2022年12月号
特集

TOTO “伝説の技師”が成し遂げた包装革命を継承

「ごみになるからこそ技術を究めよ」  温水便座「ウォシュレット」や衛生陶器、浴室、システムキッチンなどの水回り製品を得意とする大手住宅設備機器メーカーのTOTOは、製品の包装に強いこだわりを持つことで知られる。
ライバルの建材メーカーなどからも「レベルが圧倒的に高く、見習いたいが追い付くのは至難の業」との声が聞かれる。
 TOTOが発泡スチロール中心だったウォシュレットの包装材を、環境負荷低減を重視して再生利用しやすい段ボールへ変更したのは20年以上も前のこと。
ウォシュレットや衛生陶器などの事業部門にそれぞれ包装設計の担当者を配置して、外部の段ボールメーカーなどに全面的に頼ることはせず、社内で設計を続けている。
 製品を衝撃から守るために必要な強度を備えているだけでなく、コストを抑え、輸送時に持ち運びやすく、住宅などの建設現場で施工する際にも製品を取り出しやすくするなど、現場の担当者の負荷を減らすことを重視したデザインを次々に生み出している。
足元では原材料価格の高騰などで段ボールをはじめ包装資材の価格が上がっているが、同社は適切な包装によってその使用量を抑えることでコストの上昇を防いでいる。
 その技術力や探求心は国内外から高く評価され、包装に関する主要なコンテストの多くで入賞の常連となっている。
そんな同社の文化を醸成した立役者の1人が、包装設計部門を30年以上担当してきた技師の岡崎義和氏だ。
 「包装は最終的にごみとなる。
極端なことを言えば、われわれはごみを設計しているようなもの。
だからこそコストを費やすのではなく技術を究めなければならない」「脆弱な部分など製品の内部まで理解した上でないと設計はできない。
そして、物流を知らなければ絶対に包装設計はできない」──岡崎氏が繰り返し唱えてきた包装に関する持論の一部だ。
並々ならぬ覚悟と変革への意欲が伝わってくる。
 岡崎氏は緩衝材の段ボール使用量を減らしながら、むしろ強度をアップさせて、持ち運びの際に持ちやすい場所を適切に設けることで運搬もしやすくなる、といった画期的な包装を数多く実現した。
商品破損による顧客クレームは劇的に減り、顧客や施工事業者の満足度をかつてないレベルまで向上させた。
 岡崎氏は包装部門を地味な存在から付加価値を生み出す重要分野に生まれ変わらせた。
氏が包装設計を主導した10年間で、段ボールの使用量抑制によるコスト削減などでTOTOの収益アップに貢献した額はトータルで17億円にも上るとも言われる。
 それ以前はTOTOも他の一般的なメーカーと同様に、製品の設計が終わった後から包装の在り方を検討するという手順をとっていた。
しかし、岡崎氏は、製品の開発工程から包装設計担当が参画して、製品のどこが脆弱なのかを把握することで製品自体の強度を改善し、包装もより低コストで適切なものになるように業務変革を押し進めた。
 物流現場にも自ら足を運び、どの工程のどの作業で包装に傷が付きやすいのかを一つ一つ確認して包装の設計に反映させていった。
決してスタンドプレーに走ることはなく、若手社員らに自身の経験を伝える勉強の場を定期的に開催するなど、後進の育成にも力を注いだという。
製品と包装の設計担当が緊密に連携  岡崎氏は定年を迎え、数年前にTOTOを去った。
しかし、彼がまいた種は着実に育っている。
包装の担当者は岡崎氏の信念を受け継ぎつつ、さらに独創的な作品を生み出している。
決して自己満足にならないよう、製品の安定流通を支える役割を重視し、技術力の底上げに努めている。
 TOTOの社内では包装の役割を「製品が持つ強度設計を超える輸送環境のストレスに対し、包装が保護・埋め合わせを行う」と明確に定義している。
包装の強度が過剰になったり足りなかったりして、バランスが崩れてしまえば輸送時の破損や過剰包装などによって顧客に迷惑を掛けることになると戒めており、「適正なバランス」の重要性を説いている。
 包装だけで必要な強度を持たせることが難しければ、製品自体の強度をアップしてカバーする。
そのために、製品設計と包装設計の担当者が同じ事業部門内で普段から緊密に連携している。
こうした考え方自体、岡崎氏が明確化して社内で脈々と引き継いできたものだという。
 その成果は、主要な包装コンテストでTOTOが入賞を続けていることにも表れている。
包装の技術向上などに取り組む非営利の国際組織「世界包装機構(WPO)」が主催する毎年の「ワールドスターコンテスト」や日本包装技術協会の「日本パッケージングコンテスト」などで同社は既に常連だ。
 2016年度に「ワールドスター賞」とアジア包装連盟の「アジアスターコンテスト」の「アジアスター賞」の二冠を勝ち取った「内容物にフィットする緩衝機能付き包装箱」は、段ボールケースの内側に細かく切り込みが入っている。
そこにウォシュレットの補修用部品などをはめ込むと、そのまま切り込みが柔軟に形状を変えてジャストフィットする。
 それまで補修部品などはまずビニールの包装袋に入れ、さらにエアキャップの付いた緩衝袋で保護した上で包装箱に収めていた。
大量の包装袋や緩衝袋が必要で、現場でも在庫の置き場所の確保に悩まされていた。
小さな部品をいちいち袋に入れる手間も煩雑だった。
緩衝機能付き包装箱を採用することで、包装袋や緩衝袋削減による資源節約が可能になった。
 18年度に同じくワールドスター賞とアジアスター賞を獲得した「段ボールのバネ性を利用した“潰れない”緩衝仕切」は、それまで段ボールの緩衝材の弱点とされてきた、一度衝撃を受ければつぶれてしまい強度がなくなりやすい点を克服した。
 段ボールを折り重ねる独自の構造でばねに似た性能を持たせ、押さえつけられても繰り返し、クッションと同様に復元できるようにした。
コストを大幅に増やすことなく、画期的な機能改良を果たした。
 TOTOウォシュレット開発第三部包装・印刷物グループの佐藤賢志主任技師は「当社は包装の役割として内容物の保護と取り扱いの利便性、商品の情報提供、販売促進といったところを定義している。
誰もが安全で使いやすい『ユニバーサルデザイン』にも重点を置いている。
資材利用の抑制などを通じた環境配慮も重要だ」と説明する。
海外の厳しい輸送環境にも耐える  そして22年度、TOTOは海外向け製品用の「付属品を取り忘れない合理的コンパクト包装」でまたしてもワールドスター賞とアジアスター賞に選ばれた。
通算9点目のワールドスター賞受賞となった。
 TOTOの若手担当者が、物流現場の積み下ろし作業が日本ほど丁寧には行われない海外の厳しい輸送環境でもウォシュレットが破損せずに無事に届けられるように、包装の改良に着手。
段ボールのケースが万が一落下して激しく地面に叩きつけられても、中のウォシュレットのふたの部分が振動で本体に当たって壊れることのないよう固定することに成功した。
 さらには、工事の際にウォシュレットのコードなど多数の付属品を施工作業者が取り忘れることのないように、仕切りの形を見直すなどしてケース内にスペースを作り、箱型の専用緩衝仕切りを設け、そこに付属品を全て納められるようにした。
 現場の作業者がケースを開けてウォシュレットを取り出すと、付属品が入った緩衝仕切りが一緒に持ち上がり、目につくよう配慮している。
工事の手順に沿って付属品を円滑に取り出せるよう、緩衝仕切りに収める位置も綿密に検討した。
 この「合理的コンパクト包装」の開発を担当したTOTOウォシュレット開発第三部包装・印刷物グループの伊藤勇樹氏は「施工業者は作業に慣れているからこそ、かえって付属品の取り付けを忘れたり、紛失してしまったりするリスクがある。
万が一紛失となれば日本から海外へ再度送らないといけなくなる場合もあり、コストがかさみ取り付け作業も遅れてしまう。
この包装を取り入れたことで付属品が見当たらないとの現場からのクレームは解消された」と成果を強調する。
 施工時のミスを防げる効果を見極めつつ、今後は日本国内でも、既存のトイレに取り付けるシートタイプのウォシュレットは合理的コンパクト包装で統一しようと準備を進めている。
 佐藤、伊藤の両氏もまた、岡崎氏の下で包装設計に当たった経験を持つ。
包装設計の部門で約10年のキャリアを重ねている佐藤氏は「包装設計の担当になる前は、包装と言ってもピンとこなかったが、実際に手掛けてみると実に奥が深く、非常に面白いことが分かった」と笑顔を見せる。
 岡崎氏については「考え方がしっかりしていた。
姿勢は学ぶべきことが多かった。
包装はごみになるからこそ技術を究めるべし、という発想は最初聞いた時にすごいと思った」と振り返る。
 伊藤氏も、大先輩の岡崎氏について「包装だけにとどまらず、製品の開発側と一緒になり、製品の改良に取り組んでいた。
当社内で包装の地位を確立した」と評価する。
破天荒に見えて、実は入念な準備とあくなき探求という正攻法にこだわり続けた岡崎氏の発想や行動を引き継ごうと若手の従業員らが奮起している。
41の要求仕様を満たす  岡崎氏が約2年間率いていた勉強会は15年に「包装分科会」へ刷新された。
トイレ空間生産本部、ウォシュレット生産本部、浴室事業部といった12の部門の関係部署に所属している包装設計担当らが参加。
包装分科会の事務局とタッグを組み、情報交換などを普段から進めるとともに、定期的に会合を開いている。
 最近はそのうちの9部門で人材育成を強化している。
顧客や施工事業者から包装に関する要望が届いた場合にきちんとフィードバックできているか、包装の構造のサイズは適切か、緩衝材はきちんと機能しているか、強度に問題はないかといった、クリアすべき基本的なポイントを「要求仕様」として41に及ぶ項目を設定している。
 さらに対象の事業部門ごとに、それぞれの仕様をどのレベルまで満たすか目標を設定し、日々改善に取り組んでいる。
包装に求められる標準的な機能をどの包装設計担当者も理解し、きちんと製品に落とし込めるようにしたいという狙いがある。
 包装分科会を担当しているTOTO技術本部もの創り統括部の村岡睦史技術主幹は「各部門に、分科会に求めることはないかヒアリングした際、『人財』の育成をもう少し強化したいという声が寄せられたのに対応している。
包装のいろんな要求を満たすとともに、そのレベルが妥当性を持ったものになるようにしたい」と説明する。
岡崎氏が社内で訴え続けてきた内容をより具現化し、社内の包装設計担当者のレベルをそろって底上げできるよう配慮が込められているという。
 佐藤氏や伊藤氏は今後取り組むべき課題として、段ボールの製造自動化に対応した包装を考案していきたいと口をそろえる。
佐藤氏は「SDGs(持続可能な開発目標)がより重視されている流れを踏まえ、包装に使われるプラスチック素材の再生拡大にも取り組んでいきたい」と意気込みを語る。
包装の高みを目指す活動はさらに続く。

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