2020年3月号
特集
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実録 ラストワンマイル 第12回 (特別編集版) 宅配ドライバーの働き方は変わったか
ヤマトのSDは打ち明ける
2017年の「宅配クライシス」を契機に、大手宅配各社はセールスドライバーの「働き方改革」に乗り出した。
具体的には、サービス残業の禁止、長時間労働の是正、休憩時間の確保、有給休暇の消化といった取り組みを徹底するというものだった。
しかし、それから約3年が経過した現在、現場との約束は徐々に反故にされつつあるようだ。
首都圏エリアを担当するヤマト運輸のセールスドライバーはこう打ち明ける。
「働き方改革がスタートして、しばらくは残業時間や休憩について上司から口うるさく指導された。
『休憩時間中には絶対に携帯電話に出るな』とか。
アマゾンがなくなったり、不採算顧客からの撤退で、1日に取り扱う荷物の量も減ったから、確かに仕事は一時的に楽になった。
しかし、なかなか人(自社ドライバー)も下請けも集まらないので、結局は現有戦力で荷物を捌いていくしかない環境に逆戻りしつつある。
現場の不満が再び爆発するのは時間の問題だと思う」 ヤマト運輸の単月の宅配便取扱個数は前年同月比割れが続く。
運賃値上げなど取引条件の見直しで主要な大口顧客が同業他社に流れていったことが大きく影響している。
社内では取引先の選別はドライバーの働き方改革を実現するための“英断”だったと賞賛する声もあった。
しかし、同社はここにきて「ヤマト離れ」した大口顧客を再び囲い込もうと、あらためて値下げ攻勢に転じている。
公式には記者会見などを通じてその動きを否定しているが、筆者は複数の通販系荷主から「ヤマトから値下げ要請があった」という事実を確認している。
今後、戦力補強が不十分なまま、値下げで取扱個数が増えていけば、前掲のセールスドライバーが指摘する通り、現場の不満が噴出したり、過重労働を強いられる環境に陥る可能性を否定できない。
「でもね‥‥」と同セールスドライバーは本音を漏らす。
「働き方改革で残業が減り、年収が15%程度ダウンした。
家計にとっては大きな痛手だ。
サービス残業はしたくないが、きちんと加算される残業なら、むしろあったほうが収入面では助かる。
いまでは夜間帯だけ違うユニフォーム(制服)に着替えて、副業として配達のバイトに励んでいる同僚もいる。
営業所の上司も薄々分かっているとは思うけど、実入りが減っていることを承知しているから、見て見ぬふりなんだろうね」 アマゾンが組織化する自社配送ネットワーク「アマゾンフレックス」をはじめ、複数の独立系軽トラ配送会社では、ドライバーによる「副業OK」(副業としての参画を認める)を謳っているケースが少なくない。
彼らにとって、大手宅配会社のセールスドライバーたちは、教育・研修をほとんど必要せずに現場に投入できる「宅配便の業務ノウハウを身につけた即戦力」(ある軽トラ会社の経営幹部)で、非常に重宝されている。
実際のところ、自社の働き方改革によって収入減を余儀なくされた大手宅配会社のセールスドライバーたちは、こうした“バイト先”でどのくらい稼ぐことができるのだろうか。
副業ドライバーの受け入れに積極的な、ある新興系軽トラ会社の担当者に話を聞いた。
「当社で働いてくれている副業ドライバーさんは各エリアに2〜3人程度。
そのほとんどがヤマトや佐川急便などの宅配大手や軽トラ大手に本籍を置いている。
副業をする理由を尋ねると、本業での収入減を埋めたいとか、子供の教育費を賄うためにもっと稼ぎたい、などが多い。
日中は本来の所属先で勤務しているため、当社では主に18時以降の夜間帯の配達業務で活躍してもらっている」 業務委託料は2時間拘束で5千円、3時間で7300円、4時間で9千円。
1回の勤務時間が長くなると1時間当たりの単価がやや下がる仕組みだ。
副業ドライバーは週7日のうち、本業での休日や勤務時間後などに自由に仕事のシフトを組むことができる。
報酬は週払いにも対応しているという。
もぐりで副業ドライバー この会社で副業ドライバーとして働く大手宅配会社所属のドライバーに実情を聞いた。
「副業は週2〜3回程度。
休日にフルタイムで働き、残りは短時間の夜間帯勤務。
収入は月7〜8万円。
本業の会社は働き方改革で残業の管理が厳しくなったので、減収になった分を補うのが目的で副業を始めた。
やっている仕事の内容は本業とほぼ同じだから苦労はない。
ただ、携帯端末が異なるので、その操作を覚えるのに少し時間がかかったくらい」 社内規定はさておき、副業をしている実態が所属先に知られるリスクや不安はないのだろうか。
「配慮しているのは本業と副業の配達担当エリアが重複しないようにしていることくらい。
本当は同じエリアを担当したほうが地の利を生かせるので配達業務の生産性は高まるんだけど‥‥。
移動の時間がもったいないので、ダブルワークでは近くで働くのが理想的だが、副業の事実を知られるリスクが高まる。
少し離れた場所で仕事をするのがバレないコツ」 同じ仕事内容であるがゆえの“珍プレー”も少なくないようだ。
「ユニフォームを着替えて街中を走り回っているんだけど、ぼーっとしていると配達先で思わず本業のほうの社名を名乗ってしまうことがある。
荷受人から『あれ、○×会社さんじゃないの?』って指摘されて、間違えたことにハッと気付く。
『失礼しました、○×会社です』って訂正するんだけど、相手も苦笑い。
副業ドライバーだな、ってバレバレだと思う」 一方、大手の宅配会社や軽トラ会社の下請けとして配達業務を請け負う個人事業主たちの働き方改革は進んでいるのだろうか。
その詳細については、本連載の2020年2月号で触れているため、ここでは割愛するが、2019年7月の法改正を機に、元請けが業務請負契約を盾に、軽トラの一人親方たちを長時間にわたって拘束することはできなくなった。
その意味からすれば、個人事業主たちの労働環境の改善、すなわち働き方改革は一歩前進したと言えるだろう。
ただし、今回の法改正は個人事業主たちにとって負の側面もあるようだ。
ある軽トラの個人事業主は元請けとのやり取りを打ち明ける。
「『もともとの業務委託料は長時間働いてもらうことを前提に設定しているため、労働時間が短くなる分、委託料を引き下げたい』と打診された。
1日当たりの貸し切り料金ではなく、個建て料金に切り替えたいという依頼もあった。
委託料引き下げは、社員ドライバーの残業代カットと同じ。
われわれも減収分を補うための副業を探さないといけない」 その一方で、違法すれすれの手法で、収入減の回避に成功した猛者もいる。
大手軽トラ会社に数台の車両を入れているという下請け会社の経営者は、臆することなく内情を披露する。
「個建てへの切り替えのタイミングで、元請けの担当者を接待漬けにして配達効率のいいエリアの仕事を優先的に回してもらった。
拘束時間が短くなった上に、1日当たりの売り上げはアップ。
非効率なエリアでは元請けの社員ドライバーや新米の個人事業主たちが毎日四苦八苦しながら走り回っている」 働き方改革で副業を余儀なくされるドライバーが増える。
副業ドライバーの活用を前提に配送ネットワークを構築する事業者が宅配便市場に参入する。
そして、お互いの足元をみた元請けと下請けの癒着が横行する。
現場で奮闘するドライバーたちの労働環境がむしろ乱れつつあるという事実は、担い手不足による「宅配クライシス」が再発の危機に瀕していることを物語っている。
具体的には、サービス残業の禁止、長時間労働の是正、休憩時間の確保、有給休暇の消化といった取り組みを徹底するというものだった。
しかし、それから約3年が経過した現在、現場との約束は徐々に反故にされつつあるようだ。
首都圏エリアを担当するヤマト運輸のセールスドライバーはこう打ち明ける。
「働き方改革がスタートして、しばらくは残業時間や休憩について上司から口うるさく指導された。
『休憩時間中には絶対に携帯電話に出るな』とか。
アマゾンがなくなったり、不採算顧客からの撤退で、1日に取り扱う荷物の量も減ったから、確かに仕事は一時的に楽になった。
しかし、なかなか人(自社ドライバー)も下請けも集まらないので、結局は現有戦力で荷物を捌いていくしかない環境に逆戻りしつつある。
現場の不満が再び爆発するのは時間の問題だと思う」 ヤマト運輸の単月の宅配便取扱個数は前年同月比割れが続く。
運賃値上げなど取引条件の見直しで主要な大口顧客が同業他社に流れていったことが大きく影響している。
社内では取引先の選別はドライバーの働き方改革を実現するための“英断”だったと賞賛する声もあった。
しかし、同社はここにきて「ヤマト離れ」した大口顧客を再び囲い込もうと、あらためて値下げ攻勢に転じている。
公式には記者会見などを通じてその動きを否定しているが、筆者は複数の通販系荷主から「ヤマトから値下げ要請があった」という事実を確認している。
今後、戦力補強が不十分なまま、値下げで取扱個数が増えていけば、前掲のセールスドライバーが指摘する通り、現場の不満が噴出したり、過重労働を強いられる環境に陥る可能性を否定できない。
「でもね‥‥」と同セールスドライバーは本音を漏らす。
「働き方改革で残業が減り、年収が15%程度ダウンした。
家計にとっては大きな痛手だ。
サービス残業はしたくないが、きちんと加算される残業なら、むしろあったほうが収入面では助かる。
いまでは夜間帯だけ違うユニフォーム(制服)に着替えて、副業として配達のバイトに励んでいる同僚もいる。
営業所の上司も薄々分かっているとは思うけど、実入りが減っていることを承知しているから、見て見ぬふりなんだろうね」 アマゾンが組織化する自社配送ネットワーク「アマゾンフレックス」をはじめ、複数の独立系軽トラ配送会社では、ドライバーによる「副業OK」(副業としての参画を認める)を謳っているケースが少なくない。
彼らにとって、大手宅配会社のセールスドライバーたちは、教育・研修をほとんど必要せずに現場に投入できる「宅配便の業務ノウハウを身につけた即戦力」(ある軽トラ会社の経営幹部)で、非常に重宝されている。
実際のところ、自社の働き方改革によって収入減を余儀なくされた大手宅配会社のセールスドライバーたちは、こうした“バイト先”でどのくらい稼ぐことができるのだろうか。
副業ドライバーの受け入れに積極的な、ある新興系軽トラ会社の担当者に話を聞いた。
「当社で働いてくれている副業ドライバーさんは各エリアに2〜3人程度。
そのほとんどがヤマトや佐川急便などの宅配大手や軽トラ大手に本籍を置いている。
副業をする理由を尋ねると、本業での収入減を埋めたいとか、子供の教育費を賄うためにもっと稼ぎたい、などが多い。
日中は本来の所属先で勤務しているため、当社では主に18時以降の夜間帯の配達業務で活躍してもらっている」 業務委託料は2時間拘束で5千円、3時間で7300円、4時間で9千円。
1回の勤務時間が長くなると1時間当たりの単価がやや下がる仕組みだ。
副業ドライバーは週7日のうち、本業での休日や勤務時間後などに自由に仕事のシフトを組むことができる。
報酬は週払いにも対応しているという。
もぐりで副業ドライバー この会社で副業ドライバーとして働く大手宅配会社所属のドライバーに実情を聞いた。
「副業は週2〜3回程度。
休日にフルタイムで働き、残りは短時間の夜間帯勤務。
収入は月7〜8万円。
本業の会社は働き方改革で残業の管理が厳しくなったので、減収になった分を補うのが目的で副業を始めた。
やっている仕事の内容は本業とほぼ同じだから苦労はない。
ただ、携帯端末が異なるので、その操作を覚えるのに少し時間がかかったくらい」 社内規定はさておき、副業をしている実態が所属先に知られるリスクや不安はないのだろうか。
「配慮しているのは本業と副業の配達担当エリアが重複しないようにしていることくらい。
本当は同じエリアを担当したほうが地の利を生かせるので配達業務の生産性は高まるんだけど‥‥。
移動の時間がもったいないので、ダブルワークでは近くで働くのが理想的だが、副業の事実を知られるリスクが高まる。
少し離れた場所で仕事をするのがバレないコツ」 同じ仕事内容であるがゆえの“珍プレー”も少なくないようだ。
「ユニフォームを着替えて街中を走り回っているんだけど、ぼーっとしていると配達先で思わず本業のほうの社名を名乗ってしまうことがある。
荷受人から『あれ、○×会社さんじゃないの?』って指摘されて、間違えたことにハッと気付く。
『失礼しました、○×会社です』って訂正するんだけど、相手も苦笑い。
副業ドライバーだな、ってバレバレだと思う」 一方、大手の宅配会社や軽トラ会社の下請けとして配達業務を請け負う個人事業主たちの働き方改革は進んでいるのだろうか。
その詳細については、本連載の2020年2月号で触れているため、ここでは割愛するが、2019年7月の法改正を機に、元請けが業務請負契約を盾に、軽トラの一人親方たちを長時間にわたって拘束することはできなくなった。
その意味からすれば、個人事業主たちの労働環境の改善、すなわち働き方改革は一歩前進したと言えるだろう。
ただし、今回の法改正は個人事業主たちにとって負の側面もあるようだ。
ある軽トラの個人事業主は元請けとのやり取りを打ち明ける。
「『もともとの業務委託料は長時間働いてもらうことを前提に設定しているため、労働時間が短くなる分、委託料を引き下げたい』と打診された。
1日当たりの貸し切り料金ではなく、個建て料金に切り替えたいという依頼もあった。
委託料引き下げは、社員ドライバーの残業代カットと同じ。
われわれも減収分を補うための副業を探さないといけない」 その一方で、違法すれすれの手法で、収入減の回避に成功した猛者もいる。
大手軽トラ会社に数台の車両を入れているという下請け会社の経営者は、臆することなく内情を披露する。
「個建てへの切り替えのタイミングで、元請けの担当者を接待漬けにして配達効率のいいエリアの仕事を優先的に回してもらった。
拘束時間が短くなった上に、1日当たりの売り上げはアップ。
非効率なエリアでは元請けの社員ドライバーや新米の個人事業主たちが毎日四苦八苦しながら走り回っている」 働き方改革で副業を余儀なくされるドライバーが増える。
副業ドライバーの活用を前提に配送ネットワークを構築する事業者が宅配便市場に参入する。
そして、お互いの足元をみた元請けと下請けの癒着が横行する。
現場で奮闘するドライバーたちの労働環境がむしろ乱れつつあるという事実は、担い手不足による「宅配クライシス」が再発の危機に瀕していることを物語っている。
