2022年5月号
特集
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フィジカルインターネット研究の最新動向
日本政府のロードマップに世界が注目
今年3月8日、経済産業省・国土交通省が「フィジカルインターネット・ロードマップ」を公表した。
私の知る限り、一国の政府がフィジカルインターネット(PI)に関するロードマップを策定したのは、おそらく世界で初めてである。
昨年10月、両省により学識経験者、業界団体、サプライチェーン専門家などで構成する「フィジカルインターネット実現会議」が設置されて、同ロードマップが策定された。
計6回行われた実現会議の模様は、毎回YouTubeでライブ配信されたので、読者の中にも視聴した人がいるかもしれない。
続いて3月18日には、ヤマトグループ総合研究所の主催で「フィジカルインターネットシンポジウム」が催された。
同研究所専務理事を務める荒木勉上智大名誉教授により企画されたもので、2020年と21年に続き3回目の開催となる。
同シンポジウムの冒頭では、フィジカルインターネット実現会議を主導した経済産業省の中野剛志物流企画室長より、前述のロードマップの概要のほか、ロードマップの策定に至った背景が説明された。
シンポジウム当日の視聴者数は千人近くに達した。
PIの認知度が日本でも相当高まってきたことを実感できた。
さらに、その翌週の3月23日、パリ国立高等鉱業学校のフィジカルインターネット研究所がPIに関する国際会議「International Conference by the Physical Internet Chair」をパリで開催した。
筆者はオンラインでの参加であったが、そこで日本のロードマップの概要を紹介する機会を得た。
同会議にはPIの生みの親である米ジョージア工科大のブノア・モントルイユ教授や、20年12月に「Roadmap to Physical Internet」を公表したALICEの事務局長ら、PIコミュニティの重鎮たちが顔をそろえていた。
いわば先輩方が居並ぶ場で、遅れてコミュニティに加わった日本から情報を発信したわけである。
驚いたことにALICE・事務局長をはじめ参加者からは、「日本のロードマップは現実的で分かりやすい」「日本の取り組みに感銘を受けた」「日本政府の包括的なビジョンには遠く及ばない」などの好意的なコメントがいくつも寄せられた。
前置きが長くなったが、筆者は同会議への参加を通じて、PI研究の最新動向をうかがい知ることができた。
その中から、日本で起きている物流問題の解決に役立ちそうなヒントが得られる話題を本稿で紹介する。
まずは、同会議を主催したパリ国立高等鉱業学校のフィジカルインターネット研究所の概要を説明する。
設立は16年。
目的はPIに関する実証的・理論的研究を発展させることであった。
同研究所の設立時から所長を務めているのがエリック・バロー教授である。
その他は准教授1人、助教授1人、博士課程学生5人という構成である。
現在は二つの研究分野が設けられている。
一つはイノベーションのためのネットワーク相互接続性の研究、もうひとつはPIによって起こり得る問題の科学的研究である。
これらの研究は民間企業などと共同で進められ、博士課程の学生も参画している。
現在の共同研究パートナーはGEODIS(フランス国鉄SNCFグループの大手物流企業)、Orange(フランスの大手通信会社)、P&G、GS1フランスなどである。
同研究所は従来から研究内容を定期的に公表しており、3月23日の国際会議は今年に入って最初の公開イベントであった。
同研究所が現在取り組んでいる研究のほかに、米ジョージア工科大のフィジカルインターネットセンターで行われている研究もそこで紹介された。
図表1はその議事次第である。
例年開催されている「国際フィジカルインターネット会議(International Physical Internet Conference(IPIC)」の縮小版と呼んで差し支えないだろう。
続いて、日本で起きている物流問題の解決に役立つと思われる二つの研究を紹介する。
一つは都市間物流、もうひとつは都市内物流に関する研究である。
都市間物流:中継輸送の経済性評価 日本では「物流の2024年問題」が目前に迫っている。
働き方改革関連法が18年6月に成立して19年4月に施行された。
ただし、トラック運送業については5年間の猶予期間が与えられ、24年度からトラックドライバーの時間外労働に上限規制が罰則付きで適用されることになった。
ドライバーが働ける時間が今より短くなる。
ドライバー不足は日本の外でも起きている。
例えば米国でも、Eコマース増加に伴いラストマイルの配達需要が増加する一方、長距離を運転する大型車両のドライバー確保が難しくなっている。
ある大手自動車メーカーはまさにその問題に直面していた。
同社は従来、米国南東部の工場から600~800マイル離れたディーラーに車両運搬車(キャリアカー)を使って完成車を直送していた。
ドライバーの日帰りは不可能な距離である。
同社は「配送時間を短縮し、ドライバーにとって完成車輸送の仕事を魅力的なものにしなければ、将来のキャパシティ不足に対処できない」という強い危機感を抱き、米ジョージア工科大のサプライチェーン・ロジスティクス研究所と、長距離直送の代替案としての中継輸送の経済性を評価する共同研究を行うことになった。
なお、同研究所は、民間企業とのパートナーシッププログラムを設けており、各パートナーの個別課題をテーマとする共同研究を進める環境を用意している。
この自動車メーカーも企業パートナーの1社であった。
モントルイユ教授は以前に、PIの原理を長距離リレー輸送に適用した場合の経済効果についての研究を発表している。
カナダのケベックから米国のロサンゼルスまでの約5千キロメートルを1人のドライバーがずっと運ぶのではなく、17人のドライバーでリレーして運ぶことで経済性が高くなるという研究であった。
その研究で対象となった拠点数は出発地が1カ所、到着地が1カ所であった。
それに対して、今回の完成車物流の研究では、到着地の拠点数が1カ所から複数に変わる。
加えて、物流企業ではなく、荷主企業1社が主導するというスキームで研究を行ったことが注目点であろう。
同会議でモントルイユ教授はその研究の概要を、「Hyperconnected Inter-City Delivery(ハイパーコネクテッド都市間輸送)」という名称で紹介した。
「ドライバー」「トラクター」「トレーラー」「完成車」で構成されるマルチエージェントモデルがそこで構築された。
どのドライバーがどのトラクターを運転し、どのトレーラーをつなぐか、そのトレーラーにどの完成車を載せてどの中継拠点もしくは目的地まで運ぶかをモデル化したのである(図表2)。
目的地まで直送した場合と中継拠点を経由して輸送した場合でシミュレーションを行い、各種のパフォーマンスが比較された。
図表3は、現在の完成車工場からディーラーまで直送する場合と、中継輸送する場合を比較したものである。
日帰りできるドライバーの割合は現状の直送モデルでは64%であった。
中継輸送の採用時にはそれが99%に上昇すると試算された。
つまり、ほぼ全てのドライバーが日帰りできる。
輸送業務1件にかかる時間は現状の15・2時間から7・0時間に半減する。
1人のドライバーが約15時間勤務して目的地まで直送していたものが、2人のドライバーがそれぞれ7時間勤務して中継拠点まで運ぶかたちに変わる。
納期遵守率は直送、中継輸送とも100%である。
つまり顧客への納品サービスレベルは維持される。
また、費用は現状より3%減ると推計されている。
中継輸送の採用によって費用が増えるわけではないらしい。
この研究は自動車メーカー1社で運用する前提で行われたものであるが、モントルイユ教授によれば、複数の自動車メーカーに拡張して運用できる可能性もあるとのこと。
日本でも物流の24年問題対策の一つとして検討に値するものと思われる。
都市内物流:駐車場所と巡回先の決定問題 二つ目の話題は「都市内物流」である。
都市内物流にPIの原理を導入するとどうなるか。
一つ考えられるのは都市内での共同配送である。
19年にロンドンで開催されたIPICで、都市内物流の研究発表があった。
オランダ中部、ドイツとの国境に近いナイメーヘンという人口18万人の都市に、「UCC(Urban Consolidation Centers:都市型混載センター)」と呼ぶ共同配送基地を設置する取り組みであった。
都心部にある小売店、飲食店、ホテルなどは、それぞれ必要なモノをいろいろなサプライヤーに注文しているわけだが、そのラストマイルを個々のサプライヤーが別々に行うのではなく、共同配送拠点からまとめて届けることで効率化しようというアイデアである。
それに対して今回の会議では、パリ国立高等鉱業学校フィジカルインターネット研究所の博士課程に在籍するYu Liu氏が「Smart City Logistics : a case of freight parking in last mile(スマートシティロジスティクス:ラストマイルにおける駐車問題)」という題目で、通信会社Orangeとの共同研究の途中経過を発表した。
駐車場所の発見・確保は、都市内のラストマイル配送に携わるドライバーをずっと悩ましている問題である。
届け先に駐車場がない場合、近くのコインパーキングを探したり、仕方なく路上に駐車したりする必要がある。
米ワシントン大の調査研究によれば、シアトル市の中心部では商用車の移動時間の28%が駐車場探しに費やされているとのことである。
これは無視できない数値である。
現状では、ドライバーが自らの経験に基づいて駐車場所と配達先の順番を決めていることが多いと推測される。
特に都市部は駐車場所確保が困難であることから、なるべく少ない駐車回数で、なるべく多くの配達ができるようにドライバーは知恵を絞っているであろう。
この意思決定問題は、オペレーションズリサーチ(OR)の世界で「Park-and-Loop Routing Problem」と呼ばれている。
日本語にすれば「駐車場所と巡回先の決定」と訳すのが適切かもしれない。
「どこに車両を停めて(Park)、そこからどの届け先を巡回(Loop)するか」を決める問題である。
どこに停車して、どう回ればよいのか、ドライバーの属人的な意思決定を、システムによって支援することが望まれる。
しかし、これは組み合わせ最適化問題を二つ組み合わせることになり、数学的な難問とされている。
今回の発表では、パリ市内での実際の貨物配送実績データを用いたケーススタディが行われた(図表4)。
1台の配送車両で計143個の荷物を運び、荷物の届け先数は54カ所という設定であった。
つまり、一度に複数の荷物を配達する届け先がかなりある、ということである。
配達可能な届け先は駐車場所から100メートル以内という条件であった。
また、筆者が報告を聞いた限りでは、届ける荷物の配達時刻指定の有無は不明であった。
ケーススタディの貨物配送実績に基づいて、計244カ所が駐車場所の候補として選ばれた。
続いて最適な駐車場所と巡回先を2段階に分けて解析した。
第1段階は配送車両をどこに駐車するか、第2段階は駐車場所をどう巡回するかである。
第1段階では、駐車回数の最小化を狙いとして、貪欲法が採用されて、駐車場所候補244カ所のうち32カ所が選ばれた。
駐車場所32カ所で、54カ所の届け先に配達できるということである。
第2段階では遺伝的アルゴリズムを用いて、駐車場所の巡回順序を決定した。
現在は研究途上とのことで検証などは今後の報告を待たねばならないが、都市内物流にPIの原理が導入されるようになると、配送車両1台当たり単位面積当たりの配送箇所数は増えることとなり、駐車場所の決定が今まで以上に重要になる。
実用化に向けた研究がこれから一層進むものと期待している。
社会的な物流課題の解決に挑む 今回紹介したのは、PI研究の最新動向の一部にすぎない。
例年夏にはIPICが開催される。
世界中のPI研究者がそこに集い、参加者は最新の研究内容に触れることができる。
その多くはORの範疇に入る研究だが、PIを社会課題解決に活用しようとする研究も含まれている。
例えば昨年6月に催されたIPICでは、災害発生時の救援物資供給にPIを活用してサプライチェーンのレジリエンシーを向上するための研究や、フードロス削減のために賞味期限切れに近い商品を、PIを活用して再流通(回収・配達)させるモデルを考案した研究などが発表されていた。
IPICでの研究発表では今のところ「物流資産の稼働率向上」のためにPIを活用するというアプローチが定番になっているようだ。
しかし、少し視点を変えて、モノの動きに伴う社会課題に着目することで、PIの新たな活用余地が見つかるのではないかと筆者は考えている。
実際、パリ国立高等鉱業学校の3月23日の国際会議では、PIのコンセプトを応用して、将来ではなく今、現実に起きている問題を解く研究も進行中であることが分かった。
日本においても先述のロードマップに沿う形で、産学連携などを通じた活発な取り組みが進んでいくことを期待したい。
なお、残念ながら今年はコロナ禍のためIPICの開催が見送られ、次回は23年に行われる見通しとなっている。
私の知る限り、一国の政府がフィジカルインターネット(PI)に関するロードマップを策定したのは、おそらく世界で初めてである。
昨年10月、両省により学識経験者、業界団体、サプライチェーン専門家などで構成する「フィジカルインターネット実現会議」が設置されて、同ロードマップが策定された。
計6回行われた実現会議の模様は、毎回YouTubeでライブ配信されたので、読者の中にも視聴した人がいるかもしれない。
続いて3月18日には、ヤマトグループ総合研究所の主催で「フィジカルインターネットシンポジウム」が催された。
同研究所専務理事を務める荒木勉上智大名誉教授により企画されたもので、2020年と21年に続き3回目の開催となる。
同シンポジウムの冒頭では、フィジカルインターネット実現会議を主導した経済産業省の中野剛志物流企画室長より、前述のロードマップの概要のほか、ロードマップの策定に至った背景が説明された。
シンポジウム当日の視聴者数は千人近くに達した。
PIの認知度が日本でも相当高まってきたことを実感できた。
さらに、その翌週の3月23日、パリ国立高等鉱業学校のフィジカルインターネット研究所がPIに関する国際会議「International Conference by the Physical Internet Chair」をパリで開催した。
筆者はオンラインでの参加であったが、そこで日本のロードマップの概要を紹介する機会を得た。
同会議にはPIの生みの親である米ジョージア工科大のブノア・モントルイユ教授や、20年12月に「Roadmap to Physical Internet」を公表したALICEの事務局長ら、PIコミュニティの重鎮たちが顔をそろえていた。
いわば先輩方が居並ぶ場で、遅れてコミュニティに加わった日本から情報を発信したわけである。
驚いたことにALICE・事務局長をはじめ参加者からは、「日本のロードマップは現実的で分かりやすい」「日本の取り組みに感銘を受けた」「日本政府の包括的なビジョンには遠く及ばない」などの好意的なコメントがいくつも寄せられた。
前置きが長くなったが、筆者は同会議への参加を通じて、PI研究の最新動向をうかがい知ることができた。
その中から、日本で起きている物流問題の解決に役立ちそうなヒントが得られる話題を本稿で紹介する。
まずは、同会議を主催したパリ国立高等鉱業学校のフィジカルインターネット研究所の概要を説明する。
設立は16年。
目的はPIに関する実証的・理論的研究を発展させることであった。
同研究所の設立時から所長を務めているのがエリック・バロー教授である。
その他は准教授1人、助教授1人、博士課程学生5人という構成である。
現在は二つの研究分野が設けられている。
一つはイノベーションのためのネットワーク相互接続性の研究、もうひとつはPIによって起こり得る問題の科学的研究である。
これらの研究は民間企業などと共同で進められ、博士課程の学生も参画している。
現在の共同研究パートナーはGEODIS(フランス国鉄SNCFグループの大手物流企業)、Orange(フランスの大手通信会社)、P&G、GS1フランスなどである。
同研究所は従来から研究内容を定期的に公表しており、3月23日の国際会議は今年に入って最初の公開イベントであった。
同研究所が現在取り組んでいる研究のほかに、米ジョージア工科大のフィジカルインターネットセンターで行われている研究もそこで紹介された。
図表1はその議事次第である。
例年開催されている「国際フィジカルインターネット会議(International Physical Internet Conference(IPIC)」の縮小版と呼んで差し支えないだろう。
続いて、日本で起きている物流問題の解決に役立つと思われる二つの研究を紹介する。
一つは都市間物流、もうひとつは都市内物流に関する研究である。
都市間物流:中継輸送の経済性評価 日本では「物流の2024年問題」が目前に迫っている。
働き方改革関連法が18年6月に成立して19年4月に施行された。
ただし、トラック運送業については5年間の猶予期間が与えられ、24年度からトラックドライバーの時間外労働に上限規制が罰則付きで適用されることになった。
ドライバーが働ける時間が今より短くなる。
ドライバー不足は日本の外でも起きている。
例えば米国でも、Eコマース増加に伴いラストマイルの配達需要が増加する一方、長距離を運転する大型車両のドライバー確保が難しくなっている。
ある大手自動車メーカーはまさにその問題に直面していた。
同社は従来、米国南東部の工場から600~800マイル離れたディーラーに車両運搬車(キャリアカー)を使って完成車を直送していた。
ドライバーの日帰りは不可能な距離である。
同社は「配送時間を短縮し、ドライバーにとって完成車輸送の仕事を魅力的なものにしなければ、将来のキャパシティ不足に対処できない」という強い危機感を抱き、米ジョージア工科大のサプライチェーン・ロジスティクス研究所と、長距離直送の代替案としての中継輸送の経済性を評価する共同研究を行うことになった。
なお、同研究所は、民間企業とのパートナーシッププログラムを設けており、各パートナーの個別課題をテーマとする共同研究を進める環境を用意している。
この自動車メーカーも企業パートナーの1社であった。
モントルイユ教授は以前に、PIの原理を長距離リレー輸送に適用した場合の経済効果についての研究を発表している。
カナダのケベックから米国のロサンゼルスまでの約5千キロメートルを1人のドライバーがずっと運ぶのではなく、17人のドライバーでリレーして運ぶことで経済性が高くなるという研究であった。
その研究で対象となった拠点数は出発地が1カ所、到着地が1カ所であった。
それに対して、今回の完成車物流の研究では、到着地の拠点数が1カ所から複数に変わる。
加えて、物流企業ではなく、荷主企業1社が主導するというスキームで研究を行ったことが注目点であろう。
同会議でモントルイユ教授はその研究の概要を、「Hyperconnected Inter-City Delivery(ハイパーコネクテッド都市間輸送)」という名称で紹介した。
「ドライバー」「トラクター」「トレーラー」「完成車」で構成されるマルチエージェントモデルがそこで構築された。
どのドライバーがどのトラクターを運転し、どのトレーラーをつなぐか、そのトレーラーにどの完成車を載せてどの中継拠点もしくは目的地まで運ぶかをモデル化したのである(図表2)。
目的地まで直送した場合と中継拠点を経由して輸送した場合でシミュレーションを行い、各種のパフォーマンスが比較された。
図表3は、現在の完成車工場からディーラーまで直送する場合と、中継輸送する場合を比較したものである。
日帰りできるドライバーの割合は現状の直送モデルでは64%であった。
中継輸送の採用時にはそれが99%に上昇すると試算された。
つまり、ほぼ全てのドライバーが日帰りできる。
輸送業務1件にかかる時間は現状の15・2時間から7・0時間に半減する。
1人のドライバーが約15時間勤務して目的地まで直送していたものが、2人のドライバーがそれぞれ7時間勤務して中継拠点まで運ぶかたちに変わる。
納期遵守率は直送、中継輸送とも100%である。
つまり顧客への納品サービスレベルは維持される。
また、費用は現状より3%減ると推計されている。
中継輸送の採用によって費用が増えるわけではないらしい。
この研究は自動車メーカー1社で運用する前提で行われたものであるが、モントルイユ教授によれば、複数の自動車メーカーに拡張して運用できる可能性もあるとのこと。
日本でも物流の24年問題対策の一つとして検討に値するものと思われる。
都市内物流:駐車場所と巡回先の決定問題 二つ目の話題は「都市内物流」である。
都市内物流にPIの原理を導入するとどうなるか。
一つ考えられるのは都市内での共同配送である。
19年にロンドンで開催されたIPICで、都市内物流の研究発表があった。
オランダ中部、ドイツとの国境に近いナイメーヘンという人口18万人の都市に、「UCC(Urban Consolidation Centers:都市型混載センター)」と呼ぶ共同配送基地を設置する取り組みであった。
都心部にある小売店、飲食店、ホテルなどは、それぞれ必要なモノをいろいろなサプライヤーに注文しているわけだが、そのラストマイルを個々のサプライヤーが別々に行うのではなく、共同配送拠点からまとめて届けることで効率化しようというアイデアである。
それに対して今回の会議では、パリ国立高等鉱業学校フィジカルインターネット研究所の博士課程に在籍するYu Liu氏が「Smart City Logistics : a case of freight parking in last mile(スマートシティロジスティクス:ラストマイルにおける駐車問題)」という題目で、通信会社Orangeとの共同研究の途中経過を発表した。
駐車場所の発見・確保は、都市内のラストマイル配送に携わるドライバーをずっと悩ましている問題である。
届け先に駐車場がない場合、近くのコインパーキングを探したり、仕方なく路上に駐車したりする必要がある。
米ワシントン大の調査研究によれば、シアトル市の中心部では商用車の移動時間の28%が駐車場探しに費やされているとのことである。
これは無視できない数値である。
現状では、ドライバーが自らの経験に基づいて駐車場所と配達先の順番を決めていることが多いと推測される。
特に都市部は駐車場所確保が困難であることから、なるべく少ない駐車回数で、なるべく多くの配達ができるようにドライバーは知恵を絞っているであろう。
この意思決定問題は、オペレーションズリサーチ(OR)の世界で「Park-and-Loop Routing Problem」と呼ばれている。
日本語にすれば「駐車場所と巡回先の決定」と訳すのが適切かもしれない。
「どこに車両を停めて(Park)、そこからどの届け先を巡回(Loop)するか」を決める問題である。
どこに停車して、どう回ればよいのか、ドライバーの属人的な意思決定を、システムによって支援することが望まれる。
しかし、これは組み合わせ最適化問題を二つ組み合わせることになり、数学的な難問とされている。
今回の発表では、パリ市内での実際の貨物配送実績データを用いたケーススタディが行われた(図表4)。
1台の配送車両で計143個の荷物を運び、荷物の届け先数は54カ所という設定であった。
つまり、一度に複数の荷物を配達する届け先がかなりある、ということである。
配達可能な届け先は駐車場所から100メートル以内という条件であった。
また、筆者が報告を聞いた限りでは、届ける荷物の配達時刻指定の有無は不明であった。
ケーススタディの貨物配送実績に基づいて、計244カ所が駐車場所の候補として選ばれた。
続いて最適な駐車場所と巡回先を2段階に分けて解析した。
第1段階は配送車両をどこに駐車するか、第2段階は駐車場所をどう巡回するかである。
第1段階では、駐車回数の最小化を狙いとして、貪欲法が採用されて、駐車場所候補244カ所のうち32カ所が選ばれた。
駐車場所32カ所で、54カ所の届け先に配達できるということである。
第2段階では遺伝的アルゴリズムを用いて、駐車場所の巡回順序を決定した。
現在は研究途上とのことで検証などは今後の報告を待たねばならないが、都市内物流にPIの原理が導入されるようになると、配送車両1台当たり単位面積当たりの配送箇所数は増えることとなり、駐車場所の決定が今まで以上に重要になる。
実用化に向けた研究がこれから一層進むものと期待している。
社会的な物流課題の解決に挑む 今回紹介したのは、PI研究の最新動向の一部にすぎない。
例年夏にはIPICが開催される。
世界中のPI研究者がそこに集い、参加者は最新の研究内容に触れることができる。
その多くはORの範疇に入る研究だが、PIを社会課題解決に活用しようとする研究も含まれている。
例えば昨年6月に催されたIPICでは、災害発生時の救援物資供給にPIを活用してサプライチェーンのレジリエンシーを向上するための研究や、フードロス削減のために賞味期限切れに近い商品を、PIを活用して再流通(回収・配達)させるモデルを考案した研究などが発表されていた。
IPICでの研究発表では今のところ「物流資産の稼働率向上」のためにPIを活用するというアプローチが定番になっているようだ。
しかし、少し視点を変えて、モノの動きに伴う社会課題に着目することで、PIの新たな活用余地が見つかるのではないかと筆者は考えている。
実際、パリ国立高等鉱業学校の3月23日の国際会議では、PIのコンセプトを応用して、将来ではなく今、現実に起きている問題を解く研究も進行中であることが分かった。
日本においても先述のロードマップに沿う形で、産学連携などを通じた活発な取り組みが進んでいくことを期待したい。
なお、残念ながら今年はコロナ禍のためIPICの開催が見送られ、次回は23年に行われる見通しとなっている。
