{literal} {/literal}

2022年8月号
特集

物流コンプライアンスが経営の足をすくう

ラストワンマイルの働き方  読売新聞は5月29日、アマゾンジャパンの「デリバリープロバイダ」を務める丸和運輸機関(以下、丸和)が今年1月に労働基準監督署から是正勧告を受けていたと報じた。
丸和がアマゾンの配達業務を委託している個人事業主のドライバーの一部を、労基署は事実上の労働者に当たると認定、労基法で定められた労使協定を結ばずに1日8時間の法定労働時間を超えて働かせたことを違法とした。
 同社は個人ドライバーと1日当たりの固定料金で業務委託契約を結んでいる。
業務委託契約において業務の進め方は受託者の裁量に任される。
依頼主が受託者に指揮命令を下すのは違法行為に当たる。
しかし、同社はルートを指定したり、予定外の配達を急に指示したりしていたほか、制服の着用も求めていたという。
 もっともこれが労基法違反となれば、その影響は同社だけでなくECラストワンマイルの全域に及ぶ。
丸和以外の各地のデリバリープロバイダも、それぞれ個人ドライバーと業務委託契約を結んで同様の仕組みで業務を運営している。
EC事業者の自社配送や物流会社の下請け配送も実態は大きく変わらない。
 労基署の勧告に対して丸和は当初、受託者の個人ドライバーに「労働者性は認められない」として事実上の雇用関係を否定する立場をとっていた。
しかし、労基署との話し合いを続けた結果、最終的には勧告を受け入れ、指摘された事項を改善して、報告書を提出したという。
 続く6月13日、アマゾンの宅配業務を請け負っている個人ドライバーたちが「アマゾン配達員組合」の結成を発表する記者会見を東京・霞が関の厚生労働省で開催した。
神奈川県横須賀市の配送センターで働く10人が、地域合同労組の東京ユニオンに参加して「東京ユニオン・アマゾン配達員組合横須賀支部」を設立した。
 ドライバーたちはいずれも、デリバリープロバイダの若葉ネットワーク(本社・神奈川県横浜市)や2次下請けと業務委託契約を結んでいる個人事業主の軽貨物ドライバー、いわゆる“一人親方〟だ。
現場ではアマゾンの配達用アプリ「ラビット」を通じて荷物数や配達先を指示されており、昨年6月にAIが各配達員の受け持つ荷物や配達先を決定する仕組みを導入して以降、仕事量が急増したという。
 同組合員らは、業務委託契約であってもアプリなどを通じて指揮命令を受けていることから、ドライバーを労基法上の労働者として扱わないことは「偽装請負」に当たると主張、アマゾンジャパンとその下請け業者に対して、労働契約の締結や長時間労働の是正などを求めている。
 EC物流のラストワンマイルは現在、軽トラックや軽バンを使って荷物を配達する一人親方たちによって支えられている。
一般の貨物運送事業が許可制で保有車両台数5台以上などの資格要件があるのに対し、軽貨物(貨物軽運送事業)は届出制で必要書類を運輸支局に提出すれば、個人でも黒ナンバーを取得して開業できる。
 一人親方への業務委託は、ドライバーを社員として雇用するのと比べて使用者側の負担が圧倒的に軽い。
自動車は持ち込みで、運行三費(燃料費、修理費、タイヤ・バッテリー費)や社会保障費も相手持ち。
労働衛生コストが抑えられる上、労働災害や交通事故が起きても直接責任を問われることがない。
 それでも宅配大手はこれまで正社員のセールスドライバーを競争力の源泉と位置付けて、その採用と教育に時間とコストをかけてきた。
しかし、EC貨物には基本的に集荷がない。
ドライバーの営業活動も必要ない。
置き配や投げ込み宅配が普及して、届け先と対面する機会も減っている。
 EC貨物の増加に伴い、宅配サービスの競争条件は、サービス品質からコストにシフトした。
その結果、セールスドライバーの配達に代わり、一人親方によるラストワンマイルが短期間のうちに急速に広まった。
 国土交通省の資料によると全国の貨物軽運送事業者数は2015年度まで15万台の横ばいで推移していた。
しかし、16年度から増加基調が明確になり、直近の20年度は約20万に達している。
保有車両台数は3割近く増えて約32万台になった(図1)。
既存の宅配便インフラから溢れ出した大量のEC荷物が、全国に5万人以上の一人親方を生み出した格好だ。
 その過酷な現場労働に労働法のメスが入れられようとしている。
これからは一人親方を都合良く使うことが難しくなる。
問題が起きれば元請けの物流企業だけでなく、発注者の荷主も責任を問われる。
一人親方に社員並みの労働衛生環境を整備すれば利用者のメリットは薄れる。
ECラストワンマイル戦略は大幅な修正を余儀なくされる。
「新しい資本主義」の物流行政  現在の岸田政権は「新しい資本主義の実現」を公約に掲げて、小泉政権以来の新自由主義的政策の行き過ぎを見直す方針を打ち出している。
その一環で昨年12月27日に政府は「転嫁円滑化施策パッケージ」をまとめた。
中小企業が人件費や燃料費などのコストの上昇を価格に転嫁しやすくするために、公正取引委員会と関係省庁が連携して、業種別の法令順守状況を点検する新たな仕組みを創設する。
 これを受けて公正取引委員会は今年2月、「優越的地位濫用未然防止対策調査室」を設立した。
「優越Gメン」と呼ばれる調査員が、価格転嫁を拒否していることが疑われる大手企業に立入調査を行い、違反があれば指導・勧告する。
物流業はその重点調査業種に挙がっており、今春には荷主19社への立入調査が実施された。
 一方、厚生労働省は労働基準監督署による通報制度を拡充した。
事業所への立入検査・臨検監督を実施した際、労基法の違反は認められなかった場合であっても、ドライバーの賃金の引き上げを阻害する要因として荷主の買いたたきなどが疑われる事案があれば、公正取引委員会や国土交通省に報告する。
 さらに6月14日、トラックドライバーの労働時間の基準となる厚労省の「改善基準告示」の見直しを検討する「第6回トラック作業部会」では、労基署が運送業者への立入調査や告発で得た情報を基に、ドライバーの長時間労働の原因を作っている発荷主・着荷主に直接改善を働きかける新制度が提示された。
 17年の「物流危機」をきっかけに、ドライバー不足とその労働環境に対する社会的な関心が高まり、政府主導の「ホワイト物流」推進運動や、国交大臣がブラック荷主の社名を公表する「荷主勧告制度」の強化など、運送取引の適正化に荷主を巻き込むためのさまざまな政策が進められてきた。
 しかし、その効果は今のところ判然としない。
ホワイト物流は荷主の自主的な決意表明であり、実際には宣言通りでなくても罰則はない。
荷主勧告制度も1990年の物流二法で規定されて以来、一度も発動されていない。
そもそも荷主に対して許認可権を持たない国交省の脅しは威力が限られる。
実態として、ブラック荷主が得をする状況がずっと続いてきた。
 その環境がいよいよ変わろうとしている。
競争規制の緩和が見直されて、労働法をはじめとする社会的規制の強化が進む。
ドライバーの残業時間規制がスタートする2024年4月も迫っている。
物流の実務家は法令順守を担保する仕組みを整え、それに伴い発生するコストを計画に織り込む必要がある。

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから