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2020年7月号
特集

【ロジスティクス】緊急調査が明らかにした生産活動の混乱

Web緊急アンケート調査結果より  筆者が所属するセイノー情報サービスは、LLP(リード・ロジスティクス・プロバイダー)として、「ITクラウド(IT×業務改革)」と「業務クラウド(ロジスティクスアウトソース《以下、BPO》×IT)」の二つのクラウドサービスを通じて、顧客に価値を提供している。
これらのサービスを提供する過程で、われわれは新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の拡大によるサプライチェーンの分断、ロジスティクスや物流の混乱を体験することになった。
本稿ではLLPの立場から、コロナ拡大が在庫管理や物流管理などに与える当面の影響、中長期的な影響、その対応策などを中心に実務体験を織り交ぜて考察する。
(本稿は5月31日に執筆した)  コロナの拡大によるサプライチェーンへの影響を共有し、アフターコロナにおける対応の参考とするため、当社は独自に「Web緊急アンケート調査」を実施した。
調査の概要は、以下の通りである。
・ 調査方法:Webメール、添付ファイルへの回答による調査 ・ 調査期間:2020年4月21日~5月13日 ・ 調査対象:弊社メールマガジン登録者 3万495名 ・ 有効回答者数:92人(業種内訳:製造52、卸売22、小売2、物流11、その他5)  同アンケートでは最初に「コロナによる企業活動への影響は?」という設問を行った。
回答は「影響があった」が90・2%(83人)、「今後影響が見込まれる」が9・8%(9人)となった。
「影響はない」との回答はゼロだった。
 「影響を受けたサプライチェーン・プロセスは?(複数回答可)」という設問の有効回答のうち最も割合が大きい「製造業」に属する回答者(52人、56・5%)」の回答内容を分析すると次のことが分かった(図1)。
 すなわちサプライチェーン・プロセスにおけるコロナ発生の影響は、「海外生産」(工場・サプライヤー)や「国内生産」(工場)で顕著だった。
製造業が影響を受けたプロセスとしては、消費に近い「卸売・小売」の回答数の多さにも注目する必要がある。
これらの回答からは、平時にはない予測不能な「消費行動の急変」による「生産活動の混乱」がコロナショックで発生したことが浮かびあがってくる。
 一方、「国内輸送」や「国内倉庫」への影響に関する回答は相対的に少なかった。
国内輸送は「エッセンシャルワーカー」と呼ばれるトラックドライバーなどが「3密(密閉・密集・密接)」の状態になりにくいプロセスだったことから、コロナの拡大期にも問題なく機能したためと考えられる。
 また、「どの業務が影響を受けたか?(複数回答可)」の設問で回答数が最も多かった業務は「受注」だった。
「受注」が受けた影響の内容は急減と急増に大別できる。
どちらか一方だけに影響があったわけではなかった。
 以下に当社がクラウドサービスの提供を通じて体験したコロナの影響と課題を具体的に紹介する。
■自動車部品メーカーA社  グローバルサプライチェーンにおける国内在庫の増加  自動車部品メーカーA社は、中国およびベトナムの海外工場で生産した部品を船便・航空便で日本国内のロジスティクスセンターに輸入している。
 ロジスティクスセンターでは入荷した部品を検査・梱包し、完成した部品を自動車セットメーカーへ直納、または指定運送会社へ納品する。
現場業務はパートナー物流会社に委託している。
 図2は、ロジスティクスセンターにおける20年3月から5月までの3カ月間の「入荷数(ケース単位)」、「出荷数(バラ単位)」および「在庫数(バラ単位)」の週次推移である。
3月2日の週の入荷数、出荷数、在庫数を100%とした場合の各週の増減を%で表している。
 コロナの発生後に、週次出荷数は最大46%(4月27日)まで減少した。
それに対して、週次入荷数は最大138%(4月13日)まで増加した。
出荷を大幅に上回る入荷が続いた。
その結果、センターの在庫量は5月18日のピーク時には150%に達した。
 A社では例年、中国の春節休暇(20年1月23日から30日まで)に対応するために、それまでに部品を増産して1月までに日本国内で在庫として積み増しする。
その際には外部倉庫を臨時賃借していた。
しかし、コロナの拡大で国際輸送のスケジュールに遅延が生じ、入荷のピークが後ろ倒しに重なった。
このため、外部倉庫を解約せずにそのまま利用することで対応した。
 活動の高サイクル化と「三つのR」によるサプライチェーンの可視化  コロナの拡大と収束の状況およびその時期は、国内と海外で当然ながら異なる。
政治や文化の特性も国ごとに違う。
中国工場における稼動率はコロナ感染が拡大した1月までは平時の6割にまでに落ち込んだが、2月以降は持ち直した。
また、ベトナム工場における増産が中国の落ち込みを補った。
 このようにグローバルサプライチェーンは事業環境の変化が著しく、不確実性も高まっている。
企業は変化への対応を高サイクル化していく必要がある。
そのためには、以下に示す「三つのR」の視点が必要になる。
「サプライチェーンの可視化」に不可欠な要件と言える。
①Range(SCMの対象範囲の拡大) サプライチェーン活動の管理範囲を拡張できるシステム ②Response(応答性、感応性の向上) サプライチェーン活動をリアルタイムに把握、予定との差が感知できるシステム ③Resolution(分解性、解像度の向上) サプライチェーンをマネジメントできるレベル・形式に映し出せるシステム ■加工食品メーカーB社  家庭用製品と外食用製品の需要逆転による物流運用の変化  加工食品メーカーB社が取り扱っている製品群は家庭用と外食用に大別される。
国内工場で生産した製品をトラックでロジスティクスセンターに輸送する。
ロジスティクスセンターは入荷した製品を検品、格納、保管し、顧客の出荷指図に基づいて、貸切便、路線便で納品している。
センター運営はパートナーの物流会社に委託している。
 図3はロジスティクスセンターにおける20年1月から5月までの5カ月間の「出荷ケース数」の推移である。
対象は主力製品である「家庭用製品D」および「外食用製品E」の2品目である。
推移については1月第2週の出荷ケース数を100%とした場合の各週の増減を%で表してある。
1月〜5月の週次出荷ケース数は、以下の通りである。
       最小 平均 最大 家庭用製品D 0% 122% 300% 外食用製品E 0% 60% 180%  「家庭用製品D」の出荷は、コロナの影響が広がって以降、消費者の在宅勤務・外出自粛、飲食店の営業自粛・休業の増加に伴って急増した。
期間中のピークは300%にも達した。
一方、「外食用製品E」の出荷は「飲食店への営業自粛要請」が強まった3月下旬から急減し、4月後半から5月は出荷が途絶えた。
1月〜5月の平均週次出荷ケース数は60%だった。
 需要の急変に対応できる「シナリオ選択型WMS」の必要性 ①在庫の保管ロケーションの適正化  B社の家庭用製品Dと外食用製品Eの出荷量、出荷頻度は、ともに大きく変化した。
在庫管理における両製品の位置付けはコロナ前と逆転した。
このような変化はロジスティクスセンターのオペレーション効率に影響するため、在庫の保管ロケーションの見直しが必要になる。
②納品形態の変更への柔軟な対応  ピッキング方式には一般に、オーダーピッキング、トータルピッキング、ラベルピッキングおよびマルチオーダーピッキングの四つがある。
これらのうち、どのピッキング方式を選択するかは、オーダー件数/日、出荷アイテム数/日、ボリューム/アイテム、オーダー件数/アイテムの四つの出荷特性により決まる。
これらの出荷特性はコロナ拡大や収束といった各過程で変化する。
そのため、どのピッキング方式を選択するかを注意深く分析する必要がある。
 B社のロジスティクスセンターでは、得意先からの出荷指示データと各種のマスター設定から納品形態を判断して、それに合わせた出荷指示と帳票を作成している。
しかし、テレワークや移動の自粛などによって、納品先の就業状況と要員配置は大きく変化する。
そのような「人」の変動によって平時とは異なる納品形態が要求される。
 これに対応するためロジスティクスセンターでは、納品形態の変更に対応したピッキング方式を選択し、効率的なオペレーションを実現する「シナリオ選択型WMS」が必要である。
■イベント会社C社  配送件数の急速な落ち込みとリバウンド(急増)  イベント会社C社は、パートナー物流会社にBPOし、イベント企画に応じた機材を国内全土に配送している。
図4は20年1月から5月までの配送件数の週次推移である。
 年間の週次平均件数に最も近い2月23日を100%とした場合、期間中の最高値は、1月12日の114・4%、最低値は5月10日の3・8%であった。
5月10日の配送件数は、2月23日と比べるとマイナス96・2%の落ち込みとなった。
 急減リスク・急増リスクの評価と対応  20年1月から3月までの配送件数は国内初の感染者発生、テレワークや時差出勤の促進、イベントの自粛および延長などがあったものの、年間の週次平均に対して最高1・2倍から最低0・8倍までの範囲で推移した。
この程度のばらつきまでは想定の範囲であり、委託先のパートナー物流会社においても物流リソースをコントロールしてきた。
 物流リソースとは具体的には、サービスの実行に必要な配送計画・配車要員、全国デポの作業員・スペース、輸送能力、コールセンター要員などである。
1月の時点では3カ月後となる4月の急減に備え、「急ブレーキ」をかけてパートナー物流会社のリソースを減らすというマネジメント(意思決定)はできなかった。
 緊急事態宣言の解除後の配送件数は、5月10日に底を打った後、リバウンド(急増)しており、いわば“急アクセル”を踏むステージにある。
需要の急減・急増リスクは、本来、物流サービスの委託側と受託側の双方にある。
しかし、実際は受託側のリスクにしかならなかった。
C社としてはBPOによる変動費化がコロナ対策として功奏した。
 一方、パートナー物流会社は配送件数の「急減」に対して、いつ、どの拠点の在庫や物流リソースについて、どこまでブレーキを踏めるか、あるいは踏むべきかという問いに答えるのは容易ではない。
 緊急事態宣言解除後の「急増」を見込んで在庫と物流リソースを維持するのは、取引動機(販売機会損失の防止)や予防動機(欠品・欠員・車両不足の防止)が働くためである。
したがって「急アクセル」が踏めるようにアイドリングしておく必要がある。
 「配送件数の落ち込みの速度」と「ビジネスリスクの拡大率」をどう定式化するかは、われわれの今後の研究課題でもある。
一般的に急減のリスクはパートナー物流会社側が負うことになる。
そして、「ブレーキのかけ方」については、委託側から提示するのが望ましいと考えられる。
その傾向を予想することは可能であろう。
しかしまだ、その定式はない。
 一方、急増のリスクは数値データでは表れない社会的な状況や政治家の言動などでも変わってしまう。
「状況」や「言葉」を分析して、どう予想を立てるかということになる。
 結局のところ、バッファをどこで、どれだけ持つべきかを計算するしかない。
サプライチェーン・プレーヤーの一員として、リスクという観点から、自分たちはどの部分に注力すべきなのか、そのポートフォリオを事前に組んでおくことが肝心になる。
アフターコロナの対応  コロナは企業の経営環境を変えた。
コロナショックでは、従業員の安全確保、現業務の維持に重点が置かれた。
人との接触は必須ではないという認識が深まり、その実践で「ソーシャルディスタンス」「リモートワーク」は新たな常態(ニューノーマル)になった。
アフターコロナの対応として次のような取り組みが加速するであろう。
♦人との接触を減らす  ロジスティクスのニューノーマルに向けて以下のような対策がある。
・協働ロボット、RPAによる省人化 ・現場の可視化とデジタルコミュニケーションによるグレーカラー(物流センター長など)のリモート化と集約 ・AIによるオペレーションの自動化(画像検品、要員計画、安全監視など) ・BPOによる社内要員の接触リスクの低減 ♦変化への免疫力を高める  変化への免疫力を高める手法として「ロジスティクスPSI」がある。
これは、PSI(生産・販売・在庫)情報を一つのプラットフォーム上でリアルタイムに連携・共有し、サプライチェーン全体を可視化、在庫と物流リソースの適正化を目指すものである。
これはSCM活動の高サイクル化と「三つのR」の解決策となる。
・在庫の適正化  ロジスティクスPSIによる在庫適正化では、市場の需要に近い営業の販売計画に基づいて、倉庫への補充量を計画する。
さらに倉庫への補充計画(=工場の出荷計画)を基に生産計画を立てる。
これは「未来在庫」を調達、生産、販売、物流の全部門で共有することにつながる。
そうすれば各部門が独自の基準で在庫を持つことがなくなり、計画変更や納期調整も迅速化し、全社の在庫が適正化される。
・物流リソースの適正化  当日確定した受注・出荷情報だけを運送依頼として物流会社に渡すという方法には計画性がない。
物流会社は運送依頼の物量が予想を超える場合、急ぎトラックや作業員を手配しなければならない。
しかし、PSI情報が連携されていれば、ピーク日の作業は余裕がある日に山崩しすることができ、作業量は平準化する。
無駄な作業員の手配は不要になり、積載率や配車効率が向上する。
つまり物流リソースの適正化は、コストの削減につながる。
 今後、予想されるコロナの第二波・第三波やニューパンデミックに備えて、このような対応を取っておくことでロジスティクスの混乱を最小限に留めることができる。

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