2020年7月号
特集
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【輸送】トラック運送業経営者への緊急メッセージ
過去に例のない非常事態
新型コロナウイルスがトラック運送業界に与えた負のインパクトは極めて甚大だ。
まずは図1を見てほしい。
運輸・倉庫業界の「景気DI」(先行きを予測する指標:50を境にそれより上であれば“良い”、下であれば“悪い”を意味する)の直近1年間の推移を表したものだ。
昨年10月の消費税増税、暖冬、コロナ禍のトリプルパンチで、急速に景気が悪化している様子が見て取れる。
「これは、過去に例がないくらいの非常時だ」 ──そう筆者が実感したのは今年2月末頃だった。
そして3月に入ってすぐ、われわれ船井総研ロジが主催する「ロジスティクスプロバイダー経営研究会」の会員企業の全社(物流企業約300社)に向けて、次頁に掲載したメッセージをメールで発信した。
それから約3カ月経った今も、緊急事態宣言こそ解除されたが、事態は終息していない。
トラック運送業を取り巻く状況は、むしろ悪化し続けている。
小売店向け食品や日用品など、“巣ごもり需要”で物量が急増していた荷物も、5月に入って以降は荷動きが鈍っている。
今でも比較的動いているのは医療関連品などの一部に限られる。
物量の減少に伴い、長距離便、スポット便から実勢運賃相場の下落が始まっている。
4月中旬のある日、自動車産業の割合が大きいエリアの会員企業(運送業、年商30億円)の経営トップと電話で情報交換をしていて「周りの運送会社が5社も倒産・廃業した」と聞いた。
今後、エリアによっては、そうした話が増えてくる。
その半面、ついこの間まで運送業経営の最大の問題であったドライバー不足は急速に緩和が進んでいる。
ドライバー職への応募者が、昨年同月の2倍以上来ているという事例も会員企業から多く寄せられている。
その多くは、コロナ禍で経営が急激に悪化した交通、飲食、アミューズメントなど異業種からの転職希望者だ。
ただし、雇用ニーズがある運送会社であっても、「トラックドライバーには向いてないのでは?」「コロナ禍が収まったら辞めるのでは?」という心配から、彼らの雇用には慎重な姿勢である。
「人不足<荷物不足」の状況は、当分続くだろう。
新型コロナウイルスの影響は、間違いなく長期化する。
それを見据えて、トラック運送業は、以下の点を押さえて経営していただきたい。
1.財務強化 まずは、何といっても手元資金の積み増しである。
最低でも月商の3カ月分は確保し、急激な売り上げ減に備えなければならない。
具体的な実施事項は、下記の通り企業の資金繰りの状況による。
・ 資金繰りが既に悪化している企業 金融機関には今、融資の申し込みが殺到している。
できるだけ早く、どの金融機関にどんな内容の相談をするのか計画を立て、問い合わせてほしい。
状況によっては、リスケ(返済条件の変更)、拠点閉鎖、廃業等のデッドラインも検討する必要がある。
・ 資金繰りは悪化していないが不安のある企業 手元資金として維持する現金・預金の水準を再設定する。
年内の資金繰りをシミュレーションした上で、資金調達の方法を見直す。
・ 資金繰りに余裕がある企業 コロナ関係の制度融資の活用方法を検討しよう。
運転資金だけではなく、設備資金等に使える制度もある。
将来を見据えた投資計画を立てたい。
また、資金繰りや財務状況をタイムリーに可視化する方法、組織体制を組む機会として欲しい。
2.BCP(事業継続計画)の策定 従業員、荷主、株主など、どのステークホルダーにとっても、従業員に感染者が出たときの事業リスクが高い企業と関わるのは不安である。
そのような企業からこれから人は離れていく。
自然災害などの他のリスクについても同様である。
この機会に、しっかりしたBCPを策定しておきたい。
3.マーケティング力の強化 コロナ禍で荷物は減少し、ウェブからの問い合わせ件数も減っている。
しかし、ホームページへの訪問件数は増えている会社が多い。
これは筆者が3月初旬に先の会員向けメールを配信した時には予想していなかったことである。
暇を持て余して、情報収集に時間を割いている荷主が多いのかもしれない。
そして「ウィズコロナ」「アフターコロナ」の時代に合わせた物流戦略・戦術の変換に備えているのだろう。
これからの時代の顧客獲得は、今までのようなアナログ一辺倒では通用しない。
輸配送のようなBtoBサービスの購買行動においても、いわゆる「AISASの法則」が当てはまるようになる。
すなわち荷主の「注目(Attention)」→「興味(Interest)」→「検索(Search)」→「行動(Action)」→「共有(Share)」という心理的なプロセスをオンラインでしっかりフォローする。
その仕組みを持たない企業は、新規案件の獲得力がこれから著しく低下してしまうことになるだろう。
4.人材育成 松下幸之助翁の「不況克服の心得十カ条」に、「人材育成に力を注ぐ」という条目がある。
不景気には、仕事が減るが、空いた時間で教育をするチャンスだと松下翁は説いている。
また、不景気になると、今まで見過ごされていた組織の問題点が明らかになる。
会社が一丸となって、それらの解決に取り組むことで人材は大きく育つ。
5.デジタル化・自動化の推進 コロナ禍を機として、感染の拡大や業績悪化などのリスクを回避するために以下のような事項の実現が求められるようになった。
①物(商品、伝票、その他)へのタッチ回数をできるだけ減らす(感染リスク) ②3密(密閉、密集、密接)を回避し、ソーシャルディスタンスを確保する(感染リスク) ③KPI(重要業績評価指標)をリアルで把握して即時対処する(業績悪化リスク) ④事務業務の場所の制約をなくす(感染リスク) 業務のデジタル化、自動化への取り組みは、待ったなしである。
リスクヘッジと共に、元来の目的であった生産性の向上につながるように進める。
6.M&Aの推進 景気悪化を受け、M&A市場は、売り手市場から買い手市場に一変した。
売り手の企業価値が急速に毀損していく一方で、有力な買い手は減っている。
つまり少数の買い手に案件が集中している。
売り手も、買い手も、早く動くべきである。
ただし、M&Aは当然ながらリスクを伴う。
そのため全株式の取得だけでなく、一部株式の移転や業務提携、カーブアウト(事業を分割して切り出すこと)といった選択肢も検討すべきだろう。
***** 今のような非常時は、平常時にできないことを進めるチャンスである。
従業員も顧客も、人は変化を嫌うものだ。
しかし、非常時には、新しい取り組みが受け入れられやすい。
いやでも変わらざるを得ない状況になる。
経営トップは上述の事項に加え、今まで“やりたかったこと”に手を付けるとよいだろう。
プラス発想で、ピンチをチャンスに換えて、発展の機会としたい。
まずは図1を見てほしい。
運輸・倉庫業界の「景気DI」(先行きを予測する指標:50を境にそれより上であれば“良い”、下であれば“悪い”を意味する)の直近1年間の推移を表したものだ。
昨年10月の消費税増税、暖冬、コロナ禍のトリプルパンチで、急速に景気が悪化している様子が見て取れる。
「これは、過去に例がないくらいの非常時だ」 ──そう筆者が実感したのは今年2月末頃だった。
そして3月に入ってすぐ、われわれ船井総研ロジが主催する「ロジスティクスプロバイダー経営研究会」の会員企業の全社(物流企業約300社)に向けて、次頁に掲載したメッセージをメールで発信した。
それから約3カ月経った今も、緊急事態宣言こそ解除されたが、事態は終息していない。
トラック運送業を取り巻く状況は、むしろ悪化し続けている。
小売店向け食品や日用品など、“巣ごもり需要”で物量が急増していた荷物も、5月に入って以降は荷動きが鈍っている。
今でも比較的動いているのは医療関連品などの一部に限られる。
物量の減少に伴い、長距離便、スポット便から実勢運賃相場の下落が始まっている。
4月中旬のある日、自動車産業の割合が大きいエリアの会員企業(運送業、年商30億円)の経営トップと電話で情報交換をしていて「周りの運送会社が5社も倒産・廃業した」と聞いた。
今後、エリアによっては、そうした話が増えてくる。
その半面、ついこの間まで運送業経営の最大の問題であったドライバー不足は急速に緩和が進んでいる。
ドライバー職への応募者が、昨年同月の2倍以上来ているという事例も会員企業から多く寄せられている。
その多くは、コロナ禍で経営が急激に悪化した交通、飲食、アミューズメントなど異業種からの転職希望者だ。
ただし、雇用ニーズがある運送会社であっても、「トラックドライバーには向いてないのでは?」「コロナ禍が収まったら辞めるのでは?」という心配から、彼らの雇用には慎重な姿勢である。
「人不足<荷物不足」の状況は、当分続くだろう。
新型コロナウイルスの影響は、間違いなく長期化する。
それを見据えて、トラック運送業は、以下の点を押さえて経営していただきたい。
1.財務強化 まずは、何といっても手元資金の積み増しである。
最低でも月商の3カ月分は確保し、急激な売り上げ減に備えなければならない。
具体的な実施事項は、下記の通り企業の資金繰りの状況による。
・ 資金繰りが既に悪化している企業 金融機関には今、融資の申し込みが殺到している。
できるだけ早く、どの金融機関にどんな内容の相談をするのか計画を立て、問い合わせてほしい。
状況によっては、リスケ(返済条件の変更)、拠点閉鎖、廃業等のデッドラインも検討する必要がある。
・ 資金繰りは悪化していないが不安のある企業 手元資金として維持する現金・預金の水準を再設定する。
年内の資金繰りをシミュレーションした上で、資金調達の方法を見直す。
・ 資金繰りに余裕がある企業 コロナ関係の制度融資の活用方法を検討しよう。
運転資金だけではなく、設備資金等に使える制度もある。
将来を見据えた投資計画を立てたい。
また、資金繰りや財務状況をタイムリーに可視化する方法、組織体制を組む機会として欲しい。
2.BCP(事業継続計画)の策定 従業員、荷主、株主など、どのステークホルダーにとっても、従業員に感染者が出たときの事業リスクが高い企業と関わるのは不安である。
そのような企業からこれから人は離れていく。
自然災害などの他のリスクについても同様である。
この機会に、しっかりしたBCPを策定しておきたい。
3.マーケティング力の強化 コロナ禍で荷物は減少し、ウェブからの問い合わせ件数も減っている。
しかし、ホームページへの訪問件数は増えている会社が多い。
これは筆者が3月初旬に先の会員向けメールを配信した時には予想していなかったことである。
暇を持て余して、情報収集に時間を割いている荷主が多いのかもしれない。
そして「ウィズコロナ」「アフターコロナ」の時代に合わせた物流戦略・戦術の変換に備えているのだろう。
これからの時代の顧客獲得は、今までのようなアナログ一辺倒では通用しない。
輸配送のようなBtoBサービスの購買行動においても、いわゆる「AISASの法則」が当てはまるようになる。
すなわち荷主の「注目(Attention)」→「興味(Interest)」→「検索(Search)」→「行動(Action)」→「共有(Share)」という心理的なプロセスをオンラインでしっかりフォローする。
その仕組みを持たない企業は、新規案件の獲得力がこれから著しく低下してしまうことになるだろう。
4.人材育成 松下幸之助翁の「不況克服の心得十カ条」に、「人材育成に力を注ぐ」という条目がある。
不景気には、仕事が減るが、空いた時間で教育をするチャンスだと松下翁は説いている。
また、不景気になると、今まで見過ごされていた組織の問題点が明らかになる。
会社が一丸となって、それらの解決に取り組むことで人材は大きく育つ。
5.デジタル化・自動化の推進 コロナ禍を機として、感染の拡大や業績悪化などのリスクを回避するために以下のような事項の実現が求められるようになった。
①物(商品、伝票、その他)へのタッチ回数をできるだけ減らす(感染リスク) ②3密(密閉、密集、密接)を回避し、ソーシャルディスタンスを確保する(感染リスク) ③KPI(重要業績評価指標)をリアルで把握して即時対処する(業績悪化リスク) ④事務業務の場所の制約をなくす(感染リスク) 業務のデジタル化、自動化への取り組みは、待ったなしである。
リスクヘッジと共に、元来の目的であった生産性の向上につながるように進める。
6.M&Aの推進 景気悪化を受け、M&A市場は、売り手市場から買い手市場に一変した。
売り手の企業価値が急速に毀損していく一方で、有力な買い手は減っている。
つまり少数の買い手に案件が集中している。
売り手も、買い手も、早く動くべきである。
ただし、M&Aは当然ながらリスクを伴う。
そのため全株式の取得だけでなく、一部株式の移転や業務提携、カーブアウト(事業を分割して切り出すこと)といった選択肢も検討すべきだろう。
***** 今のような非常時は、平常時にできないことを進めるチャンスである。
従業員も顧客も、人は変化を嫌うものだ。
しかし、非常時には、新しい取り組みが受け入れられやすい。
いやでも変わらざるを得ない状況になる。
経営トップは上述の事項に加え、今まで“やりたかったこと”に手を付けるとよいだろう。
プラス発想で、ピンチをチャンスに換えて、発展の機会としたい。
