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JUNE 2004 18
SCMに適した管理会計の必要性
◆従来の物流管理会計の限界
SCM先進企業とそれに続く企業の差は徐々に広
がってきている。 すでにグローバルでの調達、生産に
着手して連結ベースで在庫を削減している企業がある
一方で、未だ過剰在庫と欠品が遅々として削減され
ないという企業も多い。
SCM先進企業とそうでない企業の差は、管理会
計の違いに負うところが大きい。 そもそも管理会計は
経営を管理するためのモノサシである。 市場環境が変
わり、それに対応して企業経営が高度化するのに連携
して、モノサシである管理会計も進化する。 時代がS
CMへと進むにつれ、ロジスティクス管理会計もSC
Mに適した形に進化する必要がある。
欧米では物流→ロジスティクス→サプライチェー
ン・ロジスティクスへと経営が進化していくのに対応
してさまざまな会計手法が研究され、適用されてきて
いる。 「ROE(Return On Equity:
自己資本利益
率)」、「EVA(注)(Economic Value Added:
経
済的付加価値)」などの次々と誕生し導入されていく
財務指標に対応し、それとロジスティクスの関連を示
すモデルが紹介されている。 (図1)
それらのモデルの紹介は、残念ながら日本ではあま
り行われていない。 批判を覚悟であえて言えば、各所
で用いられる「物流コスト」はその言葉が示すように
物流時代のものである。 たしかにコスト管理は管理会
計の柱の一つであり、時代が変化してもその重要性は
変わらない。 しかしながらロジスティクス、さらには
サプライチェーン・ロジスティクスへの対応はこれの
みではできない。
ロジスティクスの一つの側面である多品種化、サー
ビスの多様化、3PL化に対応する新たな管理手法
として広まっているABC(活動基準原価計算)も、
SCMの重要な柱である在庫削減には対応できない。
双方ともロジスティクスを検討するためのものとして
必要ではあるが万能ではないのである。 そして、双方
ともに欠如しているのはキャッシュフローの概念であ
る。
◆コスト管理からキャッシュフロー管理へ
SCMは企業の価値を高める方策である。 この企
業価値というものは、捉え方がさまざまあり、人によ
って解釈が異なる。 だが端的に言えば、それは利潤を
生むかということにつきる。 企業は各所から資金を調
達し、それを設備や人に投資し、利益をあげる。 そし
て少ない資金でより大きな利益をあげるには、資金を
より多く回転させることが必要となる。 単純なことで
はあるが、会社の規模が大きくなるほどその基本が忘
れ去られていく。
現状でこの極めて基本的なことがなおざりになって
いる原因は、近代経営の発展過程に遡る。 物のない
市場に向けた大量生産・大量販売を機軸とした時代、
それに対応して規模が拡大する企業を管理するために、
事業部制が導入された。 米国では利益について責任を
持たせる形である製品別のビジネスユニットとして規
模の拡大における経営管理を実現していった。
一方で、所詮作れば売れるのであれば、利益という
複雑な管理指標ではなく、シンプルに「売り上げ」を
拡大する、「コスト」を低減する、という単純な目標
だけでも事足りる。 そのため日本の多くの製造業はこ
の単位でのビジネスユニットを導入していった。 製造
原価という「コスト」に責任を持つ製造事業部と、「売
り上げ」に責任を持つ販売事業部という形の日本型
ビジネスユニットは、成すべきことが極めてわかりや
SCM時代の新しい管理会計
コスト削減だけを目的にしたSCMは、先進企業ではも
はや限界に達している。 ファイナンスの観点からロジステ
ィクスを検討すべき段階を迎えている。 既に欧米のSCM
先進企業ではキャッシュフローを意識した新しいロジステ
ィクス会計手法が次々と開発され、それらの導入が始ま
っている。
梶田ひかるアビームコンサルティングIES事業部マネージャー
ロジスティクスの手引き
特 集
19 JUNE 2004
すいため、少品種大量生産時代には威力を発揮した。
しかしながら、その弊害が市場不透明化=多品種化
に伴い噴出し、物流からロジスティクスへという流れ
につながったことは、周知のとおりである。
古くから利益や資本回転率を重視していた米国で
も、ロジスティクスの進展には時間がかかった。 在庫
も含めたコスト・トレードオフに基づくロジスティク
ス・ネットワークを構築し、明らかに売れないという
ものは作らなくても、在庫の絶対的な量は高い水準で
推移していたのである。
その流れを大きく転換したのが、一九八〇年代後
半の不況、それに伴う黒字倒産とSCMである。 いく
ら財務諸表上で利益が出ていても、現金が不足すれば
会社は倒産してしまう。 それが社会的にも大きな問題
となったのである。 そこで着目されたのがキャッシュ
フローである。
◆競争力の原資となるキャッシュフロー
多くの小売業は買掛で商品を仕入れ、現金で販売
する。 売り上げが伸びている間は買掛と売り上げの間
に運用可能なキャッシュが生まれる。 それを原資に多
店舗展開していった日本の小売業は、古くからキャッ
シュフローを活用して成長するビジネスモデルを採用
してきたと言える。 しかし残念ながら日本の小売業は
キャッシュフローを重要な管理指標と位置付けてはい
なかった。 そのために倒産が多くみられる結果となっ
ている。
小売りを起点とした今日のSCMでは、このキャッ
シュフローの活用による低価格化の実現をうたってい
る。 同じ資金であっても、在庫を回転させる=売上ボ
リュームを伸ばすことにより、販売価格を下げても過
去と同じ利益の絶対額を得ることができる。
キャッシュを投下したい分野は企業の中に数多くあ
る。 もはや企業のリソースの一つと認識されている情
報も、システムを整備することにより、より高度にで
きるし活用も進む。 メーカーの場合はさらに重要な投
資分野として製品開発がある。 永続的な反映のために
は、常に売れる製品のあることが必要になる。 キャッ
シュフローに余裕があれば、将来的に売れるかもしれ
ない製品を開発するプロジェクトに投資できる。
SCMはロジスティクスに限った企業間の取り組み
ではない。 その管理の対象となるのは取引先と関連の
あるすべてのプロセスである。 取り組みによりキャッ
シュフローを向上させ、そこで生まれたキャッシュを
原資に競合と差をつける。 キャッシュフローへの理解
がSCMを正しい方向へ推進するのである。
キャッシュフローの分析手法
◆キャッシュギャップ分析
キャッシュフローが重要であるといわれながらその
理解が進まないのは、それがキャッシュフロー計算書として、損益計算表、貸借対照表の外側に存在する
ものだからである。 もちろん、今日ではキャッシュフ
ローを加味した財務指標や管理会計手法も開発され
ている。 たとえばEVAは、便宜的に貸借対照表を用
いて損益計算書と同次元にキャッシュフローを並べて
いる。 またスループット会計は在庫金額を用いること
によりキャッシュフローを加味している。 しかしなが
ら、いくら簡素化しているとはいえ、これらの手法は
財務についての知識のない人にはわかりづらい。
キャッシュフローをより簡単に理解するために開発
されたのがキャッシュギャップ分析である。 米国の公
認会計士協会(AICPA)が発行している「Journal
of Accountancy
」
の
一
九
九
九
年
一
〇
月
号
で
、Germain Boer
氏がキャッシュフローの分析手法とし
図1 ロジスティクスと経営指標の変遷
ロジスティクス
損益計算書
ベース指標
損益計算書
貸借対照表
ベース指標
キャッシュフロー
ベース指標
売上高
コスト
利益率
ROA
GMROI
ROE
EVA
CFROI
経営指標の変遷
指標の精度
サプライチェーン
物 流 ロジスティクス
JUNE 2004 20
て発表したものだ。 簡単かつビジュアルであることが
この手法の特徴である。 あまりにも単純すぎるため、
いくつかの問題点も指摘されているが、簡単な財務デ
ータだけで理解しやすい分析が行えることから、欧米
のロジスティクス会計についてのセミナーや大学での
講義で用いているケースが散見される。
キャッシュギャップ分析では損益計算書から売上高
と売上原価の二つ、貸借対照表から棚卸資産、買掛
債権、売掛債権の三つの項目を抜き出してくる。 次に、
棚卸資産、買掛金、売掛金それぞれについて、回転
日数を計算する。 仮に売上高一〇〇〇億円、売上原
価六〇〇億円、棚卸資産一二〇億円、買掛金一〇〇
億円、売掛金一一〇億円の会社があるとする。 これら
の値から、棚卸資産七三日、買掛金六一日、売掛金
四〇日で回転していることになり、キャッシュギャッ
プ、つまり資金の回転差は五二日となる(図2)。 こ
の回転日数をグラフ化したものが図3となる。
この四つの日数は企業経営の基本となる資金の回
転実態を示している。 企業は各所から資本金や借入
金を集め、事業に投資し、利益を得る。 資本をより多
く回転することにより、より高い利益を得られる。 そ
の指標が総資本回転率である。 しかしながら取り扱う
商品や業界慣行により、高回転の業界もあれば低回
転の業界もある。 たとえば酒類は仕込みの期間分は中
間在庫が必要になる。 装置産業では装置の費用が固
定費としてのしかかる。 そのような資本回転を、改善
が容易な運転資金に絞って分解したのがこの分析とな
る。
これにより、資本を回転するために何をすべきかが
具体的になる。 在庫や買掛金となっているものは資金
を固定化させており、逆に売掛金は資金に余裕を生ま
せる。 業績が悪化すると買掛金のサイトを長くする例
が多くみられるが、それは買掛金の日数を長くするこ
とにより運用できる資金が増え、キャッシュギャップ
を小さくできるからである。
◆キャッシュギャップによる企業分析
キャッシュギャップ分析は複数企業を比較するとき
にその効果を発揮する。 図4はある同業三社それぞれ
の平成十二年度のキャッシュギャップ分析結果である。
A社とB社は在庫日数が半月程度、買掛金回転日数
が二〇日程度と類似しており、B社とC社は売掛金
回転日数が二カ月程度と類似している。 一般に同業
の場合、業界横並びの商慣行から買掛金や売掛金の
サイトがほぼ同じとなる傾向があり、また在庫削減へ
の取り組みも類似している。
この三社で異なるのは、A社の売掛金回転日数が
明らかに短いこと、C社の在庫がA社、B社のほぼ倍
の日数分あるということである。 仮にC社が在庫を他
社並の日数にまで削減すると、C社は運転資金を現
状の五二日分から削減した在庫日数を引いた三七日
分にまで削減することができる。
売掛金、買掛金のサイトは、取引先の意向もあるこ
とから簡単には改善できない。 しかしながら在庫は、
社内のみの意図で削減することができる。 より利益を
あげるためには?利益率のより高い商品を販売する、
?薄利の商品の場合は資本回転率を上げてより多く
販売する、の二つの方向がある。
市場プル型の低価格化は沈静してきたとはいえ、い
ったん下がった商品の販売価格を上げることは難しい。
高利益で売れる新商品を作ることはもっと難しい。 競
争が激化している現在、?の戦略をとることは非常に
困難であるといえる。 そのための?なのである。 サプ
ライチェーン・ロジスティクスの目指すことは、資本
回転率を上げることにより、同じ利益を確保しながら
図2 キャッシュギャップの計算方法
売上 100,000
売上原価 60,000
棚卸資産 12,000
買掛金 10,000
売掛金 11,000
(百万円)
1日あたり売上 274百万円 売上/365
1日あたり売上原価 164百万円 売上原価/365
在庫日数 73日 棚卸資産/1日あたり売上原価
買掛金回転日数 61日 買掛金/1日あたり売上原価
売掛金回転日数 40日 売掛金/1日あたり売上
キャッシュ・ギャップ 52日 在庫日数+売掛金回転日数−買掛金回転日数
図3 キャッシュギャップグラフ
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120
在 庫 73日
売 掛 金 40日
買 掛 金 61日
キャッシュギャップ 52日
キャッシュギャップ
= 在庫日数 + 売掛金回転日数 − 買掛金回転日数
= 73 + 40 − 61
= 52
21 JUNE 2004
消費者により低価格で商品を提供することである。 ま
さに?がSCMの本質なのである。
デルはキャッシュギャップ分析を説明するときに必
ずといっても良いほど用いられる事例である。 図5は
ネット上でも公開されているデルの二〇〇二会計年度
における財務諸表をベースに作成したものである。 デ
ルの凄さは在庫が少ないことだけではない。 消費者へ
のダイレクト販売を中心とするビジネスモデルでは、
現金販売がメインとなる。 売掛金が少なくなるのであ
る。
その一方で、バイイングパワーを活かし、買掛金の
支払いサイトを長期化している。 その結果キャッシュ
ギャップはマイナスとなる。 通常の業務で投資に回せ
る資金が集まる。 これを新たな事業に投資することに
より、さらなる拡大を続けているのである。
SCM時代のロジスティクス会計
◆在庫保有コストへの認識強化
キャッシュギャップ分析はSCMとキャッシュフロ
ーの関係についての極めて基本的かつ重要なことを指
摘している。 その第一は、在庫削減が企業のキャッシ
ュフロー改善に直接的に効果があるということである。
これを理解するためには、そもそも在庫削減による
効果は何なのかということ、さらにそもそも在庫があ
ることにより発生するコストは何なのかということを
理解しておくことが必要になる。 この在庫保有コスト
は、日本で物流コストという概念が最初に取り上げら
れた頃に紹介されているのにも関わらず、これだけ在
庫削減が話題になっている現在でも取り上げている本
や雑誌はほとんどない。
図6は米国で古くから、そして現在でも使用されて
いる在庫保有コストモデルである。 これらのうち日本
で一般的に在庫保有コストとしてとらえている保管や
荷役のコストの占める割合はあまり多くない。 米RE
Mアソシエイツの調査でも、これらのコストの在庫保
有コスト全体に占める割合はわずか一割にしか満たな
い。
筆者のいくつかの企業における在庫削減プロジェク
トの経験でも、製品在庫が三カ月以上ある場合、もは
や出荷することはないであろう在庫、大幅な値引き販
売をしなければならない在庫が多く存在している。 本
来は棚卸廃棄損や棚卸減耗という形で処理しなけれ
ばならないものが毎年発生し、資産のまま貸借対照表
上に隠れ、あるいは値引き販売されたものが損益計算
ロジスティクスの手引き
特 集
売上 35,404 百万ドル 在庫日数 4 日
売上原価 29,055 百万ドル 買掛金回転日数 75 日
棚卸資産 306 百万ドル 売掛金回転日数 27 日
買掛金 5,989 百万ドル キャッシュギャップ −44 日
売掛金 2,586 百万ドル
図5 デルのキャッシュギャップ(FY2002)
−50 −40 −30 −20 −10 0 10 20 30 40 50 60 70 80
在庫4日
買掛金75日
売掛金27日
キャッシュギャップ−44日
図4 Cash Gap―同業他社比較
A社
B社
C社
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120
在庫15日
在庫16日
在庫30日
買掛金21日
買掛金20日
買掛金39日
売掛金11日
売掛金61日
売掛金61日
キャッシュギャップ5日
キャッシュギャップ57日
キャッシュギャップ52日
JUNE 2004 22
書上でわからなくなっている。 このような廃棄損や値
引き販売による原価割れの損失を廃品リスクという。
さらに、そのような企業は物流拠点も複数あることが
多く、それらの間での横もちが多く発生している。 関
東の工場で作った製品が、なぜか福岡の倉庫経由で
北海道の顧客に配送されていたりする。 この横もちに
よる損失を移送リスクという。
在庫が数カ月の単位である場合、廃品リスクや移
送リスクが現状でどれくらいあるのか、在庫削減によ
りそれらがどれくらい低減するのかをきちんと試算す
ると、大方の場合は在庫削減のために必要な物流拠
点削減や生産計画サイクル短縮などによりコストアッ
プする分を十分にカバーできる金額となる。 かくして
在庫削減プロジェクトは承認され、実行されるとそれ
にほぼ近い効果を生み出すのである。
さらに在庫が多い場合、欠品も多発しているのが常
である。 この欠品の実態も実は見えていない。 受注時
に在庫が無いことが予めわかっている場合は、その場
で代替品をすすめたり待ってもらったりして受注デー
タとして入力しないことは多い。 また受注システムも、
在庫引き当てができないデータはエラーとして記録し
ない形になっているものが多いからである。 この欠品
による販売機会損失は、在庫保有コストには含めて計
算しない。 しかしながら在庫を削減することにより、
かえって売り上げが増加した企業は多い。
その効果を得るために在庫削減を進めた結果、製
品在庫が一カ月を切ると、廃品リスクや移送リスクも
削減され、それらのみの範疇の試算では在庫削減のた
めに行う施策にかかるコストをカバーできなくなる。
これ以上削減するプロジェクトを行いたい場合、承認
のための説得の材料となるのがキャッシュフロー改善
である。
このキャッシュフロー改善への意識の差が企業の在
庫量となって現れている。 本誌二〇〇四年二月号の
在庫削減特集でも取り上げているように、現状ではす
でにこれまでのやり方の延長線上ではこれ以上の在庫
削減は難しいと思われる企業がでてきている。 それら
企業のほとんどは、キャッシュフローについての意識
が高い。 資本コストを理解し、その低減を求めて在庫
を削減してきたのである。 その一方で、まだ削減の余
地の残る企業では、在庫削減を行う意義を費用対効
果に求め、その効果にキャッシュフロー改善を含める
ことに躊躇しているケースが多いのである。
◆協業による利益拡大
キャッシュギャップ分析の示す第二のポイントは、
買掛金のサイトを伸ばすこと、売掛金のサイトを縮め
ることもまたキャッシュフローの改善に同様の効果が
あるということである。 買掛金サイトの長期化はバイ
イングパワーにより比較的容易に実現される。 それに
対して売掛金サイトの短縮化は相手が販売先であるこ
とから簡単にはいかない。
それでも、このチャレンジャブルな売掛金改善への
取り組みが、すでに一部のSCM先進企業によって開
始されている。 例えばP&Gの「新取引制度」である。
P&Gは「新取引制度」を明確にSCMに対応する
ための施策であると唱っている。 SCMの目指すもの
は取引先との協業による双方の利益拡大である。 物
流サービス是正によるコスト低減のみではなく、売上
拡大、キャッシュフロー改善も含めた施策の検討が望
まれているのである。
現在のロジスティクス会計研究の最先端のテーマは、
SCMにおける取り組みをどのように評価するかとい
うことである。 その研究の一つは本誌二〇〇三年六月
号、七月号に紹介されたランバート教授の「SCMの
図6 在庫保有コスト
在庫投資コスト
保険料
税
自社倉庫にかかる諸費用
賃貸倉庫の借庫料
営業倉庫保管料
保管管理にかかるコスト
廃品リスク
損傷リスク
盗難リスク
移送リスク(横もちにかかる諸費用)
在庫サービスコスト
保管コスト
在庫リスクコスト
資本コスト
在庫保有
コスト
23 JUNE 2004
評価方法」である。 他にもこの分野の研究を行ってい
る研究者は何人かいる。 金額で評価をするということ
は、どのような場合でも施策を検討する上で望まれる
ことである。 メーカーと流通業という、財務上の特質
の異なる業態の企業をまたいだ施策を行うかどうかの
判断を評価するのは簡単ではない。
SCMを推進するには、もはやコストという観点の
みでは限界にきている。 ファイナンスという観点での
ロジスティクスを検討すべき段階にきている。 すでに
いくつかの企業で用いられ有用性が確認されている企
業内評価用のロジスティクス会計手法を、日本でも積
極的に導入・開発し、活用していくことが望まれる。
◆資本コストへの認識
前述のように、現状でキャッシュフローへの認識が
低いのは、それが損益計算書上には現れないものだか
らである。 キャッシュフローを改善するために何らか
の投資を行うかどうかを判断するときには、費用対効
果計算の俎上に乗せるようにキャッシュフロー増加に
よる効果をコスト低減額という形に変換しなければな
らない。
物流の世界では古くから、貸借対照表にある費目
のうち在庫については、在庫金利として変換を行なっ
て物流コストに含めることとなっている。 日本に紹介
された当初それは、企業が投資を行う際に期待される
運用利率で計算するとなっていた。 しかしながら、金
利という言葉を用いた結果、いつの間にか銀行の長期
貸出金利でよいと解釈している人が多くなってしまっ
ている。 低金利の現在、長期貸出金利を用いては、キ
ャッシュフロー改善への意欲は喚起されない。
これまで述べてきたように、キャッシュフロー改善
のためには在庫だけではなく買掛金・売掛金も改善す
る必要があり、それらはSCMの中で検討され始めて
いる。 加えて物流の範疇にありながらこれまで金利の
考慮がなされなかった倉庫や機器などの固定資産もま
たキャッシュフローに影響する。 さらに、金利という
用語を改めて定義する必要がある。
欧米では現在、図6にあるように、在庫金利という
言葉は用いずに在庫投資コストとし、その上位概念と
して固定資産、流動資産、流動負債に用いることが
可能な資本コストを持ってきている。 EVAでは「W
ACC(Weighted Average Cost of Capital:
負債
と自己資本の加重平均資本コスト)」を用いることに
より資本コストを計算する。
SCMが進展する中、欧米ではそれに対応するロジ
スティクス会計の様々な分析手法が検討され、用いら
れるようになってきている。 本稿で紹介したキャッシ
ュギャップ分析はその一例である。 日本においてもS
CMを推進するためには、これらSCMに対応すべく
開発された分析手法を積極的に紹介し、広めていくこ
とが必要であると痛感する昨今である。 注:EVAは米スターンスチュワート社が商標として登録している
ロジスティクスの手引き
特 集
かじた・ひかる1981年南カリフォルニア大
学大学院OR修士取得。 同年日本アイ・ビー・
エム入社。 1991年日通総合研究所入社。
2001年デロイトトーマツコンサルティング
(現:アビームコンサルティング)入社。 静岡
県立大学非常勤講師。 ロジスティクスABC、ロ
ジスティクス中長期計画策定、在庫削減プロジ
ェクトなど、ロジスティクスの企画・管理に関
するコンサルティングと研究を中心に活動中。
PROFILE
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