ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年7号
keyperson
阿保栄司 ロジスティクス・マネジメント研究所 所長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

KEYPERSON ――日本企業のロジスティクス・マ ネジメントには方法論がないと指摘 されていますね。
「全て担当者ベースなんです。
担当 者個人の能力や指向で、ロジスティ クスや物流の方針を立てている。
組 織としての動きとは感じられません。
歴史的に見ても常に物流コスト削減 から改革や合理化をスタートする。
コ ストばかりが問題になって、サービス 面からの視点が欠けている。
この点 でアメリカは大きく違います。
アメリ カでは、サービスからマネジメントを 出発させることが当然とされている。
実際、デルなどはロジスティクスを始 めとして、彼らが『顧客体験』と呼 んでいるサービスレベルを徹底して管 理している。
個人の業績評価も顧客 満足度で査定している」 1 JULY 2004 きな課題だと思います」 ――コスト管理面でも課題はありま すか。
「日本ではミクロでもマクロでも物 流コストは正確に測定されてもいな いし、公表もされていません。
実際、 有価証券報告書に記載されている物 流コストに含まれる費用項目は企業 によってバラバラです。
つまり物流コ ストという名前で呼んでいるものの 内容は企業が違うと異なるものだと いうことです。
そこからマネジメント を始めているので最初のところでつ まずいてしまっているのです」 「さらにサプライチェーンとなると 構成する諸企業が、それぞれ別々の 基準でコストを管理している。
それ らを合計してサプライチェーン全体 の原価と称することは無意味でしょ う。
そんな状態でサプライチェーン改 革に成功しましたという話を聞いて も、説得力にとぼしい」 ――本当にコストが下がったのかは 怪しい? 「むしろ日本企業の売上高物流コス ト比率は、このところ上昇している のではないかと考えています。
デフレ が進み、売上高が下がっているから です。
しかも、この先、コストはさら に上がっていく。
既に家電などでは メーカーがリサイクルの義務を負う ことで法制化されました。
リサイク ルのコストで最も大きな割合を占め るのは物流費です。
環境対策が本格 化することで物流コストの問題は今 後ますます大きくなる。
今のような 曖昧なままでは非常に良くない」 「そして決定的に重大な問題は、日 本ではマクロの計算、国内総生産(G DP)に対して物流費はどのくらいの割合を占めるのか計算されてもい ないし、標準的な計算方法が存在し ないことです。
米国では一九七七年 以来二六年間毎年この数値とその内 訳を発表している。
計算方法が単純 化され過ぎていて正確性を欠くとの 批判もありますが、継続して同一方 法で計算し、結果を公表しているこ とに大きな意味がある」 「日本でも二〇〇一年一月に日本ロ 「もちろん日本でも口ではサービス が大事、顧客満足が大事と言います が、現場における管理行動には反映 されていない。
そもそも顧客がどのよ うなサービスを望んでいるのか調べて もいない。
顧客の要求を知らないま ま経営している」 「サービスから出発するということ は、まず顧客の求めるサービスを明 らかにして、それを実現するために、 どういうシステムを組めばいいのか。
どのようなサービスを提供すると、ど れだけコストがかかるのか。
あるいは 他社とどこで差別化するのか。
そう いうことを研究していくことです。
そ うした企業が日本にはほとんどない。
ただし日本でも外資系企業のなかに は、そうしたアプローチをとっている ところがある。
これは日本企業の大 阿保栄司 ロジスティクス・マネジメント研究所 所長 THEME 「 日 本 の ロ ジ ス テ ィ ク ス を 再 構 築 せ よ 」 日本企業のロジスティクスには方法論がない。
現状の把握でさえ各社 それぞれの基準で行っている。
このような状態では、企業をまたがる活 動の統合管理など不可能だ。
現在のSCMが今後、循環経済へと対象範 囲を拡大していくのは必至だ。
日本企業はロジスティクスの再構築を迫 られている。
KEYPERSON JULY 2004 2 ジスティクスシステム協会がこれの試 算を行って報告書を発表しましたが、 大変残念なことに『自家輸送コスト』 と『保管コスト』の推計方法に誤り があることが指摘されており、その結 果も信用されていない。
物流行政の 信頼ある基礎データの作成、あるい は物流費の国際比較を可能にするた めにも、このマクロの物流費の標準 的な計算方法を確定する委員会でも 作って本格的に取り組む必要がある でしょう」 ――SCMという考え方が普及した ことで、物流やロジスティクスに対 する関心自体は高まっているように 見えますが。
「物流に対する理解は、むしろ後退 しているように私には見えます。
昭 和四四年に日本で『物流革命』とい う本がベストセラーになりました。
当 時運輸省にいた松木洋三さんの編著 で非常に良く売れた。
この本には『物 流とはシステム活動だ』とはっきり と書かれています。
物流は輸送や保 管など個別活動の寄せ集めではなく、 それらがシステムを構成しているから 物流と呼ぶのだと定義されている」 「松木さんと同様に、物流の発展に 非常に大きな貢献をされた元日本通 運の平原直さん。
国の経済審議会な どで物流の重要性を強く訴え、それ によって日本の物流近代化政策が始 まったという、物流業界の大功労者 ですが、この人も物流はシステムで あるということを常に強調されてい た。
ただ単に輸送を合理化しろとい う話であれば昔からあった。
そうでは なくシステムとして合理化しなけれ ばいけないと説いていた。
つまり日本 に物流の概念が導入された初期の時 代の人々は、物流の意味がきちんと 分かっていた。
ところが最近は、そ うした物流に対する基本的な理解が なくなってしまっている」 ――物流の後にはロジスティクスとい う概念が導入されました。
「現実はどんどん進化しています。
ロ ジスティクス、続いてサプライチェー ン、さらにはそれがグローバル化した。
今後は循環経済へと発展していくの は目に見えている。
こうなってくると、 もはや従来の会計学的なアプローチ を主にした方法にも限界が見えてき たように考えています」 システム論を突破口に 新しいアプローチを探れ ――会計学的アプローチ以外にどの ようなアプローチが可能ですか。
「私はヨーロッパを中心に研究が進 んでいる『システム理論』の展開に 注目しています。
そこに新しいアプ ローチの可能性があるように思える」 ――システムと聞くと、私はすぐに情 報システムを思い浮かべますが。
「もちろん情報はシステムにとって 非常に大切です。
基本的にコミュニ ケーションによって社会システムは成 り立っている。
しかし、情報処理技 術がシステム論の中心課題であるわ けではありません。
物流・ロジステ ィクスを改革し、さらに発展させるために私が導入したいと考えている システム論は『オートポイエーシス (自己制作)』という最新のシステム 理論です。
システム論は最近急速に 進歩しています。
『動的平衡理論』か ら『自己組織化理論』へ、そしてさ らに『オートポイエーシス』へと進歩 してきたもので、高速情報化時代に ふさわしい第三世代のシステム論と 呼ばれています」 ――そのシステム論をロジスティクス に応用することでどんな効果がある のですか。
「日本の代表的なシステム学者であ る河本英夫氏の定義によると『オー トポイエーシス・システムとは、反復 的に要素を産出するという産出(変 形及び破壊)過程のネットワークと して、有機的に構成(単位体として 規定)されたシステムである』とされ ています」 「ここでいう『要素』とは、物流シ ステムでは『アベイラビリティ(利用 可能性)』のことです。
発注―注文伝 達―在庫引当―ピッキング―仕分― 梱包―積込―配送―荷受―検品―入 庫、これら一連の作業はどれもその 商品やサービスを顧客にアベイラブ ルにするための継続的な行為です。
こ の行為の継続のネットワークが物流 システムなのです」 「そして河本さんは『行動の継続の 側から要素の集合が決まり、作動の 継続を通じてこの集合は連続的に変 動していく』といってます。
つまり構 造の構築や変容も他のシステムとの カップリングも自在に、かつリアルタ イムで可能になるというわけです」 「このような簡単な説明では理解し がたいかもしれませんが、この理論を 無意識的に活用して大成功をおさめ ている例として、トヨタのJITやデルのダイレクト・モデルなどがある ように思います。
前者では、カンバ ンをアベイラビリティの伝達要素と して活用し、このシステムの根幹と しています。
後者では顧客価値の増 進をアベイラビリティの効率的な伝 達によって達成しようとしていると 考えることができます」 参考文献:河本英夫『オートポイエーシス 二〇〇一』新曜社

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