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JUNE 2004 32
はじめに
経済産業省では、平成一五年度より三年間の予定
で、財団法人流通システム開発センターとともに、日
用雑貨・加工食品を中心としたメーカー・卸・小売
り間の情報共有を促進するための基盤整備を進めてい
る。
情報基盤整備とは、国内企業間で商品データをシ
ンクロナイズ(同期)させるための仕組みと、XML
(
Extensible Markup Language:
ホームページの記
述言語であるHTMLの後継言語)を用いたEDI
システム(電子データ交換のためのビジネスモジュー
ル)、及びこれらに関連するメッセージをはじめとす
るデータ辞書の整備から構成される。
以下では、「流通サプライチェーン全体最適化情報
基盤整備事業」(流通SCM事業)で、こうした仕組
みを開発するに至った経緯と、その概要について、当
該業界の現状を踏まえながら紹介していく。
日本における流通業の現状
ここ数年、日用雑貨や食品など日常的に消費され
る財の流通に関わる企業(卸、小売業など)の経営は、
非常に厳しい状況におかれている。 家計の消費支出に
おいては、実質所得がマイナス傾向にある中で、消費
の多様化やサービス支出の比率が高まっており、個人
の嗜好やライフスタイルに合った商品を、値段や立地
などの点で適切に提供している店舗で求めようとする
傾向がますます強くなっている。
こうした状況に対して、コンビニエンスストア、食
品スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなどの
新しい小売り業態が消費者ニーズをつかみながら躍進
した。 その一方では、百貨店や総合スーパー、商店街
の専門店などの既存業態で厳しい状況が続いている
(図1)。 さらには外資系大手小売業の参入などもあっ
て、小売業界の競争条件はいよいよ厳しさを増してき
た。 こうした小売業の変化は関連する卸売業界にも及
び、日用雑貨卸や加工食品卸などの全国的な再編な
どが起きている。
独自の効率化からコラボレーションへ
このような状況下で、企業では、顧客ニーズをより
的確に把握し、かつ効率的に商品オペレーションを展
開する必要性が一層高まっている。
もちろん、日用品のような単価の低い商品を多く扱
う業界では、チェーンオペレーションやEDIの導入
など、これまでも個別企業単位で様々な先進的な取り
組みが行われてきた。 ただ従来の取り組みの多くは、
自社の商品をより多く売ろう、仕入れ単価を下げるた
めに大量に仕入れた商品を売り切ろう、というような
考え方に基づくものだったと考えられる。 このためほ
とんどの企業は、独自の業務オペレーションを各社各
様に構築してきた。
しかし、現在のように競争が激しく、かつ多様化し
た顧客ニーズにきめ細かく応える必要のある時代には、
こうした考え方では立ちゆかなくなる場面が増えてい
る。 顧客が要求する商品を、必要なだけ提供するとい
う方法でなければ、メーカーであれ小売業であれ在庫
が山積みとなって企業経営が圧迫されてしまう。 不要
な在庫を無くすためには、取引関係にあるメーカー、
卸売業、小売業が互いにきめ細かな情報交換を行い、
商品の製造や仕入れを実施するコラボレーション(協
働)が欠かせない。
ここで問題となるのが、従来は各社各様に構築され
てきた仕組みを、どのように共通化していくかという
経産省「流通SCM事業」の取り組み
経済産業省が中心になって、日雑・加食業界における
SCMの促進に取り組んでいる。 過去の取り組みが主にメ
ーカー・卸間のものだったのに対し、本事業では小売り
まで含むサプライチェーン全域を対象とする。 事業の背
景と狙いについて経産省の担当者が解説する。
村山智経済産業省商務情報政策局流通政策課課長補佐(流通・物流政策担当)
ロジスティクスの手引き
特 集
33 JUNE 2004
点である。 以下、本事業の範囲内で、この問題につい
てできるだけ簡易に示してみたい。
コラボレーションの問題点
人間がコミュニケーションを図る際には、しぐさや
言葉を用いる。 このしぐさや言葉を企業間の活動に置
き換えると、それは取り引きやEDIなどに見られる
ルールと考えられる。
こうしたルールには、ある単語が示す意味や記述方
法などが含まれる。 例えば、商品を示すコード(JA
Nコードなど)や、取引相手を示すコード(共通取引
先コードなど)をはじめとする情報項目の内容、文法
ルール(伝票やEDIにおける情報項目の記述順序)、
そしてそれらを相手に伝えるための手段とそのルール
(伝票の送付ルールやJCA手順、全銀手順、H手順
などの通信手順)などである。
企業間のコラボレーションを図るためには、まず、
これらのルールを相手先と共有化する必要がある。 一
対一の取り引きであれば、どちらかが他方に合わせる
か、または双方が摺り合わせるという作業によってル
ールを共有化することが可能だ。 しかし、取引先が多
数になると非常にやっかいな問題が起こる。 現状では
企業ごとに別々のルールを採用しているため、取引先
ごとに違った情報交換のルールを用意しなければなら
ないからだ。
このような問題を避けるためには、多くの企業間で
ルールを共有化する、すなわち?標準化〞を進める必
要がある。 これが一つ目の問題点である。
企業間のコミュニケーションを図る上での二つ目の
問題点は、商品や取引先にかかわる情報の共有だ。 例
えば、食品スーパーが扱う商品アイテム数は、日用雑貨を含めると一店舗あたり約六〇〇〇にものぼるとい
われる。 それらが企業ごと、あるいは店舗ごとに商品
データベースで管理されている。
しかしながら、日用雑貨や加工食品に限っても、春
と秋には多くの新商品の投入と廃止が行われる。 個別
の企業が売れなくなった商品の取り扱いをやめること
も珍しくない。 こうした中で、企業はその管理に多く
の人や時間を割いている。 しかもそれらの多くが手作
業で行われる結果、データベースへの入力間違いなど
が発生し、販売時のPOSエラーや受発注のエラーと
なって取り引きに支障を生じている。
こうした二つ目の問題点を解決するため、企業間で
自動的に商品データを共有できる仕組みづくりが求め
られている。
図1 小売業業態別の販売額の推移
●総合スーパー:衣食住にわたる商品(各10%以上70%未満)を小売、従業
員50名以上、セルフサービス方式による販売
●百貨店:衣食住にわたる商品(各10%以上70%未満)を小売、従業員50
名以上、主として対面販売
●専門スーパー:衣食住のいずれか各70%以上を小売、売場面積250?以上、
セルフサービス方式による販売
●コンビニ:飲食料品を扱っている売場面積30?以上250?未満を販売、営
業時間14時間以上、セルフサービス方式による販売
160
140
120
100
80
60
40
20
0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
H3 H6 H9 H11 H14( 年)
定 義
142.3
14.1
11.3
8.5
3.1
23.6
143.3 147.7 143.8
135.1
6.7
8.0
8.9
小売業
専門スーパー
総合スーパー
百貨店
コンビニ
小売業全体(兆) 業態別(兆)
JUNE 2004 34
「標準化」と「共通化」の推進
日用雑貨や加工食品の業界における標準化は、こ
れまでも統一伝票の作成や、業界VANを中心とし
たメーカー・卸間のEDIなどとして推進されてきた。
また、商品コードについては、すでにJANコードが
広く普及しており、多くの商品にソースマークされて
いる。
しかし、メーカーから小売りまでを貫く標準化が進
んでいる例はまだ少なく、企業間コラボレーションを
広く実現していくためには、さらなる取り組みが必要
だ。 例えば、卸・小売り間のEDIについては、細か
く違いを見ていけば、ほぼ小売りごとに異なるEDI
方式が存在し、その数は千通り以上にものぼると言わ
れている。 先に述べたように、小売業がそれぞれの競
争の中で各社各様の方式をつくりあげてきたためだ。
近年、コラボレーションの必要性が高まっていると
はいえ、現存する仕組みが企業の競争力の源泉と深く
つながっているため、これを変更するのは容易ではな
い。 本事業では、こうした現状を鑑み、多様性を吸収
できるような仕組みを検討している。
一方、商品情報の共通化は、これまでの日本では
明確な取り組みが行われてこなかった。 ただし海外で
は、メーカーと小売業が一対一で商品の基本情報など
を電子的にやりとりし、情報をシンクロナイズする取
り組みが行われている。 また、今年の九月からは、ア
メリカのUCCnetにおいて、複数企業間でデータ
をシンクロナイズする仕組みが動き出すことになって
いる。
本事業では、このUCCnetの仕様をもとに、日
本における商取引の現状を考慮しながらデータ共有の
仕組みの構築を進めていく。
「流通SCM事業」での取り組み
このたびの「流通SCM事業」では、企業間コラボ
レーションの基盤を形成する狙いで、標準化と共通化
の実現をめざしている。 今後、広がると予想されるイ
ンターネットによるXMLを用いた企業間データ交換
を前提として、そのEDI方式の標準化に加え、それ
を用いたEDIシステムを設計・公開するとともに、
企業間におけるデータの同期化システムも開発してい
く(図2)。
このうちXMLによる標準EDI方式については、
すでに二〇〇一年より開発が進められており、現在ま
でに十一種類のメッセージ(図3)とメッセージ交換
図2 SCM事業の枠組み
商品データ同期化
インターネット対応標準EDIシステム
正確な商品データ共有を実現
効率的な商品データ交換を実現
データ変換の手間・費用を削減
データ入力の手間・費用を削減
▼
通信速度を高速に
流通標準の利用拡大
データ変換を容易に
付加価値データの交換を可能に
▼
XML(Extensible Markup
Language:拡張可能なマーク
付言語)を活用
EAN/UCC標準との整合性を
とりつつ、国内取引の現状を反
映したシステムを構築。
流通R&R,
ナショナルR&R
製造業 卸売業 小売業
図3 開発メッセージとビジネスモジュール
販売側(卸等)
購入側(小売等)
ビジネスモジュール
通信サーバ
商品マスタ情報
発注データ
入荷予定データ
(伝票単位、梱包単位)
検品受領データ
受領仕入計上データ
請求データ
支払(案内)データ
POS売上情報
在庫情報
特売企画
ビジネスモジュール
通信サーバ
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手順ガイドライン(サーバ・サーバ方式、クライアン
ト・サーバ方式の二種類)を作成した。 これらについ
ては、すでに一部が流通システム開発センターにより
公開されている。 残りも随時、公開を予定している。
XMLを用いたEDIシステム(ビジネスモジュー
ル)についても、すでに二〇〇三年度に複数の方法を
吸収できるような仕組みの構築を進め、基本設計は完
了している。 近く、その一部を実装したプロトタイプ
を含めて公開する予定だ。
さらに二〇〇四年度には、実際の企業活動を想定
しつつ実装を行い、動作テストを行ってシステムの検
証を実施する予定。 最終的にはシステムの全容を公開
し、導入コストを低減することで、XMLによる標準
EDI方式を含めた新たな仕組みの幅広い普及をめ
ざしていく。
データ同期化システムについては、二〇〇三年度に
前述のUCCnetの仕様を検討(図4)し、本年
度はいよいよ日本国内における仕様の検討に入る。 さ
らに二〇〇五年度には、本年までの検討内容を実装
したシステムを構築し、実証実験にはいりたいと考え
ている。
本システムを多くの企業が導入することで、柔軟で
多様性を残したまま、正確で効率的な企業間の情報
交換が可能になるものと思われる。 また、XMLを用
いた仕組みであるため、画像やプロモーション情報な
どを交換することも可能になる。 企業間コラボレーシ
ョンを進める上での有力な基盤になるものと考えてい
る。
事業の課題
以上、本事業の内容について述べてきたが、お気づ
きのとおり、この事業が実現しようとしているのは、
あくまでも企業間コラボレーションを容易にするため
の基盤整備である。 実際に情報共有を実現し、その
結果として業務の効率化や個別企業の売上拡大に結
びつくまでには、多くの企業による取り組みが必要と
なる。
例えば、企業間コラボレーションを効果的に実現す
るためには、まず個別企業内の業務改革が欠かせない。
検品レスや伝票レスを例にとると、こうした取り引き
を行うためには、極めて精度の高い納品の仕組みが社
内にできあがっていることが大前提となる。 これは企
業内のオペレーションとしては非常にレベルの高いも
のであり、一朝一夕に実現できるものではない。 また、
こうしたオペレーションのための投資も必要となるは
ずだ。
さらに本事業の範囲は、標準的な規約やシステムの
開発、公表、普及であり、企業に対して補助を行うわ
けではない。 個別企業がシステムを導入する際には、
多かれ少なかれ投資経費を必要とし、企業によってそのための投資額やタイミングは異なってくるものと思
われる。
こうした点については、当該業界からできる限り多
くの参加者を得て、企業が将来の投資時期を安心し
て決めることができるよう、普及への道筋を示すよう
に務めたいと考えている。 また、事業成果として公開
する情報に対し忌憚のない意見をいただければ、でき
る限りそれに対応していくつもりだ。
本事業の成果物が最終的に普及するかどうかは、ど
れだけの企業の賛同を得ることができ、そこでのニー
ズを吸い上げたシステムを構築できるかにかかってい
る。 また、どれだけの企業がシステムの利点を最大限
に活かし、自社ビジネスに活用するかも普及のための
欠かせない要因と考えている。
ロジスティクスの手引き
特 集
図4 データ同期化の仕組み
レジストリ
データプール
提供者 利用者
レジストリ
利用者側
データプール
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提供者側
データプール
小売や卸などの
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