2022年8月号
特集
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関係省庁が連携して荷主企業に網を掛ける
楡周平著『鉄の楽園』
先日、楡周平氏の『鉄の楽園』という小説を読んだ。
その中に、「自動車会社じゃ、無資格者が最終検査をやってるわ、鉄鋼業界じゃ、品質データを改ざんしてるわ、新幹線でも台車に亀裂が走り、異音を察知していたにもかかわらず、それを無視して運行を続行するわ、相次いで不祥事が発覚する始末だ。
しかも、どれもこれも世界が認めるジャパンクォリティのシンボルだぜ」という一節があった。
大手トラック運送事業者でも「無車検のトラックを走らせる」「時間外手当を払わない」などといった「本業」での不祥事が発覚している。
物流・ロジスティクスにおける荷主企業のコンプライアンスのレベルは、それを本業とする物流事業者よりも、さらに低いと言わざるを得ない。
荷主は「交通安全・労働災害などは、受託した物流事業者側の責任で、発注する側には責任がない」とでも思っているのではなかろうか。
ここ数年来、国土交通省(以下、国交省)をはじめ、公正取引委員会(以下、公取委)、警察庁、厚生労働省(以下、厚労省)などの関係官庁は、連携しながら各種の荷主対策を進めている。
物流・ロジスティクス、特にトラック運送において、優越的地位の濫用、交通事故、労災事故などが減らないのは、荷主のコンプライアンス意識の欠如に起因していると見られているのである。
以下、本稿では、最近の「荷主の物流コンプライアンス」に関する複数の施策を解説する。
荷主の取り組みを促す一助となれば幸いである。
1.トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン 国土交通省は、貨物自動車運送事業法(2019年7月改正施行)により、従来の「トラック運送業における下請適正取引推進ガイドライン」を改定して、荷主との取引も対象とする「トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン」(最近の改定は21年11月。
以下、取引ガイドライン)を出している。
「取引ガイドライン」は、荷主に対してトラック運送事業者との運送取引において、貨物自動車運送事業法、独占禁止法の物流特殊指定(以下、特殊指定)に照らして遵守を要望する内容となっている。
本文は約60ページもあるので、ここでは、その概要を説明する。
(1)取引ガイドラインの概要 取引ガイドラインは、「第1章 トラック運送業における適正取引推進の必要性(略)」「第2章 取引上の問題点と望ましい取引形態」「第3章 関連法規等」の3章で構成されている。
このうち中心は第2章であり、次の11項目から構成される。
①運賃の設定 ②運賃(代金)の減額 ③運送内容の変更 ④運送に係る附帯業務の提供 ⑤荷待ち時間の改善 ⑥書面の交付、作成、保存 ⑦運賃の支払遅延 ⑧長期手形の交付 ⑨購入・利用強制の禁止 ⑩報復措置の禁止 ⑪その他 そこには特殊指定・貨物自動車運送事業法に照らして問題となりそうな取引形態が挙げられており、どのように改善すれば望ましいかを例示している。
つまり、①から⑪までの11項目が、トラック運送事業者との運送取引において荷主が遵守すべき内容ということである。
問題となりそうな取引形態の幾つかについては、後述する公取委の「荷主と物流事業者との取引に関する調査結果」(22年5月公表。
以下、物流取引調査)でも指摘され、当該荷主には公取委から注意喚起文書が送付されている。
誌面の都合もあるので、各項目の詳細については、取引ガイドラインを参照されたい。
(2)国交省と公取委のタッグマッチ 前述の貨物自動車運送事業法の附則では、図1のような「荷主への働きかけ」が定められている。
独禁法上の不公正な取引方法(物流特殊指定)に該当すると疑うに足りる事実を国交省の地方支分部局(地方運輸局・運輸支局)などが把握した場合、公取委に通知することができる。
つまり、国交省と公取委がタッグを組んで、荷主に働きかける仕組みを構築している。
(3)国交省「駆け込み寺」の設置 公取委・中小企業庁には「下請法・独占禁止法についての質問・相談窓口」、いわゆる「駆け込み寺」が設置されている。
国交省でも、輸送時間や積み荷量、入荷、出荷時における荷待ち時間および手作業や検品などの荷役に関する輸送実態把握のための「意見等の募集窓口」への投稿情報などから、ドライバーの労働条件改善およびトラック運送事業における働き方改革の推進についての配慮を荷主企業に対して依頼している。
22年3月末の実績では働きかけ実施件数は52件で、「主な働きかけ実施事例」として荷主の発着別・業種も記載されている。
これも「駆け込み寺」の一つと言えよう(図2)。
2.独禁法の物流特殊指定 (1)独禁法と下請法 運送や保管サービスは04年から下請法(下請代金支払遅延等防止法)の対象となった。
その際に、物流事業者に対する荷主の優越的地位の濫用を防止するための措置として、独禁法に基づき指定した特殊指定(物流特殊指定)がある。
この「荷主」には、ほとんどの場合「物流子会社」も含まれる。
物流特殊指定で禁止されているのは、図3で示されている9項目である。
20年12月に、内閣官房・消費者庁・厚労省・経済産業省(以下、経産省)・国交省・公取委の関係6省庁による、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」が推進され、その一環として物流取引調査が実施された。
前記「1.トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン(2)国交省と公取委のタッグマッチ」で述べた取り組みも、この一環である。
さらに22年3月には、同パッケージに基づいて、「令和4年中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」が策定され推進されている。
(2)物流取引調査の概要 物流取引調査(図3参照。
同調査は継続的に数回行われている)では、3万の荷主のうち、1万1438の荷主から回答が得られた。
そして、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分の転嫁拒否が疑われる事案について、19の荷主に対する立ち入り調査が行われた。
書面調査および立ち入り調査の結果を踏まえ、独占禁止法上の問題につながるおそれのあった641の荷主に対し、公取委から具体的な懸念事項を明示した注意喚起文書が送付された。
同調査結果に類型別の「問題につながるおそれのある事例」として挙げられた中には「荷主は、物流事業者からの契約金額の交渉の要望を門前払いし、最初(40~50 年前)に契約した金額を継続して据え置いている。
(設備工事業)」というものがあった。
本誌の22年4月号特集「実勢トラック運賃2022」では、積合せ運賃(特積み)は、「平成2年運賃」が増えていると報じられているが、このような事例を見ると、いまだに「昭和57年運賃」が残っているということなのだろう。
今回の調査によって、優越的地位を濫用していると疑われた荷主は恐らく、既に覆面調査や「駆け込み寺」からの情報などで「外堀」を埋められていただろうというのが、筆者の想定である。
中小企業庁は、下請中小企業振興法に基づく「下請振興基準」を改正して、下請事業者からの要請にかかわらず、年に最低1回は価格交渉を行い、発注の度に協議に応じることなどを親事業者に対して求める方向である。
独禁法の特殊指定においても、同様の内容で指導されると思われる。
(3)燃油・原材料高の価格転嫁拒否を緊急調査 公取委は22年6月3日、エネルギーコストや原材料費、労務費の上昇分の価格転嫁を拒まれた事案についての緊急調査を行うと発表した。
この調査対象には道路貨物運送業も含まれている。
調査はまず、価格転嫁の拒否行為があったかどうかを、受注者側に調査票を送って尋ねる。
調査票が届かない事業者については自発的に調査に回答できるよう、公取委のウェブサイトに特設ページが設けられている。
受注者側への調査結果を踏まえ、価格転嫁拒否の疑いがある側(発注者側)に対する書面調査を実施し、問題性が高い案件には立入調査も行う。
調査結果は今年度中に取りまとめられる。
3.荷主勧告制度 (1)荷主勧告制度の概要 荷主勧告制度とは、貨物自動車運送事業法に基づく制度だ。
トラック運送事業者が行った過積載運行などの違反行為について、荷主が指示するなどといった「荷主の主体的な関与」があった場合には、国交省が当該荷主に対して是正措置を勧告し、トラック運送事業者の違反行為の再発防止を図る制度である。
現行の荷主勧告制度では、「荷主勧告の対象とする重点的な類型等を明示」するとともに、「荷主勧告発動に先駆けて、『協力要請書』(通称イエローカード)の発出を要件としない」ものとなっている。
つまり、一発でいきなり荷主勧告書が出される(図4)。
(2)荷主勧告の対象となる荷主の行為の重点 的な類型 荷主勧告は、図4で示されている流れで発出される。
具体的には、荷主が優越的な地位や継続的な取引などを利用し、次のような五つの類型行為を実行したと判断されることが要件となる。
類型の詳細は荷主勧告制度のパンフレットを参照してほしいが、内容としては次の通りである。
①非合理的な到着時間の設定 ②やむを得ない遅延に対するペナルティの設定 ③積み込み前に貨物量を増やすような急な依頼 ④恒常的に発生する手待ち時間に対して改善措置を行わない場合 ⑤荷主が事業者に対し、違反行為を指示、強要など このうち「④恒常的に発生する手待ち時間に対して改善措置を行わない場合」は着荷主(納品先)での手待ち時間に関する内容なので、発荷主に起因するとは言えない点もあって、判断が難しいが、発着を問わず手待ち時間の「改善措置」が望まれるところであろう。
(3)荷主勧告制度の運用状況 荷主勧告は、荷主企業を所管する関係省庁と協議の上で、荷主名などを公表することになっている。
過去には、実際に関係省庁などの協議を経た上での荷主勧告が発出された例もある。
本稿冒頭で引用した小説の一説のように、行政は所管する業界・企業のコンプライアンスに目をつぶるような時代ではもはやない。
社会的な問題となるような不祥事が発生すれば、行政の指導監督責任も問われる。
各行政機関の間では、「相互通報制度」が導入されている。
例えば、公安委員会(警察)・労働基準監督署・日本年金機構などは、トラック運送事業者による道交法違反や労基法違反、社会保険未加入などを運輸支局に通報し、運輸支局は監査の上で行政処分(事業停止、車両の使用停止など)を行い、通報してきた相手官庁に処分結果を報告する。
それを実施しないと、監督行政としての「不作為」責任を問われることになる。
荷主勧告も同様だ。
所管業界・企業をかばっていると、国民から情報開示を求められたり、「相互通報制度」のように、国交省から不作為を問われる状況も想定される。
特に、物流コンプライアンスに関しては、安全に直結するだけに、相互通報制度ではないが、前記「2.独禁法の物流特殊指定(1)独禁法と下請法」で述べたような施策パッケージが推進されている。
4.交通労働災害防止ガイドラインと荷役災害防止通達 (1)交通労働災害防止ガイドライン 厚労省では、「交通労働災害防止のためのガイドライン」(13年最終改正。
以下、交通ガイドライン)によって、荷主やトラック運送業者に交通労働災害の防止を働きかけている。
交通ガイドラインでは、「第6 荷主・元請事業者による配慮等 荷主及び運送業の元請の事業者は、次に掲げる事項等、交通労働災害防止を考慮した適切かつ安全な運行の確保のため必要な事項について、実際に荷を運搬する事業者と協働して取り組むよう努めること」とされている。
具体的には、次の五つの配慮を荷主に求めている。
①貨物増量時の配慮 ②到着遅延時の配慮 ③発注時の配慮 ④高速道路利用の配慮 ⑤作業遅延時の配慮 このうち、①②③④は、「荷主勧告制度」と「荷主勧告の対象となる荷主の行為の重点的な類型」で述べた荷主勧告の類型とも共通している。
(2)荷役災害防止通達 厚労省は、荷主構内における積卸しなどの荷役作業における労働災害防止のために、「陸上貨物運送事業の荷役作業における労働災害防止対策の推進について」通達を出している(以下、荷役災害防止通達)。
それにもかかわらず、21年の「労働災害発生状況の分析等」(厚労省)によれば、トラック運送業(陸上貨物運送事業)の労働災害発生状況は、死傷者数1万6355人(新型コロナを除く。
対前年4・4%増)で製造業・建設業と並ぶワースト3となっている。
しかも、その約7割が荷役作業中(交通事故は839人)に発生しており、また同じく約7割が荷主構内で発生しているという現状だ。
13年には、トラック運送業者と荷主・配送先・元請事業者などが実施すべき対策をまとめた「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」(以下、荷役ガイドライン)が出された。
荷役ガイドラインの目的は、「荷主等が積極的に関与することにより、自主的な安全衛生活動の一層の推進を図る」ことである。
ただし、交通ガイドライン・荷役災害防止通達・荷役ガイドラインとも努力義務であり、罰則規定はない。
荷主にとってトラック運転者は直接雇用する労働者ではないので、労働安全衛生法などに基づく責任もない。
しかし、荷主構内での積み込み作業中に、トラック運転者が被災して、荷主の不法行為責任を認めた判決も出されている(東京地裁1996年7月31日)。
(3)荷主等の荷役災害防止対策 荷役ガイドラインでは、トラック運送業者と荷主・配送先等の関係者が、協力して取り組む項目を掲げている。
紙面の都合で省略するが、ぜひ一読して荷主構内での荷役作業の改善に役立てられたい。
特に図5に示した荷役ガイドラインパンフレットのEに記載された「荷主のフォークリフトをトラック運転者が運転して、貨物を積卸す」ケースでは、荷役事故や貨物事故が発生した場合の責任の所在が問題となる。
ガイドラインでは「フォークリフトによる労働災害の防止対策」として次のように示されている。
フォークリフトによる労働災害の防止対策 ①陸運事業者の労働者にフォークリフトを貸与する場合は、最大荷重に合った資格を有していることを確認すること。
②所有するフォークリフトの定期自主検査を実施すること。
③陸運事業者に対し、作業計画の作成に必要な情報を提供すること。
④荷主等の労働者が運転するフォークリフトにより、陸運事業者の労働者が被災することを防止するため、荷主等の労働者にフォークリフトによる荷役作業に関し、必要な安全教育を行うこと。
⑤荷主等の管理する施設において、構内におけるフォークリフト使用のルール(制限速度、安全通路等)を定め、労働者の見やすい場所に掲示すること。
⑥荷主等の管理する施設において、構内制限速度の掲示、通路の死角部分へのミラー設置等を行うとともに、フォークリフトの運転者にこれらを周知すること。
⑦荷主等の管理する施設において、フォークリフトの走行場所と歩行通路を区分すること。
厚労省によると、21年のフォークリフトに起因する死傷事故発生件数は2003件(全産業)であり、前年比で0・7%増えている。
厚労省では、荷主構内における積卸し作業時の労働災害が一向に減少しないので、前述した荷役災害防止通達や荷役ガイドラインに強制力を持たせるべく、労働安全衛生法の条文に法制化して罰則規定を設けることも検討しているという。
これは改善基準が守られないので、労働基準法を改正して時間外労働時間の上限を設定した事例と同様の手法と言えよう。
5.その他の法令 前述の「1.トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン」「2.独禁法の物流特殊指定」「3.荷主勧告制度」「4.交通労働災害防止ガイドラインと荷役災害防止通達」以外にも、荷主に求められる物流コンプライアンスがある。
誌面の都合もあるので、最後に参考までに簡記する。
(1)道交法の使用者責任 荷主勧告制度の一類型である「過積載運行」では、まず運転者が道交法で検挙される。
その時に使用者が過積載を下命・容認していたときは、使用者責任を問われることになる。
この「使用者」は事業主に加えて、当該貨物の運送を発注した荷主も含まれる。
過去において、「繰り返し過積載運行を発注していた」として、荷主企業の発注責任者が書類送検されたことがある。
証拠不十分等で不起訴となることもあるが、書類送検の時点でマスコミ報道されるので、企業イメージがダウンすることは避けられない。
(2)カスタマーハラスメント 労働施策総合推進法に基づくパワハラ防止対策の義務化が、22年4月から中小企業にも適用された。
パワハラには、「取引先への暴言・罵声等」もカスタマーハラスメントとして含まれる。
例えば、自社の物流担当者(物流センター従業員など)が、トラック運送会社の運転者に「到着が遅いので、もっと早く来い」など「暴言(と受け取られるような表現)」を浴びせると、パワハラになってしまう。
このケースでは、運転者に直接言わずに、運送会社に言うべきである。
厚労省の指導では、威圧的なメールや無理難題も、ケースによってはパワハラとなるので注意されたい。
参考資料 1.本文で掲げた各法令・通達・基準・ガイドライン・調査報告など 2.経産省・警察庁・厚労省・国交省・公取委・中小企業庁(五十音順)および全ト協などのウェブサイト、パンフレットなど 3.楡周平『鉄の楽園』新潮文庫、2022年
その中に、「自動車会社じゃ、無資格者が最終検査をやってるわ、鉄鋼業界じゃ、品質データを改ざんしてるわ、新幹線でも台車に亀裂が走り、異音を察知していたにもかかわらず、それを無視して運行を続行するわ、相次いで不祥事が発覚する始末だ。
しかも、どれもこれも世界が認めるジャパンクォリティのシンボルだぜ」という一節があった。
大手トラック運送事業者でも「無車検のトラックを走らせる」「時間外手当を払わない」などといった「本業」での不祥事が発覚している。
物流・ロジスティクスにおける荷主企業のコンプライアンスのレベルは、それを本業とする物流事業者よりも、さらに低いと言わざるを得ない。
荷主は「交通安全・労働災害などは、受託した物流事業者側の責任で、発注する側には責任がない」とでも思っているのではなかろうか。
ここ数年来、国土交通省(以下、国交省)をはじめ、公正取引委員会(以下、公取委)、警察庁、厚生労働省(以下、厚労省)などの関係官庁は、連携しながら各種の荷主対策を進めている。
物流・ロジスティクス、特にトラック運送において、優越的地位の濫用、交通事故、労災事故などが減らないのは、荷主のコンプライアンス意識の欠如に起因していると見られているのである。
以下、本稿では、最近の「荷主の物流コンプライアンス」に関する複数の施策を解説する。
荷主の取り組みを促す一助となれば幸いである。
1.トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン 国土交通省は、貨物自動車運送事業法(2019年7月改正施行)により、従来の「トラック運送業における下請適正取引推進ガイドライン」を改定して、荷主との取引も対象とする「トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン」(最近の改定は21年11月。
以下、取引ガイドライン)を出している。
「取引ガイドライン」は、荷主に対してトラック運送事業者との運送取引において、貨物自動車運送事業法、独占禁止法の物流特殊指定(以下、特殊指定)に照らして遵守を要望する内容となっている。
本文は約60ページもあるので、ここでは、その概要を説明する。
(1)取引ガイドラインの概要 取引ガイドラインは、「第1章 トラック運送業における適正取引推進の必要性(略)」「第2章 取引上の問題点と望ましい取引形態」「第3章 関連法規等」の3章で構成されている。
このうち中心は第2章であり、次の11項目から構成される。
①運賃の設定 ②運賃(代金)の減額 ③運送内容の変更 ④運送に係る附帯業務の提供 ⑤荷待ち時間の改善 ⑥書面の交付、作成、保存 ⑦運賃の支払遅延 ⑧長期手形の交付 ⑨購入・利用強制の禁止 ⑩報復措置の禁止 ⑪その他 そこには特殊指定・貨物自動車運送事業法に照らして問題となりそうな取引形態が挙げられており、どのように改善すれば望ましいかを例示している。
つまり、①から⑪までの11項目が、トラック運送事業者との運送取引において荷主が遵守すべき内容ということである。
問題となりそうな取引形態の幾つかについては、後述する公取委の「荷主と物流事業者との取引に関する調査結果」(22年5月公表。
以下、物流取引調査)でも指摘され、当該荷主には公取委から注意喚起文書が送付されている。
誌面の都合もあるので、各項目の詳細については、取引ガイドラインを参照されたい。
(2)国交省と公取委のタッグマッチ 前述の貨物自動車運送事業法の附則では、図1のような「荷主への働きかけ」が定められている。
独禁法上の不公正な取引方法(物流特殊指定)に該当すると疑うに足りる事実を国交省の地方支分部局(地方運輸局・運輸支局)などが把握した場合、公取委に通知することができる。
つまり、国交省と公取委がタッグを組んで、荷主に働きかける仕組みを構築している。
(3)国交省「駆け込み寺」の設置 公取委・中小企業庁には「下請法・独占禁止法についての質問・相談窓口」、いわゆる「駆け込み寺」が設置されている。
国交省でも、輸送時間や積み荷量、入荷、出荷時における荷待ち時間および手作業や検品などの荷役に関する輸送実態把握のための「意見等の募集窓口」への投稿情報などから、ドライバーの労働条件改善およびトラック運送事業における働き方改革の推進についての配慮を荷主企業に対して依頼している。
22年3月末の実績では働きかけ実施件数は52件で、「主な働きかけ実施事例」として荷主の発着別・業種も記載されている。
これも「駆け込み寺」の一つと言えよう(図2)。
2.独禁法の物流特殊指定 (1)独禁法と下請法 運送や保管サービスは04年から下請法(下請代金支払遅延等防止法)の対象となった。
その際に、物流事業者に対する荷主の優越的地位の濫用を防止するための措置として、独禁法に基づき指定した特殊指定(物流特殊指定)がある。
この「荷主」には、ほとんどの場合「物流子会社」も含まれる。
物流特殊指定で禁止されているのは、図3で示されている9項目である。
20年12月に、内閣官房・消費者庁・厚労省・経済産業省(以下、経産省)・国交省・公取委の関係6省庁による、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」が推進され、その一環として物流取引調査が実施された。
前記「1.トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン(2)国交省と公取委のタッグマッチ」で述べた取り組みも、この一環である。
さらに22年3月には、同パッケージに基づいて、「令和4年中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」が策定され推進されている。
(2)物流取引調査の概要 物流取引調査(図3参照。
同調査は継続的に数回行われている)では、3万の荷主のうち、1万1438の荷主から回答が得られた。
そして、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分の転嫁拒否が疑われる事案について、19の荷主に対する立ち入り調査が行われた。
書面調査および立ち入り調査の結果を踏まえ、独占禁止法上の問題につながるおそれのあった641の荷主に対し、公取委から具体的な懸念事項を明示した注意喚起文書が送付された。
同調査結果に類型別の「問題につながるおそれのある事例」として挙げられた中には「荷主は、物流事業者からの契約金額の交渉の要望を門前払いし、最初(40~50 年前)に契約した金額を継続して据え置いている。
(設備工事業)」というものがあった。
本誌の22年4月号特集「実勢トラック運賃2022」では、積合せ運賃(特積み)は、「平成2年運賃」が増えていると報じられているが、このような事例を見ると、いまだに「昭和57年運賃」が残っているということなのだろう。
今回の調査によって、優越的地位を濫用していると疑われた荷主は恐らく、既に覆面調査や「駆け込み寺」からの情報などで「外堀」を埋められていただろうというのが、筆者の想定である。
中小企業庁は、下請中小企業振興法に基づく「下請振興基準」を改正して、下請事業者からの要請にかかわらず、年に最低1回は価格交渉を行い、発注の度に協議に応じることなどを親事業者に対して求める方向である。
独禁法の特殊指定においても、同様の内容で指導されると思われる。
(3)燃油・原材料高の価格転嫁拒否を緊急調査 公取委は22年6月3日、エネルギーコストや原材料費、労務費の上昇分の価格転嫁を拒まれた事案についての緊急調査を行うと発表した。
この調査対象には道路貨物運送業も含まれている。
調査はまず、価格転嫁の拒否行為があったかどうかを、受注者側に調査票を送って尋ねる。
調査票が届かない事業者については自発的に調査に回答できるよう、公取委のウェブサイトに特設ページが設けられている。
受注者側への調査結果を踏まえ、価格転嫁拒否の疑いがある側(発注者側)に対する書面調査を実施し、問題性が高い案件には立入調査も行う。
調査結果は今年度中に取りまとめられる。
3.荷主勧告制度 (1)荷主勧告制度の概要 荷主勧告制度とは、貨物自動車運送事業法に基づく制度だ。
トラック運送事業者が行った過積載運行などの違反行為について、荷主が指示するなどといった「荷主の主体的な関与」があった場合には、国交省が当該荷主に対して是正措置を勧告し、トラック運送事業者の違反行為の再発防止を図る制度である。
現行の荷主勧告制度では、「荷主勧告の対象とする重点的な類型等を明示」するとともに、「荷主勧告発動に先駆けて、『協力要請書』(通称イエローカード)の発出を要件としない」ものとなっている。
つまり、一発でいきなり荷主勧告書が出される(図4)。
(2)荷主勧告の対象となる荷主の行為の重点 的な類型 荷主勧告は、図4で示されている流れで発出される。
具体的には、荷主が優越的な地位や継続的な取引などを利用し、次のような五つの類型行為を実行したと判断されることが要件となる。
類型の詳細は荷主勧告制度のパンフレットを参照してほしいが、内容としては次の通りである。
①非合理的な到着時間の設定 ②やむを得ない遅延に対するペナルティの設定 ③積み込み前に貨物量を増やすような急な依頼 ④恒常的に発生する手待ち時間に対して改善措置を行わない場合 ⑤荷主が事業者に対し、違反行為を指示、強要など このうち「④恒常的に発生する手待ち時間に対して改善措置を行わない場合」は着荷主(納品先)での手待ち時間に関する内容なので、発荷主に起因するとは言えない点もあって、判断が難しいが、発着を問わず手待ち時間の「改善措置」が望まれるところであろう。
(3)荷主勧告制度の運用状況 荷主勧告は、荷主企業を所管する関係省庁と協議の上で、荷主名などを公表することになっている。
過去には、実際に関係省庁などの協議を経た上での荷主勧告が発出された例もある。
本稿冒頭で引用した小説の一説のように、行政は所管する業界・企業のコンプライアンスに目をつぶるような時代ではもはやない。
社会的な問題となるような不祥事が発生すれば、行政の指導監督責任も問われる。
各行政機関の間では、「相互通報制度」が導入されている。
例えば、公安委員会(警察)・労働基準監督署・日本年金機構などは、トラック運送事業者による道交法違反や労基法違反、社会保険未加入などを運輸支局に通報し、運輸支局は監査の上で行政処分(事業停止、車両の使用停止など)を行い、通報してきた相手官庁に処分結果を報告する。
それを実施しないと、監督行政としての「不作為」責任を問われることになる。
荷主勧告も同様だ。
所管業界・企業をかばっていると、国民から情報開示を求められたり、「相互通報制度」のように、国交省から不作為を問われる状況も想定される。
特に、物流コンプライアンスに関しては、安全に直結するだけに、相互通報制度ではないが、前記「2.独禁法の物流特殊指定(1)独禁法と下請法」で述べたような施策パッケージが推進されている。
4.交通労働災害防止ガイドラインと荷役災害防止通達 (1)交通労働災害防止ガイドライン 厚労省では、「交通労働災害防止のためのガイドライン」(13年最終改正。
以下、交通ガイドライン)によって、荷主やトラック運送業者に交通労働災害の防止を働きかけている。
交通ガイドラインでは、「第6 荷主・元請事業者による配慮等 荷主及び運送業の元請の事業者は、次に掲げる事項等、交通労働災害防止を考慮した適切かつ安全な運行の確保のため必要な事項について、実際に荷を運搬する事業者と協働して取り組むよう努めること」とされている。
具体的には、次の五つの配慮を荷主に求めている。
①貨物増量時の配慮 ②到着遅延時の配慮 ③発注時の配慮 ④高速道路利用の配慮 ⑤作業遅延時の配慮 このうち、①②③④は、「荷主勧告制度」と「荷主勧告の対象となる荷主の行為の重点的な類型」で述べた荷主勧告の類型とも共通している。
(2)荷役災害防止通達 厚労省は、荷主構内における積卸しなどの荷役作業における労働災害防止のために、「陸上貨物運送事業の荷役作業における労働災害防止対策の推進について」通達を出している(以下、荷役災害防止通達)。
それにもかかわらず、21年の「労働災害発生状況の分析等」(厚労省)によれば、トラック運送業(陸上貨物運送事業)の労働災害発生状況は、死傷者数1万6355人(新型コロナを除く。
対前年4・4%増)で製造業・建設業と並ぶワースト3となっている。
しかも、その約7割が荷役作業中(交通事故は839人)に発生しており、また同じく約7割が荷主構内で発生しているという現状だ。
13年には、トラック運送業者と荷主・配送先・元請事業者などが実施すべき対策をまとめた「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」(以下、荷役ガイドライン)が出された。
荷役ガイドラインの目的は、「荷主等が積極的に関与することにより、自主的な安全衛生活動の一層の推進を図る」ことである。
ただし、交通ガイドライン・荷役災害防止通達・荷役ガイドラインとも努力義務であり、罰則規定はない。
荷主にとってトラック運転者は直接雇用する労働者ではないので、労働安全衛生法などに基づく責任もない。
しかし、荷主構内での積み込み作業中に、トラック運転者が被災して、荷主の不法行為責任を認めた判決も出されている(東京地裁1996年7月31日)。
(3)荷主等の荷役災害防止対策 荷役ガイドラインでは、トラック運送業者と荷主・配送先等の関係者が、協力して取り組む項目を掲げている。
紙面の都合で省略するが、ぜひ一読して荷主構内での荷役作業の改善に役立てられたい。
特に図5に示した荷役ガイドラインパンフレットのEに記載された「荷主のフォークリフトをトラック運転者が運転して、貨物を積卸す」ケースでは、荷役事故や貨物事故が発生した場合の責任の所在が問題となる。
ガイドラインでは「フォークリフトによる労働災害の防止対策」として次のように示されている。
フォークリフトによる労働災害の防止対策 ①陸運事業者の労働者にフォークリフトを貸与する場合は、最大荷重に合った資格を有していることを確認すること。
②所有するフォークリフトの定期自主検査を実施すること。
③陸運事業者に対し、作業計画の作成に必要な情報を提供すること。
④荷主等の労働者が運転するフォークリフトにより、陸運事業者の労働者が被災することを防止するため、荷主等の労働者にフォークリフトによる荷役作業に関し、必要な安全教育を行うこと。
⑤荷主等の管理する施設において、構内におけるフォークリフト使用のルール(制限速度、安全通路等)を定め、労働者の見やすい場所に掲示すること。
⑥荷主等の管理する施設において、構内制限速度の掲示、通路の死角部分へのミラー設置等を行うとともに、フォークリフトの運転者にこれらを周知すること。
⑦荷主等の管理する施設において、フォークリフトの走行場所と歩行通路を区分すること。
厚労省によると、21年のフォークリフトに起因する死傷事故発生件数は2003件(全産業)であり、前年比で0・7%増えている。
厚労省では、荷主構内における積卸し作業時の労働災害が一向に減少しないので、前述した荷役災害防止通達や荷役ガイドラインに強制力を持たせるべく、労働安全衛生法の条文に法制化して罰則規定を設けることも検討しているという。
これは改善基準が守られないので、労働基準法を改正して時間外労働時間の上限を設定した事例と同様の手法と言えよう。
5.その他の法令 前述の「1.トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン」「2.独禁法の物流特殊指定」「3.荷主勧告制度」「4.交通労働災害防止ガイドラインと荷役災害防止通達」以外にも、荷主に求められる物流コンプライアンスがある。
誌面の都合もあるので、最後に参考までに簡記する。
(1)道交法の使用者責任 荷主勧告制度の一類型である「過積載運行」では、まず運転者が道交法で検挙される。
その時に使用者が過積載を下命・容認していたときは、使用者責任を問われることになる。
この「使用者」は事業主に加えて、当該貨物の運送を発注した荷主も含まれる。
過去において、「繰り返し過積載運行を発注していた」として、荷主企業の発注責任者が書類送検されたことがある。
証拠不十分等で不起訴となることもあるが、書類送検の時点でマスコミ報道されるので、企業イメージがダウンすることは避けられない。
(2)カスタマーハラスメント 労働施策総合推進法に基づくパワハラ防止対策の義務化が、22年4月から中小企業にも適用された。
パワハラには、「取引先への暴言・罵声等」もカスタマーハラスメントとして含まれる。
例えば、自社の物流担当者(物流センター従業員など)が、トラック運送会社の運転者に「到着が遅いので、もっと早く来い」など「暴言(と受け取られるような表現)」を浴びせると、パワハラになってしまう。
このケースでは、運転者に直接言わずに、運送会社に言うべきである。
厚労省の指導では、威圧的なメールや無理難題も、ケースによってはパワハラとなるので注意されたい。
参考資料 1.本文で掲げた各法令・通達・基準・ガイドライン・調査報告など 2.経産省・警察庁・厚労省・国交省・公取委・中小企業庁(五十音順)および全ト協などのウェブサイト、パンフレットなど 3.楡周平『鉄の楽園』新潮文庫、2022年
