2020年11月号
特集
特集
アフターコロナに向けたEC通販戦略
1.巨大プラットフォーマーの動き
通販物流が激変している。
筆者の40年近い実務経験を振り返っても記憶にないほどの“事件”が矢継ぎ早に起きている。
2016年に佐川急便(以下、佐川)のドライバーが配達荷物を蹴りあげる動画がSNSに投稿された。
荷物の取り扱いに対して非難の声が上がると同時に、宅配会社の配送キャパシティーのひっ迫に対する世間の関心が高まった。
17年4月、ヤマト運輸(以下、ヤマト)が大口顧客に対する運賃の値上げを発表した。
同社の最大荷主のアマゾンジャパンもその例外ではなく、大幅な値上げが実施された。
日本経済新聞は1件当たり平均280円だったアマゾン向けの単価が400円台になったと報じた。
18年1月、楽天は独自の物流網の構築を目指す「ワンデリバリー構想」を発表した。
これに基づきフルフィルメントサービスの「楽天スーパーロジスティクス」と自社配送サービス「Rakuten─EXPRESS」の拡大計画が打ち出された。
19年11月にはヤフーがZOZOを子会社化、さらにグループを再編してアスクルを含むZホールディングス(ZHD)が形成された。
そして今年2020年、新型コロナによる巣籠り需要でEC通販の需要は大きく跳ね上がっている。
以下にまずはアマゾンをはじめとするプラットフォーマーの動きを外観しておこう。
「Amazon宅配」のシェア急上昇 図1は、アマゾンが利用している宅配キャリアの変化をグラフ化したものである。
データは、筆者も関与する「宅配研究会」から生まれた再配達問題解決アプリ「ウケトル」が定期的に発表しているものだ。
17年4月時点でアマゾンは配達する荷物の71%をヤマトに委託していた。
それが、20年9月には23%に大きく減少している。
代わって一気にシェアを拡大しているのは、宅配大手3社の佐川でも、日本郵便でもなく、「Amazon宅配」だ。
アマゾンは宅配クライシスに対応して、二つの配送スキームを構築した。
一つは13年頃にスタートした「デリバリープロバイダ」だ。
現在、各地の地域宅配事業者9社と提携してラストワンマイルを委託している。
二つ目は18年にスタートした「Amazon Flex」だ。
アマゾンが軽貨物車を所有している個人事業主と直接契約を結び、決められたエリアの宅配業務を委託している。
この二つを図では「Amazon宅配」として分類している。
どちらもスタート当初は配送トラブルが多かった。
しかし、経験を積むにつれ品質は上がってきている。
筆者がAmazon Flexのドライバー経験者に聞いたところ、「昔の配達は地図とのにらめっこで大変だったが、アマゾンの荷物はスマホに入れたアプリの指示通りに配達すればよいので、すごく楽」とのことだった。
さらにアマゾンは19年7月に「置き配」をスタート、今年3月には置き配を標準サービスに設定した。
これにより注文者は配送時間を気にしなくてよくなった。
ドライバーは不在再配達がなくなった。
さらには「時間指定を守れない」「配達時の応対が悪い」といったAmazon宅配の課題もこれで解消されることになる。
アフターコロナで拡大する配送量に対してアマゾンは、3大キャリアに依存しないラストワンマイルをこれからも拡大し続けるだろう。
余談になるが、アマゾンのスマートスピーカー「アマゾンエコー」を筆者の自宅と息子夫婦宅で使っていて気が付いたことがある。
息子夫婦が朝起きて活動を始めると、センサーが察知して、息子夫婦宅がアクティブになったと通知してくれるのだ。
一人暮らしの高齢者宅にアマゾンエコーを設置すれば見守り効果もありそうだ。
しかし、この機能は各家庭の在宅時間帯をデータ化することで、配達順路の最適化に使えるのではないだろうか? 置き配OKの届け先とアマゾンエコーで検知した在宅データを基に配達順路を組み立てれば、不在再配達ゼロも不可能ではないだろう。
そこまでアマゾンが視野に入れていると考えるのは、筆者の勘繰りが過ぎるであろうか? 一方、楽天は19年9月、「楽天市場」において送料無料となる購入額を税込3980円で統一する方針を発表した。
これと並行して「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」を拡大。
出店者の物流をRSLの拠点に集約し、Rakuten─EXPRESSによってラストワンマイルまで統合することを目指す。
この物流投資に2千億円を拠出すると同社は発表している。
ZHD陣営も、アスクルへの経営参画強化、ZOZOのグループ化、LINEとの経営統合と矢継ぎ早に手を打ってきた。
アマゾン、楽天の“2強”に対抗する流通コングロマリットの形成が予測される。
アスクルの自社配送スキームを活用した、ラストワンマイル構築も射程に入っているだろう。
このようにアマゾン、楽天、そしてZHDの巨大プラットフォーマーはいずれも、ECのフロントからラストワンマイルまでを自ら構築して、直接コントロールしていく戦略を進めている。
2.アフターコロナ時代のEC物流倉庫 こうした中、EC物流の荷動きも荒れ模様である。
筆者は08年からスクロール360(サンロクマル、以下360)に参画し、200社以上のEC通販事業のバックヤードをサポートしてきたが、今年ほど受注数が極端に変動したことはなかった。
追い風、逆風は業種によってさまざまである。
食品、ワイン、コーヒー関連、フィットネス器具、ダイエット用品などは伸びている。
特に食品の伸びは大きく、出荷額が前年同月対比10倍を超えている事業者もある。
それとは対照的に、アパレル・化粧品の店舗配送は商業施設の店舗休業の影響で激減している。
コロナに入る前までにEC通販の基盤を整備してこなかった事業者からは悲鳴の声さえ上がっている。
消費者は単に店舗が開いていないためEC通販を利用しているというより、生活の在り方そのものが変化しているようだ。
いわゆる「巣籠もり消費」と呼ばれる現象は、その表面をなぞったものにすぎない。
図2は360の物流センターで前年対比の出荷が急増した商品カテゴリーを四つに分類したものだ。
図の「A.店舗閉店自粛によるEC出荷増」は単純に「店が閉まっているからECで購入」というパターンだが、それ以外のB、C、Dはいずれも消費者の生活スタイルの変化に起因している。
このうち「B.生活様式の変化によるEC出荷増」について、筆者の友人で日本オムニチャネル協会のアドバイザリーボードを務めているグラニフの大西理執行役員は、「自宅の〇〇化」という文脈で消費の変化を捉えることを提唱している。
有名レストランのテイクアウトを利用して「自宅をレストラン化」する。
ヨガマットやトレーニングギアを買って「自宅をジム化」する。
普段は自宅で食べないおつまみや高いお酒を購入して「自宅を居酒屋化」あるいは「バー化」する。
自宅を「プレイランド化」したり、「キャンプ場化」するといった現象が起きている。
同様にリモートワークは「自宅の職場化」、オンライン授業は「自宅の学校化」として捉えることができる。
小売業者がECとオンライン接客を組み合わせれば「自宅の店舗化」も可能となる。
自宅で過ごす時間が長くなったことから、自宅が多目的化しているのである。
消費者心理の変化は需要シフトをもたらし、“売れる”商品と、“使う”場所が変化し始めているというわけである。
「D.居住空間の改造による出荷増」も「自宅の〇〇化」を補完する行動様式といえる。
幼稚園や小学校に登校できない子供たちが、家で走り回る騒音を気にして防音マットを購入したり、テレワークに集中するために防音パーテーションを購入したり。
家のメンテナンスやガーデニングを始めるといった行動様式の変化が見て取れる。
また「C.健康管理&免疫力強化による出荷増」とは、体温計や免疫力の強化に役立つとされるサプリ類やドリンク類、マスク関連製品への注文の殺到である。
そして着目しなければならないのは、緊急事態宣言が5月末に解除されて以降も、9月現在に至るまで、これらの商品の出荷数は前年対比で増加していることだ。
既に店は開いている。
しかしECで買う方が便利で感染リスクも少ないことに消費者は気が付いた。
消費者の購買行動がコロナ以前とは一転したことを認識しなければならない。
今後もDX(デジタルトランスフォーメーション)は加速し、恐ろしい勢いで進化していく。
それと共にEC物流倉庫に求められるものも変化していく。
物流を制するものがECを制する 新型コロナの感染拡大は、EC通販には大きな追い風だった。
しかし、せっかく注文が増えたにもかかわらず、物流のキャパオーバーで発送が大幅に遅れて、チャンスを逃したECショップは少なくない。
一方で、大量の注文を悠然とこなして無事に乗り切ったECショップもある。
その差はどこにあったのか。
結論から言えば、「物流アウトソーシングの活用など、拡大するEC物流に対する基盤整備してきたかどうか」が分かれ目となっている。
EC通販においては「物流を制する者がアフターコロナを制する」と言っても過言ではない。
そこで求められることになるEC物流倉庫の姿を以下に見ていこう。
20年1月にそれまで続けてきた自社物流を諦め、360の物流センターに移転してきたECショップがある。
仮にA社とする。
A社はさまざまな生地を切り売りで販売している。
それを従来は自社ビル内に在庫を置いて、社員が出荷作業を行っていた。
しかし、フロアは2階層に分かれて、トラックが停車するバースもないなど、大変に苦労していた。
そこで今後の事業拡大を見据えて、360に物流業務を丸ごとアウトソーシングした。
それから2カ月後の3月、新型コロナの感染拡大によって、A社の受注量は突然跳ね上がった。
ガーゼの生地を切り売りで購入して、マスクを手作りする人が急増したのだ。
ピーク時には1日1200枚の生地をカットして出荷することになった。
幸い360のセンター内に生地をカットするコーナーを設置していため、出荷ラッシュを乗り切ることができた。
また、需要増を受けて生地の仕入れも強化したため、パレット積みされたガーゼ生地の大量の入荷があった。
移転当初の計画を大幅に上回る保管スペースが急遽必要になった。
これもセンター側で保管エリアを拡張することで対応できた。
振り返れば20年1月の物流移転はタイミング的にギリギリだった。
決断が遅れていたらどうなっていたか、改めて説明するまでもないだろう。
自社倉庫で社員が出荷作業に当たる体制は、融通が利く、商品在庫をすぐに確認できるといったメリットがある一方、次の二つの決定的な弱点を抱える。
1.出荷量の波動に対応できない(できにくい) 2.出荷場の拡張性を担保できない(できにくい) ましてや今回のコロナ特需のように前年同月比10倍といったレベルで受注が増えれば到底、対応は不可能だ。
出荷が間に合わなくなるだけでなく、入荷も同時に増える。
出荷作業に追われて入荷検収前の商品が山積みになり、商品が倉庫に届いているのに欠品するといった現象が起きる。
物流において「スペースは力」だ。
スペースにゆとりがあるのとないのでは、需要の大きな変動が起きたときに決定的な違いが出る。
とりわけ波動の大きなEC物流においてはスペースの拡張性が重要なポイントになる。
EC物流センターの四つの条件 コロナ以前の常識はもはや通用しない。
アフターコロナに求められる物流センターの条件として以下に四つ挙げておきたい。
第1の条件は、出荷量の波動に柔軟に対応できる人的リソースだ。
平均的なEC物流で、作業員1人が1日に出荷を処理できる件数は50件が目安である(もちろん商品の大きさやオーダー点数によっても処理量は変動する)。
1日1千件の出荷を定時までに完了するには20人が必要になる。
そこにコロナ特需で平時の6倍、6千件の受注が来たらどうなるか。
単純計算では作業員数も普段の6倍の120人を確保しなければならない。
100人を追加採用することが大変なのはもちろんだが、それだけでなくコロナが収束して特需が終われば今度は100人の雇用維持が問題になってくる。
「数は力」である。
スタッフ数の多い物流センターほど、こうした出荷量の波動に柔軟に対応できる。
360のメーン物流拠点「スクロール・ロジスティクス・センター浜松西(SLC浜松西)」では、計1千人がシフトを組んで常時600人が出社している。
同センターは親会社のスクロールの物流センターに併設しており、スタッフはスクロールの出荷スタッフと360の出荷スタッフで半々に分かれているが、必要に応じて相互にシフトさせている。
さらに360が受託しているECショップは現在20社で1日当たりの出荷件数は土日も含めて平均約2万件に上る。
ショップ別にスタッフは固定しているが、出荷量の波動によって配置をフレキシブルに見直している。
受託しているショップ数が多いため、出荷が増えているショップもあれば、減っているショップもあり、全体で調整すれば100名単位のシフトも可能だ。
そのために各ECショップから前月末に翌月の出荷予測件数を提出してもらい、日々の必要スタッフ数の予測を立てている。
同じ日の午前と午後でも、必要な人時を確かめながら、シフトを動かしている。
センター内に設置されたコマンドセンターのモニターには、リアルタイムの出荷進捗状況がEC通販ショップ別に表示される。
当日の進捗が遅れている作業場があれば、進捗状況の良い作業場からスタッフを応援に送るといった管理をしている。
EC物流センターに求められる第2の条件は、出荷量が増加しても作業品質の落ちないシステム(WMS)とマテハン機器を装備していることだ。
平時は熟練した専任スタッフが出荷作業を行っているが、出荷が急増した場合には短期アルバイトや派遣社員を投入することもある。
そうした慣れない作業員が入ったときに出荷ミスは発生する。
ピッキングから検品、梱包、送り状貼付までの作業工程でミスが発生しないことを、システムで担保することが重要である。
そのため360では、ピッキングした在庫をバーコード検品して、全ての商品が合っていないと送り状がプリント発行されないようにシステムを組んでいる。
第3の条件は多拠点体制だ。
コロナ感染者が出て物流センターが止まっても、別エリアの物流センターでカバーできる体制が求められる。
多拠点体制の運用を支えるWMSも必要だ。
出荷指示データを一括で受け取り、顧客に近いセンターの在庫に引き当てる。
そして第4の条件は、適切な感染症対策と労働環境を整備していることだ。
360では感染症対策として以下のことを徹底している。
●毎日、出社前に検温を行う。
37・5℃以上の場合は出勤禁止。
同居家族に同じ症状のある場合も出勤禁止。
●センター入場時にアルコール消毒を実施。
休憩タイムごとにも消毒を行う。
●食堂は2班体制、着席するテーブルも作業棟ごとに分けている。
両横と前の席を空けるチドリ格子型で着席して、ソーシャルディスタンシングを徹底している。
●センター内の各エリアで、スタッフは名札をリーダーで読み込んでから作業に入る。
1日に複数のエリアで作業をしてもログを追えるので、濃厚接触者を特定できる。
●センターに入場する外部業者にもマスク着用とアルコール消毒を徹底してもらっている。
クライアントの見学は禁止している。
東京勤務者もセンターには入場できない。
●2時間おきに窓を開け、換気を行う。
感染症対策と並んで労働環境の重要性を今年ほど痛感したことはない。
360では例年11月からインフルエンザ対策として、スタッフ全員にマスクの着用を義務付けてきた。
ところが今年は炎天下の真夏にマスクを着用せざるを得なくなった。
360のセンターは全館エアコンが完備されている。
保管機能よりも出荷作業を重視した設計のため天井が低いことも幸いして空調が効き、熱中症患者を出さずに乗り越えることができた。
出荷作業場のエアコン完備はもはや必須と言えるだろう。
3.EC通販の進化=ナラティブの時代 今後はEC事業者だけでなく全ての流通事業者、メーカーまでもがEC通販を強化してくる。
競争激化は避けられない。
商品の性能や品質だけで差別化することは難しくなり、「コミュニケーションや付帯サービスが、商品と共にブランドの競争力を決する重要な要素」になっていく。
「商品+サービス」でユーザーの体験をつくる時代が来た。
「ブランドと顧客が紡ぎ出す一つのストーリー=narrative(ナラティブ)が重要になる」ということだ。
そこでも物流が大きな役割を果たすことになる。
例としてアウトドア専門店でテントを購入するケースを見てみよう。
その消費者は友人がインスタグラムに投稿したテントの画像を見て興味を持ち、初心者向けテント情報を掲載しているアウトドア用品店の公式サイトを探す。
三つほどサイトを見て回った後、テントの使い方が丁寧に解説されていたサイトに戻り、サイト内の商品ページに移動。
購入者のレビューを参考にテントを選び、レコメンドされていたマットと寝袋と一緒にカートに入れて購入完了。
商品到着から1週間後の金曜日、店からメールが届いた。
「今週末にキャンプに行く方へ、テントの組み立て方解説動画のご案内」という件名だ。
キャンプ当日はその動画を見ながらテントを組み立てた。
スムーズに楽しくキャンプができた。
キャンプから帰った週明けの月曜日、またメールが届いた。
今度は「テントの組み立てでお困りではありませんでしたか? 次回はさらにレベルアップして小型のガスバーナーコンロも持って行き、キャンプご飯を楽しみませんか」という内容だ。
確かに隣のテントでは朝、おいしそうなコーヒーを淹れていて羨ましかったことを思い出した。
さっそく追加購入した。
この店舗(EC通販)が提供している価値は商品の販売にとどまらない。
商品はあくまで手段であり、「キャンプを楽しむ」というナラティブを提供しているのである。
初心者がアウトドアを楽しむプロセスを先回りして提案することにより、最高の顧客体験を紡ぎ出しているのである。
こうしたEC通販の進化に、どう対応していけばいいだろうか?これまでのような効率重視、コスト重視だけではニーズに応えていけないだろう。
そこで360が実施している「物流によるナラティブ支援」を以下に紹介しよう。
倉庫内加工業務でOMOを支援 ワイシャツ専門ショップ「OZIE」はEC通販サイトの他に、六本木一丁目に試着ルームを置き、試着の予約を受け付けている。
試着ルームにはサイズ計測用サンプルと売れ筋の400SKUを置いている。
一方、360の物流センターには4000SKUを保管している。
試着の予約を受けた商品を、360のセンターから事前に試着ルームに移動する。
ワイシャツは、身幅、袖丈、首回りの全てのサイズがぴったり合わないと着心地が悪い。
そこでOZIEでは試着ルームに全てのサイズの試着用サンプルを置き、身幅と首回りがぴったりのサイズを選び、袖丈が合わなければ物流センターで直すというシステムを取っている。
そのために360のセンター内にミシン9台を設置、専門の加工作業員を置き、ワイシャツの袖丈直しに対応している。
試着ルームで店員からワイシャツ選びのアドバイスを受けてオンラインでオーダー。
その情報を基にセンターではピッキング~袖丈直しが行われ、世界で唯一の自分にピッタリの商品が自宅に届く。
センター内縫製工場によってナラティブを実現しているわけだ。
クリック&モルタル、O2O、オムニチャネルとバズワードは変化して、現在はOMO(Online Merges with Offline)と呼ばれているが、リアル店舗とオンラインショップの融合はアフターコロナでさらに加速していく。
オンラインとオフラインの双方の良さを組み合わせて最高の顧客体験を紡ぎ出すビジネスモデルは今後も次々と現れてくるだろう。
倉庫内ギフト加工でナラティブを演出 ウィズコロナに入って食品ギフトも急増している。
これまで贈り物は直接持参するのが一番だったが、感染予防の観点からEC通販で送る方がむしろマナーにかなっているということになった。
相手の顔を見て伝えられない気持ちを「メッセージカード(短冊)」がカバーしている。
そのために物流センターでは、「いつもありがとう」「お誕生日おめでとう」「暑中御見舞い」といったギフトの依頼主からのさまざまなメッセージをカードに印字して、ギフトに間違いなく貼りつける作業が発生している。
贈り物のナラティブを演出する重要な役割を物流センターが担っているのである。
オンデマンドプリンターで販促支援 360のセンターにはあらかじめ画像データをプリンターにセットしておき、顧客一人一人にワン・トゥ・ワンのメッセージを送れるオンデマンドプリンター(バリアブルプリンター)が導入されている。
主に次の三つの用途に利用している。
一つはCRM強化だ。
リピート通販系の活用が多い。
顧客の住んでいるエリアにまつわる話題やメッセージを印刷し、商品に同梱し、顧客に親近感を持たせるといったアプローチで継続率を向上する。
災害が発生したエリアにだけ、お見舞いのメッセージを送ることもできる。
二つ目は、レコメンデーションだ。
購入商品とコーディネイトされた商品や、併売の確率の高い商品の画像と、該当商品の売り場に誘導するQRコードをプリントする。
そして三つ目が、リアル店舗への誘導だ。
顧客の住所に最も近いリアル店舗のイベント情報や来店促進のツールを印刷して商品に同梱する。
このように従来はコストセンターとしか見られなかった物流が、売り上げや継続率の向上をもたらすプロフィットセンターとして見直されてきている。
スクロール360のコンセプト 最後にスクロール360という社名の由来を紹介したい。
親会社スクロールは60年以上の歴史を持つ老舗通販会社だ。
その通販ノウハウと物流センター、コンタクトセンター、決済システムといったインフラを活用し、EC通販企業を360度サポートするというミッションを掲げて、スクロール360は設立された。
実際、360のサービスメニューは、EC事業戦略の策定から、マーケティングやプロモーションのコンサルティング、受注→物流→決済に至るフルフィルメント業務、マルチドメイン対応システム、さらには顧客データベースを備えたEC通販基幹システムの提供まで、EC事業に必要なあらゆる機能をカバーしている(図3)。
自社インフラと自社スタッフで全ての機能サポートできる日本唯一のBPO企業を自負している。
「餅は餅屋」である。
EC事業者は戦略設計や商品MDなどのコアな業務に集中し、それ以外のルーティン業務はアウトソーシングすることをお勧めする。
筆者が10月20日に出版した「EC通販で勝つBPO活用術」(ダイヤモンド社)ではその成功事例とともに、アウトソーシングの重要性、活用術、2030年のEC活用イメージなどを紹介している。
ご興味のある方は是非ご一読されたい。
筆者の40年近い実務経験を振り返っても記憶にないほどの“事件”が矢継ぎ早に起きている。
2016年に佐川急便(以下、佐川)のドライバーが配達荷物を蹴りあげる動画がSNSに投稿された。
荷物の取り扱いに対して非難の声が上がると同時に、宅配会社の配送キャパシティーのひっ迫に対する世間の関心が高まった。
17年4月、ヤマト運輸(以下、ヤマト)が大口顧客に対する運賃の値上げを発表した。
同社の最大荷主のアマゾンジャパンもその例外ではなく、大幅な値上げが実施された。
日本経済新聞は1件当たり平均280円だったアマゾン向けの単価が400円台になったと報じた。
18年1月、楽天は独自の物流網の構築を目指す「ワンデリバリー構想」を発表した。
これに基づきフルフィルメントサービスの「楽天スーパーロジスティクス」と自社配送サービス「Rakuten─EXPRESS」の拡大計画が打ち出された。
19年11月にはヤフーがZOZOを子会社化、さらにグループを再編してアスクルを含むZホールディングス(ZHD)が形成された。
そして今年2020年、新型コロナによる巣籠り需要でEC通販の需要は大きく跳ね上がっている。
以下にまずはアマゾンをはじめとするプラットフォーマーの動きを外観しておこう。
「Amazon宅配」のシェア急上昇 図1は、アマゾンが利用している宅配キャリアの変化をグラフ化したものである。
データは、筆者も関与する「宅配研究会」から生まれた再配達問題解決アプリ「ウケトル」が定期的に発表しているものだ。
17年4月時点でアマゾンは配達する荷物の71%をヤマトに委託していた。
それが、20年9月には23%に大きく減少している。
代わって一気にシェアを拡大しているのは、宅配大手3社の佐川でも、日本郵便でもなく、「Amazon宅配」だ。
アマゾンは宅配クライシスに対応して、二つの配送スキームを構築した。
一つは13年頃にスタートした「デリバリープロバイダ」だ。
現在、各地の地域宅配事業者9社と提携してラストワンマイルを委託している。
二つ目は18年にスタートした「Amazon Flex」だ。
アマゾンが軽貨物車を所有している個人事業主と直接契約を結び、決められたエリアの宅配業務を委託している。
この二つを図では「Amazon宅配」として分類している。
どちらもスタート当初は配送トラブルが多かった。
しかし、経験を積むにつれ品質は上がってきている。
筆者がAmazon Flexのドライバー経験者に聞いたところ、「昔の配達は地図とのにらめっこで大変だったが、アマゾンの荷物はスマホに入れたアプリの指示通りに配達すればよいので、すごく楽」とのことだった。
さらにアマゾンは19年7月に「置き配」をスタート、今年3月には置き配を標準サービスに設定した。
これにより注文者は配送時間を気にしなくてよくなった。
ドライバーは不在再配達がなくなった。
さらには「時間指定を守れない」「配達時の応対が悪い」といったAmazon宅配の課題もこれで解消されることになる。
アフターコロナで拡大する配送量に対してアマゾンは、3大キャリアに依存しないラストワンマイルをこれからも拡大し続けるだろう。
余談になるが、アマゾンのスマートスピーカー「アマゾンエコー」を筆者の自宅と息子夫婦宅で使っていて気が付いたことがある。
息子夫婦が朝起きて活動を始めると、センサーが察知して、息子夫婦宅がアクティブになったと通知してくれるのだ。
一人暮らしの高齢者宅にアマゾンエコーを設置すれば見守り効果もありそうだ。
しかし、この機能は各家庭の在宅時間帯をデータ化することで、配達順路の最適化に使えるのではないだろうか? 置き配OKの届け先とアマゾンエコーで検知した在宅データを基に配達順路を組み立てれば、不在再配達ゼロも不可能ではないだろう。
そこまでアマゾンが視野に入れていると考えるのは、筆者の勘繰りが過ぎるであろうか? 一方、楽天は19年9月、「楽天市場」において送料無料となる購入額を税込3980円で統一する方針を発表した。
これと並行して「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」を拡大。
出店者の物流をRSLの拠点に集約し、Rakuten─EXPRESSによってラストワンマイルまで統合することを目指す。
この物流投資に2千億円を拠出すると同社は発表している。
ZHD陣営も、アスクルへの経営参画強化、ZOZOのグループ化、LINEとの経営統合と矢継ぎ早に手を打ってきた。
アマゾン、楽天の“2強”に対抗する流通コングロマリットの形成が予測される。
アスクルの自社配送スキームを活用した、ラストワンマイル構築も射程に入っているだろう。
このようにアマゾン、楽天、そしてZHDの巨大プラットフォーマーはいずれも、ECのフロントからラストワンマイルまでを自ら構築して、直接コントロールしていく戦略を進めている。
2.アフターコロナ時代のEC物流倉庫 こうした中、EC物流の荷動きも荒れ模様である。
筆者は08年からスクロール360(サンロクマル、以下360)に参画し、200社以上のEC通販事業のバックヤードをサポートしてきたが、今年ほど受注数が極端に変動したことはなかった。
追い風、逆風は業種によってさまざまである。
食品、ワイン、コーヒー関連、フィットネス器具、ダイエット用品などは伸びている。
特に食品の伸びは大きく、出荷額が前年同月対比10倍を超えている事業者もある。
それとは対照的に、アパレル・化粧品の店舗配送は商業施設の店舗休業の影響で激減している。
コロナに入る前までにEC通販の基盤を整備してこなかった事業者からは悲鳴の声さえ上がっている。
消費者は単に店舗が開いていないためEC通販を利用しているというより、生活の在り方そのものが変化しているようだ。
いわゆる「巣籠もり消費」と呼ばれる現象は、その表面をなぞったものにすぎない。
図2は360の物流センターで前年対比の出荷が急増した商品カテゴリーを四つに分類したものだ。
図の「A.店舗閉店自粛によるEC出荷増」は単純に「店が閉まっているからECで購入」というパターンだが、それ以外のB、C、Dはいずれも消費者の生活スタイルの変化に起因している。
このうち「B.生活様式の変化によるEC出荷増」について、筆者の友人で日本オムニチャネル協会のアドバイザリーボードを務めているグラニフの大西理執行役員は、「自宅の〇〇化」という文脈で消費の変化を捉えることを提唱している。
有名レストランのテイクアウトを利用して「自宅をレストラン化」する。
ヨガマットやトレーニングギアを買って「自宅をジム化」する。
普段は自宅で食べないおつまみや高いお酒を購入して「自宅を居酒屋化」あるいは「バー化」する。
自宅を「プレイランド化」したり、「キャンプ場化」するといった現象が起きている。
同様にリモートワークは「自宅の職場化」、オンライン授業は「自宅の学校化」として捉えることができる。
小売業者がECとオンライン接客を組み合わせれば「自宅の店舗化」も可能となる。
自宅で過ごす時間が長くなったことから、自宅が多目的化しているのである。
消費者心理の変化は需要シフトをもたらし、“売れる”商品と、“使う”場所が変化し始めているというわけである。
「D.居住空間の改造による出荷増」も「自宅の〇〇化」を補完する行動様式といえる。
幼稚園や小学校に登校できない子供たちが、家で走り回る騒音を気にして防音マットを購入したり、テレワークに集中するために防音パーテーションを購入したり。
家のメンテナンスやガーデニングを始めるといった行動様式の変化が見て取れる。
また「C.健康管理&免疫力強化による出荷増」とは、体温計や免疫力の強化に役立つとされるサプリ類やドリンク類、マスク関連製品への注文の殺到である。
そして着目しなければならないのは、緊急事態宣言が5月末に解除されて以降も、9月現在に至るまで、これらの商品の出荷数は前年対比で増加していることだ。
既に店は開いている。
しかしECで買う方が便利で感染リスクも少ないことに消費者は気が付いた。
消費者の購買行動がコロナ以前とは一転したことを認識しなければならない。
今後もDX(デジタルトランスフォーメーション)は加速し、恐ろしい勢いで進化していく。
それと共にEC物流倉庫に求められるものも変化していく。
物流を制するものがECを制する 新型コロナの感染拡大は、EC通販には大きな追い風だった。
しかし、せっかく注文が増えたにもかかわらず、物流のキャパオーバーで発送が大幅に遅れて、チャンスを逃したECショップは少なくない。
一方で、大量の注文を悠然とこなして無事に乗り切ったECショップもある。
その差はどこにあったのか。
結論から言えば、「物流アウトソーシングの活用など、拡大するEC物流に対する基盤整備してきたかどうか」が分かれ目となっている。
EC通販においては「物流を制する者がアフターコロナを制する」と言っても過言ではない。
そこで求められることになるEC物流倉庫の姿を以下に見ていこう。
20年1月にそれまで続けてきた自社物流を諦め、360の物流センターに移転してきたECショップがある。
仮にA社とする。
A社はさまざまな生地を切り売りで販売している。
それを従来は自社ビル内に在庫を置いて、社員が出荷作業を行っていた。
しかし、フロアは2階層に分かれて、トラックが停車するバースもないなど、大変に苦労していた。
そこで今後の事業拡大を見据えて、360に物流業務を丸ごとアウトソーシングした。
それから2カ月後の3月、新型コロナの感染拡大によって、A社の受注量は突然跳ね上がった。
ガーゼの生地を切り売りで購入して、マスクを手作りする人が急増したのだ。
ピーク時には1日1200枚の生地をカットして出荷することになった。
幸い360のセンター内に生地をカットするコーナーを設置していため、出荷ラッシュを乗り切ることができた。
また、需要増を受けて生地の仕入れも強化したため、パレット積みされたガーゼ生地の大量の入荷があった。
移転当初の計画を大幅に上回る保管スペースが急遽必要になった。
これもセンター側で保管エリアを拡張することで対応できた。
振り返れば20年1月の物流移転はタイミング的にギリギリだった。
決断が遅れていたらどうなっていたか、改めて説明するまでもないだろう。
自社倉庫で社員が出荷作業に当たる体制は、融通が利く、商品在庫をすぐに確認できるといったメリットがある一方、次の二つの決定的な弱点を抱える。
1.出荷量の波動に対応できない(できにくい) 2.出荷場の拡張性を担保できない(できにくい) ましてや今回のコロナ特需のように前年同月比10倍といったレベルで受注が増えれば到底、対応は不可能だ。
出荷が間に合わなくなるだけでなく、入荷も同時に増える。
出荷作業に追われて入荷検収前の商品が山積みになり、商品が倉庫に届いているのに欠品するといった現象が起きる。
物流において「スペースは力」だ。
スペースにゆとりがあるのとないのでは、需要の大きな変動が起きたときに決定的な違いが出る。
とりわけ波動の大きなEC物流においてはスペースの拡張性が重要なポイントになる。
EC物流センターの四つの条件 コロナ以前の常識はもはや通用しない。
アフターコロナに求められる物流センターの条件として以下に四つ挙げておきたい。
第1の条件は、出荷量の波動に柔軟に対応できる人的リソースだ。
平均的なEC物流で、作業員1人が1日に出荷を処理できる件数は50件が目安である(もちろん商品の大きさやオーダー点数によっても処理量は変動する)。
1日1千件の出荷を定時までに完了するには20人が必要になる。
そこにコロナ特需で平時の6倍、6千件の受注が来たらどうなるか。
単純計算では作業員数も普段の6倍の120人を確保しなければならない。
100人を追加採用することが大変なのはもちろんだが、それだけでなくコロナが収束して特需が終われば今度は100人の雇用維持が問題になってくる。
「数は力」である。
スタッフ数の多い物流センターほど、こうした出荷量の波動に柔軟に対応できる。
360のメーン物流拠点「スクロール・ロジスティクス・センター浜松西(SLC浜松西)」では、計1千人がシフトを組んで常時600人が出社している。
同センターは親会社のスクロールの物流センターに併設しており、スタッフはスクロールの出荷スタッフと360の出荷スタッフで半々に分かれているが、必要に応じて相互にシフトさせている。
さらに360が受託しているECショップは現在20社で1日当たりの出荷件数は土日も含めて平均約2万件に上る。
ショップ別にスタッフは固定しているが、出荷量の波動によって配置をフレキシブルに見直している。
受託しているショップ数が多いため、出荷が増えているショップもあれば、減っているショップもあり、全体で調整すれば100名単位のシフトも可能だ。
そのために各ECショップから前月末に翌月の出荷予測件数を提出してもらい、日々の必要スタッフ数の予測を立てている。
同じ日の午前と午後でも、必要な人時を確かめながら、シフトを動かしている。
センター内に設置されたコマンドセンターのモニターには、リアルタイムの出荷進捗状況がEC通販ショップ別に表示される。
当日の進捗が遅れている作業場があれば、進捗状況の良い作業場からスタッフを応援に送るといった管理をしている。
EC物流センターに求められる第2の条件は、出荷量が増加しても作業品質の落ちないシステム(WMS)とマテハン機器を装備していることだ。
平時は熟練した専任スタッフが出荷作業を行っているが、出荷が急増した場合には短期アルバイトや派遣社員を投入することもある。
そうした慣れない作業員が入ったときに出荷ミスは発生する。
ピッキングから検品、梱包、送り状貼付までの作業工程でミスが発生しないことを、システムで担保することが重要である。
そのため360では、ピッキングした在庫をバーコード検品して、全ての商品が合っていないと送り状がプリント発行されないようにシステムを組んでいる。
第3の条件は多拠点体制だ。
コロナ感染者が出て物流センターが止まっても、別エリアの物流センターでカバーできる体制が求められる。
多拠点体制の運用を支えるWMSも必要だ。
出荷指示データを一括で受け取り、顧客に近いセンターの在庫に引き当てる。
そして第4の条件は、適切な感染症対策と労働環境を整備していることだ。
360では感染症対策として以下のことを徹底している。
●毎日、出社前に検温を行う。
37・5℃以上の場合は出勤禁止。
同居家族に同じ症状のある場合も出勤禁止。
●センター入場時にアルコール消毒を実施。
休憩タイムごとにも消毒を行う。
●食堂は2班体制、着席するテーブルも作業棟ごとに分けている。
両横と前の席を空けるチドリ格子型で着席して、ソーシャルディスタンシングを徹底している。
●センター内の各エリアで、スタッフは名札をリーダーで読み込んでから作業に入る。
1日に複数のエリアで作業をしてもログを追えるので、濃厚接触者を特定できる。
●センターに入場する外部業者にもマスク着用とアルコール消毒を徹底してもらっている。
クライアントの見学は禁止している。
東京勤務者もセンターには入場できない。
●2時間おきに窓を開け、換気を行う。
感染症対策と並んで労働環境の重要性を今年ほど痛感したことはない。
360では例年11月からインフルエンザ対策として、スタッフ全員にマスクの着用を義務付けてきた。
ところが今年は炎天下の真夏にマスクを着用せざるを得なくなった。
360のセンターは全館エアコンが完備されている。
保管機能よりも出荷作業を重視した設計のため天井が低いことも幸いして空調が効き、熱中症患者を出さずに乗り越えることができた。
出荷作業場のエアコン完備はもはや必須と言えるだろう。
3.EC通販の進化=ナラティブの時代 今後はEC事業者だけでなく全ての流通事業者、メーカーまでもがEC通販を強化してくる。
競争激化は避けられない。
商品の性能や品質だけで差別化することは難しくなり、「コミュニケーションや付帯サービスが、商品と共にブランドの競争力を決する重要な要素」になっていく。
「商品+サービス」でユーザーの体験をつくる時代が来た。
「ブランドと顧客が紡ぎ出す一つのストーリー=narrative(ナラティブ)が重要になる」ということだ。
そこでも物流が大きな役割を果たすことになる。
例としてアウトドア専門店でテントを購入するケースを見てみよう。
その消費者は友人がインスタグラムに投稿したテントの画像を見て興味を持ち、初心者向けテント情報を掲載しているアウトドア用品店の公式サイトを探す。
三つほどサイトを見て回った後、テントの使い方が丁寧に解説されていたサイトに戻り、サイト内の商品ページに移動。
購入者のレビューを参考にテントを選び、レコメンドされていたマットと寝袋と一緒にカートに入れて購入完了。
商品到着から1週間後の金曜日、店からメールが届いた。
「今週末にキャンプに行く方へ、テントの組み立て方解説動画のご案内」という件名だ。
キャンプ当日はその動画を見ながらテントを組み立てた。
スムーズに楽しくキャンプができた。
キャンプから帰った週明けの月曜日、またメールが届いた。
今度は「テントの組み立てでお困りではありませんでしたか? 次回はさらにレベルアップして小型のガスバーナーコンロも持って行き、キャンプご飯を楽しみませんか」という内容だ。
確かに隣のテントでは朝、おいしそうなコーヒーを淹れていて羨ましかったことを思い出した。
さっそく追加購入した。
この店舗(EC通販)が提供している価値は商品の販売にとどまらない。
商品はあくまで手段であり、「キャンプを楽しむ」というナラティブを提供しているのである。
初心者がアウトドアを楽しむプロセスを先回りして提案することにより、最高の顧客体験を紡ぎ出しているのである。
こうしたEC通販の進化に、どう対応していけばいいだろうか?これまでのような効率重視、コスト重視だけではニーズに応えていけないだろう。
そこで360が実施している「物流によるナラティブ支援」を以下に紹介しよう。
倉庫内加工業務でOMOを支援 ワイシャツ専門ショップ「OZIE」はEC通販サイトの他に、六本木一丁目に試着ルームを置き、試着の予約を受け付けている。
試着ルームにはサイズ計測用サンプルと売れ筋の400SKUを置いている。
一方、360の物流センターには4000SKUを保管している。
試着の予約を受けた商品を、360のセンターから事前に試着ルームに移動する。
ワイシャツは、身幅、袖丈、首回りの全てのサイズがぴったり合わないと着心地が悪い。
そこでOZIEでは試着ルームに全てのサイズの試着用サンプルを置き、身幅と首回りがぴったりのサイズを選び、袖丈が合わなければ物流センターで直すというシステムを取っている。
そのために360のセンター内にミシン9台を設置、専門の加工作業員を置き、ワイシャツの袖丈直しに対応している。
試着ルームで店員からワイシャツ選びのアドバイスを受けてオンラインでオーダー。
その情報を基にセンターではピッキング~袖丈直しが行われ、世界で唯一の自分にピッタリの商品が自宅に届く。
センター内縫製工場によってナラティブを実現しているわけだ。
クリック&モルタル、O2O、オムニチャネルとバズワードは変化して、現在はOMO(Online Merges with Offline)と呼ばれているが、リアル店舗とオンラインショップの融合はアフターコロナでさらに加速していく。
オンラインとオフラインの双方の良さを組み合わせて最高の顧客体験を紡ぎ出すビジネスモデルは今後も次々と現れてくるだろう。
倉庫内ギフト加工でナラティブを演出 ウィズコロナに入って食品ギフトも急増している。
これまで贈り物は直接持参するのが一番だったが、感染予防の観点からEC通販で送る方がむしろマナーにかなっているということになった。
相手の顔を見て伝えられない気持ちを「メッセージカード(短冊)」がカバーしている。
そのために物流センターでは、「いつもありがとう」「お誕生日おめでとう」「暑中御見舞い」といったギフトの依頼主からのさまざまなメッセージをカードに印字して、ギフトに間違いなく貼りつける作業が発生している。
贈り物のナラティブを演出する重要な役割を物流センターが担っているのである。
オンデマンドプリンターで販促支援 360のセンターにはあらかじめ画像データをプリンターにセットしておき、顧客一人一人にワン・トゥ・ワンのメッセージを送れるオンデマンドプリンター(バリアブルプリンター)が導入されている。
主に次の三つの用途に利用している。
一つはCRM強化だ。
リピート通販系の活用が多い。
顧客の住んでいるエリアにまつわる話題やメッセージを印刷し、商品に同梱し、顧客に親近感を持たせるといったアプローチで継続率を向上する。
災害が発生したエリアにだけ、お見舞いのメッセージを送ることもできる。
二つ目は、レコメンデーションだ。
購入商品とコーディネイトされた商品や、併売の確率の高い商品の画像と、該当商品の売り場に誘導するQRコードをプリントする。
そして三つ目が、リアル店舗への誘導だ。
顧客の住所に最も近いリアル店舗のイベント情報や来店促進のツールを印刷して商品に同梱する。
このように従来はコストセンターとしか見られなかった物流が、売り上げや継続率の向上をもたらすプロフィットセンターとして見直されてきている。
スクロール360のコンセプト 最後にスクロール360という社名の由来を紹介したい。
親会社スクロールは60年以上の歴史を持つ老舗通販会社だ。
その通販ノウハウと物流センター、コンタクトセンター、決済システムといったインフラを活用し、EC通販企業を360度サポートするというミッションを掲げて、スクロール360は設立された。
実際、360のサービスメニューは、EC事業戦略の策定から、マーケティングやプロモーションのコンサルティング、受注→物流→決済に至るフルフィルメント業務、マルチドメイン対応システム、さらには顧客データベースを備えたEC通販基幹システムの提供まで、EC事業に必要なあらゆる機能をカバーしている(図3)。
自社インフラと自社スタッフで全ての機能サポートできる日本唯一のBPO企業を自負している。
「餅は餅屋」である。
EC事業者は戦略設計や商品MDなどのコアな業務に集中し、それ以外のルーティン業務はアウトソーシングすることをお勧めする。
筆者が10月20日に出版した「EC通販で勝つBPO活用術」(ダイヤモンド社)ではその成功事例とともに、アウトソーシングの重要性、活用術、2030年のEC活用イメージなどを紹介している。
ご興味のある方は是非ご一読されたい。
