ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年7号
ケース
ウィズアップ――物流ベンチャー

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

45 JULY 2004 知る人ぞ知る現場運営のプロ ウィズアップの「取引先一覧」を見ると驚 かされる。
同社は一般にはあまり知られてい ない人材派遣業者だが、その一覧には大手自 動車メーカー、総合電機メーカー、大手物流 業者、日本有数の3PL(サードパーティ・ ロジスティクス)業者などがある。
二〇〇社 近いクライアントの顔ぶれは、設立からわず か三年の新興企業とは到底思えない。
さらに興味深いのは、取引先の大半を、現 場の運営をコアコンピタンスにしているはず の物流作業会社が占めている点だ。
メーカー や大手物流業者の下請けとして前面に出てく る機会こそ少ないが、現場運営に強い会社と して物流業界ではそれなりに知られている会 社がズラリと並んでいる。
最近までウィズアップは営業活動をほとん どしてこなかった。
それがこのように多くの 物流作業会社と付き合うようになった経緯は、 大半が口コミだという。
ある物流現場に派遣 した人材の働きぶりが出入り業者の目に止ま ったり、同社の作業者による荷揃えが荷受側 で高く評価されたりして、新たな企業から引 き合いがある。
そういった企業に人材を送り 込み、また評価を得てきた。
いわば、知る人 ぞ知る現場のプロである。
物流現場の運営を担う作業会社が、物量の 変動にともなうリスクを人材派遣業を使って 回避するのは近年では当たり前になっている。
人材派遣を母体に3PLに名乗り 設立4年目で年商100億を視野 単なる人材会社ではダメだ。
独自の現場 力を提供できなければ生き残れない――。
人材派遣業界で20年以上の経験を持つ創業 者が、物流現場における人材ビジネスの可 能性を信じて2001年に起業した。
現場のプ ロとして業績を急拡大し、今年1月にはグ ループに3PL会社も発足している。
ウィズアップ ――物流ベンチャー JULY 2004 46 これを追い風にしながら、軽作業請負を主力 とする人材派遣業者が急成長した。
東証一部 上場のグッドウィル・グループや、同二部上 場のフルキャストはその代表格だ。
ウィズアップもそうした時代の波に乗った。
二〇〇一年二月の設立後、はじめての通期決 算となった二〇〇二年三月期の同社の連結売 上高は約一〇億円。
それが実質的な二年目に は二五億円に急拡大し、翌二〇〇四年三月 期には六五億円になった。
今期は設立四年目 にして年商一〇〇億円を見込んでいる。
利益 額は未公表だが、二〇〇二年三月期から現在 に至るまで黒字経営を続けているという。
最近の日本では労働力の流動化が急速に進 んでいる。
大手電機メーカー各社が二〇〇〇 年前後に大規模なリストラを断行したあたり から、人減らしに対する社会的な抵抗感も薄 れ一段と拍車がかかった。
その一方で「フリ ーター」と呼ばれる若年層の数は九〇年代を 通じて急増し、その数が二〇〇二年には二〇 〇万人を超えて一〇年前の二倍になっている (厚生労働省の研究会資料より)。
現場の人件費を変動費化したい企業のニー ズと、その担い手である流動人材とが共に急 拡大しことで人材派遣業の隆盛に弾みがつい た。
このことがウィズアップの急成長も後押 ししたのだが、同社の創業者である高橋仁社 長は、「資金さえあればもっと大きな年商に なっていたはず」と醒めた見方をしている。
そして、従来型の人材派遣業の限界を手厳し く指摘し、ウィズアップが目指している企業像との違いを強調する。
「我々は究極の現場リーダー」 高橋社長は現在、四六才。
大学を卒業する とすぐにある人材派遣会社に入り、以来二二 年間をこの会社で過ごした。
派遣現場のリー ダーなどを長年こなし、最後は経営に参画す るまでになったが、キャリアを積めば積むほ ど、従来型の人材ビジネスに対する疑問が膨 らんでいったという。
「これまでの人材会社は作業の?下請け屋 的〞な部分が非常に強かった。
ある意味でリ スクが少ない分、達成感とか面白さを得るこ とも難しい。
それでも時代背景もあって、こ の業界はずっと右肩上がりで成長してきた。
人材の供給力さえあれば、どんどん仕事が増 えるという構図が今に至るまで続いている。
しかし、私は、こんな時代がいつまでも続く わけがないと認識していた」(高橋社長) 顧客から求められたときに人材を派遣する だけの会社は、いずれ生き残れなくなる。
で は、時代が求めている人材ビジネスとはどの ようなものなのか――。
高橋社長が行き着い た結論が、「単なるお手伝いの状態を乗り越 えて、一部の業務を全面的にお任せいただき、 お客様とシェイクハンドできる関係を構築す べきだ」というものだった。
すでに物流業界では、同様のコンセプトを 掲げる3PLが台頭していた。
ただし、たい ていの3PL事業者はコンサルティングやシ ステム提案などを強みとしている。
物流セン ターの現場リーダーを長らく務めた経験から、 「人材を切り口にする3PLがあってもいい」 と考えた高橋社長は、これを具体化すべく同 僚だった三浦弘人氏(現ウィズアップ専務) とともにウィズアップを設立した。
実は同社が事業計画を策定した約四年前の 時点で、すでに高橋社長は「五年後に年商一 〇〇億円」という目標を掲げていた。
急成長 する同業他社に醒めた視線を送る高橋社長が、 あえて高い売上目標を掲げた真意は、「この 程度の事業規模にならなければ大手メーカー は相手にしてくれない」という現実を冷徹に 見据えていたためだ。
年商を一〇〇億円に高めることで?社格〞 ともいうべきものを整える一方、ウィズアッ プが最も重視してきたのは?人財力〞の向上 だ。
「人材こそ財産」という意味で?人財〞 という表現にこだわる企業は珍しくないが、 人材ビジネスを営むウィズアップにとっては、 ウィズアップの高橋仁社長 47 JULY 2004 ここで差別化できなければ企業の存在価値が なくなるという不可欠の課題だった。
「物流の一番の面白さは、旗を振る現場リ ーダーの力量次第で結果がいくらでも変わる ことだと思う。
製造現場というのはある程度 の能力をもつ人間さえ供給すればそれなりに 流れる。
物流は違う。
当社がお客様にサービ スを提供していくうえでも、人材の質による 差別化が一番の売りになる。
だからこそ我々 は?人財力〞の向上を明確に会社の基本方針 に据えている」と高橋社長は強調する。
企業理念として掲げるだけでなく、同社は 創業以来この方針を地でいく活動を続けてき た。
一般的な3PL事業者は、特定の大手荷 主と包括的な契約を結ぶ傾向が強い。
これに 対して人材派遣からスタートしたウィズアッ プの案件は一件あたりの規模が小さく、しか も多種多様だ。
それぞれの現場で得られるノ ウハウを上手く自社化できれば、ビジネスを 拡大していくうえで有効な武器になる。
そう 考えた同社は、経営陣が先頭に立ってこうし た活動に注力してきた。
その際に土台になったのは、高橋社長と三 浦専務が過去に培ってきた個人的なノウハウ だった。
「私と三浦は究極の現場リーダー」 (高橋社長)と自賛するほど、両者は過去の 体験を通じて獲得した現場改善の方法論に自 信を持っている。
これを彼らなりにまとめた 資料が同社の営業ツールになっている。
実際、物流現場の現状を分析し、改善まで 実行するウィズアップの能力は、そんじょそこらの3PL事業者を凌駕するレベルにある ようだ。
同社をよく知る物流コンサルタント の河西健次カサイ経営社長は、彼らの分析の 緻密さを次のように評価する。
「情報システムや流通全体に対する目配り などではまだ課題もある。
しかし、こと物流 センターでの労務コストの改善提案に関して は、たいしたものだ。
物流ABCの考え方を ベースに、工数の検証や、スタッフの意識調 査、人件費の計画などを詳細に調べている。
これまでよほど丹念に現場を見て勉強してき たのだろう」 人材育成こそが競争力の源泉 ウィズアップが手掛けている物流ビジネス の多くは、まず現場に人材を派遣し、そこで 物流改善に取り組むことからスタートする。
最初は作業人材の供給に過ぎないが、実績を 積むことで業務領域を拡大していき、最終的 には物流センターを一棟丸ごと請け負うよう な3PL的な業務に移行することを目指して いる。
これを実現していけるかどうかは、「究 極の現場リーダー」をどれだけ数多く育成で きるかにかかっている。
この点を創業時から痛切に自覚してきた同 社は、人材育成や社内研修の仕組みづくりや 実施に腐心してきた。
その一環として二〇〇 三年には、高橋社長と三浦専務を含む正社員 四人が、忙しい合間をぬって日本ロジスティ クスシステム協会(JILS)の「物流技術 管理士」の資格を取得した。
開設を控えていた関西営業所での人脈を拡 げたいという思惑もあって、四人はわざわざ 東京から大阪会場に通った。
その後も積極的 に同講座に人を送り出しており、いま受講中 の人たちを含めると九人になる。
さらに今年 は五人が受講する予定だ。
正社員数七六人に 過ぎない同社の経営規模を考えると、この分 野にとくに力を入れていることが分かる 経営陣が社員に参加を強制するわけではな い。
スキルアップを希望する社員が自ら名乗 りを上げて、これを会社が後押しする。
正社 員でなくとも意欲を持った人材にはどんどん チャンスを与える。
同社には契約期間の決ま っている準社員が約二〇〇人いて、この人た ちも会社負担で社会保険に加入し、賞与も支 給している。
彼らも「究極の現場リーダー」 の予備軍であり、現実にすでに現場でリーダ ーをやっている契約社員も少なくない。
さらに現在のウィズアップには、人材登録 をしている労働者が六〇〇〇人余りいる。
多 くはフリーターだが、その中から意欲のある 人材を契約社員として登用し、現場リーダー に育て上げようとしている。
現場作業で能力 を証明した者だけが次のステップへと進み、 その中で適性と能力のある者にはより責任の 重い仕事を与えるというわけだ。
厚生労働省の調査によると、フリーターの 約二割は「自分にあった仕事が分からない」 JULY 2004 48 という理由から定職に就かずにいる。
この中 から物流現場のプロを志す人材を発掘する。
こうした人材育成術は、人材派遣を通じて多 くの労働者と接することのできるウィズアッ プならではの強みといえる。
現にこのような 活動を通じて、作業分析や提案書を作ったり、 コンサルティングまでこなせる「究極の現場 リーダー」が育っているという。
ウィズアップが新しい仕事をとるときには、 ある現場で実際に作業を経験していた人間が、 その延長線上で改善提案を作り、実行にまで あたるケースが少なくない。
だからこそ、例 えばある作業を改善すれば〇・五人分の工数 を改善し、また別の作業で一人分を削減でき るといった現場に即した提案書を書ける。
見方を変えれば、荷主にとっては明確にコ スト削減につながる提案でありながら、ウィ ズアップにとっては赤字になるリスクの小さ い見積もりができる。
ただでさえ口コミで仕 事の領域を拡大してきた同社は、物流コンペ などで価格競争に巻き込まれることが少ない。
これが設立一年目から同社が、利益を確保し 続けてきた大きな理由になっている。
ウィズアップで現場の構築や人材教育を統 括している三浦専務は、こう胸を張る。
「我々 は『見える管理』を徹底している。
ほとんど の現場に『QC・PMボード』を置き、これ を使って欠品率や誤出荷率などの指標を良い ところも悪いところもさらけ出している。
こ うやって現場リーダーから派遣作業者までの 全員が情報や目的を共有しながら改善活動を地道に進めていく。
こうし た姿勢が多くのお客様に認められて きたのだと思う」 人材派遣からセンター丸請けへ 現在のウィズアップは、もはや単な る人材派遣業者ではない。
人材に軸 足を置いて物流現場を運営するプロ として、すでに3PL事業者と呼ん でもおかしくないだけの活動を展開し ている。
このことは同社が今、積極 的に進めている顧客との契約形態の 見直しに象徴的にあらわれている。
一般的な人材派遣業では、作業者 を何人・何時間、現場に供給したか で顧客から代金を収受する。
これに対して最 近のウィズアップは、顧客の物量変動に応じ て同社の受給額も変わるように、契約形態を どんどんシフトしている。
商品の通過金額に 対するフィーや、センターフィーの何%をも らうという契約形態にすることで、物量変動 のリスクまで客先と共有する。
無理をして顧客に擦りよっているのでない ことは、リスクヘッジのために同社が行って いる事前の活動を見れば明らかだ。
物流AB Cを使って現場作業を徹底的に分析し、作業 手順を整理し、サイクルタイム(基準動作に 基づく作業時間)を割り出す。
入荷ロットや 数量の変化なども詳細に測定する。
こうした 調査の結果を分厚いバインダーができるほど 仔細に検証し、将来的に作業コストが変動す る可能性などを探る。
ウィズアップが荷主に契約形態の切り替え を提案するときには、こうした採算性の検証 が前提になっている。
だからこそ、見込みが 狂って赤字を垂れ流すといったケースはほと んどない。
同社の現場管理が?精神論〞と異なること は、次のエピソードからも伺える。
ある食品 卸の物流センターが赤字から脱却できずに悩 んでいた。
改善依頼を受けたウィズアップは、 徹底した現状分析を行い、それまでは五五人 で運営していたセンターを、二二人で運営で 多くの物流現場で運営を任されている →“見える管理”を徹底 するために現場にQC・ PMボードを置いている ←ボードを前にしたミー ティングで正社員から派 遣社員まで情報を共有し て改善に取り組む 49 JULY 2004 きるという提案書を書いた。
提案が採用され ると実際に現場に乗り込み、作業手順を変更 し、リードタイムを見直し、ロケーションも 一新。
荷主ばかりか出入りの運送会社まで巻 き込んで改善を重ね、三カ月後には実際に二 二人で運営できるようにしてしまった。
「努力しだいで?現場力〞は必ず高められ る。
それまでは一人一役だったところを一人 三役とか四役にすれば、一人当たりの人件費 は増えても全体の物流コストは減らせる。
ど この現場でもムダをなくす努力はしているが、 本当に徹底できているところはほとんどない。
これを徹底することこそが現場リーダーの役 割だ」(高橋社長) こうした活動を地道に続けてきたからこそ ウィズアップの取引先は増え続け、最近では 物流センターを一棟丸ごと任されるようにも なった。
昨年一〇月には、管理レベルの高い ことで有名な大手流通業者の共配センターの 運営も受託した。
もはや同社の人材ビジネス は、一般的な人材派遣業とはまったく異なる 領域に達しているのである。
今年四月に3PL会社を発足 ウィズアップが人材を供給している現場の 数は今、製造と物流でおおよそ一対九という 比率になっている。
ただし、製造現場は一カ 所あたりの規模が大きいため、売上高ベース では製造現場のそれが三割を占める。
それで も同社は、現場リーダーの良し悪しで結果を 変えることのできる物流に主力ターゲットを絞り込んでいる。
もちろん、ここでは生産ラ インへの部品供給などを含む広義の物流ビジ ネスが対象になる。
今年四月には、ウィズアップの傘下に新た な3PL会社「ロジスティクス・クラフトジ ャパン(LCJ)」を発足。
経営トップに大 手特積み企業の出身者を招いて、物流分野で 活動を強化する姿勢をさらに鮮明にした。
新会社について高橋社長は、「現状ではウ ィズアップと兼務している従業員も多く、よ うやく現場構築をはじめた段階に過ぎない。
ただ将来的には、コンサルティングや企画を 手掛けるLCJが営業の窓口となり、ここに ウィズアップから人材を供給して現場運営を 担うという役割分担を想定している」と説明 する。
配送面の強化など課題も多いが、この 点はアライアンスなどを通じて今後、体制を 整えていく方針だ。
3PLビジネスを本格展開するうえで、エ リアに関する戦略も明快だ。
特定の地域で複 数の現場を手掛ければ、近隣の現場同士で人 材を融通でき、労務コストを変動費化すると いう同社の強みに磨きがかかる。
「今後は『点』 ではなく『面』の商売をしていきたい。
すで に東扇島などでは実際にやっているが、狭い エリアで数多くの人材を抱えれば、人材の転 用が可能でさらなるコスト低減が可能になる」 (同)というわけだ。
日本でもようやく認知度の高まってきた3 PL事業だが、先行する事業者の多くが直面 している悩みは、現場の運営能力が追いつか ないことだ。
優れたセンター長を確保できな いことが、成長を阻むボトルネックになって いるケースも少なくない。
この状況に対して 人材派遣を基本とするウィズアップのアプロ ーチは、興味深い可能性を秘めている。
ウィズアップという社名について同社は、 対外的には顧客とともに成長していく企業と いう説明をしている。
だが本音は、同社に参 画する人材と会社が一緒に成長していくとい う点にある。
このことは従来型の人材派遣業 を反面教師として事業をスタートしたウィズ アップの原点でもある。
既存の人材派遣業者の中にも、似たような 志を掲げた会社はあったのだろう。
だが企業 が成長していくなかで初心を維持し続けるの は簡単ではない。
「最後は経営者が現場力に こだわり続けるしかない」と断言する高橋社 長は、この点を誰よりも自覚している。
ウィ ズアップは物流業界の台風の目になれるのか どうか。
注目に値する。
(岡山宏之) ウィズアップの三浦弘人専務

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