2022年8月号
特集
特集
運送業の監査・巡回指導・行政処分の勘所
【行政処分編】
抜け道はどこにもない
今から15年前。
運送事業者A社が無認可の営業所を使用していたことから運輸支局の監査を受けた。
その結果、運行・整備管理者選任届の未実施と、事業計画違反が発覚した。
NOxPM非適合車両を対策地域で使用していたことによる違反も重なり、160日車の行政処分を受けた。
ちなみに「日車」とは「トラック1台の稼働を停止する日数」を表す単位である。
例えば合計160日車の行政処分となった場合、対象のトラックが4台であれば160日÷4台=40日間にわたり営業できなくなる。
筆者はA社の改善を手伝うことになった。
問題の無認可営業所の使用をやめて、全ての車両を正式に認可を受けた営業所で管理するようにして支援を終了した。
その後も何度か同社の経営者と話をする機会があったが、「指導された通りちゃんとやっている」とのことであった。
ところが最初の監査から3年近くがたち「また監査が入った」との連絡が入った。
ほとぼりが冷めたころを見計らってまた同じことをしていたのである。
今度は、運転者への指導監督、拘束時間の違反や対面点呼の未実施、日報記載の不備、健康診断の未実施などが加わり、累違反(3年以内に同じ違反を2度以上すること)も重なり、相当な処分日数になることが予想された。
それでもさすがに許可取り消しまではないだろうと高をくくっていたが、結果は1千日車オーバー、違反点数100点超の一発取り消しだった(違反点数制度については後述する)。
筆者が行政処分の怖さを思い知った瞬間だった。
運輸局はその会社がつぶれようがどうなろうがお構いなく、淡々とルールに従って仕事をするだけなのである。
事後に報告をもらっても筆者にできることはもはや何もない。
中には違反した営業所を廃止して、車両を全て他の営業所に移してしまえばいいと悪知恵を働かせるものもいるが、その場合は移転先の営業所に行政処分が下される。
営業所の違反車両を減車しても、同じ台数が処分される。
実は以前は、許可取り消し処分を受けることになった会社が廃業届を出して、車両を全て別会社に移せば実質無罪放免になるという裏技があったのだが、2019年の法改正以降そうした脱法行為はできなくなった。
しかも、処分前に廃業届を出しても取り消しによる欠格事由に当たることになり、その後5年間は運送業を経営することができない。
要するに行政処分を逃れたまま経営を続ける道はないということだ。
あらためて行政処分とは、運輸支局が運送事業者に監査に入り、コンプライアンスの違反内容に応じてトラックを止めたり、事業停止にしたりすることをいう。
具体的には、労働時間の違反、運転日報の記載漏れ、点呼の未実施、運転者への指導教育未実施などが発覚すると、各違反事項によって定められた行政処分日数が付与され、その累計日数によって処分が決まる。
行政処分の種類としては、軽いものから順に「自動車等の使用停止処分」「事業停止処分」「許可の取消処分」がある。
また、これに至らないものとして、軽微なものから順に「文書勧告」「文書警告」がある。
このうち「自動車等の使用停止処分」は、具体的にはトラックのナンバーが「領置」される。
領置とは、前後のナンバープレート(トレーラーは後ろのみ)を外して運輸支局に持って行き、指定された期間中預けることを指す。
その間は当然ながらトラックを動かすことができない。
さらに「事業停止処分」は、対象の営業所において全ての業務を行えなくなるという大変に厳しい処分である。
≪車両の使用停止処分≫ 例えば、乗務時間等告示の違反は、その件数により「警告」から「20日車」までの処分を受ける。
日常点検は1カ月の未実施回数が15回以上だと、違反車両数×5日車となる。
未実施車両が多い場合、例えば54台以上であれば270日車となり、一発でその営業所は営業停止となる。
全ての車両が使用できなくなる。
過積載は特に厳しい処分が設定されている。
10割以上の過積載の初回違反の場合で30日車×違反車両数だ。
初回違反から3年以内における3回目の違反が10割以上であれば、120日車×違反車両数となる。
複数の車両が対象になれば簡単に会社がつぶれてしまう。
ナンバーが領置される車両は、昔と違って今は運送会社側で指定できない。
しかも、行政処分日数によっては営業所所属台数の最大5割の台数を止められてしまう。
そこまでいくと傭車でしのぐことも困難になる。
荷主にも大きな迷惑をかけてしまうことになる。
≪違反点数制度≫ 行政処分を受けた運送会社には、10日車ごとに違反点数が1点付与される。
この点数の累計期間は原則3年間。
刑事罰とは違い、一度受ければ無罪放免とはならない。
違反事項は改善しなければ再違反、累違反となり、2倍、3倍の行政処分を受ける。
そして一つの管轄区域に係る累積違反点数が51点に達すると、当該違反営業所等の所在する管轄区域内の全ての営業所が3日間の事業停止となる。
酒酔い運転、酒気帯び運転、薬物等使用運転、過労運転、無免許運転、過積載運行、最高速度違反などがあった場合には、事業停止期間が追加されることもある。
さらに一つの管轄区域に係る累積違反点数が81点になると営業許可が取り消される。
つまり、仕事が全くできなくなる。
しかも、その後5年間にわたり運送業の許可を取れないだけでなく、その会社の役員が他の運送会社の役員になったり、新たに運送会社を立ち上げることも許されない。
【巡回指導編】 事前に通知が来て2人1組で来社 国土交通大臣は全日本トラック協会を、また各地の地方運輸局長は各都道府県のトラック協会を、貨物自動車運送事業法第38条に基づく適正化実施機関に指定している。
各地の運送会社は通常2~3年に一度の頻度で、適正化実施機関が派遣した指導員の訪問を受ける。
ほとんどの場合、指導員は2人1組で来社し、多くの場合、以下のような流れで確認および指導がされる。
そのうちメーンの1人は事業者にいろいろとヒアリングをする。
長距離中心の事業者であれば、ドライバーの拘束時間や4時間連続運転など、車庫が離れている事業者の場合であれば対面点呼の実施などを重点的に聞かれることになるだろう。
認可車庫が実際に存在しているのかなどを確認することもある。
もう一人の指導員は1~2時間をかけて黙々と帳簿などの資料を調べる。
その事業者が新規に許可を取得して初めて指導を受けるのか、あるいは過去に指導を受けたことのある既存事業者かによって、指導内容には若干の差はあるが、基本的には表1の38項目を確認して指導する。
運転者台帳には初任運転者の指導、適性診断の実施状況、健康診断の実施状況を記載する欄がある。
その実施状況について詳しく調べられることになる。
巡回指導の結果により、事業者は次のAからEまでの判定が下される。
A:適90%以上 B:適80%以上90%未満 C:適70%以上80%未満 D:適60%以上70%未満 E:60%未満 判定は「適」の数だけでなく、重点項目が「否」となると、それだけでランクが一つ下がってしまうので要注意だ。
例えば、健康診断未実施の場合、他が全て「適」でもそれ一つでB判定となってしまう。
巡回指導の結果、違反事項が全くなかったということは稀であり、通常は3カ月以内に期限を切って改善することになる。
また、DやEに判定されると監査の対象となる可能性が高くなる。
E判定になると事業拡大の認可申請や増車も難しくなる。
【監査編】 予測不能で容赦のない取り調べ トラック協会による巡回指導と監査の違いを意識していない事業者はかなりいる。
監査を受けたことのない事業者が、トラック協会の巡回指導のことを指して「今度、監査が入るんだ」と言っていることもよくある。
トラック協会の巡回指導を何度も経験した社長は少なからず「あんなの適当に帳簿を作って話を合わせておけば大丈夫だよ。
それで毎回なんとかなっている」と監査も同様に軽く考える傾向がある。
私が違反部分について「ここは直しておいた方がいいですよ」と言っても聞く耳を持たない。
そのような会社の一つだったB社が重大事故を起こし、実際に監査が入った。
もちろんトラックは止められた。
その後、社長が私のところに来て「先生、監査は本当に大変だった。
正直なめてたよ。
あまりにつらかったのでこれを機にルールを守るようにするよ」と、借りてきた猫のように態度を改めていた。
運送事業者にとって運輸支局の監査担当官はそれだけ怖い存在だ。
大手自動車メーカーのリコール隠しをテーマにした長瀬智也主演の映画「空飛ぶタイヤ」では、国土交通省の特別監査が入る場面が描かれていた。
筆者はとても他人事とは思えず心から恐怖したことを覚えている。
監査に入るきっかけとしては、第一当事者(事故当事者のうち最も過失が重い者)の死亡事故発生や、認可車庫以外の場所にトラックが駐まっていたなど、法令違反の疑いがある旨の通報が入ったというケースが多い。
しかし、単に「監査に入ったことないから」という理由で監査に来ることもある。
つまり、どの事業者がいつ監査を受けることになってもおかしくはないのである。
そのため筆者は新規許可に関わるお客さまには必ず次のように伝えている。
「監査が入ったら容赦なくやられます。
巡回指導とは全く違います。
甘く見ていて後から痛い目に遭った社長をこれまで何人も見てきました。
監査に備えないのは、保険に入らずに車を運転するのと一緒です。
言うは易し行うは難しなのは分かってます。
100%とは言いません。
できる限りでいいのでやっていきましょう」 実際、監査を受けた後、ルール通りしっかりやるようになった会社は経営環境も改善していくことが多い。
やるべきことをやる、ということが全てにつながっていくのだとつくづく思い知らされる。
監査を甘く見ず、監査に入られる前からルールを守っておくことが一番だ。
≪監査の種類≫ 監査には次の「特別監査」「一般監査」「街頭監査」の3種類がある。
(1)特別監査 引き起こした事故または疑いのある法令違反の重大性を考慮して、厳しい対応が必要と認められる事業者に対して、全般的な法令順守状況を確認するもの。
「トッカン」と略して呼ばれることもある。
(2)一般監査 特別監査に該当しないものであって、監査を実施する端緒(以下「監査端緒」という)に応じた重点事項を定め、法令順守状況を確認するもの。
なお、一般監査を実施した事業者において、全般的な法令順守状況を確認する必要があると認められた場合は、特別監査に切り替えられることがある。
基本的には、その事故・違反による社会的影響の大きいもの、または悪質である場合に特別監査を実施して、それ以外は一般監査を実施するとされている。
監査端緒にはさまざまなものがある。
表2にその一部を紹介する。
このうち注目すべきは最後の項目だ。
要するに理由は何でも構わない。
運輸支局が必要と思えば監査に入られるのである。
(3)街頭監査 事業用自動車の運行実態などを確認するため、街頭において事業者を特定せず実施する。
バス事業者がメーンなので本稿では触れない。
≪監査の実際≫ 監査の方法には主に、臨店監査と呼出監査の二つがある。
臨店監査は、監査担当者が事業者の営業所その他の事業場または事業用自動車の所在する場所に立ち入って実施する。
本来は無通告だが、事前に通知が来る場合もある。
呼出監査は、当該事業者の代表者もしくは代表者に準ずる者、または運行管理者などの事業運営責任者を、地方運輸局または運輸支局などへ呼び出して実施する。
監査による行政処分後の改善確認のための再監査や、監査端緒により確認する事項が限定的であり、臨店によらなくても支障がないと判断される場合に呼出監査となることがある。
基本的に臨店監査の方が圧倒的に厳しい。
監査担当者はたくさんの事業者を見ているので、営業所を訪問すれば実態をほぼ把握できるようだ。
怪しい事業者に対しては現場周辺で覆面調査をすることもあると聞く。
監査の重点事項としては以下の八つが定められており、監査端緒によって必要な事項を重点的に調べることになる。
①事業計画の遵守状況 ②運賃・料金の収受状況 ③損害賠償責任保険(共済)の加入状況 ④自家用自動車の利用、名義貸し行為の有無 ⑤社会保険等の加入状況 ⑥賃金の支払い状況 ⑦運行管理の実施状況 ⑧整備管理の実施状況 こうした方針を軸にして、監査担当者は主に帳簿類をチェックしていく。
運転日報の記載の不備、労働時間が守られているか、点呼記録簿の記録の不備、乗務の前後で対面点呼が実施されているか、アルコール検知器と目視により酒気帯びの有無について確認しているか、などを確認する。
トラック協会の巡回指導は、あくまで「指導」であり所要時間も限られているが、監査はその性質上、徹底的に調べ上げる。
数十台×数カ月の日報から、運行指示書が必要なたった1回の運行を見つけて指摘してくるほどだ。
指摘される違反項目の常連は、運転者に対する教育・適性診断の未実施、運行指示書の未作成、健康診断の未実施、運輸安全マネジメントの未作成だ。
また「名義貸し」は一発で30日事業停止となる重大違反だ。
車両の法定点検が全く実施されていない場合や、「運行管理の実施状況」「整備管理の実施状況」で運行管理者や整備管理者が全く不在という場合にも一発で30日の事業停止となる。
荷主の責任が問われている ルールは運送事業者の努力だけで守れるものではない。
とりわけドライバーの拘束時間と過積載には荷主の協力が不可欠だ。
しかし、実際には荷主の無理な要請からドライバーが過労運転や最高速度違反を余儀なくされる場合がある。
悪質な荷主がドライバーに過積載を強要することもある。
ドライバーは荷主から指定された時間に到着したのに、荷主の都合で待たされる。
逆に指定時間厳守に過度なペナルティをかけられているため、数時間前には現場付近に到着せざるを得ないなど、不合理な現実が多々見受けられる。
それらは運送会社の利益率を低下させるのみならず、ドライバーの負担を増やし、事故の発生率を大幅に引き上げる。
運送会社のコンプライアンス順守は即、物流の安全につながっている。
そのことを意識しない荷主は、人命を軽んじていると言わざるを得ないだろう。
運送会社が適法に事業を行うためには、そのための人員が必要であり、コストがかかる。
日本の運送会社は10台未満の零細企業が5割以上、30台未満が8割以上を占めており、人員に余裕のない会社がほとんどだ。
適正な業務条件、適正な運賃、マンパワーの全てがそろって初めてコンプライアンスを順守するスタートラインに立てる。
運送業者がルールを守れる世の中にすることは荷主をはじめとする社会全体の責任だ。
「運送会社が正論を主張してきたり、運賃交渉してきたら他の会社を探せばいい」では済まなくなる世の中はすぐ目の前に来ている。
監査はトラックを止められるという怖い側面ばかりが注目されるが、本来の目的はそれではない。
コンプライアンス順守は事故防止と深く結びついている。
それは運送事業者で働く人の安心につながり、さらには荷主の安心と日本の物流の安定につながっているのである。
運送事業者A社が無認可の営業所を使用していたことから運輸支局の監査を受けた。
その結果、運行・整備管理者選任届の未実施と、事業計画違反が発覚した。
NOxPM非適合車両を対策地域で使用していたことによる違反も重なり、160日車の行政処分を受けた。
ちなみに「日車」とは「トラック1台の稼働を停止する日数」を表す単位である。
例えば合計160日車の行政処分となった場合、対象のトラックが4台であれば160日÷4台=40日間にわたり営業できなくなる。
筆者はA社の改善を手伝うことになった。
問題の無認可営業所の使用をやめて、全ての車両を正式に認可を受けた営業所で管理するようにして支援を終了した。
その後も何度か同社の経営者と話をする機会があったが、「指導された通りちゃんとやっている」とのことであった。
ところが最初の監査から3年近くがたち「また監査が入った」との連絡が入った。
ほとぼりが冷めたころを見計らってまた同じことをしていたのである。
今度は、運転者への指導監督、拘束時間の違反や対面点呼の未実施、日報記載の不備、健康診断の未実施などが加わり、累違反(3年以内に同じ違反を2度以上すること)も重なり、相当な処分日数になることが予想された。
それでもさすがに許可取り消しまではないだろうと高をくくっていたが、結果は1千日車オーバー、違反点数100点超の一発取り消しだった(違反点数制度については後述する)。
筆者が行政処分の怖さを思い知った瞬間だった。
運輸局はその会社がつぶれようがどうなろうがお構いなく、淡々とルールに従って仕事をするだけなのである。
事後に報告をもらっても筆者にできることはもはや何もない。
中には違反した営業所を廃止して、車両を全て他の営業所に移してしまえばいいと悪知恵を働かせるものもいるが、その場合は移転先の営業所に行政処分が下される。
営業所の違反車両を減車しても、同じ台数が処分される。
実は以前は、許可取り消し処分を受けることになった会社が廃業届を出して、車両を全て別会社に移せば実質無罪放免になるという裏技があったのだが、2019年の法改正以降そうした脱法行為はできなくなった。
しかも、処分前に廃業届を出しても取り消しによる欠格事由に当たることになり、その後5年間は運送業を経営することができない。
要するに行政処分を逃れたまま経営を続ける道はないということだ。
あらためて行政処分とは、運輸支局が運送事業者に監査に入り、コンプライアンスの違反内容に応じてトラックを止めたり、事業停止にしたりすることをいう。
具体的には、労働時間の違反、運転日報の記載漏れ、点呼の未実施、運転者への指導教育未実施などが発覚すると、各違反事項によって定められた行政処分日数が付与され、その累計日数によって処分が決まる。
行政処分の種類としては、軽いものから順に「自動車等の使用停止処分」「事業停止処分」「許可の取消処分」がある。
また、これに至らないものとして、軽微なものから順に「文書勧告」「文書警告」がある。
このうち「自動車等の使用停止処分」は、具体的にはトラックのナンバーが「領置」される。
領置とは、前後のナンバープレート(トレーラーは後ろのみ)を外して運輸支局に持って行き、指定された期間中預けることを指す。
その間は当然ながらトラックを動かすことができない。
さらに「事業停止処分」は、対象の営業所において全ての業務を行えなくなるという大変に厳しい処分である。
≪車両の使用停止処分≫ 例えば、乗務時間等告示の違反は、その件数により「警告」から「20日車」までの処分を受ける。
日常点検は1カ月の未実施回数が15回以上だと、違反車両数×5日車となる。
未実施車両が多い場合、例えば54台以上であれば270日車となり、一発でその営業所は営業停止となる。
全ての車両が使用できなくなる。
過積載は特に厳しい処分が設定されている。
10割以上の過積載の初回違反の場合で30日車×違反車両数だ。
初回違反から3年以内における3回目の違反が10割以上であれば、120日車×違反車両数となる。
複数の車両が対象になれば簡単に会社がつぶれてしまう。
ナンバーが領置される車両は、昔と違って今は運送会社側で指定できない。
しかも、行政処分日数によっては営業所所属台数の最大5割の台数を止められてしまう。
そこまでいくと傭車でしのぐことも困難になる。
荷主にも大きな迷惑をかけてしまうことになる。
≪違反点数制度≫ 行政処分を受けた運送会社には、10日車ごとに違反点数が1点付与される。
この点数の累計期間は原則3年間。
刑事罰とは違い、一度受ければ無罪放免とはならない。
違反事項は改善しなければ再違反、累違反となり、2倍、3倍の行政処分を受ける。
そして一つの管轄区域に係る累積違反点数が51点に達すると、当該違反営業所等の所在する管轄区域内の全ての営業所が3日間の事業停止となる。
酒酔い運転、酒気帯び運転、薬物等使用運転、過労運転、無免許運転、過積載運行、最高速度違反などがあった場合には、事業停止期間が追加されることもある。
さらに一つの管轄区域に係る累積違反点数が81点になると営業許可が取り消される。
つまり、仕事が全くできなくなる。
しかも、その後5年間にわたり運送業の許可を取れないだけでなく、その会社の役員が他の運送会社の役員になったり、新たに運送会社を立ち上げることも許されない。
【巡回指導編】 事前に通知が来て2人1組で来社 国土交通大臣は全日本トラック協会を、また各地の地方運輸局長は各都道府県のトラック協会を、貨物自動車運送事業法第38条に基づく適正化実施機関に指定している。
各地の運送会社は通常2~3年に一度の頻度で、適正化実施機関が派遣した指導員の訪問を受ける。
ほとんどの場合、指導員は2人1組で来社し、多くの場合、以下のような流れで確認および指導がされる。
そのうちメーンの1人は事業者にいろいろとヒアリングをする。
長距離中心の事業者であれば、ドライバーの拘束時間や4時間連続運転など、車庫が離れている事業者の場合であれば対面点呼の実施などを重点的に聞かれることになるだろう。
認可車庫が実際に存在しているのかなどを確認することもある。
もう一人の指導員は1~2時間をかけて黙々と帳簿などの資料を調べる。
その事業者が新規に許可を取得して初めて指導を受けるのか、あるいは過去に指導を受けたことのある既存事業者かによって、指導内容には若干の差はあるが、基本的には表1の38項目を確認して指導する。
運転者台帳には初任運転者の指導、適性診断の実施状況、健康診断の実施状況を記載する欄がある。
その実施状況について詳しく調べられることになる。
巡回指導の結果により、事業者は次のAからEまでの判定が下される。
A:適90%以上 B:適80%以上90%未満 C:適70%以上80%未満 D:適60%以上70%未満 E:60%未満 判定は「適」の数だけでなく、重点項目が「否」となると、それだけでランクが一つ下がってしまうので要注意だ。
例えば、健康診断未実施の場合、他が全て「適」でもそれ一つでB判定となってしまう。
巡回指導の結果、違反事項が全くなかったということは稀であり、通常は3カ月以内に期限を切って改善することになる。
また、DやEに判定されると監査の対象となる可能性が高くなる。
E判定になると事業拡大の認可申請や増車も難しくなる。
【監査編】 予測不能で容赦のない取り調べ トラック協会による巡回指導と監査の違いを意識していない事業者はかなりいる。
監査を受けたことのない事業者が、トラック協会の巡回指導のことを指して「今度、監査が入るんだ」と言っていることもよくある。
トラック協会の巡回指導を何度も経験した社長は少なからず「あんなの適当に帳簿を作って話を合わせておけば大丈夫だよ。
それで毎回なんとかなっている」と監査も同様に軽く考える傾向がある。
私が違反部分について「ここは直しておいた方がいいですよ」と言っても聞く耳を持たない。
そのような会社の一つだったB社が重大事故を起こし、実際に監査が入った。
もちろんトラックは止められた。
その後、社長が私のところに来て「先生、監査は本当に大変だった。
正直なめてたよ。
あまりにつらかったのでこれを機にルールを守るようにするよ」と、借りてきた猫のように態度を改めていた。
運送事業者にとって運輸支局の監査担当官はそれだけ怖い存在だ。
大手自動車メーカーのリコール隠しをテーマにした長瀬智也主演の映画「空飛ぶタイヤ」では、国土交通省の特別監査が入る場面が描かれていた。
筆者はとても他人事とは思えず心から恐怖したことを覚えている。
監査に入るきっかけとしては、第一当事者(事故当事者のうち最も過失が重い者)の死亡事故発生や、認可車庫以外の場所にトラックが駐まっていたなど、法令違反の疑いがある旨の通報が入ったというケースが多い。
しかし、単に「監査に入ったことないから」という理由で監査に来ることもある。
つまり、どの事業者がいつ監査を受けることになってもおかしくはないのである。
そのため筆者は新規許可に関わるお客さまには必ず次のように伝えている。
「監査が入ったら容赦なくやられます。
巡回指導とは全く違います。
甘く見ていて後から痛い目に遭った社長をこれまで何人も見てきました。
監査に備えないのは、保険に入らずに車を運転するのと一緒です。
言うは易し行うは難しなのは分かってます。
100%とは言いません。
できる限りでいいのでやっていきましょう」 実際、監査を受けた後、ルール通りしっかりやるようになった会社は経営環境も改善していくことが多い。
やるべきことをやる、ということが全てにつながっていくのだとつくづく思い知らされる。
監査を甘く見ず、監査に入られる前からルールを守っておくことが一番だ。
≪監査の種類≫ 監査には次の「特別監査」「一般監査」「街頭監査」の3種類がある。
(1)特別監査 引き起こした事故または疑いのある法令違反の重大性を考慮して、厳しい対応が必要と認められる事業者に対して、全般的な法令順守状況を確認するもの。
「トッカン」と略して呼ばれることもある。
(2)一般監査 特別監査に該当しないものであって、監査を実施する端緒(以下「監査端緒」という)に応じた重点事項を定め、法令順守状況を確認するもの。
なお、一般監査を実施した事業者において、全般的な法令順守状況を確認する必要があると認められた場合は、特別監査に切り替えられることがある。
基本的には、その事故・違反による社会的影響の大きいもの、または悪質である場合に特別監査を実施して、それ以外は一般監査を実施するとされている。
監査端緒にはさまざまなものがある。
表2にその一部を紹介する。
このうち注目すべきは最後の項目だ。
要するに理由は何でも構わない。
運輸支局が必要と思えば監査に入られるのである。
(3)街頭監査 事業用自動車の運行実態などを確認するため、街頭において事業者を特定せず実施する。
バス事業者がメーンなので本稿では触れない。
≪監査の実際≫ 監査の方法には主に、臨店監査と呼出監査の二つがある。
臨店監査は、監査担当者が事業者の営業所その他の事業場または事業用自動車の所在する場所に立ち入って実施する。
本来は無通告だが、事前に通知が来る場合もある。
呼出監査は、当該事業者の代表者もしくは代表者に準ずる者、または運行管理者などの事業運営責任者を、地方運輸局または運輸支局などへ呼び出して実施する。
監査による行政処分後の改善確認のための再監査や、監査端緒により確認する事項が限定的であり、臨店によらなくても支障がないと判断される場合に呼出監査となることがある。
基本的に臨店監査の方が圧倒的に厳しい。
監査担当者はたくさんの事業者を見ているので、営業所を訪問すれば実態をほぼ把握できるようだ。
怪しい事業者に対しては現場周辺で覆面調査をすることもあると聞く。
監査の重点事項としては以下の八つが定められており、監査端緒によって必要な事項を重点的に調べることになる。
①事業計画の遵守状況 ②運賃・料金の収受状況 ③損害賠償責任保険(共済)の加入状況 ④自家用自動車の利用、名義貸し行為の有無 ⑤社会保険等の加入状況 ⑥賃金の支払い状況 ⑦運行管理の実施状況 ⑧整備管理の実施状況 こうした方針を軸にして、監査担当者は主に帳簿類をチェックしていく。
運転日報の記載の不備、労働時間が守られているか、点呼記録簿の記録の不備、乗務の前後で対面点呼が実施されているか、アルコール検知器と目視により酒気帯びの有無について確認しているか、などを確認する。
トラック協会の巡回指導は、あくまで「指導」であり所要時間も限られているが、監査はその性質上、徹底的に調べ上げる。
数十台×数カ月の日報から、運行指示書が必要なたった1回の運行を見つけて指摘してくるほどだ。
指摘される違反項目の常連は、運転者に対する教育・適性診断の未実施、運行指示書の未作成、健康診断の未実施、運輸安全マネジメントの未作成だ。
また「名義貸し」は一発で30日事業停止となる重大違反だ。
車両の法定点検が全く実施されていない場合や、「運行管理の実施状況」「整備管理の実施状況」で運行管理者や整備管理者が全く不在という場合にも一発で30日の事業停止となる。
荷主の責任が問われている ルールは運送事業者の努力だけで守れるものではない。
とりわけドライバーの拘束時間と過積載には荷主の協力が不可欠だ。
しかし、実際には荷主の無理な要請からドライバーが過労運転や最高速度違反を余儀なくされる場合がある。
悪質な荷主がドライバーに過積載を強要することもある。
ドライバーは荷主から指定された時間に到着したのに、荷主の都合で待たされる。
逆に指定時間厳守に過度なペナルティをかけられているため、数時間前には現場付近に到着せざるを得ないなど、不合理な現実が多々見受けられる。
それらは運送会社の利益率を低下させるのみならず、ドライバーの負担を増やし、事故の発生率を大幅に引き上げる。
運送会社のコンプライアンス順守は即、物流の安全につながっている。
そのことを意識しない荷主は、人命を軽んじていると言わざるを得ないだろう。
運送会社が適法に事業を行うためには、そのための人員が必要であり、コストがかかる。
日本の運送会社は10台未満の零細企業が5割以上、30台未満が8割以上を占めており、人員に余裕のない会社がほとんどだ。
適正な業務条件、適正な運賃、マンパワーの全てがそろって初めてコンプライアンスを順守するスタートラインに立てる。
運送業者がルールを守れる世の中にすることは荷主をはじめとする社会全体の責任だ。
「運送会社が正論を主張してきたり、運賃交渉してきたら他の会社を探せばいい」では済まなくなる世の中はすぐ目の前に来ている。
監査はトラックを止められるという怖い側面ばかりが注目されるが、本来の目的はそれではない。
コンプライアンス順守は事故防止と深く結びついている。
それは運送事業者で働く人の安心につながり、さらには荷主の安心と日本の物流の安定につながっているのである。
