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JUNE 2004 62
福山通運の二〇〇四年三月期の売上高は二
五五九億円だった。 その内訳は運送事業二四
〇四億円(全売上高に占める割合は九三・九%)、
3PL事業を取り扱う流通加工事業が一〇六
億円(同四・二%)、その他事業四九億円(同
一・九%)。 これに対して、営業利益一〇二億
円の構成比は運送事業九四・〇%、流通加工
事業十一・八%、その他事業十一・五%、内
部消去マイナス一七・三%だった。
同社にとってのコアビジネスは運送事業だ。
運送事業の売り上げの内訳は、路線便が一二
二四億円、小口貨物輸送(一件当たり五個一
二〇以下)が一〇三六億円を占めており、収
益の大半を稼いでいる。
現在、同社の時価総額は約一三五〇億円。 陸
運(鉄道を除く)セクターでは第四位に位置す
る。 もっとも、ヤマト運輸(時価総額七二〇〇
億円)、日本通運(同六〇〇〇億円)には大き
く水をあけられ、ライバルの西濃運輸(同二〇
〇〇億円)に対しても後塵を拝している。
福通の時価総額は、ピーク時の一九八〇年
代後半には四五〇〇億円に達していた。 ところ
が九〇年代に入ると、バブル崩壊後の輸送需要
の急速な冷え込みや、運賃単価の下落に伴う収
益悪化で縮小。 九九年には?同業他社に先行
したリストラ、?小口貨物に特化することへの
期待、?景気の一時的な回復――などが織り込
まれた結果、いったん回復基調に転じたが、そ
の後再び縮小傾向を辿っていった。
しかし昨年十一月下旬に一〇二〇億円まで
低下した後、時価総額は反転し、その後数カ月
間で約三〇%拡大した。 長期低落トレンドから
の脱出への期待が株式市場で出始めたようだ。
具体的には、ファンダメンタルズ(基礎的条
件)について以下の点が評価・注目されつつあ
ると考えている。
コストセーブに成功
第一は市場環境が好転している点だ。 内需を
中心とした景気回復への期待が高まる中、特積
みの輸送需要は増加傾向にある。 国土交通省
の月次統計によれば、昨年六月以降、十一月
を除き前年同期比で輸送トン数は増加している。
これに対して、同社の二〇〇四年三月期の輸
送トン数は前年同月比三・九%増を達成した。
メリルリンチ日本証券では、設備投資の裾野が広がることで、二〇〇五年三月期も内需主
導の景気回復が続くと想定している。 実質GD
Pは前年度比三・七%増加し、鉱工業生産指
数も四・九%上昇すると見込んでいる。 国内の
マーケットをメーンに事業展開する福通にとっ
て追い風が吹き続けることを意味する。
一方、トラック輸送の需要量が増加を辿る中、
供給過剰にも緩和の動きがみられる。 九〇年代
以降、業界内では供給過剰が叫ばれ、日本全
体でみた営業用トラックの積載効率は五〇%前
後で推移してきた。 しかし、昨年一〇月の首都
圏ディーゼル車運行規制の導入に伴い、東京を
中心に営業用トラックの減少ペースが加速、需
給に若干タイト感がでてきているようだ。
第3回
福
山
通
運
大手特別積み合わせ業者の福山通運は二〇〇四年三月期決算で増収
増益を確保した。 バブル崩壊後、一時一〇〇〇億円まで落ち込んだ同
社の時価総額は徐々に回復基調に転じている。 ただし営業ターゲット
に据える小口貨物分野には強力なライバル企業が数多く存在する。 今
後の舵取りが注目される。
久保雅裕
メリルリンチ日本証券
シニアアナリスト
63 JUNE 2004
あくまでもエリアやルートが限定された現象
であり、全国的に需給が締まっているわけでは
ない。 とはいえ、一定のルート、顧客を対象に、
運賃引き上げへの期待が高まっている。 同社の、
今年に入ってからの単価(輸送トン当たり運賃
収入)下落率は、前年同月比で一月マイナス
一・四%、二月マイナス一・〇%、三月マイナ
ス〇・一%と徐々に縮小する傾向にある。
第二に、業界全体への評価ではなく、同社に
対する評価として、小口貨物強化戦略に期待
できる点が挙げられよう。 同じ特積み大手であ
りながら、福通と西濃運輸の方向性はかなり異
なるように見受けられる。 福通のほうが、はる
かに小口貨物指向が強い。 同社は九〇年代終
わ
り
か
ら
、
小丸成洋社
長による陣
頭指揮の下、
小口化戦略
を積極果敢
に進めてき
た。 小規模
拠点の増設、
営業(集配)
ドライバー
の増強など
を
通
じ
て
、
配送ネット
ワークを強
化。 並行し
て輸送事業
とのシナジ
ー(相乗効果)が見込める3PL事業の育成
も図り、成長ポテンシャルの相対的に高い小口
貨物需要を取り込んできた。
一方で、幹線運行を手掛ける低コスト子会
社(福通エクスプレス、福通エクスプレスウエ
ストなど)の設立や、本体からの路線移管とい
ったコスト効率化も推進。 二〇〇〇年以降の
市場環境の悪化で苦戦が続いてきたが、ここに
きてようやく一定の成果が出始めている。
二〇〇四年三月期をみても、収入が前年同
期比三・八%増加したが、主要な三費用(退
職給付費用を除く人件費、傭車費、取り扱い
手数料)は合計で同二・六%の増加に抑えら
れた。 経験を積んだ集配ドライバーの生産性の
向上、3PL事業での大型案件の採算向上、コ
スト抑制などが効いていると考えられよう。
第三に、こうした外部環境の改善と自社の努
力で収益が回復している点だ。 二〇〇四年三
月期は三・八%の増収、三四・五%の営業増
益で、二期連続での増収増益を確保した。 厚
生年金基金解散に伴う退職給付費用の減少と
いう一時的な要因が二〇〇三年三月期、二〇
〇四年三月期上期(二〇〇三年四〜九月)と
利益の底上げに大きく寄与したとはいえ、そう
した影響が消失した同下期(二〇〇三年一〇
〜二〇〇四年三月)も、前年同期比で三二・
四%の営業増益と高い伸びを示している。 今期
にはさらなる利益拡大が見込まれよう。
最後に資本市場からみた今後の課題や注目
点を挙げておこう。 まず小口貨物戦略がスムー
ズに加速されてゆくかが注目されよう。 前述し
た通り、その成果は出始めているが、その一方
福山通運の過去10年間の株価推移
で小口貨物市場にはヤマト運輸、佐川急便とい
う手強い競合相手が存在する。 彼らは潤沢なキ
ャッシュフローを活かし、競争力の強化に余念
がない。 さらに日本郵政公社も、公社化を契機
にコスト削減やサービス改善を進めている。
ただし、小口貨物分野は国内物流市場にお
いて数少ない成長市場であるが故に、福通にと
っても成長機会は十分にある。 ?営業ドライバ
ーの増強、?3PL事業の拡大、?柔軟な外
部提携などを通じて中国からの輸入貨物に象徴
されるような国際貨物を確保すること――がポ
イントになりそうだ。
二つ目は収益性の向上だ。 回復しつつあるが、
二〇〇四年三月期の営業利益率は四・〇%と、
過去のピーク(長期に溯って財務数値が開示さ
れている単体ベースでみて、九〇年三月期の
九・八%)を大きく下回っている。
一方、ROE(株主資本利益率)は三・三%
だった。 東証一部上場平均(金融セクターを除
く)の約七%、業界最大手である日本通運と
比べても、その水準は低い。 市場では、採算・
コスト管理の徹底、資産稼働率の向上などを通
じて、収益性の改善が進むことに大きな期待が
寄せられている。 くぼ・まさひろ
八八年東京大学法学部卒。 九
一年ジョージタウン大学大学
院(MBA)卒。 大和総研、ク
レディスイス信託銀行を経て、
二〇〇〇年よりメリルリンチ
日本証券。 九三年よりアナリ
ストとして運輸業界を担当。
著者プロフィール
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