ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年5号
特集
ICタグは使えない 住金物産──タグの技術に作業を合わせる

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2004 24 住金物産──タグの技術に作業を合わせる 中国の縫製工場から日本の店頭までを結ぶサプライチェー ンの効率化を目指している。
物流センターでの検品作業のツ ールとしてICタグに着目した。
昨年度の基礎実験で手応えを 掴み、今年度はICタグの活用領域をさらに拡げて実験を行う。
来年度には本格導入も計画しているという。
(刈屋大輔) 中国の工場でタグを貼付 アパレルは流行にもっとも敏感な業界の一つだが、 経営トレンドの波にはうまく乗れていないようだ。
ロ ジスティクスの導入が著しく遅れている。
サプライチ ェーン上での取引企業間のコラボレーションがうまく 機能していない。
一〇年ほど前からITを活用したQR(クイックレ スポンス)の取り組みが進められてきたものの、その 実態はそれほどスマートなものではなく、「店舗に商 品を持ってこいと言われたら、メーカーは何が何でも 商品を用意して持っていく」といった具合に人海戦術 を展開しているのが実情だという。
しかし、こうした商慣習にメスを入れ、SCM(サ プライチェーン・マネジメント)を実現させようとい う動きも活発化している。
アパレル商社の住金物産は そのうちの一社だ。
同社は中国の縫製工場〜日本の 店頭までのSCM構築に力を注いでいる。
山内秀樹 繊維カンパニー繊維企画部繊維開発課長兼SCM推 進グループ長は「アパレル業界にはまだSCMが浸透 していない。
SCMが成功すれば、それが他社との差 別化、競争力の強化につながる」と力説する。
住金物産のサプライチェーンは「中国の縫製工場 (自社工場二〇カ所、協力工場五〇〇カ所)」→「中 国の物流センター(上海に一カ所)」→「日本の物流 センター(自社センター一カ所、協力センター六カ 所)」→「SPA(製造小売り)アパレルや百貨店の 店舗」で形成されている。
SCMプロジェクトではま ず工場、物流センター、店舗の各ポイントで作業に無 駄はないか。
ストップウォッチを片手に作業員たちの 動きを細かくチェックすることから始めた。
その結果、とりわけ物流現場に無駄が多いことが分 かった。
八時間で六〇〇〇枚のシャツを検品した作業 員が、翌日には同じ時間で四〇〇〇枚しか処理して いない。
作業員は仕事を早く終えると、ほかの仕事を 手伝うよう指示されるため、製品の数が少ない日はゆ っくりとしたスピードで作業する――。
物流現場はコ スト意識が薄く、作業の生産性にバラツキがあった。
マンパワー中心のオペレーションを改め、物流現場 の機械化を進めることで生産性を向上させるという選 択肢もある。
ところが、アパレルの場合は「夏はシャ ツ、冬はコート」といった具合にシーズンごとに取り 扱う製品の入れ替えが激しい。
製品の規格もバラバラ。
そのため他の業界に比べ、作業の迅速化や省力化につ ながるマテハン機器を導入しにくいと言われてきた。
具体的な改善策に頭を悩ませていた時に、ふと目に 止まったのがICタグだった。
スキャナーで一つずつ 読み取らなければならないバーコードとは異なり、I Cタグには複数を一括して読み取れるという特徴があ る。
それをうまく活用すれば、従来は一枚ずつだったシャツの検品が、一度に五枚、一〇枚まとめて処理で きるようになる。
ICタグを導入すれば、物流現場の 生産性が上がる。
ベンダーからそんな説明を受けた。
その後社内では「一度試してみようという話になっ た」(山内課長)という。
まず住金物産ではICタグをきちんと読み取れるか どうか確認するための基礎実験を始めた。
リーダー (読み取り機)は一度に何個までタグを読むことがで きるのか。
シャツやセーターなど商品の違いによって 読み取り可能な数は変わってくるのか。
タグに対して リーダーをどの角度に向けると読み取りエラーが発生 しにくくなるのか、などを徹底的に調べた。
続いて、その結果をベースにICタグの運用ルール を決めた。
限りなく一〇〇%に近い読み取り精度を確 第3部バブルに釘刺す現場からの報告 25 MAY 2004 保するため、例えばリーダーに読ませる一回当たりの 単位はシャツなら五枚まで。
セーターなら四枚までと いった具合に、製品ごとに作業マニュアルのようなも のを作成していった。
「セーターを五枚ずつ四〇回読んだ後に、実は一九 八枚しか読めていなかったという話になるのが一番困 る。
二〇〇枚の中から読み取りできなかった二枚を探 さなければならないからだ。
無理をすればセーターで も一度に五枚読めることがある。
しかしそれを敢えて 四枚にすることで高い読み取り精度を維持しようと考 えた」と山内課長は説明する。
ICタグの技術面での実験を終え、昨年末からは 第二ステップとして中国で生産した製品にICタグを 貼付して出荷。
荷受けした中国や日本の物流センター で実際にICタグを使って検品作業を行う、という実 験を始めた。
バーコードをICタグに置き換えた場合、 従来に比べどれだけ検品作業を効率化できるのか検証 するのが目的だった。
実験の結果、ICタグを使うと検品に掛かる作業 時間を大幅に短縮できることが分かった。
例えば、バ ーコードによるスキャン検品ではシャツ六〇枚の処理 に六〇秒掛かっていた。
それがICタグの場合は一度 に五枚ずつ処理できるため十二秒で済むようになった。
ICタグによって処理能力を従来の五倍に引き上げる ことに成功した。
店舗の在庫を細かく管理 同社が進めてきた実証実験に関して特筆すべきは、 ICタグの能力に合わせて自分たちのオペレーション のやり方を見直した点だ。
例えばリーダーのセンサー の前でいったんタグのついた製品を止めるような動き をしたほうが読み取り精度が高まるのであれば、その ように改めるよう作業員たちに指示した。
これに対して、ICタグの導入を検討している企業 の多くは、既存のオペレーションの仕組みの中にIC タグを無理矢理組み込もうとする傾向がある。
前例を 使って説明すれば、「いったん止める」という動きを なくすため、リーダーの読み取り能力を引き上げよう と考えがちだ。
ところがその発想だとICタグの技術 的進歩を待たなければならない。
最終的にICタグは まだまだ使えないと判断して導入を見送っている。
「当社の場合、サプライチェーンを効率化するとい う大きなテーマがあった。
それを実現するためにまず は物流現場の作業のあり方を見直そうという話になっ た。
次にICタグというツールの能力を最大限引き出 し、使うこなすにはどうしたらいいのかを考えた。
他 社とはアプローチが異なるため成功を収めることがで きたのではないか」と山内課長は分析する。
同社では今年度、対象領域を店舗にまで拡げてI Cタグの実験を展開する。
具体的には店舗のバックヤードで保管している製品在庫と、実際に店舗の陳列 棚に並んでいる製品在庫を区別して管理するのにIC タグが役立つかどうかを検証する。
現在はバックヤードと陳列棚の在庫が明確に区別さ れていない。
そのため「バーゲンセールの期間を勝手 に延長していたり、ある商品を全国で一斉に発売する 日なのにその商品を陳列していない店舗があることな どを、SPAの本部は把握できていなかった」(山内 課長)という。
取引のある二〇〇店舗に協力を依頼して約一カ月 間掛けて実験を行う。
このうちある一つの店舗では全 商品にICタグを貼付。
六カ月にわたって実験を展開 する計画だ。
その結果を踏まえた上で二〇〇五年度に はICタグの本格導入に漕ぎ着けたいとしている。
一度に読み取るシャツの枚数を調整して100%に近い読みとり精度を目指した

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