2023年6月号
特集

小野薬品工業 室温品の納品をGDP準拠の共同物流に転換

SDコラボがメーカーに共同化を提案  小野薬品工業、田辺三菱製薬、塩野義製薬の3社は2023年1月、厚生労働省の「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」に準拠した国内初の共同輸送を開始した。
医薬品卸のスズケンの子会社で医薬品物流を専門とするエス・ディ・コラボ(SDコラボ)が運営する。
 共同輸送トラックが製薬3社を巡回してSDコラボの低温物流センター「メディカルターミナル」まで医薬品を運び、納品先別に積み替えて医薬品卸に一括納品する。
全てのプロセスを、4社で共同策定したGDP管理基準に基づいて管理している。
 日本ではまだ数少ないGDP対応の低温車両を利用している。
一般の低温車両と異なり、外気温の影響で室温が基準を逸脱しないよう、温度調整する設備を備えている。
小野薬品工業のCMC・生産本部生産戦略部生産管理課の辰巳雅彦氏は、「共同輸送せずに各社が単独でトラックを利用した場合に比べて、車両利用コストを3分の1に抑えられている」と語る。
 医薬品に求められる温度管理は、安定性試験の結果に基づいて製品ごとに決定される。
小野薬品工業の製品には、保冷品と室温品がある。
保冷品は2〜8度の低温管理が必要な品で、注射剤やバイオ医薬品(遺伝子組み換え技術や細胞培養技術などバイオテクノロジーで作られた医薬品)には該当する品が多い。
室温品は1〜30度の範囲で保管が求められる。
 同社は物流パートナーのSDコラボと従来からリスクに応じた温度管理をして医薬品輸送を行ってきた。
室温品については、輸送時間を数時間程度に抑え、気温が上がりにくい夜間に輸送したり、出荷から輸送先での入庫まで土日をまたがないように輸送スケジュールを組んだりして、温度上昇リスクを抑えていた。
今回はSDコラボからの提案を受けて室温品のほぼ全てを共同輸送に切り替えた。
 小野薬品工業は14年に同社初のバイオ医薬品、抗体医薬品「オプジーボ」を発売した。
これをきっかけに低温物流の整備を本格化した。
14年は医薬品輸送品質の国際ガイドライン「PIC/S GDP」が発行された年でもあった。
時期が重なったこともあり、PIC/S GDPに適合する社内の品質管理規程の策定に着手した。
 それまで、医薬品メーカーが求められる品質管理基準は、製造工程を対象としたGMPのみだった。
それに対しPIC/S GDPは、製造したままの品質で医薬品を患者に届けるよう、医薬品メーカーが輸送過程まで責任を負うことを求めた。
 そこで同社は、物流パートナーに任せていた輸送過程での品質管理に積極的に関与していくことを決めた。
医薬品物流は波動が大きくスポット車両を使用するため、メーカーが輸送過程の品質管理に関与することは事実上困難と考えられていた。
 まずは何が医薬品の品質にとってリスクとなっているのかを調べた。
「特に物流センターでの積み替え時に、温度管理に隙が生じやすくなることが分かった」と信頼性保証本部品質保証部医薬品品質保証課の伊藤亮氏は語る。
当時はトラックヤードから冷蔵庫などの保管エリアまで距離のある倉庫もあった。
そこで専用の保冷ボックスを導入した。
 保冷ボックスは、蓄冷材と断熱材で内部温度を維持するもので、内容物に応じて“所定の温度環境において、指定の温度帯で何時間まで保冷を担保できるか”というデータに基づいた設計が求められる。
 「当時は日本国内でもまだ少なく、見つけるのに苦労した」と伊藤氏は振り返る。
保冷品専用ボックスの内外に温度計を設置して、輸送過程の温度をモニタリングする仕組みを整え、輸送テストを行った。
テスト中に問題が見つかった場合は、分析を深掘りして対策を講じた。
この保冷ボックスを現在は数百個所有し、回収しながら利用している。
 15年にはPIC/S GDPに適合した社内品質管理規定を策定した。
日本の厚生労働省はPIC/S GDPを踏まえて18年にGDPガイドラインを発出したが、「内容はPIC/S GDPとほぼ同じだったため、当社は品質管理規定を改定する必要はなかった」(伊藤氏)という。
 現在、同社では品質保証部内の担当者2人とマネジメント層2人の計4人が中心となって、医薬品物流の品質管理を担っている。
新規の担当者は社内で教育訓練を受けた後、OJTでノウハウを身につける。
セミナーや医薬品メーカーの会合での事例紹介などを通じて、製薬業界内でも情報を共有している。
毎年夏季には輸送テストを実施して改善を重ねている。
韓国・台湾でも保冷輸送  同社は現在、グローバル開発・自社販売体制の構築を進めている。
韓国では15年、台湾では16年から、100%出資の現地法人を通じて、オプジーボの自社販売を始めた。
20年代には韓国でさらに2種類、台湾では1種類、抗がん剤の自社販売も開始した。
 韓国や台湾への輸出時にはパッシブコンテナ(蓄冷剤を同梱して保冷するコンテナ)を用い、盗難対策として十分な梱包を施している。
温度ロガーも取り付けている。
両国内では、現地の物流パートナーが保冷ボックスを用いて輸送している。
 また、米国子会社には21年現在、約60人が在籍している。
26年までに120人体制に増強する予定だ。
開発体制を拡充するとともに、自社販売の実現に向けて体制・基盤強化の取り組みを進めている。
 米国では13年、「医薬品サプライチェーン安全保障法(DSCSA)」が成立した。
偽造医薬品対策として制定されたもので、医薬品製造業者から消費者に至るまで、所有権が移転するごとに、製品名や商品コードやロット番号といった取引情報、製造業者から現在までの各取引情報の記録、取引明細などのデータを次の所有者に提供することが義務づけられた。
 同法は23年11月に完全施行される予定となっている。
これに合わせてFDA(米国食品医薬品局)は、メーカーから物流事業者、卸売業者、医療機関や薬局に至るまで、サプライチェーンの各段階で製品の追跡を可能とするトレーサビリティシステムを構築する計画を打ち出している。
 小野薬品工業では、米国で医薬品を販売できるようになったときに備えて、DSCSAに対応するため、医薬品の流通における追跡(Track and Trace)の仕組みを構築していく方針だ。
 医薬品業界全体で、バイオ医薬品の比重は高まる一方にある。
ヘルスケア業界を対象にデータ分析などを手掛ける米国IQVIA Instituteのデータによると、21年の世界における医薬品売上高上位100品目のうち、バイオ医薬品は品目数で47%、売上高で54%を占めており、いずれも前年より増加している。
CMC・生産本部生産戦略部の山下昇部長・博士(工学)は、「保冷輸送の需要は今後も増加していくだろう」とにらんでいる。

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから