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2020年12月号
特集

海外論文 EU「中小企業4.0」の物流自動化戦略

1 イントロダクション  ロジスティクス管理は、あらゆる企業にとり、競争優位性を向上させる大きな要因の一つと考えられている。
近年、ロジスティクス関連のテクノロジーに抜本的な変化が生じた。
中小企業でも手の届く範囲にまで、その価格帯が下がってきたのである。
 輸配送管理システム(TMS)、倉庫管理システム(WMS)、統合基幹業務システム(ERP)、商品ライフサイクルマネジメント(PLM)、在庫管理ソフトウエア等々のテクノロジーを活用すれば、効率は自動的に向上する。
多岐にわたるロジスティクスの評価指標(コスト、配送頻度、品質、フレキシビリティなど)について、多くの実証研究が明確なプラス効果を示唆している。
 プラス効果が認められるパフォーマンスの中で、製品と業績についてはAgus and Hajinoor(2012)が、財務についてはBirou et al(2011)が、企業業績についてはChen et al.(2007)が、業務についてはDanese and Kalchschmidt(2011)が、サービス品質と顧客ロイヤリティについてはJuga et al.(2010)が、企業の競争力についてはSpillan et al.(2013)が、それぞれ調査を実施している。
 ロジスティクス管理研究においては、こうした数多の成功要因が特定されており、ロジスティクスシステムの設計および改良に貢献している。
組織的対策、発見的手法によるプランニング、業務フローおよびプロセスの調整、プロダクトデザインなどと同様に、ロジスティクスにとって自動化は、業績と競争力を全体的に底上げする恰好の手段とされているのである。
 データ分析、人工知能(AI)、自動運転車、ドローン、クラウドコンピューティング、ブロックチェーン技術などと並び、ロジスティクスシステムにおける自動化とロボティクスは、物流業界で最も重要なメガトレンドの一つである。
ロジスティクス向けのサービスロボットの売上高は、2020年に320億ドルに達するとみられる。
 こうしたことを背景として、製造とロジスティクスの仕事内容の見直し、そして労働環境の再編成が急務となってきている。
つまり一言でいうなら、ロジスティクスの自動化は、パフォーマンス向上という目標に対する大きなポテンシャルを秘めているのである。
 プロセスの自動化を導入する動機は次のようなものである。
・労働生産性の向上 ・人件費の抑制 ・人手不足の影響緩和 ・ルーティーンワークや書類仕事の削減・解消 ・職場の安全性向上 ・製品の品質向上 ・リードタイムの短縮 ・人手では不可能なプロセスの遂行 ・人手では高コストとなるプロセスの代行  ロジスティクスシステムにおけるモノの流れを自動化するには、情報通信技術の統合、ハードウエアおよびソフトウエアの互換性、共通のインターフェース、モジュール型システム、情報の継続的な蓄積、ハードウエアとソフトウエアの相互運用性、などが必要条件となる。
また最新のオートメーションは、最先端の識別技術よび技術的コンセプトに支えられている。
2 物流自動化の成功要因  ロジスティクスシステムの自動化というアプローチの重要性は、話を大企業に限れば既に広く認識されているといっていいだろう。
しかしながら中小企業における最先端技術や自動化コンセプトの効果に関するナレッジは、残念ながらいまだに不足している。
以下、本稿では、ロジスティクスシステムの種々の業績指標に対する自動化の効用を見ていく。
 ロジスティクスの自動化に際しては、さまざまな組織的・手続的・技術的・社会経済的要因が、その成否を大きく左右することになる。
近年の研究論文においては、多様な枠組、モデル、概念化等が、不完全ではあるが多数提唱されている。
そうした研究の射程は、効率的な導入と安定的なオペレーションにとどまらず、インダストリー4・0のデジタル化戦略にまで及ぶ。
しかしながら既存の概念化には全体論的アプローチが欠けており、明確な分類が施されていないため、依然としてあいまいさが残るとの指摘が絶えない。
認識技術  ロジスティクスプロセスの自動化を実現するに当たっては、原材料・半製品・完成品を、首尾一貫して認識・追跡することが成功の鍵を握る。
 自動化の前提条件の一つは、ロジスティクスシステムの対象となる製品について、必要な全ての情報がいつでも得られることである。
調達・製造・配送の全工程にわたって、最先端の認識技術による明確な認識と不断の追跡が必要である。
 また昨今は、RFIDやセンサーなどの情報機器をベースとした、より“スマート”な製品の採用が進んでいる。
ライフサイクルマネジメントやプロセスに関連するリアルタイムの詳細な情報および製品データなどを、そうした装置を経由してダイナミックにやり取りすることで、システムの相互運用性が保たれることになる。
 いま一つのトレンドとしては、認識単位がバッチレベルから個々の製品レベルへと移行しつつあることが挙げられる。
背景には製造物責任法等のマーケットからの要請、効率性の追求(製品の欠陥が判明した際のリコール数を最低限に抑える)、戦略立案の強化(製造工程への深い理解とそのコントロールに基づいて、必要以上の品質管理の労力を減らす)などがある。
 また製造現場の環境条件(気温変化、高温、塵埃、表面加工による変性)も、新たな認識技術の必要性を高める理由となっている。
製造工程において製品の表面の条件は不断に変化するため、製品個体レベルの認識には、数種類の異なる認識技術が必要になるのである。
 次に、ロジスティクスの自動化にあたって最も重要な認識技術を概観する。
ダイレクトラベリングは、その他のツールを介さずに対象を直接識別する技術である。
他方、インダイレクトラベリングは、さまざまなラベリング技術やRFIDタグといった情報媒体を利用する。
 ダイレクトラベリングにはレーザー照射、インクジェット技術によるダイレクトプリンティング、ニードル式印刷、スタンパーによるラベリングなどがある。
そしてインダイレクトラベリングにはサーマルプリンターによって印刷したラベル、鋼板ラベル、RFIDデバイスなどが挙げられる。
 過酷なビジネス環境の下で、研究者たちは認識技術の向上を目指し、ダイレクトおよびインダイレクトのラベリング技術の改良に余念がない。
一例を挙げれば、昨今の印刷済みラベルは摂氏1100度の高温に耐えられる。
RFIDタグは金属素材の上で利用しても干渉の心配がない。
さらには原材料等のバルク輸送の認識・追跡用の新技術の開発も進んでいる。
技術的コンセプト  自動化においては、新しい技術的コンセプトの導入も重要な要素である。
以下に最先端のコンセプトである「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」「モノのインターネット(IoT)」「フィジカルインターネット(PI)」の概要と、それぞれの自動化へのポテンシャルについて見てみよう。
 サイバーフィジカルシステム(CPS)とは、インタラクティブコミュニケーションを可能にする組み込みシステムを備えた製品、装置、建物、輸送機器、生産設備、物流関連の構成要素等から成る物理的実体、もしくはその体系のことをいう。
 システム同士は、センサーや閉ループ制御を利用したローカルおよびグローバルなネットワークを介して連結される。
CPSではセンサーが利用可能な情報とサービスを結びつけることで、周りの環境を検知・分析・記録する。
多岐にわたるネットワークが、分散的な自律的行動によって容易に立ち上がり、フラクタル(自己相似)的生産システムの原則にしたがって、それぞれが自らを最適化していく。
 「スマートファクトリー」は人と機械を交流させ、リアルタイムかつ分散的なやり方で自らを律することができる。
現実の生産環境の仮想イメージが絶えず分析され、リアルタイムの情報によってアップデートされる。
「デジタルツイン」と呼ばれることの多いこの仮想環境は、実際の環境の情報と常にシンクロしている。
これは人間のインターネット(Internet of Mankind=IoM)をIoTへ、そしてIoS(Internet of Services)へと結びつける第一歩と見なすことができるだろう。
 モノのインターネット(IoT)は、CPSに不可欠かつ重要な構成要素の一つとされており、RFID技術と関連づけられることが多い。
ロジスティクスシステムとサプライチェーンにおいてIoTは、対象物(製品、容器、輸送機器)の特定・追跡に利用される。
対象物は周辺環境からの情報を常に処理するとともに、その位置が明確に把握されることになり、関係する全てのモニタリングと制御の効率性が向上する。
 フィジカルインターネット(PI)とは、プロトコル、インターフェース、モジュール化などのデジタル技術を活用した相互接続性に立脚する、オープンで規格化されたグローバル物流システムのことである。
 デジタルインターネットというコンセプトと同様、実際のモノの動きをつないで仮想化するPIの基本的特徴は、プロバイダーフリーでインダストリーニュートラル、そしてボーダーフリーな規格化にある。
また、輸送車両や余剰キャパシティの有効活用のために、統一規格に準拠した容器や運搬器具が用いられる。
 PIの主たる特徴の一つは、自己制御可能な自律システムによる輸送と保管のプロセスであり、このような原則は、輸送ネットワークだけでなく構内物流にも適用することができる。
輸送キャパシティ、保管場所、輸送ハブ、配送拠点などをシェアすることは、経済効果(配送頻度の低減、人件費の抑制)とエコロジー面の効用(交通量と排出量の削減)が見込まれる。
3 自動化のアプローチ  ロジスティクスシステムの自動化の目標は、全体的な効率性の改善であるが、その手法は千差万別である。
最も一般的に用いられるアプリケーションとメカニカルオートメーションのタイプについて、Granlund(2014)は、体系的な文献調査の結果を次のようにまとめている。
・ 自動ローディング&アンローディングシステム ・ 無人搬送車(AGV) ・ 自動倉庫(AS/RS) ・ 無人フォークリフト ・ 多種多様なコンベヤ、コンベアベルト、コンベヤベースのソーティングシステム ・ 工業用ロボット、ロボティクス ・ アイテムピッキング装置 ・ リフト、ターンテーブル ・ リニアアクチュエーター ・ 自動パレタイジング ・ 移動デッキ、選別・ソーティングシステム  以下では自動化分野で最も期待されているエージェント・ベース・オートメーション、ロジスティクスシステムにおける無人搬送車とロボティクス、コンベヤベルトおよびソーティングシステム、AR、モジュレーション戦略について、それぞれ簡潔に素描していく。
エージェント・ベース・オートメーション  ロジスティクスシステムにおいては、マテリアル・フロー・プロセスの自己組織化に、エージェント・ベース・オートメーション戦略を活用できる。
取り扱う対象やシステム条件、続々と発生する制約に関する情報を不断に転送することで、エージェント(行為主体)が、自律的にコミュニケーションすることが可能になる。
 エージェントベースで制御するAGVを例にとると、処理時間が25・5%、移動距離が7・9%、空荷の移動距離で24・2%の削減となり、ロジスティクスシステムの頑強性と柔軟性の強化につながる。
AGVとロボット  メーカーや中小企業にとり、AGVの重要性は高まる一方である。
AGVの効率的導入の主な成功要因として、Mehami et al.(2018)は再構成の手腕、柔軟性、カスタマイズ力を挙げる。
また倉庫業務を最適化するには、自律型ロボット、インテリジェントキャリア、人と機械のインタラクションをアシストする高度なシステムなどの活用が必要である。
ベルトコンベヤおよびソーティングシステム  コンベヤシステムの導入は今どき何の難しいこともない。
運ぶ製品、設置できるスペース、その他の作業に必要なスペースさえ決まれば、選ぶべきコンベヤシステムはおのずと限られてくる。
コンベヤは床面もしくは高架に設置され、センサー等によって全体が統御される。
 機械・装置・システム・製品は、人の手を介さずにつながり合っている。
コンベヤシステムにはAGVほどの柔軟性は期待できない。
しかしながらモノを大量に搬送する場合、コンベヤシステムは単純な構造・信頼性・極めて効率的かつ柔軟に搬送する能力を有することなどから、自動化ソリューションの有力な選択肢の一つとなるのである。
拡張現実による自動化  拡張現実(AR)はカメラ、スマートフォン、タブレット、ARヘルメット、データグラス等を利用して現実と仮想の情報を一体化することで、人と機械のインタラクションを実現する技術であり、ロジスティクスプロセスの自動化にも用いることができる。
 ARが利用されるのは主にピッキング工程においてである。
ARピッキング技術はピッキング効率を改善し(最大25%)、作業ミスをほぼ完全になくすことができる。
また梱包工程でも梱包スペースの利用効率が向上し(最大19%)、コストも削減(マイナス30%)される。
写真1は、ピッキング工程へのARデバイス(ARヘルメット)の導入試験の様子であり、これは中小企業にも活用が可能である。
モジュラー化戦略による自動化  包装工程の自動化は今後、いよいよその重要性を増すだろう。
ロジスティクスシステムの自動化を念頭に、研究者たちはユニットロード戦略についての議論を重ねている。
包装工程が重視されるようになったのにはこのような背景がある。
これによって輸送・品質管理・事務処理・メンテナンスの非効率が改善され、保管とシェアに関する新しいコンセプトがサステナビリティを向上させることになる。
4 ケーススタディ──ベルトコンベヤとソーティングシステム:タイの中堅物流会社  ここで取り挙げる企業は、タイ北部に位置する地元の物流企業(LSP)である。
タイ北部および首都バンコク周辺の顧客に対し、ドア・ツー・ドアのサービスを提供している。
自社の配送センター(DC)から目的地周辺のDCまでは、セミトレーラートラックで輸送する。
貨物をそこでクロスドッキングした後、小型トラックで各顧客の玄関先まで届けるという流れだ。
貨物の種類は建設資材、繊維製品、印刷物、食品、スナック菓子、花卉など多岐にわたる。
顧客の貨物の大半はFTL(トレーラー1本分の大口貨物)に満たないLTL(小口貨物)である。
 取り扱う荷物のサイズ・重さ・寸法はまったく不揃いであり、荷姿もその特性によりまちまちである。
たとえばスナック菓子は軽い段ボール箱に詰められているが、ロール状の布地は重い上に長大で、古タイヤはひとつひとつビニールや紙で包装されている。
 今回の調査対象はクロスドッキング作業である。
DCの作業員が人力で車両の荷台から貨物をDCのクロスドッキングエリアに降ろし、コンベアに載せる。
コンベヤは20メートルほどの直線であり、そこに流れてくる荷物を、やはり人手で14の目的地別に仕分ける(図1)。
 Xという目的地向けの品物が、Xに割り当てられたピッキングエリアに流れてくると、X地区を担当するピッカーが、コンベヤから品物をピックアップする。
流れてきた貨物が自分の担当する地区のものかどうか、ピッカーは荷札に記載された宛先を見て判断しなければならない。
識別は目視で行うため、目的地別に間違いなく確実に選別するには、それなりの経験を必要とする。
 このDCには、バンコクにある六つのDCから30台のトラックが、1日平均1万ピースの貨物を運んでくる。
荷札にはバーコードが印字されている。
しかし、バーコードはデータベースとの照合(検品)に用いられるだけであり、自動仕分け用には使われていない。
 ピッカーは地区ごとに1人必要で、さらにラストマイルデリバリーの出荷準備にも、それぞれオペレーターが2人要る。
つまりコンベヤ周りだけで14地区×3人=42人、それに加えてDCのセンター長、トラックの荷下ろしにも別に3人の専従担当者がいる。
一連の作業工程は労働集約型であり、それゆえの高コスト体質となっている。
 この物流会社は人件費と生産性という点で問題を抱えており、労働条件の劣悪さから離職率が高いところに、近ごろは欠員の補充もままならなくなっている。
こうしたことから、ベルトコンベヤとソーティングシステムを活用するという、インダストリー4・0の構想が浮上してきた。
専門のコンサルタントが、インダストリー4・0のスキームに基づいて以下の改善提案を行った。
 (a)トラックからの荷下ろしに、傾斜タイプのベルトコンベヤを採用。
これにより荷下ろしのスピードが上がり、人件費も削減される。
事前の調査では、当該設備の投資回収期間は6カ月に満たない。
 (b)閉ループ制御のコンベアを導入。
これにより、ベルトからのピッキングと荷下ろしの際のボトルネックが緩和される。
通常は一つの仕向地に多数のアイテムがあるため、ピッカーが全てのアイテムを集められるよう、ベルトコンベヤは適宜停止しなければならないのである。
 (c)クロスベルトソーターと傾斜型ローラーベルトの導入。
データベースにバーコードが登録されていれば、閉ループ制御のコンベヤがアイテムを運んで自動的に仕分けを行うため、ピッカーの負担が減る。
 (b)および(c)の投資回収期間は20〜24カ月である。
クロスドッキングのキャパシティが20〜30%、労働生産性は33%それぞれ増加し、作業精度も上がる。
ただし、この提案は準備段階の資料にすぎない。
アイテムの適合性(極端に大きい、湾曲しているなど)、設備のメンテナンス、レイアウト等、検討しなければならない項目はまだ山ほどある。
この会社は現在、設備の詳細な仕様および価格の見積りをプロバイダーに依頼している段階である。
 インダストリー4・0に関連する来るべき新技術は数多いが、それに多大な影響を受ける分野の一つがロジスティクスである。
それはチャンスであると同時にリスクでもある。
最高レベルのサービスを妥当なコストで提供することがロジスティクスに求められている。
 自動化とITの導入はそれ自身が目的ではない。
市場のトレンドに対応するため、あるいは期待に応えるためのものである。
生産性向上、コスト削減、柔軟性の獲得、ルーティン作業の効率化、職場環境の安全性確保、リードタイムおよび市場投入にかかる時間の短縮、製品およびサービス品質の向上など、自動化の効用は数え切れないほどある。
 この時流に乗ることは、中小企業にとって格別に大きなチャレンジである。
このチャンスを活かすリソースやコンピタンスを、中小企業は往々にして欠いているからである。
 われわれは今回、ロジスティクスの自動化とITに関する数多くの研究論文を広く探し求め調べた。
しかしながら採用したアプローチとフレームワークは、いくつかの側面に限定されており、断片的で偏っているとの批判は免れないだろう。
 インダストリー4・0の文脈において「スマートロジスティクス」を成り立たせる基本的コンセプトがいくつか存在する。
なかでもCPS、IoT、PIは高度かつ最先端のコンセプトであり、単にサービスやソフトウエアを購入すれば一件落着というわけにはいかない。
一歩一歩着実に進めていくことが全ての企業、なかんずく中小企業に求められるのである。

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