ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2004年7号
メディア批評
状況が変わっても法律の精神は不変 世論におもねり使命を忘れたメディア

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高信 経済評論家 55 JULY 2004 四月七日に小泉首相の靖国神社公式参拝は 憲法違反であるという判決を下した福岡地方 裁判所の亀川清長判事が、遺書をしたためて それを書いたことを私は知らなかった。
ある いは右翼に襲われるかもしれないと覚悟して そうしたわけだが、案の定、翌日から福岡地 裁のまわりを街宣車が取り巻き、大声で彼を 非難しているという。
私はこの事実を、亀川と司法修習所同期の 弁護士から聞いて知った。
残念ながら、メデ ィアはこれを報じなかったからである。
私はいま、ルポライターの鎌田慧や東京国 際大学教授の前田哲男らとともに、自衛隊の イラク派遣は違憲であるという訴訟を起こし ているが、五月二六日に東京地裁で行った意 見陳述はどのメディアにも載らなかった。
私は亀川判事の遺書を紹介した後、「不法が どんなに続こうともそれが正義とはならない という言葉が示すように、状況がそのように 変わったからと言って、法の目ざすものが変 わっていいはずがありません。
いや、むしろ、 状況が変わっているからこそ、法はその原理 を光らせなければならないでしょう」と主張 した。
そして、「イラクへの自衛隊派遣が憲法 違反であることは明らかですが、仮に百歩譲 って、それをごまかすためにつくられたイラ ク特措法に従っても、もはや、イラクに非戦 闘地域などないことは明々白々ではありませ んか」と続けたのである。
自衛隊出身の作家、浅田次郎は、日本ペン クラブの緊急集会で講演し、「自国の国民の生 命と、自国の国民の平和な生活を守る」とい う本義を踏み越えた軍隊というのは、いかな る理由があれ誤っていると断言し、「大量破壊 兵器はなかったかもしれない」という発言が アメリカの国防長官の口から発せられたのだ から、その時点で自衛隊を出すのは停止する のが常識だ、と訴えている。
私も、東京地裁で、さまざまな例を引きな がら、裁判官に訴えた。
〈イラクで人質になった日本人に、アメリカ からヒロシマ、ナガサキに原爆を落とされた 日本人がなぜアメリカに盲従しているのかと いう疑問が発せられたそうですが、再びあの ような犠牲を繰り返すまいという覚悟が九条 にはこめられているとも言えるでしょう。
アフガニスタンで医療活動を続ける中村哲 さんは、九条こそが日本の誇りなのに、なぜ、 それに違反してイラクに自衛隊を派遣するの か、と嘆いていました。
また、人材育成コンサルタントの辛 シン 淑ス 玉ゴ さ んは、私が対談相手となってまとめた『日本 国憲法の逆襲』(岩波書店)の中で、 「弱い男ほど暴力を使うでしょ。
戦争という のは口できちんと対応できない男たちのなれ の果てだと思うんですよ。
日本国憲法という のは軍事力を放棄しろということではなく、 巧みな外交によって国際社会に啓蒙をはかり、 口だけで国を守れといったわけ」 と喝破し、日本国憲法が求めた人間像とし て、ペルーの日本大使公邸人質事件の時の国 際赤十字のミニグ氏を挙げました。
「あのとき、ほんとうに人質の命を助けたの はミニグさんです。
権力の銃口とゲリラの銃 口の間をバギーバッグひとつひきずって何度 も往復して、人質を励まし、医者を連れて行 き、食糧を与え、しかも飄々と威張ることも なく、『赤十字』というゼッケン一枚をつけて、 あの紛争のなかに入って行った」 こう語った辛さんは、また、 「国際紛争のなかに、日本国憲法というゼッ ケンひとつつけて、日本は一度として入って 行ったことがあるのか」と怒っています。
この辛さんの言葉を私たちはしっかりと受 けとめなければならないでしょう。
もちろん、 司法の場にある裁判官に最も重く受けとめて もらいたいと私は思います〉 後は略すが、メディアはいま何を訴えるべ きなのか、熟考しつつ報道してほしい。
状況が変わっても法律の精神は不変 世論におもねり使命を忘れたメディア

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