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37 MAY 2004
旭化成ホームズは、二〇〇三年一〇月に旭
化成の住宅事業部門が分社して発足した鉄骨
住宅メーカーの大手だ。 ?ロングライフ住宅
(長期耐用住宅)の実現〞をコンセプトに掲
げ、「へーベルハウス」ブランドなどの戸建て
住宅を年間一万四〇〇〇戸(二〇〇二年度
実績)供給している。
住宅一戸を建てるためには何万点もの部材
が必要だ。 鉄骨や床・天井・壁材をはじめ、
ドアやサッシといった建具、キッチンセット
などの住宅設備機器まで、その内容は多岐に
わたる。 これだけ多くの部材を施工現場ごと
に調達しながら、「家」という製品を生産す
るのが住宅メーカーのビジネスだ。
そのための調達物流は、工場の生産ライン
に部品を調達するのとはまったく条件が異な
る。 住宅の施工現場は全国各地に任意に点在
しており、新規着工のたびに変わる。 現場周
辺はたいてい騒音対策などが必要な住宅地で、
トラックの走行は著しく制限される。 しかも
建築は天候などに左右されるため、日程の変
更がしばしば起こる。 タイムリーに部材を調
達し、効率よく建築作業を進められる環境を
つくるのは容易ではない。
こうした厳しい条件下にある施工現場の作
業環境を改善し、工期短縮などによるコスト
削減や品質向上を実現するため、旭化成ホー
ムズは調達物流の改革に乗り出した。 すでに
旭化成から分社する以前の二〇〇二年夏から
物流と生産の抜本的な見直しに着手し、現在
センター経由で部材をJIT調達
梱包資材のリターナブル化も推進
旭化成ホームズが調達物流システムの構
築を進めている。 内装部材メーカーなどの
取引先に施工現場へ個別に搬入してもらっ
ていた従来の方法を見直し、自ら物流セン
ター経由でタイムリーに調達するように変
える。 コスト削減や品質向上などが狙いだ。
2005年の秋までに全面稼動を目指す。
旭化成ホームズ
――調達物流
では新しい調達物流システムの構築を進めて
いる(図1)。 二〇〇五年の秋までに全面稼
動させる計画だ。
センターで邸別にパッケージ化
新たな物流システムでは、従来のように部
材や住宅設備機器などの取引先メーカーが個
別に施工現場へ搬入するのではなく、旭化成
ホームズが自ら取引先メーカーのもとへ引き
取りに行く。 現場への搬入までを一貫して管
理することで、施工現場の作業の進捗に応じ
てジャスト・イン・タイムに近い形での部材
調達を実現することを目指している。
住宅資材や住設機器などの取引先メーカー
が、施工現場に直送していた従来のやり方に
は多くのムダがあった。 施工現場にはさまざ
まな車両が出入りし、搬入物量の割に車両の台数が多くなっていた。 また一部の内装部材
については、建材店が在庫を持ち現場搬入を
行っていたが、拠点は全国二〇カ所にも分散
していて規模も小さかった。
この状況を改善するため、旭化成ホームズ
は消費地の近くに物流センターを設けること
にした。 センターでいったん住設機器や部材
をまとめて、現場への搬入をコントロールし
搬入車両を減らそうというわけだ。
取引先メーカーから物流センターまでの物
流は、前述した通り、原則として物流センタ
ーからの集荷に変える。 取引先から集荷した
部材を、物流センターで施工現場の邸ごとに
パッケージングしてトラックに積み合わせ、
これを施工スケジュールにあわせて現場に搬
入していく。
取引先の出荷場所の多くは特定の地域に集
積しているため、センターからの集荷は効率
よく行える。 また、物流センターにいったん
集約することで、施工現場に搬入するトラッ
クの積載効率も高まる。 結果として車両台数
は削減でき、輸配送コストの抑制にもつなが
るというのが旭化成ホームズの読みである。
すでに物流センターの立地も決めた。 首都
圏の柏、平和島、厚木と、中部圏の小牧、近
畿圏の摂津、それに福岡の全国六カ所に設け
る。 各センターの管理運営業務は、住宅物流
大手のセンコーに委託する計画だ。
「へーベルハウス」の販売エリアは太平洋ベ
ルト地帯の大都市圏に集中しているため、物
流センターも同エリアの大消費地周辺に設置
する。 ほかに浜松、岡山、広島の三カ所にス
トックポイント(SP)を設ける。 物流セン
ターからSPまで大型車で持ち込み、SPで
邸別に仕分けて二トン車などで配送すること
によって全販売エリアをカバーするためだ。
計画では、二〇〇五年の秋には、これまで
取引先が現場へ直送していた住設機器などの
搬入の多くが物流センター経由に切り替わる。
また、全国二〇カ所の建材店を経由していた
一部の内装部材についても、需要地に近い六
カ所の拠点に物流が集約される。
旭化成ホームズが建材などを仕入れている
取引先の数は一五〇社を超える。 ここから住
宅一戸あたり何万点という部材や機器を調達
しているのだが、今後は、足場や基礎のコン
クリートなど取引先から現場に直接搬入する
ほうが望ましいものや、現場に在庫する必要
のある一部の部材以外は、全物量の九割以上
を物流センター経由にしていく方針だ。
このうち主要な部材などを中心に六〜七万
点については、物流センターからメーカーへ
集荷に回る形に変える。 ただ小物や調達数量
の少ない部材など、自ら集荷するとかえって
コスト高になるケースもあるため、取引先に
物流センターまで持ち込んでもらう従来の方
法も一部に残す。
構築中の調達物流システムの最大のポイン
トは、現場の施工スケジュールに合わせて部
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図1 新たな物流システムの概要
取引先
メーカー
ACOSMOS―NET
物流センター
調達物流 (6拠点) JIT物流
新部材管理
システム
新工程管理
システム
生産準備センター
(2カ所)
情報の流れ
(公開)
搬入予告型
現場/
工事店
工場出荷からの物流網の構築 現場最優先の物流体制構築
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材をタイムリーに搬入する点だ。 そしてジャ
スト・イン・タイムで部材を動かすためには、
その前提として、?どんな部材を、いつ、ど
れだけ使う〞という施工現場の情報を正確に
把握する必要があった。
部材搬入を指示するITを構築
この作業をサポートするため、旭化成ホー
ムズは「新工程管理・部材管理システム」と
呼ぶ情報システムを新たに構築した。 施工現
場の進捗状況を正確に把握して、必要な部材
の搬入指示を出すためのITネットワークで
ある。
同システムを構築する以前から旭化成ホー
ムズは、住宅の設計図面をもとに多数の品目
の部材から必要な品番と数量を特定できるシ
ステムを独自に持っている。 これを使えば、
?どんな部材をどれだけ使う〞という「部材
情報」までは作成できた。 しかし、今回の取
り組みで目指しているジャスト・イン・タイ
ムの搬入を実現するためには、さらに施工現
場の工事日程に合わせて日別に必要な部材を
特定しなければならなかった。
このため「新工程管理・部材管理システ
ム」では、現場で作業にあたる内装工事店の
責任者に、工事の進捗状況を見ながら部材を
?いつ使う〞という「日付情報」を携帯端末
で入力してもらう。 これをインターネット経
由で新システム「ACOSMOS
―NET」
のサーバーに取り込んで「部材情報」とドッ
キングさせる(図2)。
すでに昨年四月から、近畿地区をカバーす
る摂津の物流センターで新しい調達方式をス
タートし、秋には「新工程管理・部材管理シ
ステム」のトライアルも開始した。 従来、近
畿エリアでは、建材店の拠点を経由する内装
部材の標準的な配送回数は一邸あたり十三回
だったが、新方式ではこの回数は八〜十回に
減ったという。
旭化成ホームズで執行役員を務める清水剛
資材・生産総部長は、「必要な部材だけをタ
イムリーに調達しながら、同時に配送の回数
を減らすこともできる」と新システムのメリ
ットを強調する。
次は現場への「搬入予告」の実現
今年四月には新工程管理システムの実運用
を始めた。 昨年からトライアル稼働している
摂津に続き、新たに柏の物流センターもオー
プンした。 七月に平和島、さらに一〇月に厚
木・中部・福岡の三センターが稼動すると、予
定通り全国六センターが揃う。
その後、およそ一年間をかけて現場での運
用精度を高め、そのうえで二〇〇五年一〇月
をめどに新工程管理の二次システムを稼動し
ていく。 この二次システムでは、現場で「日
付情報」を発信する前に、東西二カ所に設け
る「生産準備センター(仮称)」から現場に
対して「搬入予告」を行う計画だ。
住宅工事の現場では、責任者が工程表をも
とに部材の搬入管理を行ってはいても、さま
ざまな要因で頻繁にスケジュールが変わる。
このため工事を管理する事務所で、基礎工事
や躯体工事などが終わるごとに進捗状況を入
力してもらう必要がある。 これをもとに新工
程管理システムで現場への搬入日を予告(提
案)し、この情報を現場責任者が承認または
修正すると、はじめて搬入日が決まる。 これ
図2 物流改革を支える新たなITネットワークの概念図
旭化成ホームズ
営業・設計 NICE
ACOSMOS
ACOSMOS-NET
日付情報
日付特定
施工現場及び工事店
物流
物流センター
部材特定
部材メーカー
新工程
管理システム
新工程
管理システム
部材情報
MAY 2004 40
が取引先にも送られ、ここで現場への納期か
ら逆算しながら部材の生産や出荷を進めてい
く。
スタート時のシステムでも取引先に対する
情報提供を行ってはいたが、二次システムで
は情報の精度が格段に高まる見込みだ。 過去
には、取引先が現場の進捗情報を把握できな
いため、現場からの要請で急な納期変更に対
応しなければならないこともあった。 新シス
テムによるサポートが始まれば、こうした緊
急対応の多くが回避でき、生産効率の向上を
期待できると旭化成ホームズはみる。
「(生産や物流を効率化するうえで)これまで
現場の情報を取れないことが最大のネックだ
った。 情報が可視化されることで大きく変わ
る」と、同社の内山恵詞資材・生産総部部材
物流センター長もこの点への期待は大きい。
新たな調達システムが本格稼働すれば、工
事現場への部材搬入の責任は物流センターが
負うことになる。 以前のような煩雑な搬入管
理が軽減されることで、施工現場の負担も確
実に減るはずだ。
一方、物流センターでも、「搬入予告」によって計画的な配車を組みやすくなる。 従来
の現場からの搬入依頼は週始めに集中する傾
向があったため、どうしても波動が大きくな
っていた。 これを事前に調整することで「波
動を吸収できて、しかもよりタイムリーな搬
入が可能になる」(内山部材物流センター長)
のだという。
配送時にリターナブル容器を回収
新調達システムでは、現場に搬入した後の
?現場物流〞にもメスを入れる。 従来、取引
先による物流の守備範囲は、現場の敷地内に
部材を搬入するところまでだった。 「へーベ
ルハウス」には四階建ての住宅もあるが、各
フロアへの部材の搬送は工事店の大工職人が
行っていた。
これを新たな仕組みでは、配送時にドライ
バーが各フロアまで搬送するかたちに変える。
そうすれば職人は本来の業務に専念できるよ
うになり、工期の短縮が期待できる。 さらに
その際にドライバーが、部材の梱包を解いて
梱包資材の回収まで行う。 この「回収システ
ム」で梱包資材のリターナブル化を実現する
ことが、実は新たな物流システムを構築する
もう一つの狙いでもあった。
施工現場で使用済みになった梱包用の段ボ
ールは、ほとんどを排出物として処理するし
かなかった。 その量は住宅一棟あたり三・五
立方メートルにも上り、施工現場で発生する
全排出物の二〜三割を占めていた。 これを抑
制するため、旭化成ホームズとしても梱包資
材のリターナブル化を取引先に呼びかけてき
たが、なかなか実現できずにいた。
リターナブル化には容器を効率よく回収す
る仕組みが不可欠だ。 しかし、既存の物流シ
ステムにはそれがなかった。 これまでのやり
方では容器は現場に長期滞留してしまい、流
失の恐れもあった。 結果として段ボールを使
うよりコスト増になってしまうことが、リタ
ーナブル化の妨げになっていたのである。
新たな物流システムでは、ドライバーが搬
入時にリターナブル容器の回収まで行うこと
で、こうした課題をクリアしようとしている。
物流センター
生産ライン投入
(梱包)
保管
調達
返却
現場配送
施工現場
回収容器の清掃、
点検、補修
再使用
再使用不可
マテリアルリサイクル
ヒートリサイクル
図3 キッチン部材の梱包資材をリターナブルするルート
キッチンメーカー
リターナブルルート
旭化成ホームズの清水剛執行役員
41 MAY 2004
工事現場の各フロアへ部材を搬入した際に、
ドライバーがその場で梱包を解き、ただちに
容器を物流センターへと回収する。 施工現場
に容器を滞留させないうえ、ゴミが現場に残
らないため廃棄処理の作業も不要になる。
物流センターでは、回収したリターナブル
容器が一定の数量になると取引先のもとへと
返却する。 これを取引先が清掃や補修を施し
た後で再利用する。 旭化成ホームズとしては、
容器の投入量を抑えるために一週間以内に回
転させることを目安に運用していく考えだ。
リターナブル容器は取引先と共同で開発を
進めている。 すでにキッチンセットと木枠・
建具枠のための梱包資材および輸送用パレッ
トの開発を終えた。 カウンターやキャビネッ
トなどキッチンセットのリターナブル容器は、古紙を原料とする梱包材にテープで補強を行
い、ポリエチレンの緩衝材やカバーを組み合
わせた。 ここにバンドで結束して部材を梱包
する。 開梱すると平面形状に開き、回収時の
体積を小さくできる工夫も施した。
ドアや木枠用には、プラスチック製段ボー
ルの梱包資材を開発した。 ドアなどの両端に
これをセットし、ポリエチレンフィルムで全
面を覆えば部材を運搬できる状態になる。 容
器の破損を防ぎ、かつ荷役効率を上げる目的
で、専用の輸送用パレットも開発した。
リターナブル容器の価格は、従来の段ボー
ルに比べて六〜一〇倍高くなる。 それでも繰
り返し二〇〜三〇回程度は使用できるため、
補修費などを入れてもコストは安くできると
見込んでいる。 リターナブル化が計画通り進
めば、一邸あたりの段ボールの排出量はキッ
チンセットで二五キロ、木枠・建具で平均三
八キロ削減できると試算している。
すでに開発したリターナブル容器は汎用型
で、いずれは取引先が共同利用もできるよう
に工夫してある。 キッチンセットについては、
昨年末から取引先メーカー三社とのトライア
ルを経て、今年三月からは実際に摂津の物流
センターで本格的な運用をスタートした。 木
枠・建具についても、柏の物流センターでリ
ターナブル化が始まっている(図3)。
換気扇などの一部の部材については、メー
カーの工場から裸梱包で集荷し、物流センタ
ーから現場へは通い箱で搬入する方法も検討
している。 「部材の種類は多いが、形状は四、
五パターンにおさまる。 キッチンセットの容
器は洗面化粧台や下駄箱にも応用が可能。 も
う二、三パターンの開発が完了すれば、ほと
んどの部材をカバーできる」とみて、二〇〇
五年度中の全面的なリターナブル化を目指し
ている。
旭化成ホームズとしては、いずれはライバ
ルの住宅メーカーにもリターナブル容器の導
入を呼びかけていく考えだ。 「まだスタートし
たばかりだが、今後一年くらいかけて運用実
績を積み重ね効率性を実証できたら、積極的
に声をかけていきたい」と清水部長は言う。
一連の改革によって、物流コストも大幅に
減らせる見込みだ。 従来の搬入方法では年間
に約一〇〇億円の物流コストがかかっていた。
これが新しい調達システムを本格稼働すれば、
八〇億円になると試算している。 特に輸配送
や荷役の効率化、容器のリターナブル化など
によるコスト削減効果が大きいと見ている。
住宅業界では環境改善やコスト削減の要請
に応えるため近年、物流がクローズアップさ
れている。 大手建材卸などが物流機能を強化
して、ジャスト・イン・タイムで邸別に搬入
する仕組みを構築する動きも出てきた。 旭化
成ホームズが梱包資材の回収まで含む見直し
に乗り出したことが、住宅業界の本格的な物
流改革の引き金になることも予想される。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
リターナブル梱包資材を開発中
キッチンカウンターの梱包
材は古紙が原料
平面形状に開き回収時の体
積を小さくできる
プラスチック製段ボールと
フィルムで建具を梱包
木枠・建具用に輸送パレッ
トも開発
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