ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2004年5号
特集
ICタグは使えない 成田空港──タグありきの実証実験

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2004 20 成田空港──タグありきの実証実験 「手ぶら旅行」の実証実験にICタグが使用されている。
タグに は荷物検査の結果などが書き込まれている。
国土交通省が音頭 をとり、システムベンダーなど約20社が参画する大規模プロジェ クトだが、実験参加者からは「わざわざ高価なICタグを使用する 意図が分からない」といった声も上がっている。
(刈屋大輔) 爆発物検査結果をタグに記入 今年三月、成田空港で「手ぶら旅行」の実証実験 がスタートした。
この実験は国土交通省が推進してい る空港IT化プロジェクト「e ―エアポート構想」の 一環。
航空キャリアや宅配便会社、情報システムベン ダーなどがメンバーとなっている「次世代空港システ ム技術研究組合(ASTREC)」が母体となって展 開している。
「手ぶら旅行」とはスーツケースなどの手荷物を出 発前に宅配便会社に預けてしまえば、あとは海外の到 着空港で受け取るだけという仕組み。
このサービスを 利用すれば、旅行者は成田空港に向かう道中、重い 荷物を運ばなくてもいい。
さらに空港でのセキュリテ ィー検査などに時間を取られることもない。
一方、航 空会社は事前に手荷物を受け取ることができるため、 手荷物検査作業の平準化が可能になる。
宅配便会社への手荷物の引き渡しから到着空港で 荷受けするまでの流れを簡単に説明しよう。
まず利用 者は宅配便会社(佐川急便もしくは福山通運)に、日 本航空(JAL)利用の場合は出発日の前日の正午 までに、全日空(ANA)利用の場合は二日前まで に手荷物を渡す。
宅配便会社はICタグを埋め込ん だ送り状を発行する。
ICタグには利用者の搭乗便 名と出発日を事前に書き込んでおく。
宅配便会社は預かった手荷物を空港まで運ぶ。
そ の後、手荷物はEDS(爆発物検知装置)での検査 に向かう。
検査をパスした手荷物のICタグには「検 査合格」という情報を書き込む。
そして航空会社は検 査済みの手荷物を出発日まで専用スペースで一時保 管する。
その後のフローはこれまでと変わりない。
航空会社 は利用者がチェックイン後、預かっていた検査済みの 手荷物を搭乗航空機別に仕分けるBHS(手荷物移 動装置)に搬送する。
専用コンテナへの格納、機体へ の搬入を経て航空機は目的地に向かって出発。
最後 に利用者は到着空港、もしくは滞在場所(ホテル)で 手荷物を受け取る(次ページ写真参照)。
「手ぶら旅行」の実証実験は今年八月まで行われる 予定だ。
今年二月下旬からは航空会社のホームページ などを通じて実験モニターを募集した。
対象となるの はJALとANAの成田とニューヨーク、バンクーバ ー(JALのみ)、香港、フランクフルトを結ぶ各路線。
実験期間中に合計五万個の取り扱いを目指している。
「ある調査によると、成田空港利用者の空港到着時間 は航空機への搭乗の一六〇分前という結果が出てい る。
カウンターでのチェックインや出国検査に時間が 掛かることを見越して、早めに空港入りしているとい うのが実情だ。
このサービスを利用すれば、その時間 を大幅に短縮できる」と空港関係者は「手ぶら旅行」の浸透に大きな期待を寄せている。
前述したほかにも「手ぶら旅行」には様々なメリッ トがある。
例えば、「9・11」以降各国が警戒を強 めている航空機を狙ったテロへの対策としての効果も 謳われている。
ASTRECでは航空手荷物の所持 者を迅速かつ確実に特定できるため、セキュリティー の確保につながるとしている。
手荷物紛失(ロストバゲージ)の発生も防げる。
国 際航空運送協会(IATA)が公表したデータ(九 八年度分)によると、ロストバゲージが発生する割合 は一〇〇〇人当たり五・八三個(一時紛失を含む)。
ロストバゲージへの対応に要した費用は一個当たり三 五〇米ドルに達していた。
しかし今後は発生件数とコ ストを大幅に減らすことができると見ている。
第3部バブルに釘刺す現場からの報告 21 MAY 2004 バーコードでも対応可能 もっとも、その一方でICタグの導入が今回のプロ ジェクトに本当に必要だったのか。
その判断を疑問視 する声も出始めている。
三月中旬、成田空港では報 道陣を集めて「手ぶら旅行」のデモンストレーション が実施された。
それに参画したある航空関係者は「こ の程度の仕組みならバーコードでも十分対応できるの ではないか。
ICタグを採り入れる目的がはっきりと していない」と指摘する。
ICタグの代表的な特徴として「情報の読み書きが 自由」な点が挙げられる。
実証実験ではバーコードが 持たないこの機能を利用して、爆発物検査の結果がタ グに書き込まれている。
しかしタグには、リーダーを あてれば、対象の手荷物の検査結果が分かるものの、 目視ではそれが判別できないという弱点がある。
その ため、手荷物にはこれまで通り「セキュリティーチェ ック済み」であることを知らせるシールの貼り付ける 必要がある。
BHSでの方面別仕分けでも同じことが言える。
手 荷物のICタグにはあらかじめ搭乗便や出発日などの データが書き込まれている。
本来はこの情報を読み取 れば方面別仕分けは可能だ。
しかし実験では到着空 港と便名が記載されている従来のバーコードタグを併 用している。
ICタグが読み取られなかったり、途中 で損傷してしまった場合、目視できるタグがないと、 手荷物の行き先が分からなくなってしまう。
それを回 避するためだ。
下の写真は今回の実証実験がICタグありきで企 画されており、なぜICタグを使用するのか、その目 的が曖昧だったことを物語っている。
ICタグはバー コードの何倍もの情報量を蓄積できる。
その機能を活 かせば、これまで用途別に用意してきた各種タグをI Cタグに一本化できるはずだ。
ところが写真でも明ら かなように、実験では一本化どころか、タグやシール の数は従来よりもむしろ増えてしまっている。
情報を 目視できないというタグの弱みを補おうとした結果だ。
今回の実験に先立つかたちで二〇〇一年に実施さ れた実証実験ではICタグの読み書きの精度が九七 〜九八%にとどまった。
それが現在では技術革新によ って九九%台にまで向上している。
とはいえ、まだま だ決して満足できる水準にあるとは言えない。
結局、ICタグの技術はバーコードを凌駕していな い。
ICタグの読み書き精度の改善がなかなか進まな いため、今回の実験ではICタグとバーコードの併用 を余儀なくされている。
ANAの上田圭一オペレーシ ョン統括室旅客サービス部主席部員は「個人的には 『手ぶら旅行』のオペレーションはバーコードのみで も運用上、何ら問題はないと思う。
しかし今回のプロ ジェクトはあくまでも実証実験。
ICタグを使うとどんなことができそうなのか。
それを探るという意味合 いがあるのではないか」と説明する。
ICタグを採り入れないと「手ぶら旅行」は実現で きない――。
ICタグの普及に躍起になっている推進 派はそう喧伝しているが、その言葉を鵜呑みにするこ とはできない。
バーコードなど既存の技術を用いれば、 十分対応できるにもかかわらず、わざわざICタグを 取り込んで仕組みを複雑にしている。
何か違った目的 がありそうだ。
一部では「成田空港を利用する旅行者たちの利便 性向上を謳っているが、今回の実証実験の真の狙いは ICタグを使った個人認証でテロリストたちの密入 国・出国者を水際で食い止めることなのではないか」 (航空関係者)という見方も出始めている。
ICタグの採用でスーツケースはタグ やシールだらけに バーコードを読み取る際と変わらな い距離でICタグを読んでいる 「手ぶら旅行」で使用され ているICタグ 爆発物検査の結果がタグ に書き込まれる

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