2021年3月号
特集
特集
日本型フィジカルインターネットの実践
物流シェアリングの可能性
EC貨物の急増に伴う物流の処理能力不足は今や世界共通の課題となっている。
その対策の一つとして欧米では、インターネットの設計コンセプトを物流に適用する「フィジカルインターネット」の研究が進められている。
ドライバーや倉庫などのリソースを社会的にシェアリングすることで物流の処理能力向上を図る。
現在の宅配便や路線便(特積み)などの混載輸送のネットワークはハブ・アンド・スポーク方式で設計されている。
全ての荷物をいったんハブ拠点に集めて、目的地別に仕分けて送り届ける。
拠点間を相互に直送で結んだ場合と比べて、ルート数を少なく抑えることができる。
その分、各ルートの積載量は増えて輸送効率が向上する。
米フェデックスを創業したフレデリック・スミス会長がハブ・アンド・スポークの考案者とされる。
同社は巨大ターミナルの周囲に集配拠点を衛星状に配置した輸送網を各地に構築、ハブ間を大型貨物航空機の幹線輸送で結んで全世界を網羅する国際宅配便ネットワークを構築した。
ただし、ハブ・アンド・スポークには弱点もある。
必ずハブ拠点を経由するので直送と比べて輸送リードタイムは長くなる。
またハブ拠点に処理能力を超える荷物が集中してパンクしたり、トラブルや災害などで機能停止した場合にはネットワーク全体がダウンしてしまう。
フィジカルインターネットはそうした事態を避けられる。
ハブ・アンド・スポークとフィジカルインターネットの違いは、従来型の固定電話網とインターネット通信の違いに類比できる。
固定電話網は一つの通話が1本の回線を占有する「回線交換方式」で通信している。
それに対してインターネット通信は、音声データを一定の大きさの「パケット」に分割して送信する「パケット交換方式」だ(図1)。
最短ルートが遮断されたり混雑していても、使用可能なルートをシステムが探して一つ一つのパケットを目的地まで送り届ける。
目的地で再び“荷合わせ”をして音声データに戻す。
大規模災害時などに携帯電話や固定電話が使えなくなっても、インターネット回線を使用するSNSの無料通話は使えることが多いのはそのためだ。
フィジカルインターネットはこの仕組みを物流に適用することを目指している。
さまざまな荷物をパケットに相当する標準化された輸送ユニット(πと呼ばれる)に分割、世界中のトラックや倉庫などの空き状況をリアルタイムで把握して利用可能なリソースをつなぎ合わせて目的地までのルートを組み立てる。
全ての荷物がハブ拠点を経由するハブ・アンド・スポーク方式とは対照的に、網の目状のネットワークを無数のユニットが錯綜して流れていくことになる。
処理能力の限界に達している物流拠点や車両があっても、別のリソースを使って輸送が遂行される。
非稼働のリソースがシェアリングされて、全体の処理能力が大幅にアップする。
欧州ではフィジカルインターネットが、2050年にゼロエミッションを達成するという社会的目標を実現する手段の一つと位置付けられ、約50の大手メーカーや業界団体が加盟する「ALICE(Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe)」が、2030年の実装を目指している(図2)。
しかし、その実現は容易ではない。
フィジカルインターネットは、対象となる全てのリソースの稼働状況をリアルタイムで把握する情報プラットフォームと、使用する設備の規格や業務プロセスの標準化を必要とする。
フィジカルインターネットを構成する各社は、自分たちの情報をオープンにして、設備や業務を標準に合わせていかなければならない。
合意形成と標準化は高いハードルだ。
日本でもフィジカルインターネットは注目され始めている。
ヤマトホールディングス傘下のヤマトグループ総合研究所は2019年、米ジョージア工科大のフィジカルインターネット研究所と覚書を交わして、日本におけるフィジカルインターネットの構築に向けた共同研究を開始した。
他の大手物流会社もこれに参画している。
しかし、欧米の先行研究をレビューした日本の物流関係者は意外な事実にあらためて気付かされている。
フィジカルインターネットの関連資料で取り上げられている施策の多くは日本では古くから実施されていることだった。
ヤマトグループ総合研究所の木川眞理事長は「フィジカルインターネットの構成要素を見ると、欧米よりもむしろ日本が先行している部分がたくさんある。
メーカー同士の共同物流やワンストップサービスなど、日本では既に当たり前のことを、彼らはこれから目指すと言っている」と本誌のインタビューで述べている。
多頻度小口化がドライバーに 共同物流は日本市場でガラパゴス的に発達した効率化の取り組みだ。
日本で日用品メーカー同士の物流共同化が本格化した1990年代に筆者は、海外における共同物流の研究や事例を調べたことがある。
しかし、めぼしい資料は見当たらなかった。
反対に海外の物流関係者から、「なぜ、わざわざ他の会社と物流を共同化する必要があるのか。
物流の階層が増えて非効率になるではないか」との指摘を受けたことを覚えている。
トラックの積載率が低いことが問題なのであれば、取引のロットをトラックのサイズに合わせればいい。
実際、欧米では輸送コストやハンドリングコストを抑制するために、発注量を車両1台分にまとめるといった管理が日常的に行われている。
逆に最低取引ロット以下の注文や端数の注文は受け付けてもらえない。
あるいは割増料金が発生する。
しかし、日本では最低取引ロットを設定せず、1ピースからの注文にも割増料金なしで納品することが、顧客サービスの一つとされてきた。
発注ロットやリードタイムなどの納品条件の違いは取引価格に反映されず、売り手側が納品までの全ての物流コストを負担するのが長年の商慣行だった。
そのため買い手側は、必要な物を必要な時に必要なだけ、ジャスト・イン・タイム(JIT)で納品することを売り手側に求めていった。
それによって買い手側は在庫量を最小限に抑えながら、品切れによる機会損失を避けることができる。
しかし、その結果としてサプライヤー側では多頻度小口納品による輸送費や在庫水準が上昇する(図3)。
そのコストは回りまわって最終的には商品価格に転嫁される。
サプライチェーン全体で見れば、合理的とはいえない商慣習が長く温存されてきた。
本来であればこれはSCMによって解決されるべき問題だ。
一つの企業の内部に限定して物流システムを管理するのではなく、複数の企業で構成するサプライチェーン全体を対象に、在庫配分と輸送ロットを最適化すればいい。
米サプライチェーンカウンシルの定義によると、SCMとは「価値提供活動の初めから終わりまで、つまり原材料の供給者から最終需要者に至る全過程の個々の業務プロセスを、一つのビジネスプロセスとして捉え直し、企業や組織の壁を越えてプロセスの全体最適化を継続的に行い、製品・サービスの顧客付加価値を高め、企業に高収益をもたらす戦略的な経営管理手法」のことである。
SCMがその定義通りに機能すれば、行き過ぎた多頻度小口化の発生原因が取り除かれて、納品の頻度とロットサイズが最適化される。
共同物流を実施する必要はない。
しかし、実際の取引先との交渉にはさまざまな利害や思惑が絡む。
それぞれの企業がサプライチェーンにおいて果たす役割と責任、そこで発生するリスクと報酬の分担について合意するのは容易ではない。
いったん合意にこぎ着けても、環境の変化や見込み違いによって白紙に戻ってしまうこともある。
そのためSCMによる“根本治療”を施すことができず、多頻度小口取引が維持されたままの状態において、その物流効率を改善するために生み出した“対処療法”が共同物流だ。
いわば苦肉の策といえる。
その取り組みに今、あらためて海外からも関心が集まっている。
理由の一つは、多頻度小口化が日本に特有の現象ではなく、世界的なトレンドになっていることだ。
消費者ニーズは多様化し、在庫が陳腐化するスピードは年を追うごとに速くなっている。
それに伴い在庫を保有することで発生するコストが上昇している。
その結果、在庫削減が経営課題としての重みを増している。
メーカーは作りすぎを回避して、少ない在庫でも品切れを起こさないようにするために、需要予測の精度向上とリードタイムの短縮を図っている。
輸送頻度の上昇と輸送ロットの小口化が進んでいく。
さらにECの拡大が小口化に拍車を掛けている。
今やBtoC企業だけでなく、従来はサプライチェーンの川上にいたBtoB企業もまた、ブランド直販「DtoC(Direct to Consumer)」やドロップシッピングに対応した最終消費者への直送を強いられるようになった。
今後、マスカスタマイゼーションが本格化すれば物流のハンドリングは、サプライチェーンの川上においてもピース単位が基本になる。
それを逆手にとって、あえて大量生産・大量消費モデルを選択して価格競争力を打ち出す企業も出てくるかもしれない。
しかし、大多数の企業は多頻度小口化に向き合わざるを得ない。
共同物流が対策の一つになり得る。
小規模分散型市場への対応 ただし、日本と欧米の市場構造の違いは常に念頭に置いておく必要がある。
それは日本市場で共同物流が広まったもうひとつの理由でもある。
欧米市場は流通業大手数社で市場全体の売り上げの過半を占めるほど上位集中と寡占化が進んでいる。
とりわけEUは、各国の大手流通5社の売上高を合計した市場シェアが軒並み8割を超えている。
メーカーも商品カテゴリーごとに大手数社が市場を牛耳っている。
流通業とメーカーの双方の規模が大きく、プレーヤーの数が限られているため取引ロットを大きくできる。
それに対して日本市場は小規模分散が特徴だ。
大手流通5社の占有率は現状で約14%にすぎない。
メーカー層も同じカテゴリーに多数の企業が乱立している。
日用品メーカーだけでも1千社近くあるといわれている。
多数のメーカーと多数の流通業との取引ロットは小口にならざるを得ない。
一昔前まで、日本市場が小規模分散型なのは、産業の近代化が遅れているせいであり、いずれは日本市場も欧米並みに寡占化すると考えられていた。
しかし、そう指摘されてから数十年が経った今も状況はほとんど変わっていない。
その間に欧米型のローコストオペレーションを日本市場に持ち込もうとした世界的な流通大手の多くは撤退を余儀なくされた。
あるいは不振に苦しんでいる。
日本で寡占化が進まない理由の一つは、生鮮食品や日配品を毎日その日に使う分だけ購入する消費行動が広く根付いているからだと考えられている。
それに合わせて、家庭用冷蔵庫の大きさから店頭にならぶパッケージのサイズ、食料品店の地域分布に至るまで、デザインされている。
食の嗜好や慣習は膠着性が強く、容易には変化しない。
むしろ近年は高齢者世帯の増加と健康志向によって、消費者が生鮮食品や日配品を好む傾向は強まっている。
今後も日本市場は欧米化せず、小規模分散型の構造が続くという見方が今では大勢を占めている。
逆に欧米市場が、地産地消の広がりや食生活の変化によって日本化してきたとの指摘もある。
寡占化が進んだ欧米では、どの店に入っても同じ商品ばかりが大量に並んでいる。
雑多な商品が並ぶ日本の小売店は、効率性の点で劣る代わりに豊かな多様性がある。
買い物のスタイルはその国の消費者の食生活に大きな影響を受ける。
アジア諸国の市場は欧米型よりも日本型に近くなっていく可能性がある。
日本型の小規模分散市場は多頻度小口物流によって支えられている。
経済的ロットサイズに基づくサプライチェーンと比べて、商品価格に占める物流コストは割高になる。
そこに日本市場の物流管理担当者や物流企業の実務家たちのチャレンジがあり、共同物流が試されてきた理由がある。
共同物流のパターン 共同物流のロジックは至ってシンプルだ。
積載率50%でそれぞれトラックを走らせている二つの会社が輸送を共同化すれば、必要なトラックの台数は2台から1台に減る。
コストはほぼ半分になる。
それだけ環境負荷も低減される。
しかし、共同化を実施に移すのは容易ではない。
実際、過去の取り組みの多くは失敗に終わっている。
あるいは長続きしていない。
誰をパートナーに選ぶのか、どのようにスキームを組み立てるのか、効果をどうシェアするのか、環境の変化にどう対応するのか、共同化のパートナーとの関係性がカギを握っている。
以下に共同物流のパターンとポイントを簡単に整理する。
⃝異業種による共同化 業種や業態が異なる荷主企業同士による物流共同化は、市場で競合する関係にはないことから実施のハードルは低い。
お互いのトラックの復路の空きや、荷降ろし後の空コンテナなどを融通する。
重量勝ちの製品と容積勝ちの製品を一緒に運んで積載率を高める。
季節や曜日、時間帯などによる物量の波動が違う相手を選び、閑散期の設備稼働率を高めるといった施策が実施されている。
ただし、異業種による共同化は、適切なパートナーを見つけるのが難しい。
お互いの輸送網や物量の波動が補完関係にあり、使用する車両のタイプや設備の違いも許容範囲内に収まっている必要がある。
臭い移りや衛生上の理由から混載ができない荷物の組み合わせもある。
また、パートナーの一方の商品構成や売れ行きが変化すれば、往々にしてスキーム自体が崩れてしまう。
そのため、いったん成立しても長続きしないことが多い。
⃝同業種による共同化 同業種同士による共同化は、納品先が重複している確率が高いため、異業種と比べて大きな効果を期待できる。
使用する設備やハンドリング方法も大きく変わらないのでオペレーション上の問題はまず起きない。
荷受け側には複数のサプライヤーの荷受けを一度に処理できるというメリットがある。
ただし、実施のハードルは高い。
顧客との取引量や取引条件、販促計画などの機密情報が競合相手に漏洩してしまうことが危惧される。
また規模に劣るサプライヤーほど共同化によるメリットは大きくなるため、大手は共同化に参加することに及び腰になる。
とりわけ業界最大手が共同化に消極的になる。
そのため同業種共配は、主戦場の大消費地ではなく、人口密度の低い地方で成立しやすい。
消費地と比べて配送効率が悪く、各社とも物流コストが割高についている。
取扱量は限られているので営業戦略上の重要性は小さく、大手も参加しやすい。
日本のビール業界は、日本では珍しく、NBメーカー4社でほぼ市場を独占する寡占状態にあり、メーカー同士のライバル意識が最も強い業界の一つとして知られている。
しかし地方における物流の共同化には従来から各社とも前向きで、長期にわたって取り組みが継続している。
共同化の対象領域も段階的に広げてきている。
⃝業界物流プラットフォーム 業界物流プラットフォームは、同業種による共同化の対象を最大限に拡大したコンセプトだ。
既存の物流網はメーカー別の縦割りで構築されている。
それを解消して各社の物流を共通のインフラに乗せてシェアリングする。
その先行事例が、日用品メーカーから卸への納品を共同化した共同物流運営会社、プラネット物流だ。
業界2位のライオンの主導で、最大手の花王を除く、日用品メーカー10社が出資して1989年に設立した。
2000年代のピーク時には全国7カ所に物流拠点を展開、約40社のメーカーが利用していた。
しかし、2016年7月、同社は解散した。
運用のスタートから四半世紀が経過する間に日用品卸の淘汰と集約が進み、工場から卸の物流センターへの直送が増えた。
それによって共同化の必要が薄れ、存続基盤が失われた。
それでもプラネット物流を通じて、日雑業界ではパレットサイズや伝票フォーマット、段ボール箱の外装表示などの標準化が進んだ。
これを遺産として同社を利用していた日用品メーカー各社は現在、新たな研究会を発足、次世代の共同物流の在り方を模索している。
一方、加工食品業界では2019年4月、味の素、ハウス食品グループ本社、カゴメ、日清フーズ、日清オイリオグループの5社が出資して、共同物流運営会社のF-LINEが誕生した(図4)。
味の素の物流子会社の味の素物流を存続会社として、メーカー各社の物流リソースを統合した。
そのスキームは先のプラネット物流を参考にしている。
ただし、プラネット物流はコスト削減を最大の目的としていた。
業界最大手の花王が末端の小売店までカバーする独自の物流網を敷いているのに対抗する狙いもあった。
それに対してF-LINEは物流の持続可能性、食品の安定供給を目的としている。
また食品業界には花王のようなガリバーもいない。
それでも食品メーカー各社が物流プラットフォームの構築に動いたのは、物流現場の人手不足がそれだけ深刻化しているからだ。
2010年代後半に入って日本ではトラックドライバー不足が顕在化して繁忙期に車両を確保できない事態が頻発している。
“物流危機”とも呼ばれている。
それを契機にトラック運賃が急騰しただけでなく、運送業経営者が社員の定着率低下を恐れて、ドライバーの嫌がる仕事を敬遠するようになった。
とりわけ加工食品は最も評判の悪い荷物の一つだ。
容積勝ちの荷物が多く、積載量を確保したいため、荷主はパレットを使用せず、荷台に商品をばら積みしている。
ドライバーは手積み手降ろしの荷役作業を強いられる。
納品先の食料品卸の物流センターでは、指定された時間通りに車両が到着していても、荷降ろしの順番を長時間待たされる。
それでも物量が安定していることから、ドライバーの労働力に余裕のあった従来はトラックを確保することができた。
しかし、荷主が運送会社を選ぶのではなく、運送会社が仕事を選ぶ“売り手市場”に転じた今、食品メーカーにとって輸送能力の確保はコスト以前の事業継続に関わる問題となっている。
物流管理の目標がコスト効率とサービスレベルの競争から持続可能性にシフトしたことで、食品メーカーは競合メーカーとの物流シェアリングに本格的に乗り出した。
それに伴い、伝票フォーマットや業務プロセス、外箱の仕様をはじめとする各種の標準化問題も大きく前進している。
⃝物流専業者主導型 業界物流プラットフォームには従来から、業界大手のメーカーが物流子会社の事業を通じてそのインフラを同業他社に開放している事例がある。
しかし、その対象はニッチ市場や特殊な取り扱いを必要とする商材に限られており、主な狙いは物流子会社のプロフィットセンター化だった。
それに対してF-LINEは主要産業の食品業界で有力メーカー同士が直接、物流共同化で手を組んだ。
かつてプラネット物流は日用品業界におけるメーカー物流の共同化を推進するために、「物流は共同で、競争は店頭で」というキャッチフレーズを掲げていた。
同じ台詞が今、食品業界で再び使用されている。
F-LINEによる食品メーカーの物流共同化は過去に例のない大規模な取り組みに発展する可能性がある。
しかし、特定の物流子会社が主導するプラットフォーム事業と違ってメーカー同士の共同化は、誰がイニシアチブを握るのか、共同化に参加するメーカー各社の合意形成、必ずしも利益を目的としない事業の推進力をどこに求めるのかといった問題がハードルになる。
その点では、特定のメーカーの後ろ盾を持たない物流専業者の主導による業界別物流プラットフォームの動きが注目される。
純粋なサードパーティーが取り組みを主導することで、荷主同士の競争に振り回されることなく、経済合理性に基づいて事業を運営できる。
メーカーと違って物流が本業であるため物流専門人材の確保・育成にも有利だ。
ただし、物流専業者は親会社のベースカーゴを持たない。
事業化に成功している事例によく見られるのは、地域密着型の運送会社が主要荷主から請け負っているルート配送車の空きスペースを利用して、その荷主の同業他社の荷物を混載していくというパターンだ。
混載には荷主の許諾を必ずしも必要としない場合がある。
そのため自然発生的に共同化が成立して、その規模を拡大していくことでやがて既成事実として認知されるようになる。
実際、物量が比較的少ない地域の低温食品や加工食品の配送は、特定の地場運送会社のルート配送便にメーカー各社が相乗りするかたちで事実上の共同化が成立している。
さらに現在、一部の大手企業が大規模な先行投資によって物流プラットフォームの構築に動き出している。
EC物流向けでは、日立物流、佐川急便、ソフトバンクグループ傘下のSBロジスティクスなどが、それぞれ高度な自動化設備を備えたECプラットフォームセンターを開設して、主に中小規模のEC事業者を対象としたフルフィルメントサービスを開始している(図5)。
また日本通運は1千億円規模を投資して医薬品物流のプラットフォーム事業に乗り出した。
ブロックチェーン技術を利用した情報プラットフォームを構築する一方、全国4カ所に医薬品専用センターを新設、GDP基準に準拠した医薬品専用車両も開発して全国網を整備する計画だ。
“創発”が物流を革新する 先のプラネット物流による物流共同化プロジェクトには、メーカーや流通業の経営層や実務家だけでなく、数多くの学者や研究者も構想の立案や運用スキームの開発に深く携わった。
その一連の取り組みからわれわれが学んだ知見の一つは「創発」だ。
「要素間の局所的な相互作用が全体に影響を与え、その全体が個々の要素に影響を与えることによって、新たな秩序が形成される現象」を指す生物学用語である。
改革には推進力が必要だ。
既存システムの変更は手間が掛かるだけでなく、リスクや抵抗もある。
共同化による直接的なコスト削減効果だけでは、合意や賛同を得るのが難しいこともある。
しかし共同化は単純な足し算ではない。
要素を集めて組織化することで総和にはとどまらない特性が現れる。
それを新たな付加価値やイノベーションにつなげることが取り組みの推進力となる。
創発が共同化を検討する一つの視点を与えてくれる。
その対策の一つとして欧米では、インターネットの設計コンセプトを物流に適用する「フィジカルインターネット」の研究が進められている。
ドライバーや倉庫などのリソースを社会的にシェアリングすることで物流の処理能力向上を図る。
現在の宅配便や路線便(特積み)などの混載輸送のネットワークはハブ・アンド・スポーク方式で設計されている。
全ての荷物をいったんハブ拠点に集めて、目的地別に仕分けて送り届ける。
拠点間を相互に直送で結んだ場合と比べて、ルート数を少なく抑えることができる。
その分、各ルートの積載量は増えて輸送効率が向上する。
米フェデックスを創業したフレデリック・スミス会長がハブ・アンド・スポークの考案者とされる。
同社は巨大ターミナルの周囲に集配拠点を衛星状に配置した輸送網を各地に構築、ハブ間を大型貨物航空機の幹線輸送で結んで全世界を網羅する国際宅配便ネットワークを構築した。
ただし、ハブ・アンド・スポークには弱点もある。
必ずハブ拠点を経由するので直送と比べて輸送リードタイムは長くなる。
またハブ拠点に処理能力を超える荷物が集中してパンクしたり、トラブルや災害などで機能停止した場合にはネットワーク全体がダウンしてしまう。
フィジカルインターネットはそうした事態を避けられる。
ハブ・アンド・スポークとフィジカルインターネットの違いは、従来型の固定電話網とインターネット通信の違いに類比できる。
固定電話網は一つの通話が1本の回線を占有する「回線交換方式」で通信している。
それに対してインターネット通信は、音声データを一定の大きさの「パケット」に分割して送信する「パケット交換方式」だ(図1)。
最短ルートが遮断されたり混雑していても、使用可能なルートをシステムが探して一つ一つのパケットを目的地まで送り届ける。
目的地で再び“荷合わせ”をして音声データに戻す。
大規模災害時などに携帯電話や固定電話が使えなくなっても、インターネット回線を使用するSNSの無料通話は使えることが多いのはそのためだ。
フィジカルインターネットはこの仕組みを物流に適用することを目指している。
さまざまな荷物をパケットに相当する標準化された輸送ユニット(πと呼ばれる)に分割、世界中のトラックや倉庫などの空き状況をリアルタイムで把握して利用可能なリソースをつなぎ合わせて目的地までのルートを組み立てる。
全ての荷物がハブ拠点を経由するハブ・アンド・スポーク方式とは対照的に、網の目状のネットワークを無数のユニットが錯綜して流れていくことになる。
処理能力の限界に達している物流拠点や車両があっても、別のリソースを使って輸送が遂行される。
非稼働のリソースがシェアリングされて、全体の処理能力が大幅にアップする。
欧州ではフィジカルインターネットが、2050年にゼロエミッションを達成するという社会的目標を実現する手段の一つと位置付けられ、約50の大手メーカーや業界団体が加盟する「ALICE(Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe)」が、2030年の実装を目指している(図2)。
しかし、その実現は容易ではない。
フィジカルインターネットは、対象となる全てのリソースの稼働状況をリアルタイムで把握する情報プラットフォームと、使用する設備の規格や業務プロセスの標準化を必要とする。
フィジカルインターネットを構成する各社は、自分たちの情報をオープンにして、設備や業務を標準に合わせていかなければならない。
合意形成と標準化は高いハードルだ。
日本でもフィジカルインターネットは注目され始めている。
ヤマトホールディングス傘下のヤマトグループ総合研究所は2019年、米ジョージア工科大のフィジカルインターネット研究所と覚書を交わして、日本におけるフィジカルインターネットの構築に向けた共同研究を開始した。
他の大手物流会社もこれに参画している。
しかし、欧米の先行研究をレビューした日本の物流関係者は意外な事実にあらためて気付かされている。
フィジカルインターネットの関連資料で取り上げられている施策の多くは日本では古くから実施されていることだった。
ヤマトグループ総合研究所の木川眞理事長は「フィジカルインターネットの構成要素を見ると、欧米よりもむしろ日本が先行している部分がたくさんある。
メーカー同士の共同物流やワンストップサービスなど、日本では既に当たり前のことを、彼らはこれから目指すと言っている」と本誌のインタビューで述べている。
多頻度小口化がドライバーに 共同物流は日本市場でガラパゴス的に発達した効率化の取り組みだ。
日本で日用品メーカー同士の物流共同化が本格化した1990年代に筆者は、海外における共同物流の研究や事例を調べたことがある。
しかし、めぼしい資料は見当たらなかった。
反対に海外の物流関係者から、「なぜ、わざわざ他の会社と物流を共同化する必要があるのか。
物流の階層が増えて非効率になるではないか」との指摘を受けたことを覚えている。
トラックの積載率が低いことが問題なのであれば、取引のロットをトラックのサイズに合わせればいい。
実際、欧米では輸送コストやハンドリングコストを抑制するために、発注量を車両1台分にまとめるといった管理が日常的に行われている。
逆に最低取引ロット以下の注文や端数の注文は受け付けてもらえない。
あるいは割増料金が発生する。
しかし、日本では最低取引ロットを設定せず、1ピースからの注文にも割増料金なしで納品することが、顧客サービスの一つとされてきた。
発注ロットやリードタイムなどの納品条件の違いは取引価格に反映されず、売り手側が納品までの全ての物流コストを負担するのが長年の商慣行だった。
そのため買い手側は、必要な物を必要な時に必要なだけ、ジャスト・イン・タイム(JIT)で納品することを売り手側に求めていった。
それによって買い手側は在庫量を最小限に抑えながら、品切れによる機会損失を避けることができる。
しかし、その結果としてサプライヤー側では多頻度小口納品による輸送費や在庫水準が上昇する(図3)。
そのコストは回りまわって最終的には商品価格に転嫁される。
サプライチェーン全体で見れば、合理的とはいえない商慣習が長く温存されてきた。
本来であればこれはSCMによって解決されるべき問題だ。
一つの企業の内部に限定して物流システムを管理するのではなく、複数の企業で構成するサプライチェーン全体を対象に、在庫配分と輸送ロットを最適化すればいい。
米サプライチェーンカウンシルの定義によると、SCMとは「価値提供活動の初めから終わりまで、つまり原材料の供給者から最終需要者に至る全過程の個々の業務プロセスを、一つのビジネスプロセスとして捉え直し、企業や組織の壁を越えてプロセスの全体最適化を継続的に行い、製品・サービスの顧客付加価値を高め、企業に高収益をもたらす戦略的な経営管理手法」のことである。
SCMがその定義通りに機能すれば、行き過ぎた多頻度小口化の発生原因が取り除かれて、納品の頻度とロットサイズが最適化される。
共同物流を実施する必要はない。
しかし、実際の取引先との交渉にはさまざまな利害や思惑が絡む。
それぞれの企業がサプライチェーンにおいて果たす役割と責任、そこで発生するリスクと報酬の分担について合意するのは容易ではない。
いったん合意にこぎ着けても、環境の変化や見込み違いによって白紙に戻ってしまうこともある。
そのためSCMによる“根本治療”を施すことができず、多頻度小口取引が維持されたままの状態において、その物流効率を改善するために生み出した“対処療法”が共同物流だ。
いわば苦肉の策といえる。
その取り組みに今、あらためて海外からも関心が集まっている。
理由の一つは、多頻度小口化が日本に特有の現象ではなく、世界的なトレンドになっていることだ。
消費者ニーズは多様化し、在庫が陳腐化するスピードは年を追うごとに速くなっている。
それに伴い在庫を保有することで発生するコストが上昇している。
その結果、在庫削減が経営課題としての重みを増している。
メーカーは作りすぎを回避して、少ない在庫でも品切れを起こさないようにするために、需要予測の精度向上とリードタイムの短縮を図っている。
輸送頻度の上昇と輸送ロットの小口化が進んでいく。
さらにECの拡大が小口化に拍車を掛けている。
今やBtoC企業だけでなく、従来はサプライチェーンの川上にいたBtoB企業もまた、ブランド直販「DtoC(Direct to Consumer)」やドロップシッピングに対応した最終消費者への直送を強いられるようになった。
今後、マスカスタマイゼーションが本格化すれば物流のハンドリングは、サプライチェーンの川上においてもピース単位が基本になる。
それを逆手にとって、あえて大量生産・大量消費モデルを選択して価格競争力を打ち出す企業も出てくるかもしれない。
しかし、大多数の企業は多頻度小口化に向き合わざるを得ない。
共同物流が対策の一つになり得る。
小規模分散型市場への対応 ただし、日本と欧米の市場構造の違いは常に念頭に置いておく必要がある。
それは日本市場で共同物流が広まったもうひとつの理由でもある。
欧米市場は流通業大手数社で市場全体の売り上げの過半を占めるほど上位集中と寡占化が進んでいる。
とりわけEUは、各国の大手流通5社の売上高を合計した市場シェアが軒並み8割を超えている。
メーカーも商品カテゴリーごとに大手数社が市場を牛耳っている。
流通業とメーカーの双方の規模が大きく、プレーヤーの数が限られているため取引ロットを大きくできる。
それに対して日本市場は小規模分散が特徴だ。
大手流通5社の占有率は現状で約14%にすぎない。
メーカー層も同じカテゴリーに多数の企業が乱立している。
日用品メーカーだけでも1千社近くあるといわれている。
多数のメーカーと多数の流通業との取引ロットは小口にならざるを得ない。
一昔前まで、日本市場が小規模分散型なのは、産業の近代化が遅れているせいであり、いずれは日本市場も欧米並みに寡占化すると考えられていた。
しかし、そう指摘されてから数十年が経った今も状況はほとんど変わっていない。
その間に欧米型のローコストオペレーションを日本市場に持ち込もうとした世界的な流通大手の多くは撤退を余儀なくされた。
あるいは不振に苦しんでいる。
日本で寡占化が進まない理由の一つは、生鮮食品や日配品を毎日その日に使う分だけ購入する消費行動が広く根付いているからだと考えられている。
それに合わせて、家庭用冷蔵庫の大きさから店頭にならぶパッケージのサイズ、食料品店の地域分布に至るまで、デザインされている。
食の嗜好や慣習は膠着性が強く、容易には変化しない。
むしろ近年は高齢者世帯の増加と健康志向によって、消費者が生鮮食品や日配品を好む傾向は強まっている。
今後も日本市場は欧米化せず、小規模分散型の構造が続くという見方が今では大勢を占めている。
逆に欧米市場が、地産地消の広がりや食生活の変化によって日本化してきたとの指摘もある。
寡占化が進んだ欧米では、どの店に入っても同じ商品ばかりが大量に並んでいる。
雑多な商品が並ぶ日本の小売店は、効率性の点で劣る代わりに豊かな多様性がある。
買い物のスタイルはその国の消費者の食生活に大きな影響を受ける。
アジア諸国の市場は欧米型よりも日本型に近くなっていく可能性がある。
日本型の小規模分散市場は多頻度小口物流によって支えられている。
経済的ロットサイズに基づくサプライチェーンと比べて、商品価格に占める物流コストは割高になる。
そこに日本市場の物流管理担当者や物流企業の実務家たちのチャレンジがあり、共同物流が試されてきた理由がある。
共同物流のパターン 共同物流のロジックは至ってシンプルだ。
積載率50%でそれぞれトラックを走らせている二つの会社が輸送を共同化すれば、必要なトラックの台数は2台から1台に減る。
コストはほぼ半分になる。
それだけ環境負荷も低減される。
しかし、共同化を実施に移すのは容易ではない。
実際、過去の取り組みの多くは失敗に終わっている。
あるいは長続きしていない。
誰をパートナーに選ぶのか、どのようにスキームを組み立てるのか、効果をどうシェアするのか、環境の変化にどう対応するのか、共同化のパートナーとの関係性がカギを握っている。
以下に共同物流のパターンとポイントを簡単に整理する。
⃝異業種による共同化 業種や業態が異なる荷主企業同士による物流共同化は、市場で競合する関係にはないことから実施のハードルは低い。
お互いのトラックの復路の空きや、荷降ろし後の空コンテナなどを融通する。
重量勝ちの製品と容積勝ちの製品を一緒に運んで積載率を高める。
季節や曜日、時間帯などによる物量の波動が違う相手を選び、閑散期の設備稼働率を高めるといった施策が実施されている。
ただし、異業種による共同化は、適切なパートナーを見つけるのが難しい。
お互いの輸送網や物量の波動が補完関係にあり、使用する車両のタイプや設備の違いも許容範囲内に収まっている必要がある。
臭い移りや衛生上の理由から混載ができない荷物の組み合わせもある。
また、パートナーの一方の商品構成や売れ行きが変化すれば、往々にしてスキーム自体が崩れてしまう。
そのため、いったん成立しても長続きしないことが多い。
⃝同業種による共同化 同業種同士による共同化は、納品先が重複している確率が高いため、異業種と比べて大きな効果を期待できる。
使用する設備やハンドリング方法も大きく変わらないのでオペレーション上の問題はまず起きない。
荷受け側には複数のサプライヤーの荷受けを一度に処理できるというメリットがある。
ただし、実施のハードルは高い。
顧客との取引量や取引条件、販促計画などの機密情報が競合相手に漏洩してしまうことが危惧される。
また規模に劣るサプライヤーほど共同化によるメリットは大きくなるため、大手は共同化に参加することに及び腰になる。
とりわけ業界最大手が共同化に消極的になる。
そのため同業種共配は、主戦場の大消費地ではなく、人口密度の低い地方で成立しやすい。
消費地と比べて配送効率が悪く、各社とも物流コストが割高についている。
取扱量は限られているので営業戦略上の重要性は小さく、大手も参加しやすい。
日本のビール業界は、日本では珍しく、NBメーカー4社でほぼ市場を独占する寡占状態にあり、メーカー同士のライバル意識が最も強い業界の一つとして知られている。
しかし地方における物流の共同化には従来から各社とも前向きで、長期にわたって取り組みが継続している。
共同化の対象領域も段階的に広げてきている。
⃝業界物流プラットフォーム 業界物流プラットフォームは、同業種による共同化の対象を最大限に拡大したコンセプトだ。
既存の物流網はメーカー別の縦割りで構築されている。
それを解消して各社の物流を共通のインフラに乗せてシェアリングする。
その先行事例が、日用品メーカーから卸への納品を共同化した共同物流運営会社、プラネット物流だ。
業界2位のライオンの主導で、最大手の花王を除く、日用品メーカー10社が出資して1989年に設立した。
2000年代のピーク時には全国7カ所に物流拠点を展開、約40社のメーカーが利用していた。
しかし、2016年7月、同社は解散した。
運用のスタートから四半世紀が経過する間に日用品卸の淘汰と集約が進み、工場から卸の物流センターへの直送が増えた。
それによって共同化の必要が薄れ、存続基盤が失われた。
それでもプラネット物流を通じて、日雑業界ではパレットサイズや伝票フォーマット、段ボール箱の外装表示などの標準化が進んだ。
これを遺産として同社を利用していた日用品メーカー各社は現在、新たな研究会を発足、次世代の共同物流の在り方を模索している。
一方、加工食品業界では2019年4月、味の素、ハウス食品グループ本社、カゴメ、日清フーズ、日清オイリオグループの5社が出資して、共同物流運営会社のF-LINEが誕生した(図4)。
味の素の物流子会社の味の素物流を存続会社として、メーカー各社の物流リソースを統合した。
そのスキームは先のプラネット物流を参考にしている。
ただし、プラネット物流はコスト削減を最大の目的としていた。
業界最大手の花王が末端の小売店までカバーする独自の物流網を敷いているのに対抗する狙いもあった。
それに対してF-LINEは物流の持続可能性、食品の安定供給を目的としている。
また食品業界には花王のようなガリバーもいない。
それでも食品メーカー各社が物流プラットフォームの構築に動いたのは、物流現場の人手不足がそれだけ深刻化しているからだ。
2010年代後半に入って日本ではトラックドライバー不足が顕在化して繁忙期に車両を確保できない事態が頻発している。
“物流危機”とも呼ばれている。
それを契機にトラック運賃が急騰しただけでなく、運送業経営者が社員の定着率低下を恐れて、ドライバーの嫌がる仕事を敬遠するようになった。
とりわけ加工食品は最も評判の悪い荷物の一つだ。
容積勝ちの荷物が多く、積載量を確保したいため、荷主はパレットを使用せず、荷台に商品をばら積みしている。
ドライバーは手積み手降ろしの荷役作業を強いられる。
納品先の食料品卸の物流センターでは、指定された時間通りに車両が到着していても、荷降ろしの順番を長時間待たされる。
それでも物量が安定していることから、ドライバーの労働力に余裕のあった従来はトラックを確保することができた。
しかし、荷主が運送会社を選ぶのではなく、運送会社が仕事を選ぶ“売り手市場”に転じた今、食品メーカーにとって輸送能力の確保はコスト以前の事業継続に関わる問題となっている。
物流管理の目標がコスト効率とサービスレベルの競争から持続可能性にシフトしたことで、食品メーカーは競合メーカーとの物流シェアリングに本格的に乗り出した。
それに伴い、伝票フォーマットや業務プロセス、外箱の仕様をはじめとする各種の標準化問題も大きく前進している。
⃝物流専業者主導型 業界物流プラットフォームには従来から、業界大手のメーカーが物流子会社の事業を通じてそのインフラを同業他社に開放している事例がある。
しかし、その対象はニッチ市場や特殊な取り扱いを必要とする商材に限られており、主な狙いは物流子会社のプロフィットセンター化だった。
それに対してF-LINEは主要産業の食品業界で有力メーカー同士が直接、物流共同化で手を組んだ。
かつてプラネット物流は日用品業界におけるメーカー物流の共同化を推進するために、「物流は共同で、競争は店頭で」というキャッチフレーズを掲げていた。
同じ台詞が今、食品業界で再び使用されている。
F-LINEによる食品メーカーの物流共同化は過去に例のない大規模な取り組みに発展する可能性がある。
しかし、特定の物流子会社が主導するプラットフォーム事業と違ってメーカー同士の共同化は、誰がイニシアチブを握るのか、共同化に参加するメーカー各社の合意形成、必ずしも利益を目的としない事業の推進力をどこに求めるのかといった問題がハードルになる。
その点では、特定のメーカーの後ろ盾を持たない物流専業者の主導による業界別物流プラットフォームの動きが注目される。
純粋なサードパーティーが取り組みを主導することで、荷主同士の競争に振り回されることなく、経済合理性に基づいて事業を運営できる。
メーカーと違って物流が本業であるため物流専門人材の確保・育成にも有利だ。
ただし、物流専業者は親会社のベースカーゴを持たない。
事業化に成功している事例によく見られるのは、地域密着型の運送会社が主要荷主から請け負っているルート配送車の空きスペースを利用して、その荷主の同業他社の荷物を混載していくというパターンだ。
混載には荷主の許諾を必ずしも必要としない場合がある。
そのため自然発生的に共同化が成立して、その規模を拡大していくことでやがて既成事実として認知されるようになる。
実際、物量が比較的少ない地域の低温食品や加工食品の配送は、特定の地場運送会社のルート配送便にメーカー各社が相乗りするかたちで事実上の共同化が成立している。
さらに現在、一部の大手企業が大規模な先行投資によって物流プラットフォームの構築に動き出している。
EC物流向けでは、日立物流、佐川急便、ソフトバンクグループ傘下のSBロジスティクスなどが、それぞれ高度な自動化設備を備えたECプラットフォームセンターを開設して、主に中小規模のEC事業者を対象としたフルフィルメントサービスを開始している(図5)。
また日本通運は1千億円規模を投資して医薬品物流のプラットフォーム事業に乗り出した。
ブロックチェーン技術を利用した情報プラットフォームを構築する一方、全国4カ所に医薬品専用センターを新設、GDP基準に準拠した医薬品専用車両も開発して全国網を整備する計画だ。
“創発”が物流を革新する 先のプラネット物流による物流共同化プロジェクトには、メーカーや流通業の経営層や実務家だけでなく、数多くの学者や研究者も構想の立案や運用スキームの開発に深く携わった。
その一連の取り組みからわれわれが学んだ知見の一つは「創発」だ。
「要素間の局所的な相互作用が全体に影響を与え、その全体が個々の要素に影響を与えることによって、新たな秩序が形成される現象」を指す生物学用語である。
改革には推進力が必要だ。
既存システムの変更は手間が掛かるだけでなく、リスクや抵抗もある。
共同化による直接的なコスト削減効果だけでは、合意や賛同を得るのが難しいこともある。
しかし共同化は単純な足し算ではない。
要素を集めて組織化することで総和にはとどまらない特性が現れる。
それを新たな付加価値やイノベーションにつなげることが取り組みの推進力となる。
創発が共同化を検討する一つの視点を与えてくれる。
