田岡さんの見解を伺いたい。
EYSC・田岡「まずは物流における『最適化』の概念がこれから変わっていく、ということについてお話しさせていただきます。
これまでの輸送ネットワークは、生産地で商品を集荷して、幹線輸送で消費地の物流拠点まで運び、店舗にラストワンマイル配送するという、いわゆるハブ・アンド・スポーク型のモデルが主流でした。
その最適化問題は比較的シンプルでした」  「しかし、今後はテクノロジーの進展によってモノの流れの可視化が進み、また前回の議論にもあった通り、消費ニーズの多様化が進んで経済圏が細分化されていきます。
そうしたトレンドに伴って、輸送ネットワークは従来のハブ・アンド・スポーク型からネットワーク型に変わっていく。
出荷元から納品先まで、最適な輸送手段および輸送ルートでダイレクトにつながるようになっていく。
そう変わりつつあるのが現状だと認識しています。
その結果として、最適化問題がとても複雑になっている」  「これまで私はコンサルタントとして、さまざまなネットワーク最適化プロジェクトに携わってきましたが、物流拠点をいくつにするか、どこに配置すべきかという、ネットワークの検討は、一度やればその先10年くらいは同じネットワークを運用するのが普通でした」  「しかし、ここから先の10年を考えると、固定化された最適化ではなく、将来の事業環境の変化を想定しながら、最適化のモデルを柔軟に変えていく余地を常に残しておく必要があります。
それだけ事業環境はいろいろと変わっていくし、昨今のコロナのようなパンデミックや災害リスクなどに備えてBCPを考慮に入れる必要もある」  「最適化問題の目的関数にも変化があります。
これまでは物流コストの低減など目的がシンプルでした。
しかし、今はコストにサービスレベル、BCPに加えて、CO2削減や、将来の労働力不足の深刻化まで見据えて最適化を考えなければなりません。
そのため企業の事業戦略によって、コスト重視型、リスク低減型、労働力確保重視型など、目的関数が違ってくる。
裏を返せば、企業の事業戦略を曖昧にしたままで、ネットワーク最適化の問題を解くのはナンセンスになったといえます」  「しかも日本のこの先の10年は、人口が減少して、ほとんどの産業で市場がシュリンクしていきます。
その結果、個社の最適化を超えて、業界全体で最適化を考える傾向が一層強くなっていく。
競合他社と競争する領域と協調する領域を明確に切り分けて、個社で最適化する領域を作り込み、その一方で、競合他社や業界全体で協調するという、両輪が求められるようになっていく」 ──ハブ・アンド・スポークからネットワーク型に構造が変わる。
最適化の目的がコストだけではなくなる、という今の田岡さんの話を、佐藤さんはどう考えますか。
Hacobu・佐藤「まさにその通りだと思います。
その背景についても、われわれなりに考えているので、そこから話をさせていただきます。
弊社の社外取締役をお願いしている國領二郎慶応大教授が2022年5月に『サイバー文明論 持ち寄り経済のガバナンス』(日経BP 日本経済新聞出版)という本を出版されました。
そこで先生は、今われわれは近代工業文明からサイバー文明への転換期を迎えているという話をしています。
詳しくは本を読んでいただきたいのですが、要は、デジタルの進行によって、今まで近代工業文明を支えてきた、排他的な所有権を交換するというモデルから、資源やデータを持ち寄り、価値を高めて再分配するモデルに変わっていくという話です」  「そこではデジタル化による変化として大きく四つの要因が挙げられています。
読み上げると『ネットワークの外部性による価値の変化』『ゼロマージナルコストによる市場メカニズムへの影響』『複雑系の進行による管理手法の変化』『トレーサビリティの確保による資産収益率の重要性の増大』です」  「このうち物流ネットワークに特に大きく関係するのが、ネットワークの外部性とトレーサビリティの二つです。
ネットワークの外部性とは、情報、サービスを多く持ち寄るほど、どんどん価値が増えていく、ということです。
また、トレーサビリティが確保できるようになると、資産の所有権の交換に代わって、資産を使いこなす、使い切ることが重要になってくる。
資産効率を高めることのできる会社が勝っていくことになります」  「これによる物流へのインパクトは、先ほど田岡さんの指摘とまさに一緒です。
目的関数として今は大きく『コスト・脱炭素・労働力』の三つがありますが、それら全体をコントロールするのに重要なのが、先ほどの『持ち寄り』、英語にすればシェアリングです。
つまり、これからの物流は、データを共有したり、共同で保管したり、共同で配送することが重要になってくる。
いわゆるデジタルサプライチェーンの本質も、データを共有することで物流資産の効率を高めていくことだと私は認識しています。
それぞれの物流センターだったり、輸送だったりがネットワークの外部性を活用して、資産効率を高めるようにすることで、いわゆるフィジカルインターネットの世界に入っていく」  「テクノロジーの面でも、これまではロボティクスをはじめソフトウェアを開発して変化を導き出すというアプローチでしたが、これからはコネクティビティ、ソーシャルネットワーキングのようなダイレクトコミュニケーションがより重要になる。
今後のイノベーションの可能性もそこにある」 フィジカルインターネットの理想と現実 ──少し落とし込んでみたい。
ハブ・アンド・スポークは国際インテグレーターの米フェデックスが開発したモデルです。
日本の大手宅配会社もそうですが、インテグレーターは物流サービスやデータを自分で規格化して、末端の集配、中継拠点、幹線輸送をすべて抱え込んでネットワークを運営しています。
物流業の装置産業化を実現することで物流業界の覇者になった。
 それに対してフィジカルインターネットは今のところビジョンに過ぎません。
本当に実現するのかまだ分からない。
それを10年後の姿として想定することに果たしてどこまで現実味があるのか、個人的には疑問です。
そう考えていたところ、先ほど、田岡さんはネットワークの構造の話をしたときに『フィジカルインターネット』という言葉を使いませんでした。
何か理由があるのでしょうか。
EYSC・田岡「あえてフィジカルインターネットという言葉は使いませんでした。
フィジカルインターネットは、インターネットが情報を『パケット(小包)』に分割して空いたルートをつないでやりとりしていることをヒントにした概念だと理解しています。
しかし、物流の世界は恐らくウェブのインターネットと同じモデルにはならない」  「物流の世界にはさまざな業種・業態の荷主がいて、例え同一業界であっても取り扱う商材によってモノの状態や荷扱い、納品条件が違う。
それらを全て同じネットワークで取り扱えるようになるとは私には思えません。
ネットワークの共有化・共同化が進む領域はもちろんあるけれど、荷主各社が独自の輸送手段・輸送ルートを続ける領域も依然として存在し続ける」  「つまり、物流がこれから学術的に言われているようなフィジカルインターネットの世界に入っていくのかといえば、一概にそうとは言えず、荷主の業界単位や、限定されたサプライチェーンの機能単位、限られた地域単位など、ある決まった切り口の単位で共有化・共同化が進んでいく一方、個社単位の独立・分散した領域と棲み分ける、複雑なネットワークになっていくというのが私の見方です」 Hacobu・佐藤「確かにフィジカルインターネットは、大上段から思想を語るには使い勝手のいい言葉だけれど、一足飛びに実現させるのは難しい。
現実の世界ではそんなの無理だよと言っている人たちが多くいるのも知っています。
田岡さんのような立場では、そうした言葉をあまり使いたくないというのもよく分かる」  「それでも、あまり恐れることなく一歩一歩進めていくことが重要かと思います。
図1は経済産業省が主催する『フィジカルインターネット実現会議』の資料にも出てくるネットワーク最適化の分析画面ですが、ウォルマートでもLlamasoftのツールを使って全く同じことに取り組んでいました。
業界の枠を超えた物流情報があれば、それを個別企業ではなく産業界全体でできるのは確かです」 ──フィジカルインターネットの実現可能性に疑問符が付くのは、荷物をパケットに標準化することが無理筋だからだと思います。
その一方、コンセプトとしては間違っていないのだとしたら、現実と擦り合わる落としどころはどこにあるのでしょう。
Hacobu・佐藤「企業の壁を超えるところにポイントがあると思います。
しかし、それをやるにも今はまだデータがない。
配車マンなどの頭にしかない情報などがかなりある。
それをデジタル化することから手を着ける必要がある」 EYSC・田岡「個社を超えるという点では、例えばM&Aを実施すれば必ず物流面でのシナジー効果が期待されるわけですが、2社の物流ネットワークを統合するだけでも現実にはかなり難しい。
そもそもデータの持ち方や持っているデータの粒度が会社によって違います」  「つまり2社でさえ難しいものを、どうやってフィジカルインターネットの世界まで持っていくかと考えると、対象とする商材・機能・地域などを、どのような範囲で、どのような粒度で、どのような条件に揃えれば共同化できるのか、一方、単独でやらざるを得ない領域はどこなのかという、切り分けの検討が、私の経験上、重要なポイントになってくる」  「これは実は個別企業のプロジェクトでも同じで、その会社が複数の事業を営んでいる場合には、各事業が単体で最適化する領域と、事業横断で共通化を進める領域の切り分けが必要になります。
同じ倉庫で共同保管はできる。
しかし、そこからの配送は荷扱いや荷姿が違うのでできない、といったように、一つ一つの機能ごとに共有化できるものと共有化できないものを整理していかなくてはなりません」 最適化マネジメントの実務 ──佐藤さんは前職と今の仕事を通じて、ネットワークの最適化の実務をかなり経験されてきたはずです。
Hacobu・佐藤「その通りですが、データの持ち方や粒度を整理するのは実際にはとても大変な作業です。
それに加えて例えば、店舗に行ったら『ここには3トン車しか入りません』といわれたり、物流センターではウイング車を指定されたり、車両の種類だけでも制約がたくさんあり、それが生産性に影響している。
それら一つ一つの制約が本当に必須のコンディションなのかを見極めていかなくてはならない」  「ウォルマートの例で言うと、車両がフル積載になるまで出庫しないという施策がありました。
店舗からしたら欠品になるかもしれないわけですから、とんでもない話です。
しかし、会社としてのトータルのベネフィットはどうなのかを考えれば、店舗のバックヤードに在庫を適量持つことも選択肢になってくる。
そういうところまで踏み込まないとネットワークは最適化できない。
それには強い意志が必要です」 ──そうした物流のトレードオフは誰がどう判断すればいいのか。
EYSC・田岡「シンプルな例が欠品率と物流コストですね。
物流部門はコストを抑えるために、できるだけまとめて送って輸送頻度を減らしたい。
逆に店舗側はこまめに商品を補充して欠品が生じないようにしたい。
そのバランスの取り方は企業によって違います。
ある程度の欠品は許容して物流コストを抑える企業もあれば、売上拡大のために絶対に欠品を許さないという企業もある」 Hacobu・佐藤「欠品率を3%に設定するか、それとも1%にするかで、在庫量や輸送量が全く違ってくることは、ロジスティクスの実務家であれば誰でも知っています。
しかし、店舗側の人間にとっては必ずしも常識ではない。
物流を変えるには、ロジスティクス部門が店舗側にSCMの知識を伝えていく、サプライチェーンに関わる人たちにサプライチェーンの基礎教育をしっかりとやっていくことが非常に重要だと思います」  「実際に私がやっていたのは、例えば物流センターで店長集会を開いてもらうことでした。
物流を少しでも理解してもらえるように、物流センター長からいろいろと説明して、店側からも店舗のことを説明してもらう。
人材交流も含めてお互いの理解を深めていくことが、問題を乗り越えていく鍵になる。
ちなみに西友では店舗出身者が物流部門に入って、うまくコミュニケーションしてくれていました」  「少し余談になりますが、そういえばウォルマートには誤配の扱いに関する方針がありました。
日本企業で誤配があると『もう1回すぐに持ってこい』と緊急輸送が発生します。
しかし、ウォルマートでは、誤配した商品が一定の条件を満たす場合には何もアクションをとらなくてもいい。
その店舗にとっては迷惑な話ですが、会社全体としてはそのほうがメリットがある」 ──それを聞いて10年近く前に自分で書いた記事を思い出しました。
日本の小売店の陳列棚には常にびっしりと商品が詰まっている。
そのため日本人がウォルマートの店に行くと棚がスカスカに感じる。
実際、かなり空いている。
その点だけみれば日本の小売りの方が管理レベルが高いようだけれども、業種としてはウォルマートのほうがはるかに儲かっている。
日本の小売業はほとんど利益が出ていない。
 これはどういうことなのか調べていくと、ウォルマートには、このレベルまでの欠品は経営的にOKという、許容欠品率という考え方があるようだ。
それに対して日本は、とにかく欠品は悪だからゼロにしろという精神論になっている。
しかも、真面目にそれを追求するので、結果として儲からない、という話です。
これもSCMの基礎教育が欠けていることの現れかと。
EYSC・田岡「そして教育と同様に大事なのがKPIです。
納品リードタイムを半日伸ばすことが許容されると、物流コストはこれだけ下がるというような話を、サプライチェーン部門や物流部門が事業部や店舗側にうまく説明できないことがかなりある。
まずは部門間で共通認識を持つためのより所となるKPIを設定して見える化する。
そして施策をシミュレーションして、事業部や店舗、さらには経営者がKPIを確認して議論する。
そうした分析ツールや手段が未整備の状況で部門間のコミュニケーションをとっても机上の空論で終わることがほとんどです」 Hacobu・佐藤「物流の生産性を1時間当たりの処理ケース数やパーセントで示しても、2千円分の商品しか入っていないケースもあれば2万円分入っているケースもあるわけだから、経営層や他部門には響かない」 見える化が誤った固定観念を覆す ──具体的には何をすればいいでしょう。
Hacobu・佐藤「これからの物流が目指すところはシェアリングであることは確かなのですが、現時点ではそもそも物流データが十分に整備されていません。
そのためまずは物流をデータ化して、自社内でも良いので、その効果を出していくことが最初のステップだとわれわれは考えています」  「当社のソリューションの一つ『MOVO Berth(ムーボ・バース)』はまさにそのためのツールです。
宣伝になりますが、少し説明させて下さい。
ムーボ・バースは現時点で日本で最も利用されているトラックのバース予約システムです。
これを使うことで、今までデータ化されていなかった入庫車両情報や出庫拠点の情報などが自動的に蓄積されます。
その情報を活用することでさまざまな改革が可能になります」  「図2は、ある小売業のセンターの作業実績データです。
横軸が納品時の1車両あたりのパレット枚数、縦軸がそのときの荷下ろしの作業時間を示しています。
本来であれば、パレット枚数が増えるほど作業時間が長くなるのだから、グラフは右肩上がりの1次曲線を描くはずです。
ところが、そうはなっていません」  「そこでパレット枚数に比べて作業時間が極端に長いポイントの、実際の作業内容を調べてみると、センターのみんなから好かれている人気者の納品ドライバーがスタッフと話し込んでずっとドックを占有していた、といった事実が分かる。
コミュニケーションを取るのは結構ですが、別の場所でやってもらわないと、とんでもなく生産性が落ちてしまいます。
そうしたこともデータがないと発見できません」  「さらには、輸送データを地図情報にプロットすることで共同配送の可能性が見えてきます。
納品トラックがどこから来ているのか、受荷主はほとんど把握できていません。
ムーボ・バースを利用すればそれがデータで見えるようになるので、近い場所から来ている納品トラックを集約できるようになる。
図3のケースでは年間6〜15億円ものコストインパクトが出せると分かりました」 ──今の説明を田岡さんはどう受けとめましたか。
EYSC・田岡「先ほどのパレット数と積み下ろし時間の事例に似た話なのですが、私がコンサルをしていた某卸売業では全社的に、緊急出荷には必ず対応しないと売り上げが落ちてしまうという固定観念がありました。
そこで本当そうなのか調べたところ、実は主要顧客ではほとんど緊急対応は発生していないくて、緊急対応の90%が売り上げの貢献度が下位20%の顧客で起きていたことが分かりました。
つまり緊急対応をやめても売り上げにはほとんど影響なかったわけです」  「そうした当たり前の分析さえ行ってないために、誤った固定観念に基づいて長年にわたり間違った経営判断を下してきた例をこれまでずいぶん見てきました。
しかし、今はムーボ・バースをはじめさまざまなソリューションやツールが提供されて、簡単にデータを可視化したり分析したりできるようになりました。
今あるデータを使って最低限の分析をした上で経営判断を行うだけでも、かなりの効果が期待できるはずです」

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