2021年8月号
特集
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《海外論文》スマートロジスティクスにおけるAI活用
イントロダクション
インダストリー4・0においては、企業の競争力を強化するに当たり、相互接続性・デジタル化・自動化のコンセプトおよび技術が活用される。
この文脈におけるスマートロジスティクスとは、アジャイル(敏速な)で協働的なネットワークと組織同士の結びつきを土台とした、インテリジェントでリーンなサプライチェーンの実現を目指すものと定義される。
そこで情報伝達を支えるのは最新のICT技術、データネットワーク、センサーなどの情報機器、自動認識や物体追跡技術などである。
そして自律走行車の活用によって自動化された輸送・移動・保管の各システムが、完全な(もしくは部分的な)自己制御システムを成立させる。
スマートロジスティクスを支える技術的コンセプトとしてはサイバーフィジカルシステム(CPS)、モノのインターネット(IoT)、インダストリアルIoT(IIoT)、フィジカルインターネット(PI)などを挙げることができる。
その一方でDXを成功させる最も重要な要因の一つが、人工知能(AI)・機械学習・深層学習のアプリケーションであると考えられている。
AIは、知能的なコンピュータープログラムに特化したインテリジェントマシンの科学およびエンジニアリング、と定義することができる。
機械学習はAIに必要不可欠の構成要素の一つであり、データの中から意味のあるパターンを自動で認識することをいう。
ビッグデータ分析を基にした学習能力を強化することで、アルゴリズムの効率を向上させることがその狙いである。
深層学習は機械学習の下位概念であり、教師あり、もしくは教師なしの特徴の抽出や転移、あるいはパターンの分析や分類などに、多層構造の非線形情報処理をもってする学習方法を指す。
AI・機械学習・深層学習は近年、エンジニアリング・医学・経済学・経営学・マーケティングなどの諸領域でその存在感を高めている。
しかしながらスマートロジスティクス分野のAI・機械学習・深層学習に関する全体論的な研究は、われわれの把握する限りでは存在しない。
そこでわれわれは時間軸を2014年から19年に限定した上で、AI・機械学習・深層学習技術に関する体系的な文献調査を行うことにした。
調査方法 人工知能・機械学習・深層学習のアプリケーションに関する研究は、多種多様な分野にわたる。
5万2546件に上る研究論文の中から、スマートロジスティクス分野の103件を抽出し、最終的にその中でも最も適合性の高い33件を選び出した。
さらにわれわれは、この33件の論文を七つのクラスターに分類した(表1参照)。
次節以降では、そのクラスターごとに研究の内容を概観する。
最新研究の概要 戦術・戦略プロセス最適化 「戦術・戦略プロセス最適化」は全体の12・12%を占めるクラスターである。
Gurschらは、状態監視・プロセス制御の両分野における管理支援の学習システムについてレビューを行っている。
同論文はさらに、静的で非適応型のコンピュータープログラムでは対応が難しい問題に対する、最適化・自動化・人的サポートなどのソリューションにも言及している。
戦術・戦略推論における意思決定ガイドラインの形成過程など、意思決定分析のアプリケーションに焦点を当てた研究もある。
ちなみにそのガイドラインは、生産やロジスティクスプロセスのモニタリング・分析・企画・最適化などにも応用が効く。
Quらが提唱するのは、現実的な条件下における一般的な計算論的推論とラーニングフレームワークである。
BoninoとVergoriが取り上げているのは、最新鋭の生産工場と外部のバリューチェーンを、機械学習・AI・IoT技術を利用して結びつけるコンセプトとアーキテクチャである。
最新鋭のITシステムが、マルチエージェントシステムと機械学習技術を活用することで、生産とロジスティクスにおける日常的なプロセスをどのように革新・最適化していくのか、ということがその核心である。
サイバーフィジカルシステム(CPS) 「ロジスティクスにおけるCPSのフレームワーク」は全体の21・21%である。
拡張可能でフレキシブル、なおかつ多目的に応用できるかたちで生産現場の分析をするガイドラインとして、インテリジェントデータ分析およびリアルタイム監視のフレームワークである「IDARTS(Intelligent Data Analysis and Real-Time Supervision)」がある。
このフレームワークによって、クラウドコンピューティングをベースとしたCPSを用いて、予知保全・品質管理・製造・ロジスティクスなどの分野にデータを役立てることが可能になる。
ここにはデータ取得、機械学習、生産・ロジスティクスプロセスの実行時間などに関する技術も含まれる。
Guoらの紹介する学習メソッドでは、さまざまな機器から派生する不統一なデータ(マシンデータ)を視覚化する装置を用いる。
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)に基づく視覚化装置を利用して、センサーが集めるデータを画像イメージへ変換する手法である。
またCPSを実現するに当たり、生産ライン、ロジスティクス、高度なデータ分析、M2M(マシンツーマシン)のIoTプロトコル、機械学習、知識表現アルゴリズム、生産環境におけるクラウドベースのプラットフォームなどに着目したFerrerらによる研究もある。
工業プロセスの新しい分析手法と最適化ツールについて述べているのはThalmannらである。
その目的はアルゴリズム、分析機器、計画論的アプローチ、データ分析に基づいた工業プロセス改善の視覚化などといったツールを改善することにある。
CPSを応用する手法の一つである形式概念分析(FCA)は、知識の構造化およびCPSの相互運用性の最適化にAIと機械学習を活用する。
サイバーフィジカルプロセス(CPPs)とスマートプロセスマネジメント(SmartPM)のためのプロセスマネジメントシステム(PMS)は、AIとコグニティブコンピューティングで大量のデータ処理をすることでプロセスの自動化を実現する。
予知保全 「予知保全」についてはCPSと同数の研究論文(21・21%)が特定された。
SubaktiとJianは、スマートファクトリーの機器に拡張現実(AR)を活用する際の設計・開発・実施に関する提案を行っている。
深層学習を用いたイメージ検出モジュールが個々の機器を判別し、IoTがクラウドベースのサーバーを経由して設置状況と機器の状態を伝える。
Sustoらの方法論は、半導体業界が直面する予知保全の課題に対し、粒子フィルタ手法を用いたモンテカルロ法を適用することで、機器の調子や状態を把握するというものである。
AIが予知保全にもたらす今後の影響について、深層学習技術に的を絞って論じているものもある。
そこでは予知保全分野における最新のアルゴリズムとして、順伝播型ニューラルネットワーク、長・短期記憶、畳み込みニューラルネットワーク、ディープビリーフネットワークなどが列挙されている。
Choらが紹介するのは、スマートファクトリーの予知保全にハイブリッド型の機械学習を利用するアプローチである。
教師なし学習(unsupervised learning)と半教師あり学習(semi-supervised learning)を組み合わせ、データ主導型の意思決定支援を行うというものである。
生産現場におけるモニタリングと画像認識に関する機械学習のアプリケーションについて論じるWuestらは、教師あり学習・教師なし学習・強化学習(reinforcement learning)の分類を行っている。
ハイブリッド型意思決定支援システム 「意思決定支援システムおよびマンマシン・インタラクション」クラスターは全体の9・09%である。
この文脈では、AIと機械学習に基づくスマート・マニュファクチャリング・プロセスへのアプローチとして、人間の専門家による意思決定とAI主導型のそれとをミックスする独Pi-Minds社の技術がある。
このハイブリッド型アプローチは多くの場合、人間による合理的な意思決定を凌駕する。
Venkatapathy、Zeidlerらは、構内物流に人間と機械のシナジーを利用するハイブリッド型ネットワークについて、基本的なコンセプトを提示している。
そこでは光学レファレンスシステム、無線レファレンスシステム、レーザープロジェクトシステム、仮想現実システム、ロボットシステム、LR-WPAN等々のワイヤレスネットワークシステム、そして計算システムのネットワークなどが論じられている。
生産計画および生産管理システム 「生産計画および生産管理システム」クラスターは全体の12・12%である。
機械学習を利用して在庫を複数基準で分類する方法を紹介するLolliらは、機械学習分野における教師あり分類器を活用することで、シミュレーションにかかる労力を減らす。
Heらは、フローショップスケジューリング問題に対応する多目的群知能アルゴリズムを取り上げているが、従来型のアルゴリズムや機械学習ベースの新たなアプローチへの言及もある。
種々のアルゴリズムの評価は、パレート最適解との最短距離・分布の適合度・最大値の分布などによって決まる。
Zhangらは、機械学習・AI・深層学習技術をベースとするインダストリー4・0という文脈から、ジョブショップスケジューリングに関する文献を体系的に読み解く。
種々のアルゴリズムはさらに、効率的ルールアプローチ・数理計画アプローチ・分枝限定法などの厳密な最適化手法と、近似法(構築法・AI法・局所探索法・メタヒューリスティクス法など)に分類される。
Gomesらは環境知能をベースにした機械学習による意思決定支援システムを紹介しているが、そこでは生産量と生産効率が安定する標準的な操作手順を確立する手段として、環境知能・メタヒューリスティクス・機械学習が活用されている。
自己学習型生産管理システムを紹介するLuetkehoffらが提唱するのは、データの収集と分析に自己学習型アルゴリズムを活用するプラットフォームベースの新しいコンセプトであり、これは将来的なシステムの挙動を予知することにも応用が可能である。
オペレーションプロセス改善 「ロジスティクスオペレーションのプロセス改善」クラスターは前項と同率(12・12%)である。
Wenらはスワームロボティクス(群ロボット)アプリケーションの活用に関し、スマート倉庫、スマートデリバリー、ルート追跡、プリサイスサプライチェーン、グリーンロジスティクス、スマートICTなど、現代ロジスティクスのさらにその先にあるスマートロジスティクス分野への応用を論じている。
また機械学習に基づいた音源定位システムは、屋内環境での位置特定や物体追跡に用いることができる。
生産工程や製造不良の診断には、ベイジアンネットワーク・人工ニューラルネットワーク・サポートベクターマシン・ 隠れマルコフモデルなどが利用される。
蟻コロニー最適化は、配送に必要とされる車両数を削減するアルゴリズムである。
高度道路交通ロジスティクス 「高度道路交通ロジスティクス」クラスターも12・12%という結果である。
Liらが紹介する高度道路交通システムとは、IT・データ通信技術・電子センサー技術・GPS技術・地理情報システム技術・コンピューター処理技術・システムエンジニアリング技術と、ディープビリーフネットワーク(DBN)をベースとするリアルタイムかつ正確で効率的なインテリジェント輸送管理システムを組み合わせたものである。
またLiらは別の論文で、データマイニングと機械学習の数値計算技法を活用したIoT技術を用いて、道路交通情報の分析を行っている。
AI・機械学習・深層学習アプリケーションの概念的フレームワーク 次に、各クラスターの概念的フレームワークについて説明する。
クラスター1「戦術・戦略プロセス最適化」は、企業やロジスティクスネットワークデザインレベルの戦術・戦略プロセスを、AI・機械学習・深層学習を使って最適化するアプリケーションを主な対象とする。
いわゆる経営情報システムの質を向上させるのは、データ、情報、重要業績評価指標などのビジネスインテリジェンスに限られるものではなく、戦術および戦略レベルの意思決定も重要な役割を果たす。
そうした戦術・戦略レベルのプロセス最適化は、とりわけ大手の多国籍企業にとって重要な意味をもつことになるだろう。
クラスター2のロジスティクスの「サイバーフィジカルシステム(CPS)」は、機器やセンサーを駆使したリアルタイムのデータ分析、そして最新の学習アプローチによるナレッジマネジメントの強化を通じて、旧来型のロジスティクスからスマートロジスティクスシステムへの進化を促す。
CPSは、生産およびロジスティクスのプロセス改善に寄与するのみならず、産業界全体の効率改善にも波及する。
さらには接続性の確保、統一的デジタル化、モデル化技法・柔軟性・汎用性の向上、システムとその構成要素の再利用などにもつながる。
クラスター3「予知保全」は、状態監視と予知保全分野の学習アプローチの活用がテーマである。
機器の環境・状態・品質パラメーターの継続的レポーティングに、近年のAI・機械学習・深層学習アプローチを活用する研究は極めて多い。
リアルタイムデータや質の高いナレッジは今後、生産とロジスティクスプロセスのための予防的施設管理に関する予測分析に用いることが可能になるものと考えられる。
クラスター4「ハイブリッド型意思決定支援システム」は、非自動化、すなわち人間の判断が主役となる意思決定プロセスを、学習可能なサポートシステムを利用して改善するものだ。
そこでは意思決定に関連する情報が、AI・機械学習・深層学習技術によって自動的に収集・集計・事前分析されるようになる。
そうしたハイブリッド型意思決定プロセスでは大抵の場合、純粋に合理的な意思決定プロセスよりも良い結果が得られる。
クラスター5「生産計画および生産管理システム」は、計画・管理への新しいアプローチである。
その対象領域は在庫管理、フローショップ問題、従来からのジョブショップスケジューリング問題、生産プロセス最適化、そしてAI・機械学習・深層学習をベースとした生産計画と生産管理システムの自己学習能力などである。
クラスター6「ロジスティクスオペレーションのプロセス改善」は、ロジスティクスのオペレーションプロセスを、AI・機械学習・深層学習技術を応用して改善するさまざまな可能性についてである。
スワーム(群)ロボティクスはスマートウェアハウスの最適化に利用され、音源定位システムは個体識別とトラッキングの効率性を向上させ、AIベースのアルゴリズムが全体論的な製造不良診断を可能にし、ミルクランの最適化には蟻コロニー最適化アプローチが用いられる。
クラスター7「高度道路交通ロジスティクス」は、高度道路交通システムとそのプロセスに関する、AI・機械学習・深層学習技術を使ったアプリケーションである。
IT・データ通信・電子センサー技術・GPS技術・地理情報システム技術・コンピューター処理技術・システムエンジニアリング技術などの最新のアプローチを駆使したAIを土台とするメソッドによって、輸送ロジスティクスの質を向上させる。
活用例 独DHL社が発表したリサーチには、ロジスティクスのデジタルツインに関する彼らのビジョンが語られている。
すなわち、人工知能の登場により、デジタルツインとサイバーフィジカルシステムが新たな価値を生み出すようになった。
DHLが保有する全てのデータ、つまりセンサーが集めた情報や過去のパフォーマンス、あるいは行動に関するインプットなどは、空間モデルへと変換され、入力を変更することで将来行動の予測が可能になる。
データとAIの予測能力が空間モデルを活性化するのである。
スウェーデンPresenso社が開発した同名のソフトウエアでは、正確で継続的な故障予知を、機械学習と深層学習を利用して実現する。
大量のデータを高速で集め、そのデータをリアルタイムでクラウドへと流し込むというものである。
独自のディープニューラルネットワークをもつ「Presenso」の分析エンジンは、機器で発生する出来事を自律的に結びつけ、最終的に起こり得る故障の予知にまで至る。
さらには故障発生までの残り時間や、機器のどの部分に発生するのかといった貴重な情報をも提供する。
「SkyPlanner APS」はAIを用いた計画・スケジューリングシステムである。
このソフトウエアは、作業指示を即時に最適化して生産効率が最も上がるスケジュールを組むが、さらに効率の上がる余地が残されているかどうか、AIアルゴリズムが細部までくまなく検討する。
例えば多くの場合、同じ素材やツールを使用する生産が連続するようなスケジュールが推奨される。
独Swarm Logistics社は、自律的なインテリジェント輸送システムの開発に特化したディープテックソフトウエア企業である。
同社の「Auto-Dispatcher」は、人工知能を用いて常に自己改善をし続ける精緻なアルゴリズムを採用している。
このソフトウエアを旧来のものと比較したある運送会社の事例ではコストが25%削減され、配送にかかる時間も35%短くなった。
独シーメンス・モビリティ社は、「ITS Digital Lab」と名付けられた一連のアプリケーションおよびサービスを、道路交通・電動自転車などの車両・インターモーダル輸送のスマートマネジメントに適用する実験を行っている。
「MindSphere」と呼ぶシーメンスのIoTプラットフォームに、コネクテッドカーがそれぞれの状態をリアルタイムでデータを送信し、スマートフォンを持つ道路上のユーザーが大量のデータを生み出す。
データの宝庫であるこうしたソースにより、モビリティサービスの光景は一変しつつある。
考察 戦術・戦略プロセス最適化 そう遠くない将来、予測精度の向上やユーザー・カスタマーへの理解を深める目的で、AIおよびその関連技術とメソッドが利用されるようになる。
このことは戦術・戦略レベルの予測最適化に大きな影響を及ぼすと同時に、カスタマーの新たな需要を見極めることにも用いられるようになる。
さらに詐欺行為の検知やサイバーセキュリティーへの脅威を排除したり、あるいはハイレベルなプロセス全般の最適化にも活用される。
AIによる予測分析で欠陥率を低減することで、より精密なプロジェクトマネジメントが可能になる可能性もある。
またもしAIがチェスの試合に勝つことができるとすれば、それを企業戦略の策定に用いることもできるようになるだろう。
サイバーフィジカルシステム(CPS) 情報がモノからデジタルモデル(デジタルシャドウ)という一方向にのみ流れるCPSに関しては、既に数多くの研究が存在するが、その次の段階では、双方向に情報が流れる、いわゆるデジタルツインがフィジカルシステムをコントロールするようになる。
CPSにはロジスティクスシステムから膨大な量のデータが送られてくる。
ところが現時点では、その大量のデータを活用する適切なツールが存在しないという問題がある。
そこで登場するのがAIメソッドであり、デジタルツインをベースとしたロジスティクスシステムのコントロールという構想を、CPSのビッグデータを分析することで実現するのである。
データのパターンを特定し、それによってワークフローとプロセスを自動化できれば、ロジスティクスシステムを即時かつ直接的にコントロールすることが可能となるだろう。
予知保全 予知保全というコンセプトが議論の俎上に載るようになったのは、今世紀初め頃のことである。
だが実際の研究が“爆発的”に増えたのは、予知保全を実現するAIベースのメソッドが現れ始めた2017年以降のことである。
AIメソッドの前提は大量のデータが利用できることである。
予知保全という研究領域が極めて重要であるのは、各種センサーを備えた新世代のロジスティクスシステムが、データ分析に利用し得る膨大なデータを産出するからである。
ハイブリッド型意思決定支援システム われわれは生産とロジスティクスにおける自動化およびデジタル化のポテンシャルは大いに認めつつも、多くのプロセスが依然として熟練労働者によって担われており、将来的にも生身の人間が重要な役割を果たすであろうと確信している。
大量のデータを活用すると同時に、人間の意思決定ケイパビリティを認知支援システムによって補強することが求められる。
そうしたデジタル支援システムの発展には、AIベースのメソッドが必要不可欠である。
これは純粋に合理的な意思決定支援ツールが得られるというだけではなく、命令に唯々諾々と従うだけの“愚かな”実行者という役割から人間を解放する、という意味合いもある。
今後はいわゆる“説明可能なAI”、つまり“説明可能なインターフェース”を通じて人間が結果を理解できるような、ハイブリッド方式に基づくソリューションを開発することが重要になるだろう。
実際そうしたハイブリッドシステムでなければ実現は難しいであろうとわれわれは予測している。
なぜなら純粋に合理的な意思決定に基づく支援システムを受け入れることに、人間は依然として抵抗を感じているからである。
生産計画および生産管理システム 他のクラスターと比較しておそらく最も進んでいる分野である。
長年にわたる取り組みが行われてきた計画の最適化とはつまるところ、先進的な計画およびスケジューリングというタスクを実行し、その結果をコントロールメカニズムに落とし込んで生産管理をすることである。
シミュレーションベースのスケジューリングメソッドについての研究は、1990年代初頭には散見されるようになっていた。
現在のAIのトレンドがリアルタイムプランニングの新しい地平線を開き、この分野に“ルネサンス”をもたらすだろうとわれわれは考えている。
センサーおよびシームレスに垂直統合したデータに立脚するAIほど迅速に情報を処理することは、人間には決してできないからである。
計算能力、そしてセンサーが集めるリアルタイムのデータを大量に記憶する容量がどちらも向上してきたことで、リアルタイムプランニングは手の届くところにまで来ている。
オペレーションプロセス改善 このクラスターで特筆すべきは、自然界からの類推を用いるケースが多いことである。
生物学的変化という話題はかねてより提起されている。
その流れは生体模倣技術による生産やロジスティクスに始まり、自然界におけるプロセスの類推から計算能力・AI・機械学習・深層学習を向上させるバイオインテグレーテッドやバイオインテリジェントと呼ばれるものにまで及ぶ。
高度道路交通ロジスティクス データを活用した道路交通の最適化と、自動運転車の近年の進化には目覚ましいものがある。
道路と主要ジャンクションは、最新の物体認識技術によってリアルタイムのモニタリングが可能となり、情報処理にかかる時間が短くなった。
今後の課題は、交通システムに対するサイバー攻撃の危険や不自然な判断を低減・除去するソリューションの研究・開発、そして人間の代わりに人工知能が下す判断の責任に関する倫理的問題であろう。
研究最新動向 われわれは今回、14年から19年1月という期間を区切った上で、Scopus(スコーパス:抄録・引用文献データベース)から関連する文献を選び出した。
当論文が甘受せざるを得ない制約の一つは、選別・分析・フレームワーク構築の作業中にも、ロジスティクス分野のAIに関する研究が日々進歩していることである。
この分野の研究はまさに日進月歩であり、その最新成果を反映していないことはわれわれの遺憾とするところである。
そこで最後に、19年から20年にかけて発表された当分野の重要な研究成果をいくつか簡単に紹介したい。
Giustiらの注目する「シンクロモーダルロジスティクス」は、新たな可能性を秘めたAIベースのメソッドである(*編集部注:本誌20年5月に特集第7部として翻訳文を掲載)。
シンクロモーダリティとは、ここ10年ほどベネルクス諸国で開発されてきた、新しく魅力的なロジスティクスコンセプトである。
リソースの有効利用と輸送フローの同期化より、サプライチェーンサービスの質を維持しながら、コスト・排出物・輸送時間を短縮することが主な狙いである。
ニューラルネットワークを活用するLeらのアプローチは、エネルギー効率を向上させるスロースティーミング(減速運航)メソッドの効果を確かめるなど、韓国のコンテナ船の燃料消費量の見積・予測・最適化などに用いられている。
Liuらは、ロジスティクスのサービスクオリティに対する、環境知能のコンテキストアウェアネスの効果を検証している。
コンテキストアウェアネスをベースとする環境知能は、その置かれた文脈を読んでユーザーの意図を予測する。
その予測機能をロジスティクスサービスに応用し、顧客の満足するようなカスタマイズサービスを提供しようというものである。
ユーザー指向サービスの一番の課題は、個々のユーザー状況の把握・そのユーザーの要求に最も適したサービスの選択・意思決定のリアルタイムサポートなどを、いかにして実現するかということなのである。
Ceyhunによれば、AIを活用して将来の事例を予想することで、船舶の事故を未然に防ぐことが可能になるという。
またAIは、スマートモビリティのインテリジェント道路監視システムや輸送メンテナンスシステムをも可能にするとされている。
(翻訳構成 大矢英樹)
この文脈におけるスマートロジスティクスとは、アジャイル(敏速な)で協働的なネットワークと組織同士の結びつきを土台とした、インテリジェントでリーンなサプライチェーンの実現を目指すものと定義される。
そこで情報伝達を支えるのは最新のICT技術、データネットワーク、センサーなどの情報機器、自動認識や物体追跡技術などである。
そして自律走行車の活用によって自動化された輸送・移動・保管の各システムが、完全な(もしくは部分的な)自己制御システムを成立させる。
スマートロジスティクスを支える技術的コンセプトとしてはサイバーフィジカルシステム(CPS)、モノのインターネット(IoT)、インダストリアルIoT(IIoT)、フィジカルインターネット(PI)などを挙げることができる。
その一方でDXを成功させる最も重要な要因の一つが、人工知能(AI)・機械学習・深層学習のアプリケーションであると考えられている。
AIは、知能的なコンピュータープログラムに特化したインテリジェントマシンの科学およびエンジニアリング、と定義することができる。
機械学習はAIに必要不可欠の構成要素の一つであり、データの中から意味のあるパターンを自動で認識することをいう。
ビッグデータ分析を基にした学習能力を強化することで、アルゴリズムの効率を向上させることがその狙いである。
深層学習は機械学習の下位概念であり、教師あり、もしくは教師なしの特徴の抽出や転移、あるいはパターンの分析や分類などに、多層構造の非線形情報処理をもってする学習方法を指す。
AI・機械学習・深層学習は近年、エンジニアリング・医学・経済学・経営学・マーケティングなどの諸領域でその存在感を高めている。
しかしながらスマートロジスティクス分野のAI・機械学習・深層学習に関する全体論的な研究は、われわれの把握する限りでは存在しない。
そこでわれわれは時間軸を2014年から19年に限定した上で、AI・機械学習・深層学習技術に関する体系的な文献調査を行うことにした。
調査方法 人工知能・機械学習・深層学習のアプリケーションに関する研究は、多種多様な分野にわたる。
5万2546件に上る研究論文の中から、スマートロジスティクス分野の103件を抽出し、最終的にその中でも最も適合性の高い33件を選び出した。
さらにわれわれは、この33件の論文を七つのクラスターに分類した(表1参照)。
次節以降では、そのクラスターごとに研究の内容を概観する。
最新研究の概要 戦術・戦略プロセス最適化 「戦術・戦略プロセス最適化」は全体の12・12%を占めるクラスターである。
Gurschらは、状態監視・プロセス制御の両分野における管理支援の学習システムについてレビューを行っている。
同論文はさらに、静的で非適応型のコンピュータープログラムでは対応が難しい問題に対する、最適化・自動化・人的サポートなどのソリューションにも言及している。
戦術・戦略推論における意思決定ガイドラインの形成過程など、意思決定分析のアプリケーションに焦点を当てた研究もある。
ちなみにそのガイドラインは、生産やロジスティクスプロセスのモニタリング・分析・企画・最適化などにも応用が効く。
Quらが提唱するのは、現実的な条件下における一般的な計算論的推論とラーニングフレームワークである。
BoninoとVergoriが取り上げているのは、最新鋭の生産工場と外部のバリューチェーンを、機械学習・AI・IoT技術を利用して結びつけるコンセプトとアーキテクチャである。
最新鋭のITシステムが、マルチエージェントシステムと機械学習技術を活用することで、生産とロジスティクスにおける日常的なプロセスをどのように革新・最適化していくのか、ということがその核心である。
サイバーフィジカルシステム(CPS) 「ロジスティクスにおけるCPSのフレームワーク」は全体の21・21%である。
拡張可能でフレキシブル、なおかつ多目的に応用できるかたちで生産現場の分析をするガイドラインとして、インテリジェントデータ分析およびリアルタイム監視のフレームワークである「IDARTS(Intelligent Data Analysis and Real-Time Supervision)」がある。
このフレームワークによって、クラウドコンピューティングをベースとしたCPSを用いて、予知保全・品質管理・製造・ロジスティクスなどの分野にデータを役立てることが可能になる。
ここにはデータ取得、機械学習、生産・ロジスティクスプロセスの実行時間などに関する技術も含まれる。
Guoらの紹介する学習メソッドでは、さまざまな機器から派生する不統一なデータ(マシンデータ)を視覚化する装置を用いる。
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)に基づく視覚化装置を利用して、センサーが集めるデータを画像イメージへ変換する手法である。
またCPSを実現するに当たり、生産ライン、ロジスティクス、高度なデータ分析、M2M(マシンツーマシン)のIoTプロトコル、機械学習、知識表現アルゴリズム、生産環境におけるクラウドベースのプラットフォームなどに着目したFerrerらによる研究もある。
工業プロセスの新しい分析手法と最適化ツールについて述べているのはThalmannらである。
その目的はアルゴリズム、分析機器、計画論的アプローチ、データ分析に基づいた工業プロセス改善の視覚化などといったツールを改善することにある。
CPSを応用する手法の一つである形式概念分析(FCA)は、知識の構造化およびCPSの相互運用性の最適化にAIと機械学習を活用する。
サイバーフィジカルプロセス(CPPs)とスマートプロセスマネジメント(SmartPM)のためのプロセスマネジメントシステム(PMS)は、AIとコグニティブコンピューティングで大量のデータ処理をすることでプロセスの自動化を実現する。
予知保全 「予知保全」についてはCPSと同数の研究論文(21・21%)が特定された。
SubaktiとJianは、スマートファクトリーの機器に拡張現実(AR)を活用する際の設計・開発・実施に関する提案を行っている。
深層学習を用いたイメージ検出モジュールが個々の機器を判別し、IoTがクラウドベースのサーバーを経由して設置状況と機器の状態を伝える。
Sustoらの方法論は、半導体業界が直面する予知保全の課題に対し、粒子フィルタ手法を用いたモンテカルロ法を適用することで、機器の調子や状態を把握するというものである。
AIが予知保全にもたらす今後の影響について、深層学習技術に的を絞って論じているものもある。
そこでは予知保全分野における最新のアルゴリズムとして、順伝播型ニューラルネットワーク、長・短期記憶、畳み込みニューラルネットワーク、ディープビリーフネットワークなどが列挙されている。
Choらが紹介するのは、スマートファクトリーの予知保全にハイブリッド型の機械学習を利用するアプローチである。
教師なし学習(unsupervised learning)と半教師あり学習(semi-supervised learning)を組み合わせ、データ主導型の意思決定支援を行うというものである。
生産現場におけるモニタリングと画像認識に関する機械学習のアプリケーションについて論じるWuestらは、教師あり学習・教師なし学習・強化学習(reinforcement learning)の分類を行っている。
ハイブリッド型意思決定支援システム 「意思決定支援システムおよびマンマシン・インタラクション」クラスターは全体の9・09%である。
この文脈では、AIと機械学習に基づくスマート・マニュファクチャリング・プロセスへのアプローチとして、人間の専門家による意思決定とAI主導型のそれとをミックスする独Pi-Minds社の技術がある。
このハイブリッド型アプローチは多くの場合、人間による合理的な意思決定を凌駕する。
Venkatapathy、Zeidlerらは、構内物流に人間と機械のシナジーを利用するハイブリッド型ネットワークについて、基本的なコンセプトを提示している。
そこでは光学レファレンスシステム、無線レファレンスシステム、レーザープロジェクトシステム、仮想現実システム、ロボットシステム、LR-WPAN等々のワイヤレスネットワークシステム、そして計算システムのネットワークなどが論じられている。
生産計画および生産管理システム 「生産計画および生産管理システム」クラスターは全体の12・12%である。
機械学習を利用して在庫を複数基準で分類する方法を紹介するLolliらは、機械学習分野における教師あり分類器を活用することで、シミュレーションにかかる労力を減らす。
Heらは、フローショップスケジューリング問題に対応する多目的群知能アルゴリズムを取り上げているが、従来型のアルゴリズムや機械学習ベースの新たなアプローチへの言及もある。
種々のアルゴリズムの評価は、パレート最適解との最短距離・分布の適合度・最大値の分布などによって決まる。
Zhangらは、機械学習・AI・深層学習技術をベースとするインダストリー4・0という文脈から、ジョブショップスケジューリングに関する文献を体系的に読み解く。
種々のアルゴリズムはさらに、効率的ルールアプローチ・数理計画アプローチ・分枝限定法などの厳密な最適化手法と、近似法(構築法・AI法・局所探索法・メタヒューリスティクス法など)に分類される。
Gomesらは環境知能をベースにした機械学習による意思決定支援システムを紹介しているが、そこでは生産量と生産効率が安定する標準的な操作手順を確立する手段として、環境知能・メタヒューリスティクス・機械学習が活用されている。
自己学習型生産管理システムを紹介するLuetkehoffらが提唱するのは、データの収集と分析に自己学習型アルゴリズムを活用するプラットフォームベースの新しいコンセプトであり、これは将来的なシステムの挙動を予知することにも応用が可能である。
オペレーションプロセス改善 「ロジスティクスオペレーションのプロセス改善」クラスターは前項と同率(12・12%)である。
Wenらはスワームロボティクス(群ロボット)アプリケーションの活用に関し、スマート倉庫、スマートデリバリー、ルート追跡、プリサイスサプライチェーン、グリーンロジスティクス、スマートICTなど、現代ロジスティクスのさらにその先にあるスマートロジスティクス分野への応用を論じている。
また機械学習に基づいた音源定位システムは、屋内環境での位置特定や物体追跡に用いることができる。
生産工程や製造不良の診断には、ベイジアンネットワーク・人工ニューラルネットワーク・サポートベクターマシン・ 隠れマルコフモデルなどが利用される。
蟻コロニー最適化は、配送に必要とされる車両数を削減するアルゴリズムである。
高度道路交通ロジスティクス 「高度道路交通ロジスティクス」クラスターも12・12%という結果である。
Liらが紹介する高度道路交通システムとは、IT・データ通信技術・電子センサー技術・GPS技術・地理情報システム技術・コンピューター処理技術・システムエンジニアリング技術と、ディープビリーフネットワーク(DBN)をベースとするリアルタイムかつ正確で効率的なインテリジェント輸送管理システムを組み合わせたものである。
またLiらは別の論文で、データマイニングと機械学習の数値計算技法を活用したIoT技術を用いて、道路交通情報の分析を行っている。
AI・機械学習・深層学習アプリケーションの概念的フレームワーク 次に、各クラスターの概念的フレームワークについて説明する。
クラスター1「戦術・戦略プロセス最適化」は、企業やロジスティクスネットワークデザインレベルの戦術・戦略プロセスを、AI・機械学習・深層学習を使って最適化するアプリケーションを主な対象とする。
いわゆる経営情報システムの質を向上させるのは、データ、情報、重要業績評価指標などのビジネスインテリジェンスに限られるものではなく、戦術および戦略レベルの意思決定も重要な役割を果たす。
そうした戦術・戦略レベルのプロセス最適化は、とりわけ大手の多国籍企業にとって重要な意味をもつことになるだろう。
クラスター2のロジスティクスの「サイバーフィジカルシステム(CPS)」は、機器やセンサーを駆使したリアルタイムのデータ分析、そして最新の学習アプローチによるナレッジマネジメントの強化を通じて、旧来型のロジスティクスからスマートロジスティクスシステムへの進化を促す。
CPSは、生産およびロジスティクスのプロセス改善に寄与するのみならず、産業界全体の効率改善にも波及する。
さらには接続性の確保、統一的デジタル化、モデル化技法・柔軟性・汎用性の向上、システムとその構成要素の再利用などにもつながる。
クラスター3「予知保全」は、状態監視と予知保全分野の学習アプローチの活用がテーマである。
機器の環境・状態・品質パラメーターの継続的レポーティングに、近年のAI・機械学習・深層学習アプローチを活用する研究は極めて多い。
リアルタイムデータや質の高いナレッジは今後、生産とロジスティクスプロセスのための予防的施設管理に関する予測分析に用いることが可能になるものと考えられる。
クラスター4「ハイブリッド型意思決定支援システム」は、非自動化、すなわち人間の判断が主役となる意思決定プロセスを、学習可能なサポートシステムを利用して改善するものだ。
そこでは意思決定に関連する情報が、AI・機械学習・深層学習技術によって自動的に収集・集計・事前分析されるようになる。
そうしたハイブリッド型意思決定プロセスでは大抵の場合、純粋に合理的な意思決定プロセスよりも良い結果が得られる。
クラスター5「生産計画および生産管理システム」は、計画・管理への新しいアプローチである。
その対象領域は在庫管理、フローショップ問題、従来からのジョブショップスケジューリング問題、生産プロセス最適化、そしてAI・機械学習・深層学習をベースとした生産計画と生産管理システムの自己学習能力などである。
クラスター6「ロジスティクスオペレーションのプロセス改善」は、ロジスティクスのオペレーションプロセスを、AI・機械学習・深層学習技術を応用して改善するさまざまな可能性についてである。
スワーム(群)ロボティクスはスマートウェアハウスの最適化に利用され、音源定位システムは個体識別とトラッキングの効率性を向上させ、AIベースのアルゴリズムが全体論的な製造不良診断を可能にし、ミルクランの最適化には蟻コロニー最適化アプローチが用いられる。
クラスター7「高度道路交通ロジスティクス」は、高度道路交通システムとそのプロセスに関する、AI・機械学習・深層学習技術を使ったアプリケーションである。
IT・データ通信・電子センサー技術・GPS技術・地理情報システム技術・コンピューター処理技術・システムエンジニアリング技術などの最新のアプローチを駆使したAIを土台とするメソッドによって、輸送ロジスティクスの質を向上させる。
活用例 独DHL社が発表したリサーチには、ロジスティクスのデジタルツインに関する彼らのビジョンが語られている。
すなわち、人工知能の登場により、デジタルツインとサイバーフィジカルシステムが新たな価値を生み出すようになった。
DHLが保有する全てのデータ、つまりセンサーが集めた情報や過去のパフォーマンス、あるいは行動に関するインプットなどは、空間モデルへと変換され、入力を変更することで将来行動の予測が可能になる。
データとAIの予測能力が空間モデルを活性化するのである。
スウェーデンPresenso社が開発した同名のソフトウエアでは、正確で継続的な故障予知を、機械学習と深層学習を利用して実現する。
大量のデータを高速で集め、そのデータをリアルタイムでクラウドへと流し込むというものである。
独自のディープニューラルネットワークをもつ「Presenso」の分析エンジンは、機器で発生する出来事を自律的に結びつけ、最終的に起こり得る故障の予知にまで至る。
さらには故障発生までの残り時間や、機器のどの部分に発生するのかといった貴重な情報をも提供する。
「SkyPlanner APS」はAIを用いた計画・スケジューリングシステムである。
このソフトウエアは、作業指示を即時に最適化して生産効率が最も上がるスケジュールを組むが、さらに効率の上がる余地が残されているかどうか、AIアルゴリズムが細部までくまなく検討する。
例えば多くの場合、同じ素材やツールを使用する生産が連続するようなスケジュールが推奨される。
独Swarm Logistics社は、自律的なインテリジェント輸送システムの開発に特化したディープテックソフトウエア企業である。
同社の「Auto-Dispatcher」は、人工知能を用いて常に自己改善をし続ける精緻なアルゴリズムを採用している。
このソフトウエアを旧来のものと比較したある運送会社の事例ではコストが25%削減され、配送にかかる時間も35%短くなった。
独シーメンス・モビリティ社は、「ITS Digital Lab」と名付けられた一連のアプリケーションおよびサービスを、道路交通・電動自転車などの車両・インターモーダル輸送のスマートマネジメントに適用する実験を行っている。
「MindSphere」と呼ぶシーメンスのIoTプラットフォームに、コネクテッドカーがそれぞれの状態をリアルタイムでデータを送信し、スマートフォンを持つ道路上のユーザーが大量のデータを生み出す。
データの宝庫であるこうしたソースにより、モビリティサービスの光景は一変しつつある。
考察 戦術・戦略プロセス最適化 そう遠くない将来、予測精度の向上やユーザー・カスタマーへの理解を深める目的で、AIおよびその関連技術とメソッドが利用されるようになる。
このことは戦術・戦略レベルの予測最適化に大きな影響を及ぼすと同時に、カスタマーの新たな需要を見極めることにも用いられるようになる。
さらに詐欺行為の検知やサイバーセキュリティーへの脅威を排除したり、あるいはハイレベルなプロセス全般の最適化にも活用される。
AIによる予測分析で欠陥率を低減することで、より精密なプロジェクトマネジメントが可能になる可能性もある。
またもしAIがチェスの試合に勝つことができるとすれば、それを企業戦略の策定に用いることもできるようになるだろう。
サイバーフィジカルシステム(CPS) 情報がモノからデジタルモデル(デジタルシャドウ)という一方向にのみ流れるCPSに関しては、既に数多くの研究が存在するが、その次の段階では、双方向に情報が流れる、いわゆるデジタルツインがフィジカルシステムをコントロールするようになる。
CPSにはロジスティクスシステムから膨大な量のデータが送られてくる。
ところが現時点では、その大量のデータを活用する適切なツールが存在しないという問題がある。
そこで登場するのがAIメソッドであり、デジタルツインをベースとしたロジスティクスシステムのコントロールという構想を、CPSのビッグデータを分析することで実現するのである。
データのパターンを特定し、それによってワークフローとプロセスを自動化できれば、ロジスティクスシステムを即時かつ直接的にコントロールすることが可能となるだろう。
予知保全 予知保全というコンセプトが議論の俎上に載るようになったのは、今世紀初め頃のことである。
だが実際の研究が“爆発的”に増えたのは、予知保全を実現するAIベースのメソッドが現れ始めた2017年以降のことである。
AIメソッドの前提は大量のデータが利用できることである。
予知保全という研究領域が極めて重要であるのは、各種センサーを備えた新世代のロジスティクスシステムが、データ分析に利用し得る膨大なデータを産出するからである。
ハイブリッド型意思決定支援システム われわれは生産とロジスティクスにおける自動化およびデジタル化のポテンシャルは大いに認めつつも、多くのプロセスが依然として熟練労働者によって担われており、将来的にも生身の人間が重要な役割を果たすであろうと確信している。
大量のデータを活用すると同時に、人間の意思決定ケイパビリティを認知支援システムによって補強することが求められる。
そうしたデジタル支援システムの発展には、AIベースのメソッドが必要不可欠である。
これは純粋に合理的な意思決定支援ツールが得られるというだけではなく、命令に唯々諾々と従うだけの“愚かな”実行者という役割から人間を解放する、という意味合いもある。
今後はいわゆる“説明可能なAI”、つまり“説明可能なインターフェース”を通じて人間が結果を理解できるような、ハイブリッド方式に基づくソリューションを開発することが重要になるだろう。
実際そうしたハイブリッドシステムでなければ実現は難しいであろうとわれわれは予測している。
なぜなら純粋に合理的な意思決定に基づく支援システムを受け入れることに、人間は依然として抵抗を感じているからである。
生産計画および生産管理システム 他のクラスターと比較しておそらく最も進んでいる分野である。
長年にわたる取り組みが行われてきた計画の最適化とはつまるところ、先進的な計画およびスケジューリングというタスクを実行し、その結果をコントロールメカニズムに落とし込んで生産管理をすることである。
シミュレーションベースのスケジューリングメソッドについての研究は、1990年代初頭には散見されるようになっていた。
現在のAIのトレンドがリアルタイムプランニングの新しい地平線を開き、この分野に“ルネサンス”をもたらすだろうとわれわれは考えている。
センサーおよびシームレスに垂直統合したデータに立脚するAIほど迅速に情報を処理することは、人間には決してできないからである。
計算能力、そしてセンサーが集めるリアルタイムのデータを大量に記憶する容量がどちらも向上してきたことで、リアルタイムプランニングは手の届くところにまで来ている。
オペレーションプロセス改善 このクラスターで特筆すべきは、自然界からの類推を用いるケースが多いことである。
生物学的変化という話題はかねてより提起されている。
その流れは生体模倣技術による生産やロジスティクスに始まり、自然界におけるプロセスの類推から計算能力・AI・機械学習・深層学習を向上させるバイオインテグレーテッドやバイオインテリジェントと呼ばれるものにまで及ぶ。
高度道路交通ロジスティクス データを活用した道路交通の最適化と、自動運転車の近年の進化には目覚ましいものがある。
道路と主要ジャンクションは、最新の物体認識技術によってリアルタイムのモニタリングが可能となり、情報処理にかかる時間が短くなった。
今後の課題は、交通システムに対するサイバー攻撃の危険や不自然な判断を低減・除去するソリューションの研究・開発、そして人間の代わりに人工知能が下す判断の責任に関する倫理的問題であろう。
研究最新動向 われわれは今回、14年から19年1月という期間を区切った上で、Scopus(スコーパス:抄録・引用文献データベース)から関連する文献を選び出した。
当論文が甘受せざるを得ない制約の一つは、選別・分析・フレームワーク構築の作業中にも、ロジスティクス分野のAIに関する研究が日々進歩していることである。
この分野の研究はまさに日進月歩であり、その最新成果を反映していないことはわれわれの遺憾とするところである。
そこで最後に、19年から20年にかけて発表された当分野の重要な研究成果をいくつか簡単に紹介したい。
Giustiらの注目する「シンクロモーダルロジスティクス」は、新たな可能性を秘めたAIベースのメソッドである(*編集部注:本誌20年5月に特集第7部として翻訳文を掲載)。
シンクロモーダリティとは、ここ10年ほどベネルクス諸国で開発されてきた、新しく魅力的なロジスティクスコンセプトである。
リソースの有効利用と輸送フローの同期化より、サプライチェーンサービスの質を維持しながら、コスト・排出物・輸送時間を短縮することが主な狙いである。
ニューラルネットワークを活用するLeらのアプローチは、エネルギー効率を向上させるスロースティーミング(減速運航)メソッドの効果を確かめるなど、韓国のコンテナ船の燃料消費量の見積・予測・最適化などに用いられている。
Liuらは、ロジスティクスのサービスクオリティに対する、環境知能のコンテキストアウェアネスの効果を検証している。
コンテキストアウェアネスをベースとする環境知能は、その置かれた文脈を読んでユーザーの意図を予測する。
その予測機能をロジスティクスサービスに応用し、顧客の満足するようなカスタマイズサービスを提供しようというものである。
ユーザー指向サービスの一番の課題は、個々のユーザー状況の把握・そのユーザーの要求に最も適したサービスの選択・意思決定のリアルタイムサポートなどを、いかにして実現するかということなのである。
Ceyhunによれば、AIを活用して将来の事例を予想することで、船舶の事故を未然に防ぐことが可能になるという。
またAIは、スマートモビリティのインテリジェント道路監視システムや輸送メンテナンスシステムをも可能にするとされている。
(翻訳構成 大矢英樹)
