{literal} {/literal}

2021年5月号
特集

「ホワイト物流」推進運動の現在地

トラック業界における労働問題の背景  日本の物流は貨物輸送量の9割を占めるトラック輸送によって支えられている。
トラックドライバーには、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下、改善基準告示)と呼ばれるドライバー特有の労働ルールが存在している。
しかし、荷主が十分に理解していないケースは意外に多い。
 「改善基準告示」には、一般的な労働者とは異なるトラックドライバーの労働時間や運転時間、休息期間などの特別な規制が設けられている。
他産業ではみられない労働時間と休憩時間を合わせた始業から終業までの時間、いわゆる「拘束時間」についても明確に規定されている。
 このトラックドライバー特有の労働ルールに関する理解度が一般的な荷主企業で低い点が、改善基準告示の内容を考慮しない輸送オーダーが出されてしまう一因となっている。
一方の運送会社側も荷主の要望に応えようとして、ドライバーの長時間運転や集荷先や配送先での待ち時間に目をつぶって運行を組むため、長時間労働に拍車をかけてしまう。
 ドライバーの労働条件の改善は業界の喫緊の課題とされながら、改善基準告示違反は高水準で推移して、思うようには改善は進んでこなかった。
荷主と物流事業者の力関係や、トラック運送業界の多重下請け構造がその背景にある。
 こうした問題を生み出した発端とされているのが、1990年(平成2年)の貨物自動車運送事業法、いわゆる「物流二法」の施行である。
トラック事業が「免許制」から「許可制」に規制緩和された。
これによって新規参入事業者が急増し、以降の約25年間で事業者数は1・5倍以上に膨らんだ。
 一方、この間は「失われた20年」とも呼ばれる景気低迷期にもあたり、輸送需要は低迷が続いた。
減っていく貨物を、増えていく事業者が奪い合うという構図の中、事業者間の荷主獲得競争が激化した。
これらの要素が相まって運賃や料金の水準は低迷していくこととなった。
 トラック運送業は総経費の約半分を人件費が占めるという典型的な労働集約産業だ。
運賃水準の下落は人件費の圧縮という形で、また荷主獲得競争は荷主に対する相対的な地位低下という形で、ドライバーの労働環境を悪化させる原因となった。
これが現在の「全産業と比較して低賃金・長時間労働」というドライバーの労働環境へとつながっていったのである。
長時間労働改善に向けたガイドライン  トラックドライバーは基本的にトラック運送事業者の社員であるため、その労働環境の改善については一義的にはトラック運送事業者がその責を負う。
ただ、貨物の積み降ろし作業が主に顧客である荷主や納品先の敷地内で行われるという特性もあり、トラック運送事業者の自助努力だけでは労働環境の改善を進めることが難しい。
 「積み込みや荷降ろし時の順番待ちによる手待ち時間が生じる」「荷主施設に荷役機械がなく手荷役せざるを得ないことにより労働負荷が高くなる」「急な輸送条件の変更などにより改善基準告示をオーバーせざるを得なくなる」など、筆者もよく見聞きする劣悪な労働環境を、荷主の協力なしに抜本的に改善するのは困難である。
 こうしたことから、2015年にはトラック運送事業者、荷主、行政などの関係者が一体となり、トラック運送事業における取引環境の改善および長時間労働の抑制を実現するための具体的な環境整備を図ることを目的として、「トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会」が設置された。
事務局は厚生労働省、国土交通省、全日本トラック協会が担当している。
 この協議会では、設置の趣旨に基づいて16年度、17年度の2年にわたり、全国47都道府県において荷主とトラック運送事業者が協力しながらトラックドライバーの労働時間短縮を目指すパイロット事業を実施した。
その成果に基づいて「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」を策定し、18年11月に公表している。
 ガイドラインは、長時間労働の発生する原因ごとに改善に向けた対応策を整理している。
その上で2年間のパイロット事業で得られた長時間労働改善などの知見を具体的な事例を交えて紹介するとともに、荷主とトラック運送事業者の協力による長時間労働改善に向けた取り組みを紹介している。
 このガイドラインは国土交通省のホームページでも公表されている(http://www.mlit.go.jp/common/001260158.pdf)ので、本稿をご覧の荷主の皆さまにも是非ともご一読いただきたい。
「ホワイト物流」推進運動の展開  トラックドライバーの長時間労働の改善に向けた取り組みが進む一方、トラックだけでなくバス・タクシー事業を含む自動車運送事業全般についても労働環境を改善する動きが進んでいる。
 内閣官房副長官を議長とし、関係省庁の局長などを構成員とする「自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」が17年6月に設置され、翌年5月には「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画」が取りまとめられた。
 同計画においては、自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画として88の施策が掲げられた。
そこに「『ホワイト物流』推進運動の展開」に関する施策などが盛り込まれることとなった。
 これを受けて18年12月14日に開催された第1回ホワイト物流推進会議において、深刻化が続くトラック運転者不足の解決に向けた新たな取り組みがスタートした。
「トラック輸送の生産性向上・物流の効率化」と「女性や60代以上の高年齢層を含む多様な人材が活躍できる働きやすい労働環境の実現」を目指すことで、より“ホワイト”な労働環境の実現に取り組む「ホワイト物流」推進運動を企業、物流事業者、国民などの関係者が連携して強力に推進することが決定された。
 運動は国土交通省、経済産業省、農林水産省の3省庁が共同で事務局を担っており、19年4月には「ホワイト物流」推進運動のポータルサイト(https://white-logistics-movement.jp/)も開設されている。
 トラックドライバーの労働条件や労働環境の改善は、物流事業者のみならず荷主企業を含めた多くの関係者が連携して相互に改善を提案し、協力して実現を目指すことが必要となる。
そのため、「ホワイト物流」推進運動では関係者に対して、物流の改善に向けた「自主行動宣言」を提出してもらい、記載内容に取り組むことを要請している。
 「自主行動宣言」を提出する全ての企業は、この運動の趣旨への賛同とともに、以下3点の必須項目に合意することを求めている。
(取り組み方針) ・ 事業活動に必要な物流の持続的・安定的な確保を経営課題として認識し、生産性の高い物流と働き方改革の実現に向け、取引先や物流事業者等の関係者との相互理解と協力のもとで、物流の改善に取り組みます。
(法令遵守への配慮) ・ 法令違反が生じる恐れがある場合の契約内容や運送内容の見直しに適切に対応するなど、取引先の物流事業者が労働関係法令・貨物自動車運送事業関係法令を遵守できるよう、必要な配慮を行います。
(契約内容の明確化・遵守) ・ 運送及び荷役、検品等の運送以外の役務に関する契約内容を明確化するとともに、取引先や物流事業者等の関係者の協力を得つつ、その遵守に努めます。
 これに加えて任意の取り組み事項として、28項目からなる推奨項目リストから、自社でさらに取り組もうと考える項目を記載して提出することを求めている。
このうち13項目は前述の「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」における「改善に向けた対応」と共通している。
「ホワイト物流」推進運動と荷主企業  このように「ホワイト物流」推進運動は「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」の流れをくむ国民運動であり、その推進に当たっては「荷主と運送事業者の協力」が念頭に置かれている。
とりわけ荷主の協力は不可欠であり、荷主の賛同が増えていくことが運動として重要である。
 しかし、20年度末の自主行動宣言提出企業の内訳を見ると全体の半分は「運輸業・郵便業」であり、荷主の中心となる「製造業」と「卸売業・小売業」を合わせても「運輸業・郵便業」の企業数に満たない状況にある。
 19年3月には証券取引所の上場会社および各都道府県の主要企業の合計約6300社の代表者に対し、運動への参加を要請する文書が送付されている。
そのうち「製造業」と「卸売業・小売業」を合算すると約4500社に達する。
それを考えれば、荷主への運動の広がりは十分でないようにみえるかもしれない。
 しかし、企業がこのような宣言を行う際には社内のコンセンサスが必要である。
大企業ほど、そのプロセスは複雑であり、かつ時間もかかるのが常である。
「宣言提出企業が少ない=運動が広がっていない」ということではないだろうと筆者は捉えている。
 実際、物流現場においても、労働環境の改善に向けた申し入れなどに耳を傾けてくれる荷主は増えているという声を聞く。
宣言企業の数は一つのKPIではあるが、宣言企業数以上に運動は浸透しており、「荷主の理解・協力」も着実に進んでいると感じている。
自主行動宣言提出荷主企業の取り組み  「ホワイト物流」推進運動事務局では自主行動宣言提出企業の取り組み事例をとりまとめている。
その中からいくつか紹介したい。
①曜日別に発生している荷待ち時間の  削減方法を研究、提案し、実証(小売業)  荷待ち時間の発生状況について曜日ごとの波動を集計、分析することで、荷役にかかる時間の違いにあわせて、これまで一律としていた集荷の開始時間を曜日ごとに変えるというトライアルを実施。
トラックの構内滞留時間の削減効果を検証し、確かな削減効果が認められたことから実際の運用を始めている。
②長時間待機や付帯作業が発生している  着荷主に改善を要請(製造業)  物流事業者にヒアリングを実施し、着側で長時間待機や付帯作業が発生している荷主について確認を行い、その中で物流事業者側から改善要請があったものについては、着荷主に対して改善要請を行った。
 着先の施設状況などにより、理解は得られても対応の難しいケースがある一方で、要請に応じてくれた着荷主もおり、「荷主の理解・協力」が着実に進んでいることの一つの表れといえる。
③車上受け、車上渡しの徹底(製造業)  自社側工場内でのドライバーによるフォーク荷役作業を全て廃止。
「車上受け、車上渡し」を徹底するとともに、ドライバーの作業負荷軽減に向けて着先の顧客にも同様の取り組みを実施するよう、協力要請を行った。
 これも前述のケースと同様、着先の施設状況などにより対応が難しいケースもある一方で、要請に応じる着荷主もいるとのことである。
④使用するパレットに合わせた  カートンに変更(製造業)  従前は商品ごとに個装のパッケージデザインを中心に検討しており、結果として個装サイズにあわせたカートンサイズとなっていた。
そのため、パレットへの積み付け時の積載効率が低くなり、パレット化への阻害要因になっていた。
そこで使用するパレットのサイズをベースとしたカートンサイズを検討し、あらためて個装デザインを設定した。
 これによりパレット化が進めやすくなり、輸送効率が向上した。
今後も継続的な見直しを実施し、工場ラインの入れ替えなどのタイミングをみながら、随時変更を進めていく方針であるとのことである。
加工食品業界の外装サイズ標準化  以上は個別企業の取り組みであるが、「荷主の理解・協力」が企業の枠を超えて業界としての取り組みに発展するケースも出てきている。
 加工食品業界では、前述の自主行動宣言取り組み事例④のように、外装サイズに各メーカー、各アイテムで多種多様なパターンが存在し、荷役の非効率(パレット積載率の低下)や輸送・保管効率を低下させる要因となっていた。
そこで企業の枠を超えたサプライチェーンの全体最適の視点から、外装サイズ標準化のガイドライン策定を進めてきた。
 20年度に立ち上げられた「加工食品分野における外装サイズ標準化協議会」に、メーカー、卸・小売、物流業などサプライチェーンに関わる各プレーヤーが参画、標準パレットサイズの策定と積み付けパターン、外装サイズの決定フローや部署を横断した調整フローなどについて議論を重ねた。
 21年4月に「加工食品分野における外装サイズガイドライン」が策定された。
さらに21年度以降はマテハン機器メーカーなどにも協議会への参画を促し、自動倉庫やロボット荷役などを視野に入れたガイドラインの改訂版策定に向けた議論を深めていくこととしている。
「ホワイト物流」推進運動の今後  自主行動宣言を提出した物流企業の間からは、「ホワイト物流」推進運動への参加を関係各所にアナウンスすることにより、荷主に対してリードタイムの順守など、ドライバーの労働環境改善のための要請を出しやすくなったという声が上がってきている。
運動の浸透が一定の効果を与えていることは間違いないであろう。
 労働力不足がトラックドライバーにおいて特に顕著であることの背景には、他の職業と比べて長時間労働・低賃金の状況であることが大きい。
「他業種と比べて労働時間が2割長く、年間賃金が2割低い」とも言われる。
“ホワイト”な労働環境の実現には長時間労働とともに賃金水準の見直しも必須であることは言うまでもない。
 国土交通省は、持続可能な物流の実現に向けた動きを加速させている。
取引の適正化・労働条件の改善を進める事を目的として、20年4月24日にトラック運送業に関わる「標準的な運賃」を告示した。
①ドライバーの労働条件を改善するとともに、②貨物自動車運送事業の健全な運営を確保し、③その担う貨物流通の機能の維持向上を図ることを目的として、能率的な経営の下における適正な原価と適正な利潤を基準として、国土交通大臣が望ましい水準の運賃を示したものである。
 トラックドライバーの賃金の原資は言うまでもなく荷主から収受する運賃であり、賃金水準の見直しには「標準的な運賃」で示された適正運賃の収受が不可欠である。
より〝ホワイト〟な労働環境の実現に向け、今後は適正運賃の収受が実現していくことを筆者は期待するものである。

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから