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2020年12月号
特集

【ロボットビジョン】Kyoto Robotics 商品マスターの自動生成がIoTの道を拓く

デパレタイザーが“目”を持った ──Kyoto Roboticsは9月、PALTACと共同で取り組んだ「日用品卸センターの省人化・自動化における知能ピッキングロボットの活用~マスタレス・ティーチレスのケースピッキングロボットの開発と導入~」で、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が主催する「2020年度ロジスティクス大賞」を受賞しました。
「受賞事由」として次のように説明されています。
 日用品を取り扱う物流センター業務は、労働集約型となっており、労働力人口が減少する中、増加する物流量に対応するための作業員の確保等が課題となっていた。
そのため、ロボットの導入による省人化・自動化が有効であるが、取り扱う商品の半数、1万SKUが毎年リニューアルされることから、商品マスターデータの登録・管理が難しく、ロボットの導入が困難となっていた。
 そこで、3年近くの歳月をかけて、ロボットの開発改良を繰り返し、SKU比で99・6%の認識率となる商品マスターデータの作成を実現するとともに、処理能力700ケース/時間以上となる完全な無人自動ケースピッキングロボットを開発した。
 そして、これにより入荷から出荷までの一連のケースを取り扱う庫内作業の自動化を図るほか、商品マスターデータを利用したトラック配送予約のための体積計算など、積み付け効率向上も実現したのが本取り組みである。
完全自動化を実現したこの取り組みは、労働集約型からの脱却を可能とし、労働生産性を飛躍的に向上させる取り組みとして高く評価された。
Kyoto Robotics 徐 剛 社長(以降、KB・徐)「物流ロボットは省人化ばかりに目が行きがちですが、今回の取り組みではロボットが商品マスターを自動生成することで、登録作業や管理の手間が不要になっただけでなく、そのデータがいろいろなところで活用されたことに大きな意味を感じています。
もともと当社はロボットの“目”に当たる『3次元ビジョン』を活用してピッキングを自動化することから事業をスタートしたのですが、今回の取り組みを通して3次元ビジョンには自動化の他にもうひとつ、マスターを自動生成するという重要な使い道があることに気付かされました。
マスターの整備によって何が可能になるのか、われわれ自身多くのことを学びました」 ──商品マスターは調達先メーカーやベンダーから提供されているはずです。
それをなぜ物流センターであらためて登録する必要があるのですか。
KB・徐「提供されるデータが不完全であったり、更新されないまま残っていたりするからです。
実際に調べてみたところ、納品された箱の形状や重さがマスター情報とは違っているものが2〜3%ありました」 ──2〜3%でも問題になりますか。
ローランド・ベルガー 小野塚征志 パートナー(以降、RB・小野塚)「マスター情報を基にそのまま作業指示を出したら、2〜3%の確率でロボットが止まってしまうわけですから使い物になりません。
もちろん後工程をすべて人間系で処理するのであれば、人が判断して作業してくれるので問題は起きない。
マスターを使う必要さえない。
しかし、作業をロボットにやらせるのであれば、最初の工程で荷物の大きさと重さを正確に把握する必要があります」 ――それがこれまでは技術的にできなかったのですか。
KR・徐「コンベヤにゲートセンサーを取り付けて、流れてくる荷物を計測することはできました。
しかし、そのためにはパレットの荷物をばらして、一つ一つ間隔を空けてコンベヤに流す必要があります。
大変手間がかかる。
それをわれわれは3次元ビジョンとデパレタイザーを組み合わせることで完全自動化しました。
ちなみに先ほどの受賞事由の解説に出てくる『99・6%の認識率』というのは、取り扱いアイテムのうち99・6%以上をロボット化の対象にしたという意味で、実際の読み取り精度は99・99%以上に達しています。
1日2万箱をピッキングして人の手助けを必要とするのは1個あるかないかというレベルです」 世界初の「マスターレス」 ──〝目〟を持たないデパレタイザーは、正確な製品情報がないと荷物をピッキングできない。
そのためこれまでは工場倉庫など決まった荷物だけを扱う現場にしか導入できなかったわけですね。
RB・小野塚「それに対してKRのデパレタイザーは、商品マスターがなくても、初めて荷物を見たその瞬間に形状を把握してピッキングします。
その時に取得したデータで商品マスターも生成する。
つまり従来は人間+2種類のロボット(デパレタイザーとセンサー)が必要だった作業を1台でできるわけです。
デパレタイザーは高額な設備です。
人件費の削減効果だけで投資をペイさせるのは大変です。
しかし、デパレタイザーによって省人化だけでなく、後工程に必要なマスターを自動生成できるということになれば話は違ってきます」  「私は2年ほど前にKRの社外取締役に就任しました。
当時のKRは世界初の『マスターレス』を売り文句にしていました。
それを私は『マスターメーカー』に改めるように繰り返し進言してきました。
マスターレスよりもむしろ、正確なマスターを自動生成できることのほうが大きな意味を持つと考えたからです」  「例えば、PALTACがKRのデパレタイザーを一つのセンターだけでなく全国に横展開すれば、各倉庫のスペース使用率がリアルタイムで分かるようになって倉庫の最適配置や必要な規模を正確に算定できるようになるでしょう。
さらには日本中の倉庫にKRのデパレタイザーを導入されたら、今どこにどれだけ、倉庫の空きスペースがあるのか、マクロ的に把握できるようになる。
倉庫シェアリングが一気に加速します。
日本全体で倉庫スペースのむだがなくなります」 ──そもそもKRはなぜ物流をターゲットに定めたのですか。
KR・徐「当社は2000年に『三次元メディア(3D MEDiA)』という社名で創業しました。
それまで私は大学の研究者として、ずっと3次元ビジョンを研究していました。
日本で最初の3次元ビジョンの教科書も執筆しました。
3次元ビジョンは、カメラを2台使って立体の奥行きを把握する技術です。
従来は飛行機や自動車など工業製品のかたちを正確に測定するために使われてきました。
その技術を応用して3D MEDiAは当初、部品箱からパーツをつまみ上げて生産ラインに供給するロボットの目を開発していました。
その事業は今も続いていて、工場向けの3次元ビジョンで当社は今も累積シェア1位を誇っています」  「一方、倉庫向けピッキングロボットの開発を始めたのは2017年4月からです。
ピースピッキングの自動化はつまみ上げるモノの形状がさまざまなので、案件ごとにカスタマイズが必要です。
ビジネスを大きく展開するにはかなり制約があります。
それに対してケースピッキングのロボットは横展開できる上、倉庫は全国に無数にあって、毎日おびたたしい数の荷物がハンドリングされている。
ただし、工場と違って倉庫には毎日、何千種類、何万種類のモノが入って来る。
その中にはまったく新しいモノも含まれている。
それをいちいちマスター登録するというのは現実的ではありません。
デパレタイザーの普及が進まない一因だと思います」  「そこでわれわれは『マスターレス』という世界初のコンセプトを打ち出しました。
商品マスターがなくても、荷物をその場で正確に計測して、スピーディにピッキングする。
3次元ビジョンの技術レベルで当社は世界一だと自負しています。
そのわれわれならそれができるはずだ、と」 ──ファーストユーザーのPALTACはマスターレスの持つ意味をすぐに理解したのですか。
KR・徐「PALTACのセンターでは従来から人手でマスター登録をしていましたから、その作業が要らなくなるというなら『よし、やってみよう』と乗ってくれました」 パレタイザーの課題と可能性 ──小野塚さんはKRをどう評価したのですか。
RB・小野塚「KRの技術力もさることながら徐社長の人物に感銘を受けました。
他の物流スタートアップと違って、KRには20年もの社歴がある。
日本の大学発ベンチャーの走りです。
徐社長の研究歴はその前からで、もう37年にもなる。
しかも本人と話をすれば分かりますが、誠実な人柄でまったくけれんみがない。
最近の若手起業家とは対照的でした」  「正直なところ技術面やマスターレスについては説明を受けた当初はピンと来ませんでした。
しかし、よくよく聞いてみると、確かにそうした技術は存在しない。
そしてKRがピースではなくケースをターゲットにした意味も分かってきた。
KRの強みはロボットの“手”ではなく“目”にあります。
目の技術が生きるのは、ピースよりもケースなんです」  「ピースピッキングでは荷物をつまみ上げるロボットの“手”が大事になる。
それに対してケースは対象が箱に限られているので、手にそこまでの工夫は必要ない。
ただし、そこに箱がいくつあるのか、そこに見えている線は箱同士がくっついている境目なのか、それとも箱の印刷や切り取り加工の線なのか、ロボットが認識するには精度の高い目が必要です。
KRがそこまで物流現場に入り込んで事業を展開しているのを知って、徐社長が単なる技術屋ではないことがよく分かりました」 ──デパレタイザーの技術は既に完成したと言えるでしょうか。
それともまだ課題は残っていますか。
KR・徐「一つのパレットに1種類の荷物しか載っていない場合、いわゆる“単載”のピッキングは既に完璧と言えるレベルにあります。
メーカーから卸に来る荷物であれば問題なく扱える。
しかし、卸から小売りに納品するパレットには、一つのパレットに複数の商品を混載しているものがあります。
そこが現在のチャレンジです。
もっとも、実は混載デパレも当社ではかなり開発が進んでいて、間もなくリリースする予定です」 ──箱を降ろすのとは反対に箱を積み付けるパレタイザーにはまた違った課題があるのでしょうか。
KR・徐「パレタイザーとデパレタイザーは、まったく別ものです。
やはり単載ならいいのですが、さまざまなタイプの箱をパレタイザーで同じパレットやカゴ車に積み付けるには、どのサイズの荷物をどの順番でどう置いていけばスペースに無駄が出ないのか、隙間なく積み付けられるのかという問題を解かなければなりません。
その計算式は非常に複雑で、最適解を出そうとすれば現在のスーパーコンピューターでも数カ月かかる」  「そこまで待てないので、実際には準最適解を出していきます。
しかし、今のところ混載のパレタイザーを実用化した事例はほとんどありません。
例えばカゴ車に積み付ける場合にベテラン作業員は、縦の隙間があれば、荷物の向きを変えて詰める。
無理矢理詰め込んだりもする。
ロボットにはそれができない。
そこは恐らくどんなに頑張っても人間に届かない」 RB・小野塚「従ってパレタイザーの現実的な使い道としては、積載率が問われない工程、例えばEC商品のコンベヤの出荷口で荷物をカゴ車に入れて、方面別のトラックヤードまでAGVで構内搬送して、最後はトラックにばら積みするというフローであれば使えるし実際に使われている」  「しかし、ベテラン作業員がパパッと積んで最後にラップを巻いて一丁上がり、というレベルには到達していない。
パレタイザーを実導入した現場に行っても、“人手でやっていたほうが良かった”という声を耳にします。
それでもベテラン作業員の仕事を100だとして、それには勝てなくても85から90までロボットで出せるのであれば、導入する企業はかなりあるはずです」 物流ビッグデータを作り出す ──物流ロボットは欧米が先行しましたが、その後、中国やインドで次々にスタートアップが立ち上がっています。
KRにとって脅威になりますか。
KR・徐「中国で作れるようになると、必ず価格破壊が起きます。
中国市場はアメリカの4倍の規模があり、先進国と比べればいろいろなコストがまだまだ安い。
そこでおびただしい数の会社が生まれては消えていく。
中国国内の熾烈な市場競争を最後まで生きのびた企業が、海外に出て行くわけですから、圧倒的に価格競争力があります」  「物流ロボットの分野でもAGVは既に中国勢が台頭していますよね。
QRコードで動くタイプのAGVは構造がシンプルで、タイヤとモーターとセンシングのレーザーさえあれば、後はソフトウエアだけ。
中国にはソフトウエアの技術者が山のようにいますから、海外市場に出てくるのも当然です。
3次元ビジョンを備えたパレタイザーを開発する中国企業も最近になっていきなり数十社が立ち上がったと聞いています。
怖い相手です」 ──当面の展開では何を重視していますか。
KR・徐「われわれは今、自分たちを“ビッグデータを作り出す会社”として再定義しています。
そのコンセプトに基づいて、『荷物データを自動収集できる自動荷降ろし技術』をテーマに、内閣府『戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期スマート物流サービス』の研究開発を受託しました。
2019年12月から当社と佐川急便、早稲田大、フューチャーアーキテクトの4社で、共同研究を実施しています」  「われわれは、これまでできなかったことを、できるようにすること、その技術には自信を持っています。
しかし、その技術を誰にでも使えるようにする。
コストを下げて安定して使えるようにしていくのは当社だけではできません。
その意味でこれからはパートナーとの協働が、決定的に重要になってくると考えています」 RB・小野塚「物流の自動化とは、これまで人間がやってきた作業をロボットに置き換えるという単純な話ではありません。
自動化センターが投資を回収するには設備の稼働率を上げていかなければならない。
そのためセンターは24時間稼働に限りなく近付いていく。
その結果、時間の使い方が変わり、モノの動き方も変わる。
さらには先ほどの倉庫スペースの話もそうですが、必要なアセットも違ってくる。
ロボットの普及を契機として、流通プロセスまで全てひっくるめたパラダイムシフトが起きることを予想しています」

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