2023年6月号
特集
特集
大手食品卸の低温物流マーケティング
家庭用の増加で卸が機能強化
低温物流とは、「冷蔵や冷凍などの低温の状態を保って(省略)保管や輸送するシステムまたは機構」(1)をいう。
これまで、家庭用を中心とする低温食品の物流は主に、冷蔵(チルド)食品(和日配・市乳・乳製品・チルド飲料など)を乳業販社や和日配メーカー等が(2)、冷凍(フローズン)食品(アイスクリームを含む)を冷凍食品メーカー系の物流会社が担ってきた(3)。
近年、低温食品に対する需要は高まっている。
スーパーマーケット3団体(全国スーパーマーケット協会・日本スーパーマーケット協会・オール日本スーパーマーケット協会)合同の統計調査結果として公表されている「スーパーマーケット販売統計調査」によると、食品を中心に取り扱うスーパーマーケット270社の「日配」(冷凍食品を含む)の年間売上高は、その推移が確認できる2017年以降、増加する傾向にある(4)。
「日配」は、夏季のアイスや冬季の鍋料理などの需要が気温の影響を受けるが、保存用・簡便調理用食品としての変わらぬ需要とともに、発酵食品や乳酸菌飲料など健康志向に応える商品もあり、さらに近年の家庭内消費需要の高まりが売上増加を後押ししている(5)。
特に、冷凍食品については、日本冷凍食品協会の調査によると、家庭用冷凍食品の国内生産数量が、最高値を更新し続けており、2021年には業務用を上回り、22年の生産量は80万トンを超えた(速報値)(6)。
これを受けて、小売業者とメーカーの間に位置する食料品卸売業者においても、低温事業を強化する動きがみられる。
旧・雪印乳業系列であった日本アクセス、ニチレイ系列の低温卸売企業などを吸収した三菱食品、丸紅系列の低温卸売企業などを子会社化した国分グループ本社などにおいて特に顕著である。
各社は、低温事業の拡大とともに、低温物流機能を強化している。
企業がそのパフォーマンスを高めるためには、需要を創造するマーケティング活動と、需要を充足する物流活動を一連のビジネスプロセスとして統合することが重要である。
本稿では、低温物流に焦点を当て、低温食品の物流が低温食品のマーケティングを促進する側面について、食料品卸売業者の事例を確認する。
上位3社への集中が加速 食料品卸売業において、低温食品のプレゼンスが高まっている。
主要7社の売上高全体に占める低温売上高の割合は、2012年の27%から21年には30%に上昇している(各社の決算期ベース、図表1)。
なお、22年に比率が大きく低下したのは新しい会計基準を適用した影響等であり、トレンドの変化ではない。
企業別にみると、低温売上高が大きい企業は、日本アクセス(2022年3月期に1・2兆円)、三菱食品(同0・5兆円)、国分グループ本社(2022年12月期に0・4兆円)であり、この3社は売り上げの増加傾向が著しい。
他方、低温の取り扱いが比較的小さい旭食品、加藤産業、三井食品の低温売上高は1千億円前後で推移している。
伊藤忠食品は200億円台である。
いずれも2010年代初頭に比べれば増加はしているものの上位3社と比べると増加幅は小さい。
その結果、主要7社の中での上位と下位の格差は年々拡大する傾向にある(図表2)。
足元の動向として注目しておきたいのは、「①低温物流機能の強化」「②オリジナル商品の開発」「③惣菜管理士の資格取得」の三つである。
以下にそれぞれ解説する。
「①低温物流機能の強化」はさらに「低温物流拠点の設置」「フローズン業界のパレチゼーション推進」「『フロチル加工』対応」の三つがトピックスとして挙げられる。
例えば、国分グループ本社は近年、常温・低温・冷凍の3温度帯対応の総合センターを全国各地に開設するなどして、低温物流網の整備を積極的に進めてきた。
同社の常温:低温の物流拠点数の割合は2010年にはおおよそ常温8割:低温2割であった。
それが23年3月現在は常温63%:低温37%に、低温の比率が上がってきている(7)。
次に、フローズン業界では、トラックの積込・取卸が手荷役で行われている状況に対して、日本アクセスはフローズンマザー物流センターの開設(関東に2022年1月開設、近畿に23年3月開設)と一貫パレチゼーションを推進している(8)。
今後、25年3月までの中期経営計画の期間中に4拠点を新設し、既設の関東・近畿を含む全国6拠点を中心に、フローズン業界のパレチゼーションを推進する計画である。
また、「フロチル加工」とは、フローズン帯で出荷した商品を流通過程で解凍してチルド帯で納品する流通加工である(9)。
温度帯の変更とそれに伴う期限表示ラベル貼付(表示変更)を行う。
食品卸がフロチル加工に対応することがメーカーや小売りの業務負荷軽減やフロチル商品の開発につながる。
食品卸としては、低温環境のなかで、ラベル貼付の作業を効率化することが課題となる。
例えば、三菱食品では2018年11月に開設した「横浜金沢低温DC」(横浜市金沢区)において、ラベル貼付の作業生産性と作業精度の向上を目的に自動貼付ロボットを導入している(10)。
食品卸による「②オリジナル商品の開発」も活発だ。
日本アクセスは50年余の歴史を持つチルド・フローズン商品「デルシー(Delcy)」(11)や2019年発売の冷凍ミールキット「ストックキッチン」(12)を販売している。
三菱食品も2019年に発売した冷凍ミールキット「ララ・キット」(13)や健康ブランド「食べるをかえる からだシフト」で冷凍食品を展開している(14)。
「③惣菜管理士の資格取得」は、主に惣菜分野の業務にかかわる人材育成を目的として、食品メーカー等と共に食料品卸売業者も推進している。
2022年7月現在の企業別資格取得者数は、日本アクセスが811人でメーカーを含む全企業中の2位、三菱食品が318人で同10位、国分グループ本社が257人同15位となっており、既に多くの資格取得者を有している(15)。
低温物流によるマーケティングの促進 次に、食料品卸売業者の低温物流が、低温商品の流通拡大や高付加価値商品の開発など低温食品のマーケティングそのものを促進している点について、チルド食品を例に確認する。
⑴ 低温物流による流通拡大 日本アクセスは、チルド食品専用の全国幹線物流網を構築することで流通の拡大を推進している。
例えば、北海道産の牛乳やヨーグルトを首都圏の小売店へ、関東の大豆飲料を関西の小売店へ販売するなど、賞味期限が短いチルド食品の流通を地域外に広げている(16)。
いわば「地産他消」を推進しているのである。
これを実現する全国幹線物流網は、北海道から九州までの主要拠点間をトラックを中心とした幹線輸送でつなぎ、リードタイム1日で毎日運行する仕組みになっており、小売店には最短2日で届けることができる(北海道から首都圏の小売店への納品の場合)(16) (17)。
これによって地域内流通を中心としたチルド食品が地域外において定番商品として取り扱われるようになり(18)、メーカーの販路の拡大と小売業の品揃えの拡大につながっている(17)。
この取り組みは同社のMD部門と物流部門の連携によって実現した(図表3)。
内田(2017)(17) によると、同社は①メーカー・小売業から販路の拡大や地域外商品の取り扱いに関するニーズを吸収し、②MD部門と物流部門によるタスクフォースを2015年4月に設置してから、MD部門が③メーカーと諸条件を確定させた上で、④物流部門とともにオペレーションを調整して物流網を構築した。
幹線輸送は⑤15年10月に関東─近畿間、16年10月には北海道─関東間で運行を開始。
その後、⑥対象商品や地域を広げていった。
この取り組みの物流の位置づけは「あくまでMD機能を使って新たな商流を生むための物流網構築」(当時のチルド食品MD部長)(17)であり、物流がマーケティングを促進する役割を果たしているといえる。
同社は近年、「チルドプラットフォーム構想」の実現に取り組んでいる。
「既存のマーケティングデータや営業ノウハウなどの情報を集約した商流軸と、全国のチルド拠点をつなぐチルド幹線便機能からなる物流軸を統合し、チルド事業を拡大していく構想」(12)である。
具体的には、チルド専用サイト「チルプラ」を活用した情報共有と、先の全国幹線物流網にメーカーに対する調達物流機能を付加することで、売上拡大を目指している(12)。
物流については、中小のチルドメーカーの物流負担を軽減させるために、伊藤忠商事がメーカーと組んで設置した低温倉庫の横にチルド専用センターを建設し、横持ちが発生しないようにする仕組みを検討している(19)。
⑵ 低温物流による高付加価値商品の開発 食料品卸売業者は、その低温物流機能を活かして、メーカーの商品開発も支援している。
日本アクセスは、その流通加工機能(フロチル対応)によって、これまでは流通させることができなかった低温食品の販売を可能にしている。
実例の一つとして、2021年にロッテがビスケットブランドの「チョコパイ」を初めてチルド商品化した「生チョコパイ」が挙げられる。
これが実現したのは日本アクセスのフロチル対応によるものである(20)。
三菱食品も、全国にわたってチルド物流網を整備しており、それを活用したオリジナル商品の開発を推進している。
例えば、無濾過のクラフトビール「J-CRAFT」(21)、濃縮還元ではないストレート果汁を使用した酎ハイ「きちんと果実」(22)、加熱処理を行わない日本酒「生冷 KIREI」(23)など、高付加価値のチルド酒類を開発している。
これらは、生産から販売まで一貫してチルド帯で管理する物流網が整備されていることによって、品質を維持することができるため、開発・販売を実現することができたのである。
物流とマーケティングを両輪に このように低温食品市場の拡大を受け、食料品卸売業者は低温物流機能の強化などを推進してきた。
その取り組みの中には、チルド食品物流が商品の流通拡大と高付加価値商品の開発というマーケティングを促進する事例も見られた。
食料品卸売業者のこれらの取組は、自らの低温事業の拡大だけではなく、メーカーの販路拡大や新商品開発、小売りの品揃えの拡大や差別化など、取引先の事業拡大にも寄与している。
これはメーカーや小売業者の事業拡大を支援する卸売業者ならではの取り組みと評価できる。
本稿は物流がマーケティングを促進する側面に焦点を当てた。
今後も食品卸が物流とマーケティングを事業の両輪としてその機能を発揮して成長していくことに期待している。
注 ⑴ 丹下博文「物流・ロジスティクスの社会性に関する研究─コールドチェーン(低温物流)に焦点を当てて─」『経営管理研究所紀要』愛知学院大学、第20号、pp.89─101、2013年。
⑵ 食品新聞社『食品新聞』2015年08月26日。
⑶ 石鍋 圭「低温物流市場の勢力図を読む」『月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI─BIZ)』ライノス・パブリケーションズ、2010年08月号、pp.20─21。
⑷ 全国スーパーマーケット協会・日本スーパーマーケット協会・オール日本スーパーマーケット協会「スーパーマーケット販売統計調査資料」(各年)全国スーパーマーケット協会ホームページ、URL:http://www.super.or.jp/?page_id=2646(2023年05月01日参照)。
⑸ 全国スーパーマーケット協会「スーパーマーケット白書」(各年)、URL:http://www.super.or.jp/?page_id=6709(2023年05月01日参照)。
⑹ 日本冷凍食品協会「令和4年(1~12月)冷凍食品の生産・消費について(速報)」ニュースリリース2023年04月21日、URL:https://www.reishokukyo.or.jp/statistic/pdf-data-3/(2023年05月01日参照)。
⑺ 国分グループ本社「物流機能」ホームページ、URL:https://www.kokubu.co.jp/wholesale/distribution/(2023年05月01日参照)。
⑻ 日本アクセス「冷凍物流の社会的課題解決へ『関東フローズンマザー物流センター』の試験運営がスタート」ニュースリリース2020年10年30日、URL:https://www.nippon-access.co.jp/files/topics/280_ext_01_0.pdf。
同「フローズンマザー物流センターの待機時間削減に向けた取り組み パレチゼーション推進による高効率化で「物流構造改革表彰」を受賞」ニュースリリース2022年12年16日、URL:https://www.nippon-access.co.jp/files/topics/573_ext_01_0.pdf。
同「冷凍物流の社会的課題解決へ『近畿フローズンマザー物流センター』稼働開始」ニュースリリース2023年04年05日、URL:https://www.nippon-access.co.jp/files/topics/615_ext_01_0.pdf。
(いずれも2023年05月01日参照)。
⑼ 日本アクセス「流通加工機能」ホームページ、URL:https://www.nippon-access.co.jp/solution/logistics/distributionprocess/(2023年05月01日参照)。
⑽ 三菱食品「通期株主通信2018年度」2019年09月24日、URL:https://ssl4.eir-parts.net/doc/7451/ir_material_for_fiscal_ym3/70621/00.pdf(2023年05月01日参照)。
⑾ 日本アクセス「商品開発」ホームページ、URL:https://www.nippon-access.co.jp/solution/merchandising/pb/(2023年05月01日参照)。
⑿ 日本アクセス「コーポレートレポート2022」2022年12月16日、URL:https://www.nippon-access.co.jp/files/user/assets/img/pdf/corporate_report_2022.pdf(2023年05月01日参照)。
⒀ 三菱食品「外食店のような料理をおうちで作る!冷凍おかずキットの「ララ・キット」3品を新発売」ニュースリリース2021年08月26日、URL:https://www.mitsubishi-shokuhin.com/news/news_file/file/210826newsHP1.pdf(2023年05月01日参照)。
⒁ 三菱食品「健康ブランド 「食べるをかえる からだシフト」〝糖質コントロール〟シリーズ【冷凍食品】2品を新発売」ニュースリリース2021年02月01日、URL:https://www.mitsubishi-shokuhin.com/news/news_file/file/210201ReleaseHPt.pdf(2023年05月01日参照)。
⒂ 日本惣菜協会「2022年「惣菜管理士」合格者は3441名」プレスリリース2022年07月11日、URL:https://www.nsouzai-kyoukai.or.jp/wp-content/uploads/2022/07/PR_RMM20220711.pdf(2023年05月01日参照)。
⒃ 日本経済新聞社『日経MJ(流通新聞)』2017年03月08日。
⒄ 内田 三知代「低温物流 日本アクセス:チルド品の全国幹線輸送網を整備 地産地消型日配品の広域流通支援」『月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI─BIZ)』ライノス・パブリケーションズ、2017年11月号、pp.50─53。
⒅ 日本経済新聞社『日本経済新聞 地方経済面 北海道』2018年07月18日。
⒆ 日本食糧新聞社『日本食糧新聞』2022年01月01日。
⒇ 佐々木 淳一「新たな価値を生み出すチャレンジをしていく」『総合食品』総合食品研究所、2022年1月号、pp.72─76。
(21) 日本経済新聞社『日経MJ(流通新聞)』2017年07月03日。
(22) 三菱食品「チルドが生きる果汁のお酒「きちんと果実」を発売」ニュースリリース2017年06年19日、URL:https://www.mitsubishi-shokuhin.com/news/news_file/file/170619_Release_HP.pdf(2023年05月01日参照)。
(23) 三菱食品「『生冷 KIREI』シリーズを新発売」ニュースリリース2018年03年14日、URL:https://www.mitsubishi-shokuhin.com/news/news_file/file/180314Release2_HP.pdf(2023年05月01日参照)
これまで、家庭用を中心とする低温食品の物流は主に、冷蔵(チルド)食品(和日配・市乳・乳製品・チルド飲料など)を乳業販社や和日配メーカー等が(2)、冷凍(フローズン)食品(アイスクリームを含む)を冷凍食品メーカー系の物流会社が担ってきた(3)。
近年、低温食品に対する需要は高まっている。
スーパーマーケット3団体(全国スーパーマーケット協会・日本スーパーマーケット協会・オール日本スーパーマーケット協会)合同の統計調査結果として公表されている「スーパーマーケット販売統計調査」によると、食品を中心に取り扱うスーパーマーケット270社の「日配」(冷凍食品を含む)の年間売上高は、その推移が確認できる2017年以降、増加する傾向にある(4)。
「日配」は、夏季のアイスや冬季の鍋料理などの需要が気温の影響を受けるが、保存用・簡便調理用食品としての変わらぬ需要とともに、発酵食品や乳酸菌飲料など健康志向に応える商品もあり、さらに近年の家庭内消費需要の高まりが売上増加を後押ししている(5)。
特に、冷凍食品については、日本冷凍食品協会の調査によると、家庭用冷凍食品の国内生産数量が、最高値を更新し続けており、2021年には業務用を上回り、22年の生産量は80万トンを超えた(速報値)(6)。
これを受けて、小売業者とメーカーの間に位置する食料品卸売業者においても、低温事業を強化する動きがみられる。
旧・雪印乳業系列であった日本アクセス、ニチレイ系列の低温卸売企業などを吸収した三菱食品、丸紅系列の低温卸売企業などを子会社化した国分グループ本社などにおいて特に顕著である。
各社は、低温事業の拡大とともに、低温物流機能を強化している。
企業がそのパフォーマンスを高めるためには、需要を創造するマーケティング活動と、需要を充足する物流活動を一連のビジネスプロセスとして統合することが重要である。
本稿では、低温物流に焦点を当て、低温食品の物流が低温食品のマーケティングを促進する側面について、食料品卸売業者の事例を確認する。
上位3社への集中が加速 食料品卸売業において、低温食品のプレゼンスが高まっている。
主要7社の売上高全体に占める低温売上高の割合は、2012年の27%から21年には30%に上昇している(各社の決算期ベース、図表1)。
なお、22年に比率が大きく低下したのは新しい会計基準を適用した影響等であり、トレンドの変化ではない。
企業別にみると、低温売上高が大きい企業は、日本アクセス(2022年3月期に1・2兆円)、三菱食品(同0・5兆円)、国分グループ本社(2022年12月期に0・4兆円)であり、この3社は売り上げの増加傾向が著しい。
他方、低温の取り扱いが比較的小さい旭食品、加藤産業、三井食品の低温売上高は1千億円前後で推移している。
伊藤忠食品は200億円台である。
いずれも2010年代初頭に比べれば増加はしているものの上位3社と比べると増加幅は小さい。
その結果、主要7社の中での上位と下位の格差は年々拡大する傾向にある(図表2)。
足元の動向として注目しておきたいのは、「①低温物流機能の強化」「②オリジナル商品の開発」「③惣菜管理士の資格取得」の三つである。
以下にそれぞれ解説する。
「①低温物流機能の強化」はさらに「低温物流拠点の設置」「フローズン業界のパレチゼーション推進」「『フロチル加工』対応」の三つがトピックスとして挙げられる。
例えば、国分グループ本社は近年、常温・低温・冷凍の3温度帯対応の総合センターを全国各地に開設するなどして、低温物流網の整備を積極的に進めてきた。
同社の常温:低温の物流拠点数の割合は2010年にはおおよそ常温8割:低温2割であった。
それが23年3月現在は常温63%:低温37%に、低温の比率が上がってきている(7)。
次に、フローズン業界では、トラックの積込・取卸が手荷役で行われている状況に対して、日本アクセスはフローズンマザー物流センターの開設(関東に2022年1月開設、近畿に23年3月開設)と一貫パレチゼーションを推進している(8)。
今後、25年3月までの中期経営計画の期間中に4拠点を新設し、既設の関東・近畿を含む全国6拠点を中心に、フローズン業界のパレチゼーションを推進する計画である。
また、「フロチル加工」とは、フローズン帯で出荷した商品を流通過程で解凍してチルド帯で納品する流通加工である(9)。
温度帯の変更とそれに伴う期限表示ラベル貼付(表示変更)を行う。
食品卸がフロチル加工に対応することがメーカーや小売りの業務負荷軽減やフロチル商品の開発につながる。
食品卸としては、低温環境のなかで、ラベル貼付の作業を効率化することが課題となる。
例えば、三菱食品では2018年11月に開設した「横浜金沢低温DC」(横浜市金沢区)において、ラベル貼付の作業生産性と作業精度の向上を目的に自動貼付ロボットを導入している(10)。
食品卸による「②オリジナル商品の開発」も活発だ。
日本アクセスは50年余の歴史を持つチルド・フローズン商品「デルシー(Delcy)」(11)や2019年発売の冷凍ミールキット「ストックキッチン」(12)を販売している。
三菱食品も2019年に発売した冷凍ミールキット「ララ・キット」(13)や健康ブランド「食べるをかえる からだシフト」で冷凍食品を展開している(14)。
「③惣菜管理士の資格取得」は、主に惣菜分野の業務にかかわる人材育成を目的として、食品メーカー等と共に食料品卸売業者も推進している。
2022年7月現在の企業別資格取得者数は、日本アクセスが811人でメーカーを含む全企業中の2位、三菱食品が318人で同10位、国分グループ本社が257人同15位となっており、既に多くの資格取得者を有している(15)。
低温物流によるマーケティングの促進 次に、食料品卸売業者の低温物流が、低温商品の流通拡大や高付加価値商品の開発など低温食品のマーケティングそのものを促進している点について、チルド食品を例に確認する。
⑴ 低温物流による流通拡大 日本アクセスは、チルド食品専用の全国幹線物流網を構築することで流通の拡大を推進している。
例えば、北海道産の牛乳やヨーグルトを首都圏の小売店へ、関東の大豆飲料を関西の小売店へ販売するなど、賞味期限が短いチルド食品の流通を地域外に広げている(16)。
いわば「地産他消」を推進しているのである。
これを実現する全国幹線物流網は、北海道から九州までの主要拠点間をトラックを中心とした幹線輸送でつなぎ、リードタイム1日で毎日運行する仕組みになっており、小売店には最短2日で届けることができる(北海道から首都圏の小売店への納品の場合)(16) (17)。
これによって地域内流通を中心としたチルド食品が地域外において定番商品として取り扱われるようになり(18)、メーカーの販路の拡大と小売業の品揃えの拡大につながっている(17)。
この取り組みは同社のMD部門と物流部門の連携によって実現した(図表3)。
内田(2017)(17) によると、同社は①メーカー・小売業から販路の拡大や地域外商品の取り扱いに関するニーズを吸収し、②MD部門と物流部門によるタスクフォースを2015年4月に設置してから、MD部門が③メーカーと諸条件を確定させた上で、④物流部門とともにオペレーションを調整して物流網を構築した。
幹線輸送は⑤15年10月に関東─近畿間、16年10月には北海道─関東間で運行を開始。
その後、⑥対象商品や地域を広げていった。
この取り組みの物流の位置づけは「あくまでMD機能を使って新たな商流を生むための物流網構築」(当時のチルド食品MD部長)(17)であり、物流がマーケティングを促進する役割を果たしているといえる。
同社は近年、「チルドプラットフォーム構想」の実現に取り組んでいる。
「既存のマーケティングデータや営業ノウハウなどの情報を集約した商流軸と、全国のチルド拠点をつなぐチルド幹線便機能からなる物流軸を統合し、チルド事業を拡大していく構想」(12)である。
具体的には、チルド専用サイト「チルプラ」を活用した情報共有と、先の全国幹線物流網にメーカーに対する調達物流機能を付加することで、売上拡大を目指している(12)。
物流については、中小のチルドメーカーの物流負担を軽減させるために、伊藤忠商事がメーカーと組んで設置した低温倉庫の横にチルド専用センターを建設し、横持ちが発生しないようにする仕組みを検討している(19)。
⑵ 低温物流による高付加価値商品の開発 食料品卸売業者は、その低温物流機能を活かして、メーカーの商品開発も支援している。
日本アクセスは、その流通加工機能(フロチル対応)によって、これまでは流通させることができなかった低温食品の販売を可能にしている。
実例の一つとして、2021年にロッテがビスケットブランドの「チョコパイ」を初めてチルド商品化した「生チョコパイ」が挙げられる。
これが実現したのは日本アクセスのフロチル対応によるものである(20)。
三菱食品も、全国にわたってチルド物流網を整備しており、それを活用したオリジナル商品の開発を推進している。
例えば、無濾過のクラフトビール「J-CRAFT」(21)、濃縮還元ではないストレート果汁を使用した酎ハイ「きちんと果実」(22)、加熱処理を行わない日本酒「生冷 KIREI」(23)など、高付加価値のチルド酒類を開発している。
これらは、生産から販売まで一貫してチルド帯で管理する物流網が整備されていることによって、品質を維持することができるため、開発・販売を実現することができたのである。
物流とマーケティングを両輪に このように低温食品市場の拡大を受け、食料品卸売業者は低温物流機能の強化などを推進してきた。
その取り組みの中には、チルド食品物流が商品の流通拡大と高付加価値商品の開発というマーケティングを促進する事例も見られた。
食料品卸売業者のこれらの取組は、自らの低温事業の拡大だけではなく、メーカーの販路拡大や新商品開発、小売りの品揃えの拡大や差別化など、取引先の事業拡大にも寄与している。
これはメーカーや小売業者の事業拡大を支援する卸売業者ならではの取り組みと評価できる。
本稿は物流がマーケティングを促進する側面に焦点を当てた。
今後も食品卸が物流とマーケティングを事業の両輪としてその機能を発揮して成長していくことに期待している。
注 ⑴ 丹下博文「物流・ロジスティクスの社会性に関する研究─コールドチェーン(低温物流)に焦点を当てて─」『経営管理研究所紀要』愛知学院大学、第20号、pp.89─101、2013年。
⑵ 食品新聞社『食品新聞』2015年08月26日。
⑶ 石鍋 圭「低温物流市場の勢力図を読む」『月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI─BIZ)』ライノス・パブリケーションズ、2010年08月号、pp.20─21。
⑷ 全国スーパーマーケット協会・日本スーパーマーケット協会・オール日本スーパーマーケット協会「スーパーマーケット販売統計調査資料」(各年)全国スーパーマーケット協会ホームページ、URL:http://www.super.or.jp/?page_id=2646(2023年05月01日参照)。
⑸ 全国スーパーマーケット協会「スーパーマーケット白書」(各年)、URL:http://www.super.or.jp/?page_id=6709(2023年05月01日参照)。
⑹ 日本冷凍食品協会「令和4年(1~12月)冷凍食品の生産・消費について(速報)」ニュースリリース2023年04月21日、URL:https://www.reishokukyo.or.jp/statistic/pdf-data-3/(2023年05月01日参照)。
⑺ 国分グループ本社「物流機能」ホームページ、URL:https://www.kokubu.co.jp/wholesale/distribution/(2023年05月01日参照)。
⑻ 日本アクセス「冷凍物流の社会的課題解決へ『関東フローズンマザー物流センター』の試験運営がスタート」ニュースリリース2020年10年30日、URL:https://www.nippon-access.co.jp/files/topics/280_ext_01_0.pdf。
同「フローズンマザー物流センターの待機時間削減に向けた取り組み パレチゼーション推進による高効率化で「物流構造改革表彰」を受賞」ニュースリリース2022年12年16日、URL:https://www.nippon-access.co.jp/files/topics/573_ext_01_0.pdf。
同「冷凍物流の社会的課題解決へ『近畿フローズンマザー物流センター』稼働開始」ニュースリリース2023年04年05日、URL:https://www.nippon-access.co.jp/files/topics/615_ext_01_0.pdf。
(いずれも2023年05月01日参照)。
⑼ 日本アクセス「流通加工機能」ホームページ、URL:https://www.nippon-access.co.jp/solution/logistics/distributionprocess/(2023年05月01日参照)。
⑽ 三菱食品「通期株主通信2018年度」2019年09月24日、URL:https://ssl4.eir-parts.net/doc/7451/ir_material_for_fiscal_ym3/70621/00.pdf(2023年05月01日参照)。
⑾ 日本アクセス「商品開発」ホームページ、URL:https://www.nippon-access.co.jp/solution/merchandising/pb/(2023年05月01日参照)。
⑿ 日本アクセス「コーポレートレポート2022」2022年12月16日、URL:https://www.nippon-access.co.jp/files/user/assets/img/pdf/corporate_report_2022.pdf(2023年05月01日参照)。
⒀ 三菱食品「外食店のような料理をおうちで作る!冷凍おかずキットの「ララ・キット」3品を新発売」ニュースリリース2021年08月26日、URL:https://www.mitsubishi-shokuhin.com/news/news_file/file/210826newsHP1.pdf(2023年05月01日参照)。
⒁ 三菱食品「健康ブランド 「食べるをかえる からだシフト」〝糖質コントロール〟シリーズ【冷凍食品】2品を新発売」ニュースリリース2021年02月01日、URL:https://www.mitsubishi-shokuhin.com/news/news_file/file/210201ReleaseHPt.pdf(2023年05月01日参照)。
⒂ 日本惣菜協会「2022年「惣菜管理士」合格者は3441名」プレスリリース2022年07月11日、URL:https://www.nsouzai-kyoukai.or.jp/wp-content/uploads/2022/07/PR_RMM20220711.pdf(2023年05月01日参照)。
⒃ 日本経済新聞社『日経MJ(流通新聞)』2017年03月08日。
⒄ 内田 三知代「低温物流 日本アクセス:チルド品の全国幹線輸送網を整備 地産地消型日配品の広域流通支援」『月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI─BIZ)』ライノス・パブリケーションズ、2017年11月号、pp.50─53。
⒅ 日本経済新聞社『日本経済新聞 地方経済面 北海道』2018年07月18日。
⒆ 日本食糧新聞社『日本食糧新聞』2022年01月01日。
⒇ 佐々木 淳一「新たな価値を生み出すチャレンジをしていく」『総合食品』総合食品研究所、2022年1月号、pp.72─76。
(21) 日本経済新聞社『日経MJ(流通新聞)』2017年07月03日。
(22) 三菱食品「チルドが生きる果汁のお酒「きちんと果実」を発売」ニュースリリース2017年06年19日、URL:https://www.mitsubishi-shokuhin.com/news/news_file/file/170619_Release_HP.pdf(2023年05月01日参照)。
(23) 三菱食品「『生冷 KIREI』シリーズを新発売」ニュースリリース2018年03年14日、URL:https://www.mitsubishi-shokuhin.com/news/news_file/file/180314Release2_HP.pdf(2023年05月01日参照)
