2021年5月号
特集
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物流子会社政策の理論と意思決定
物流組織再編を巡る二つのトレンド
2000年初頭から、物流機能の多くをノンコア・アクティビティと位置付けるトレンドが広がり、物流子会社の売却や清算の動きがさまざまな業界で目立つようになった(図表1)。
取り組みの主な目的は物流コストの削減や資本効率の改善である。
物流子会社の売却によりアウトソーシングに移行し、物流体制を再編する。
物流リソースを切り離すことができれば、コア業務に集中し企業としての競争力を高めることができる。
昨今、物流子会社を売却する流れはいったん落ち着いた様子だったが、昨年の実績を見る限り、売却は依然として続いていることが分かる(図表2)。
しかし、各社の動きをさらにつぶさに見ていくと、物流体制再編の動きは物流子会社の売却だけでなく、親会社に統合するなど、物流子会社の売却を伴わない再編もこのところ多く見られるようになってきている(図表3)。
最近報道された事例だけでも、物流子会社を親会社に吸収合併したもの、複数の物流子会社を統合して機能強化したもの、親会社側にSCM本部やロジスティクス部を新設したものなど、従来と異なり、さまざまな物流組織再編の取り組みが行われていることが見て取れる。
各社の新しい取り組みの背景に、メーカーにとって物流機能のいくつかが、従来のノンコアからコア・アクティビティへとその位置付けが変わりつつあるものと推測される。
メーカーにとっての物流の位置付けが変わった要因として、メーカー自身が三つの課題に直面することになった影響があるものと考えられる(図表4)。
一つは、いわゆる物流危機対策だ。
燃料費の高騰、ドライバー不足をはじめとするリソースのひっ迫によって安定した物流サービスの提供が脅かされていることへのリスク対策である。
二つ目はビジネスの変革に対応した物流機能の整備だ。
さまざまな商材のEC化率の上昇、〝モノ売りからコト売り〟への変化、さらにはSDGs(持続可能な開発目標)をはじめとする企業の社会的責任に応えるために、サプライチェーンの実行系をあらためて強化する必要が生じている。
そして三つ目がサプライチェーン計画機能の強化である。
2000年代のサプライチェーン計画ソフト(SCP)の導入に始まったSCMの取り組みが「PSI(Purchasing/Production・Sales・Inventory)計画」や「S&OP(Sales and Operations Planning)」にかたちを変えて今も続いており、ますますその重要性は増している。
また、より経営観点を持った「IBP(Integrated Business Planning)」が注目されている。
SAPの「ERP6.0」の標準サポートが2027年に終了する、いわゆる「2027年問題」に合わせて、サプライチェーン計画機能の強化を再び俎上に載せるメーカーは多い。
そのほか、当初のSCMシステムの想定から社内外の環境が一巡し、あらためてシステム開発に取り組まざるを得なくなっているメーカーもある。
これら三つの課題が各社に及ぼす影響の違いにより選択される施策は当然分かれ、結果として物流組織再編後の姿も異なるものになる。
ロジスティクスは「企画」「管理」「運用」の三つの物流機能から成り、この三機能はさらに細かい粒度の構成要素に分解される(図表5)。
コア・ノンコアの判断とは、自社にとっての物流機能の重要性に基づき、適切な粒度に分解された物流機能の各構成要素のそれぞれに対し“誰が担うべきか”を各社が決定することで細部が明確化されることであり、その作業のアウトプットが同時に新たな物流組織として全体像を描出するのである。
図表5の企画機能にある「コンセプト策定」や社内外のステークホルダーとの「合意形成」は、各社に共通するコア機能であり、アウトソーシングするという選択肢は現実的ではないだろう。
しかし、それ以外の機能については、各社の考え方がいくつかのパターンに分かれると考える。
適切な粒度に分解された物流機能の各構成要素のそれぞれの担い手が決定され物流組織の全体像が描出されたものが分業パターンであり、コア・ノンコアの範囲を表現しているほか、新たな物流組織としての全体像がハイレベルで描出されたものである。
主な分業パターンは一例として示した五つに整理できると想定する。
・ ケース1―庫内作業と実運送だけを専業者に委託する。
物流機能の多くをコア・アクティビティと位置付け、庫内作業や実運送を除く全ての機能を自社化する。
・ ケース2―「企画」と「管理」に加え、「運用」における「運用・業務設計」までを荷主が担う。
・ ケース3―「企画」と「管理」を荷主が担い、「運用」は全て3PLに委託する。
・ ケース4―「企画」のほか、「管理」における「KPI・閾値設計」までを荷主が担い、それ以外の「管理」と「運用」の構成要素を3PLに委託する。
・ ケース5―荷主は「企画」の担い手であるが、LLP(Lead Logistics Provider)/4PLなどがアウトソーシング先のコントロールを含め三つの物流機能を全面的に支援し、荷主の機能を補完する。
本ケースは物流機能強化の実現方法の一つに位置付けられ、「企画」「管理」を中心に、高度な物流機能の実現を自社の力だけでは成し得ない場合に有効と考えられる。
本来はこのように、物流に係る内外の環境変化が自社に及ぼす影響を踏まえ、一連のコア・ノンコア分析を通じて、目指す物流組織の姿を明確化し、〝売却する/売却しない〟といった二つのトレンドを含む施策が導き出され、そして実行されるものと考える。
物流子会社政策の意思決定 物流子会社を持つメーカーの多くは、「ケース1」か「ケース3」の分業パターンに分類できると考える。
「ケース1」は「企画」と「管理」を親会社の物流部門、作業を除く「運用」を物流子会社が分担する。
「ケース3」は親会社が「企画」を担当するほか、「管理」については親会社もしくは物流子会社が担い、「運用」を3PLに委託するパターンである。
前述の一連のコア・ノンコア分析により自社の物流機能の多くをノンコアと位置付けたメーカーは、物流子会社の売却を伴うSCMの効率化施策を選択するケースが多いであろう(図表4)。
ただし、アウトソーシングによるブラックボックス化に対する懸念がある場合は、SCM業務における異常検知(モニタリング)や原因探索(コントロール)までを行う目的で、「管理」の一部を本社に保有する必要がある(図表6)。
一方、ある程度の物流機能をコアと見なした場合には、親会社への統合など子会社を売却せずSCMにおけるロジスティクス機能の強化施策を選択するケースが多くなると考える(図表4)。
この場合はさらに、三つの分業パターンが選択肢と成り得る(図表6)。
一つは、親会社に付加価値機能を集約するパターンである。
親会社は「企画」のほか「管理」における「KPI・閾値設計」までを、子会社は「運用」のうち少なくとも「運用・業務設計」をカバーする。
親会社には企画・管理能力、子会社には運用能力が問われることになる。
二つ目の分業パターンは、親会社が「企画」、子会社が「管理」「運用」を担うものである。
子会社が高い管理能力と対応力に富んだ運用の責任を負うことがその条件となる。
物流子会社が親会社の物流部門の一部としての役割を完全に果たすことが求められる。
そして三つ目は、親会社が子会社の物流機能を取り込み、「企画」「管理」「運用」を一元的にカバーする分業パターンである。
前者の二つの分業パターンと異なり、物流機能がコアと位置付けられるにもかかわらず、子会社の物流機能を全て本社に移管してしまうものである。
言うまでもなく、この分業パターンの実現は三つの選択肢の中では最もハードルが高い。
メーカーのグループ内で三つの物流機能が既に高いレベルで内製化できていない場合は、先述のLLPや4PLの支援を受けることで親会社による一元化を図ることが現実的であろう。
図表1の事例のように、長期間にわたってさまざまな業界で物流機能をノンコアと捉える動きが続いてきた。
この流れに変化を与えた一つの要因は、先に示した三つの課題である。
この数年で存在感を増している三つの課題に対し各社が取り得るコア・ノンコアにおけるいずれの施策も、実現には物流人材の確保・育成が焦点となる。
長期間にわたってアウトソーシングのトレンドが続いた後の急激な方向転換に直面し、各社が物流機能における高度な専門性を短期間に獲得することは容易ではない。
このところ、われわれPwCコンサルティングでは、環境変化を見据えた物流組織のあるべき姿について、荷主企業から相談を受ける機会が増えている。
物流機能の担い手の検討、組織や体制構築における高度な専門性を持った人材の確保・育成のほか、本稿ではこれまで触れてこなかった、組織を設計通りのパフォーマンスで運用するための、商習慣の見直しについても踏み込んで取り組む必要がある。
物流業務の分業について、殊に日系企業においては、親会社と物流子会社間の役割と責任の設定が曖昧なだけでなく、荷主と3PL間にも同様の指摘が当てはまるといった声が聞かれる状況である。
そこでまずは体制検討に際し、例えば「RACI:実行責任者(Responsible)、説明責任者(Accountable)、協業先(Consulted)、報告先(Informed)」のようなかたちで各機能の役割分担を明確にすることが重要である。
組織や体制を見直し実効性を持たせることは、取り組みの範囲が広く、非常に困難なことである。
今後、さらに多くの荷主が同様の課題に直面することになるだろう。
取り組みの主な目的は物流コストの削減や資本効率の改善である。
物流子会社の売却によりアウトソーシングに移行し、物流体制を再編する。
物流リソースを切り離すことができれば、コア業務に集中し企業としての競争力を高めることができる。
昨今、物流子会社を売却する流れはいったん落ち着いた様子だったが、昨年の実績を見る限り、売却は依然として続いていることが分かる(図表2)。
しかし、各社の動きをさらにつぶさに見ていくと、物流体制再編の動きは物流子会社の売却だけでなく、親会社に統合するなど、物流子会社の売却を伴わない再編もこのところ多く見られるようになってきている(図表3)。
最近報道された事例だけでも、物流子会社を親会社に吸収合併したもの、複数の物流子会社を統合して機能強化したもの、親会社側にSCM本部やロジスティクス部を新設したものなど、従来と異なり、さまざまな物流組織再編の取り組みが行われていることが見て取れる。
各社の新しい取り組みの背景に、メーカーにとって物流機能のいくつかが、従来のノンコアからコア・アクティビティへとその位置付けが変わりつつあるものと推測される。
メーカーにとっての物流の位置付けが変わった要因として、メーカー自身が三つの課題に直面することになった影響があるものと考えられる(図表4)。
一つは、いわゆる物流危機対策だ。
燃料費の高騰、ドライバー不足をはじめとするリソースのひっ迫によって安定した物流サービスの提供が脅かされていることへのリスク対策である。
二つ目はビジネスの変革に対応した物流機能の整備だ。
さまざまな商材のEC化率の上昇、〝モノ売りからコト売り〟への変化、さらにはSDGs(持続可能な開発目標)をはじめとする企業の社会的責任に応えるために、サプライチェーンの実行系をあらためて強化する必要が生じている。
そして三つ目がサプライチェーン計画機能の強化である。
2000年代のサプライチェーン計画ソフト(SCP)の導入に始まったSCMの取り組みが「PSI(Purchasing/Production・Sales・Inventory)計画」や「S&OP(Sales and Operations Planning)」にかたちを変えて今も続いており、ますますその重要性は増している。
また、より経営観点を持った「IBP(Integrated Business Planning)」が注目されている。
SAPの「ERP6.0」の標準サポートが2027年に終了する、いわゆる「2027年問題」に合わせて、サプライチェーン計画機能の強化を再び俎上に載せるメーカーは多い。
そのほか、当初のSCMシステムの想定から社内外の環境が一巡し、あらためてシステム開発に取り組まざるを得なくなっているメーカーもある。
これら三つの課題が各社に及ぼす影響の違いにより選択される施策は当然分かれ、結果として物流組織再編後の姿も異なるものになる。
ロジスティクスは「企画」「管理」「運用」の三つの物流機能から成り、この三機能はさらに細かい粒度の構成要素に分解される(図表5)。
コア・ノンコアの判断とは、自社にとっての物流機能の重要性に基づき、適切な粒度に分解された物流機能の各構成要素のそれぞれに対し“誰が担うべきか”を各社が決定することで細部が明確化されることであり、その作業のアウトプットが同時に新たな物流組織として全体像を描出するのである。
図表5の企画機能にある「コンセプト策定」や社内外のステークホルダーとの「合意形成」は、各社に共通するコア機能であり、アウトソーシングするという選択肢は現実的ではないだろう。
しかし、それ以外の機能については、各社の考え方がいくつかのパターンに分かれると考える。
適切な粒度に分解された物流機能の各構成要素のそれぞれの担い手が決定され物流組織の全体像が描出されたものが分業パターンであり、コア・ノンコアの範囲を表現しているほか、新たな物流組織としての全体像がハイレベルで描出されたものである。
主な分業パターンは一例として示した五つに整理できると想定する。
・ ケース1―庫内作業と実運送だけを専業者に委託する。
物流機能の多くをコア・アクティビティと位置付け、庫内作業や実運送を除く全ての機能を自社化する。
・ ケース2―「企画」と「管理」に加え、「運用」における「運用・業務設計」までを荷主が担う。
・ ケース3―「企画」と「管理」を荷主が担い、「運用」は全て3PLに委託する。
・ ケース4―「企画」のほか、「管理」における「KPI・閾値設計」までを荷主が担い、それ以外の「管理」と「運用」の構成要素を3PLに委託する。
・ ケース5―荷主は「企画」の担い手であるが、LLP(Lead Logistics Provider)/4PLなどがアウトソーシング先のコントロールを含め三つの物流機能を全面的に支援し、荷主の機能を補完する。
本ケースは物流機能強化の実現方法の一つに位置付けられ、「企画」「管理」を中心に、高度な物流機能の実現を自社の力だけでは成し得ない場合に有効と考えられる。
本来はこのように、物流に係る内外の環境変化が自社に及ぼす影響を踏まえ、一連のコア・ノンコア分析を通じて、目指す物流組織の姿を明確化し、〝売却する/売却しない〟といった二つのトレンドを含む施策が導き出され、そして実行されるものと考える。
物流子会社政策の意思決定 物流子会社を持つメーカーの多くは、「ケース1」か「ケース3」の分業パターンに分類できると考える。
「ケース1」は「企画」と「管理」を親会社の物流部門、作業を除く「運用」を物流子会社が分担する。
「ケース3」は親会社が「企画」を担当するほか、「管理」については親会社もしくは物流子会社が担い、「運用」を3PLに委託するパターンである。
前述の一連のコア・ノンコア分析により自社の物流機能の多くをノンコアと位置付けたメーカーは、物流子会社の売却を伴うSCMの効率化施策を選択するケースが多いであろう(図表4)。
ただし、アウトソーシングによるブラックボックス化に対する懸念がある場合は、SCM業務における異常検知(モニタリング)や原因探索(コントロール)までを行う目的で、「管理」の一部を本社に保有する必要がある(図表6)。
一方、ある程度の物流機能をコアと見なした場合には、親会社への統合など子会社を売却せずSCMにおけるロジスティクス機能の強化施策を選択するケースが多くなると考える(図表4)。
この場合はさらに、三つの分業パターンが選択肢と成り得る(図表6)。
一つは、親会社に付加価値機能を集約するパターンである。
親会社は「企画」のほか「管理」における「KPI・閾値設計」までを、子会社は「運用」のうち少なくとも「運用・業務設計」をカバーする。
親会社には企画・管理能力、子会社には運用能力が問われることになる。
二つ目の分業パターンは、親会社が「企画」、子会社が「管理」「運用」を担うものである。
子会社が高い管理能力と対応力に富んだ運用の責任を負うことがその条件となる。
物流子会社が親会社の物流部門の一部としての役割を完全に果たすことが求められる。
そして三つ目は、親会社が子会社の物流機能を取り込み、「企画」「管理」「運用」を一元的にカバーする分業パターンである。
前者の二つの分業パターンと異なり、物流機能がコアと位置付けられるにもかかわらず、子会社の物流機能を全て本社に移管してしまうものである。
言うまでもなく、この分業パターンの実現は三つの選択肢の中では最もハードルが高い。
メーカーのグループ内で三つの物流機能が既に高いレベルで内製化できていない場合は、先述のLLPや4PLの支援を受けることで親会社による一元化を図ることが現実的であろう。
図表1の事例のように、長期間にわたってさまざまな業界で物流機能をノンコアと捉える動きが続いてきた。
この流れに変化を与えた一つの要因は、先に示した三つの課題である。
この数年で存在感を増している三つの課題に対し各社が取り得るコア・ノンコアにおけるいずれの施策も、実現には物流人材の確保・育成が焦点となる。
長期間にわたってアウトソーシングのトレンドが続いた後の急激な方向転換に直面し、各社が物流機能における高度な専門性を短期間に獲得することは容易ではない。
このところ、われわれPwCコンサルティングでは、環境変化を見据えた物流組織のあるべき姿について、荷主企業から相談を受ける機会が増えている。
物流機能の担い手の検討、組織や体制構築における高度な専門性を持った人材の確保・育成のほか、本稿ではこれまで触れてこなかった、組織を設計通りのパフォーマンスで運用するための、商習慣の見直しについても踏み込んで取り組む必要がある。
物流業務の分業について、殊に日系企業においては、親会社と物流子会社間の役割と責任の設定が曖昧なだけでなく、荷主と3PL間にも同様の指摘が当てはまるといった声が聞かれる状況である。
そこでまずは体制検討に際し、例えば「RACI:実行責任者(Responsible)、説明責任者(Accountable)、協業先(Consulted)、報告先(Informed)」のようなかたちで各機能の役割分担を明確にすることが重要である。
組織や体制を見直し実効性を持たせることは、取り組みの範囲が広く、非常に困難なことである。
今後、さらに多くの荷主が同様の課題に直面することになるだろう。
