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MAY 2004 18
日本航空──改善点多く本格導入は見送り
輸入貨物の荷捌きスピード向上を狙い、ICタグの実証
実験に踏み切った。 しかしタグの読み取り精度が低いとい
った問題に直面。 その結果、導入は時期尚早との判断を
下した。 今後は技術の進歩を待ちながら、引き続き導入
の可能性を探っていくという。 (刈屋大輔)
貨物の所在が分からない
成田空港(新東京国際空港)に到着した輸入貨物
は、航空フォワーダー各社に引き渡されるまでの間、
いったん空港の貨物施設内に仮置きされる。 貨物をど
こに置くか。 その場所はフォークマンの裁量で決まる。
明確なルールはない。 そのため、いざ引き渡しを迎え
た時に、ピッキングする別のフォークマンは目的の貨
物を探すのに苦労する。 航空キャリアの物流現場のオ
ペレーションはシステム化されておらず、とても非効
率な状態にあるという。
日本航空(JAL)も例外ではなかった。 同社の
貨物事業業務部IT推進室の甲守弘主任は「作業は
フォークマンの経験や勘に頼っている。 そのため空港
内の広いスペースの中から目当ての貨物を見つけるの
に時間が掛かっていた。 成田での貨物取扱量は年々
拡大している。 貨物部門ではオペレーションのスピー
ドアップが大きなテーマとなっていた」と現状を説明
する。
とはいえ、現場では改善につながるアイデアがなか
なか思い浮かばなかった。 そんな時、日本ユニシスか
らICタグの実証実験の話が舞い込んできた。 ICタ
グを活用すれば、仮置きした貨物の所在は一目で分か
るようになる。 さらに航空機の到着から貨物の引き渡
しまでの作業時間を大幅に短縮できるという触れ込み
だった。
JALでは以前からICタグへの関心が高かった。
旅客部門では「手ぶら旅行」(二〇頁ケーススタディ
参照)のプロジェクトを通じてICタグの実用化を検
討している。 この技術を物流現場の効率化にも役立て
ることができないだろうか。 そんな期待もあって貨物
部門ではユニシスからの打診を受け入れることにした
という。
アクティブタグの問題点
最初の実験〈フェーズ1〉は昨年四月にスタートし
た。 ここではまずリーダー(読み取り機械)がICタ
グをきちんと読み取れるかどうかを確認する基礎実験
に重点を置いた。 具体的には疑似貨物にICタグを
貼付し、フォークリフトにリーダーを搭載。 読み取り
可能な距離や角度、ICタグを貼付すべき箇所などを
細かくチェックして、詳細なデータを集めた。
そしてもう一つ。 基礎実験と並行して貨物施設内
の柱にICタグを貼付。 リーダーを搭載したフォーク
リフトがそのタグを読み取ることで、フォークリフト
がどこを走行中なのか、正確な位置を把握するという
試みも行った。 この実験はピッキングすべき貨物の所
在を明らかにして、その場所にフォークリフトを誘導
する位置管理システムの構築に役立てることを目的と
していた。 基礎実験を通じてリーダーがタグを読み取れること
は確認できた。 ただしその一方で、実用化に向け技術
的にクリアすべき課題が多いことも判明した。 一つは
タグの種類の問題だ。
タグには、タグ自身が電波を発する「アクティブ」
タイプと、送られてきた電波に反応する「パッシブ」
タイプがある(一〇頁記事参照)。 フェーズ1の実験
ではこのうち「アクティブ」を使用したが、この「ア
クティブ」は電波の飛ぶ距離が長いという特徴がある
ものの、その能力が災いして、タグが二つ並んでいる
場合、リーダーが目的のタグの隣のタグまで読み取っ
てしまい、個体を特定できないケースもあるというこ
とが分かった。
それだけではない。 「アクティブ」には電波を発す
第3部バブルに釘刺す現場からの報告
19 MAY 2004
るために電池が必要となる。 その電池を誰がどのタイ
ミングで交換するのか。 そして電池が切れてしまった
場合、貨物が行方不明になる恐れがあるといった問題
点が浮き彫りとなった。
友成潔貨物事業業務部IT推進室長は「電池切れ
や破損などでタグが動かなくなった場合を想定してバ
ーコードを併用するのも一つの手だ。 しかし、それな
らタグではなくてバーコードで十分なのではないか。
携帯端末でバーコードを読み取る場合、きちんとスキ
ャンできたかどうかは音で判断できる。 ところがタグ
の場合、本当に読み取れたかどうか確認できない。 読
み取りミスが発生しても、そのまま次の工程が進んで
いってしまう可能性がある」と指摘する。
フォークリフトの位置管理システムの実験では、タ
グの近くに金属物がある場合、データに不都合が生じ
ることが分かった。 実際にフォークリフトは実験エリ
ア内の中央部分を走行しているにもかかわらず、コン
ピュータの画面上では右寄りを走行しているように表
示されるなど情報の精度が低かった。
続いて、昨年十二月と今年一月に第二段階の実験
〈フェーズ2〉を行った。 ここでは疑似貨物ではなく、
普段扱っている様々な形状や材質の貨物にICタグ
を貼付。 それでも読み取りが可能かどうかを確かめた。
使用したタグは問題点の多かったアクティブ型ではな
く、パッシブ型に切り替えた。
実験の結果、貨物の形状や材質などが違ってもタグ
の読み取りには支障を来さないということが分かった。
さらに使用したパッシブ型タグの読み取り距離は一メ
ートル程度だったため、アクティブ型のように隣のタ
グまで読み取ってしまうこともなくなった。
ただし、パッシブ型に課題がないわけではなかった。
読み取り距離が短く、タグに対して真っ直ぐにリーダ
ーを向けないと読み取らない。 貨物を載せたパレット
にフォークリフトの爪をさす場合、タグが貼付されて
いる面に限定されてしまう、といった問題点があった。
一方、フォークリフトの位置管理の実験では一定の
成果が得られた。 新たに無線LAN技術を採り入れ
たことで、フォークリフトとピッキングすべき貨物の
位置情報をほぼ正確に計算できるようになった。 画面
表示のズレも解消された。
バーコードを凌駕できるか
過去二回の実証実験を通じて、JALではICタ
グには技術的な課題が少なくないものの、物流管理に
も活用できそうだという一定の評価を下した。 ただし、
すぐに実際の現場にICタグを導入するかというと話
は別だという。 当面は様子見を続け、ICタグの技術
革新を待つ意向だ。 今後新たな実証実験は予定して
いない。
現在、航空機の到着〜フォワーダー各社への貨物の引き渡しまでの物流は主にバーコードで管理されて
いる。 これをICタグに置き換えた場合、どれだけの
成果を上げられるのか。 ICタグの使用でむしろ現場
の作業員たちに余計な手間や新たな負担が加わってし
まうのではまったく意味がないと見ている。
例えば、これまでフォークマンはいったんフォーク
リフトから降りてからハンディで貨物のバーコードを
スキャンしていた。 「それがICタグならば、リフト
から降りなくても済むようになる。 そのくらい劇的な
改善がないと本格導入には踏み切れない。 むしろ現
在はタグとリーダーの接触面が限られているなど制約
のほうが多すぎる。 バーコードを凌駕する技術的な進
歩がないと、ICタグは普及しない」と友成室長は
指摘する。
段ボールの正面部分に付いている
黒い棒状のものがICタグ
フォークリフトの爪の間にある白い
部分がリーダー。 この部分に水平に
なるようICタグをあてないと読みと
れない
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