ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年7号
特集
パッケージングで勝つ 強い企業がこだわる包装戦略

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2004 28 ロジ主導で商品サイズを変えた花王 ユニットロードが根付かない日本にあって花王は例 外的な存在だ。
同社では約二〇年前からこうした取り 組みを熱心に進めてきた。
商品の容器デザインから、 段ボール箱の仕様の決定までを社内の包装技術研究 所が担当している。
新商品の包装を開発するにあたっ て、商品をパレットに積みつけたときにぴたりと収ま ることも同社にとっては当たり前の制約条件だ。
かつて包装技術研究所の責任者を務め、近年は一 〇年以上にわたって花王のロジスティクス部門を統括 してきた松本忠雄執行役員はこう昔を振り返る。
「当 社の包装担当者は、包装材料のコストはもとより、物 流コストまで含めた合理化を必死でやっている」。
社 内のどこを切ってもコストへのこだわりが出てくるあ たりは、いかにも花王らしい。
もっとも工業デザインにはさまざまな制約がある。
花王が商品デザインを軽視しているわけではない。
同 社が新商品を開発するときには、まずデザイナーがマ ーケティング戦略に基づいたデザインを作り、それを 基に技術的な制約や、物流上の制約について検討を 進めるという手順になっている。
当然、この段階でパレットに隙間なく積みつけるこ とへも目配りする。
だが従来のそれはパレット上での 縦・横の制約には厳しくても、高さについてはデザイ ン部門の主張が優先されていた面があった。
ロジステ ィクス部門は二〇〇〇年頃にここに着目した。
それ以前の花王では、シャンプーやリンスの詰め替 え容器は、パレットに三段積みするのが普通だった。
だが容器の高さを数センチ低くするだけで、パレット への四段積みが可能になる。
そのコスト削減効果を訴 えて包装改善への流れを作ったのである。
物流ABCから入った包装の見直し 特筆すべきは、このときにロジスティクス部門がと ったアプローチだ。
まずコスト削減を進める前提とし て、商品一個当たりの物流コストを正確に把握するこ とから着手した。
花王は物流子会社と車建ての運賃 契約を交わしている。
この一台当たりの運賃を、実際 に車両に積んだ商品ごとに割り振るロジックを物流A BCをベースに体系化して、商品一個当たりの物流コ ストを算出できる体制を整えた。
一個当たりの物流コストを算出できるようにしたこ とで、商品のサイズを変更した場合に、どれだけのコ スト削減につながるかのシミュレーションが可能にな った。
商品容器のサイズに手を加えることで、積載効 率がどう変化し、変更しないときに比べて物流コスト がどう変わるかを試算できる。
もっとも計算上でコスト削減が可能だと分かっても、 ロジスティクス部門に商品のサイズを変える権限はな い。
最終的に判断を下すのは、商品の販売に責任を 持つ事業部門だ。
事業部門にしてみれば、その方が売 れると思ったからこそ容器の背の高さも決めているわ けで、おいそれとはサイズ変更には応じない。
それでも事業部門の最終的な目標が利益であること は言うまでもない。
コストの削減額がはっきりと提示 されれば、あとは商品の高さを変更することによる販 売減のリスクなどを検討するしかない。
サイズ変更に よる売れ行きの変動はロジスティクス部門には予想し ようがないため、事業部門が顧客の反応などを材料に 判断するのである。
当時の花王のシャンプーの主力ブランドだった「メ リット」では、従来は高さ二四四ミリだった詰め替え 容器を、二二二ミリに変えた。
これによって輸送コス 強い企業がこだわる包装戦略 包装を武器に差別化に成功している企業は日本にもあ る。
製造業者か流通業者かは関係ない。
サプライチェー ン全体を貫く合理性と、最終消費者の視点を忘れない企 業だけが、ライバルには成し得ない改善の果実を手にする ことができる。
(岡山宏之) 第2部荷主編 特集2 パッケージングで勝つ 29 JULY 2004 トや保管コストばかりか、容器や段ボールの包材コス トまで低減できた。
「この当時の『メリット』は物量 が多かったため年間二億円はコストが下がった」(松 本執行役員)。
花王のロジスティクス部門にとって、包 装改善は当然の業務なのである。
包装の改善に挑み続けるキリン キリンビールも包装の改善には力を入れている。
同 社生産本部内の技術開発部に所属する「パッケージ ング研究所」では、ビン、缶、段ボール、パレットな どの研究や設計を幅広く担当している。
これまでにア ルミ缶を二六%軽くしたり、従来より大幅に軽量化し たビンを開発した実績を持つ。
軽量ビンについてパッケージング研究所の増岡進部 長代理は、「ビンの表面にコーティングを施すことで、 従来のビンに比べて二一%軽くした。
その結果、物流 に要するエネルギーは減ったはずだし、トラックの積 載効率も高まったはずだ。
この技術は今のところキリ ンしか持っていないため簡単には真似できない」と胸 を張る。
欧米に比べて包装が軽視されてきた日本では、包装 の専門部署を持たない企業が多い。
包材メーカーに委 託すれば、それなりのことをやってくれるためだ。
包 装の専門部署を持っているキリンさえ、その機能はか なり研究開発に偏っている。
包装の改善によるコスト 削減にはさほど熱心ではない。
実際、包装を改善した ことによるコスト削減額の試算もほとんどしていない という。
九四年から軽量ビンを本格展開したときにも、強度 さえ同等以上を確保できるのであれば、軽くした方が コストも下がるはずといった程度の認識からスタート している。
それよりも顧客の方を向いて仕事をしていることを 増岡部長代理は強調する。
キリンが今年五月に「氷 結」で投入した新たな段ボールカートン、「コーナー カット・カートン」についても、企画の段階から実用 化に至るまで顧客の利便性を第一に考えた。
コスト については従来より悪化しなければいいという判断で ある。
「コーナーカット・カートン」は、従来の段ボール カートンから四つ角を取ったデザインになっている。
角の部分をとったことで、使い勝手の向上や、面が 増えたことによる意匠性の向上、また紙の使用量を 二%程度減らしたことによる省資源化などをアピー ルしている。
同カートンの発案者であるパッケージング研究所の 平石和弘氏は、着想したときの模様をこう述懐する。
「あるとき段ボール箱の振動条件の検証のために、ト ラックに同乗していた。
現地での荷下ろし作業なども 手伝っていたのだが、ふと気が付くと腕が痛い。
段ボール箱を両手で持つときに箱の角が擦れていたためだ。
これを何とか持ちやすくしたいと思った」 ほどなく段ボールの角を削ることを思いつき、手で 持ちやすく、なおかつデザイン的にも優れた段ボール 箱の開発を具体化した。
ようやく試作品ができると、 九州エリアでテスト販売を実施。
関係者へのアンケー ト調査で好感触を得ることができた。
そこで今年五月 の「氷結」のリニューアルにタイミングを合わせて新 カートンの本格投入に踏み切った。
まだ数カ月しか経 っていないが、反応は悪くないという。
新カートンが市場に受け入れられるかどうかは、も う少し様子を見る必要がある。
しかし一シーズンを通 して良い反応が続き、ビールなど他商品に全面展開す ることになれば、このわずかな包装改善が大きなコス キリンビールの技術開発部 パッケージング研究所の 増岡進部長代理 手前が従来の段ボールの角をとったキリンの「コ ーナーカット・カートン」。
柱が増えた分、箱の強 度が高まっている 花王のロジスティクス部門 統括松本忠雄執行役員 JULY 2004 30 トインパクトをもたらす可能性が出てくる。
「角をとって柱を増やしたことで箱の強度が増して いる。
いまはまだ慎重に強度テストを繰り返している 段階だが、ゆくゆくは紙質を軽くできるかもしれない。
紙というのは面積あたりの重量で値段が決まる。
軽く なればコスト削減につながるはず」と平石氏はみる。
キリン全体で利用している量が膨大なだけに顕著なコ スト削減を期待できる。
卸の要望で荷姿を変えたサッポロ 輸送中の商品を保護するための包装は、顧客のとこ ろに到着した段階でほとんどが不要になる。
その際に 発生するゴミに対する苦情は珍しくない。
とくに環境 意識が高まってきた最近では、物流で利用する段ボー ルへの視線は厳しさを増している。
サッポロビールが 中元・歳暮期のギフト商品の荷姿を見直したのも、発 端は取引卸売業者からの要請だった。
従来はギフト用の詰め合わせセットを何個かまとめ て段ボール箱(マスターカートン)に入れていた。
こ の箱をパレットに積み付け、荷崩れ防止のためにスト レッチフィルムで巻いて顧客に発送してきた。
ところ があるとき納品先の大手卸売業者から、輸送のためだ けの包材を減らして欲しいという要請がきた。
コスト 削減と環境対応がその理由だった。
膨大な物量をさばく卸売業者にとって、入荷時に 使われている包材の多くは邪魔なだけの代物だ。
なか でも荷崩れ防止のために使っているストレッチフイル ムは、産業廃棄物として有料で処理しなければならな い。
輸送時に商品を保護する手だてが他にあればそれ に超したことはない。
要請を受けたサッポロにとっては、顧客ニーズに応 えて差別化を図るチャンスでもあった。
今後、同様の 要請が増えるのは火を見るより明らかだ。
いずれ避け られないのであれば他社に先行するメリットがある。
早速、同社はパレット輸送の荷崩れ防止機器メーカー として実績のあるエコシステムなどを巻き込んだプロ ジェクトを立ち上げた。
エコシステムが製造販売する「エコバンド」という 商品は、いわば繰り返し利用できるストレッチフイル ムのようなものだ。
パレットに積みつけた商品にポリ エステル製の太いバンドを巻き付け、マジックテープ で止めて荷物を固定する。
すでに日米欧で特許登録 済みで、キヤノンや四つ葉乳業、味の素物流などへの 納入実績があるという。
最初、サッポロはストレッチフイルムをこの「エコ バンド」に置き換えることで一気に課題を解決しよう とした。
しかし、そう簡単ではなかった。
それだけで は荷物が安定しない。
フォークリフトで作業する際の 荷崩れ防止にも限界があった。
そこで新たに四隅を固 定する特別な部材と「エコバンド」を組み合わせると いう工夫を施して、ようやく十分な機能を確保するこ とに成功した。
実験的に導入してみたところ、この新しい包装に対 する卸売業者の反応は上々だった。
そこで今年六月か ら新たな包装へと切り替えた。
いま同社は、今回の包 装の工夫について、エコシステムなどと共同で実用新 案を申請中だ。
省資源包装で差別化するアスクル オフィス通販大手のアスクルも、四年前に顧客の声 に応えて商品配送時の包装形態を見直した。
かつて 同社は、商品をユーザーに配送するときは必ず段ボー ル箱を使用していた。
これを二〇〇〇年から、とくに 段ボールを希望する顧客以外へは、再生紙やポリエチ サッポロは取引先卸売業者の要請 に応えて新たな包装を開発した ?外周に巻かれているエコバン ド2枚(45cm・65cm)をマ ジックテープから剥がす ?四隅にある長いアングル(短 いアングルと下の方で固定 されている)を外す。
?製品をパレットから降ろし終わ る時点で4隅にあるショートア ングルを外す ?長側面に入っている長方形の パネルを抜き出す。
●エコバンドの取り外し方 31 JULY 2004 レン製の袋による簡易包装に切り替えた。
「たまに購入するテレビ通販などの嗜好品と違って、 我々のお客様は購入頻度が非常に高い。
そのためお客 様のところに段ボールがどんどん溜まってしまう。
当 社はコールセンターに寄せられる声を定量的に分析し ているが、以前から省資源をのぞむ声は多かった」と アスクルのICR(インテグレーテッド・カスタマ ー・レスポンス)を統括する鈴木博之ネットワークリ ーダーは言う。
同社のコールセンターには一日に何千件という電話 が入る。
カタログに掲載した商品の注文を電話で受け 付けているためだが、ここでのやりとりには潜在的な 顧客ニーズを掴むヒントがたくさん隠されている。
同 社はこれを上手く吸い上げて、いま世の中ではどのよ うな要望が大きいのか、アスクルとして何をすべきな のかを常に注視してきた。
そうやってビジネスモデルを進化させ続けてきたの だが、かねて要望の多かった包装資材の見直しには、 簡単には着手できずにいた。
九五年に埼玉に初めて自 社物流センターを設置したアスクルは当初、配送業務 の大半を宅配業者に委託していた。
宅配業者は段ボ ール箱に入れなければ原則として商品を運んでくれな い。
破損を避けるために段ボール箱に入れることが、 宅配利用の条件になっていた。
それが九〇年代末に物流センター数が三カ所になっ た頃には、宅配便ではなく自社物流に近いかたちで配 送するエリアをかなり拡大していた。
そうしたエリア 内であれば簡易包装による配送が可能と判断したアス クルは、二〇〇〇年春に発行したカタログから首都圏 エリアなどでの省資源配送をスタートした。
これによって物流センターでの作業は次のように変 わった。
それ以前のパッキングエリアでは、ピッキン グの際に使う折り畳みコンテナ(折りコン)の中から 商品を段ボール箱に移しかえて封入していた。
これが 紙袋やビニール袋に封入するように変わり、配送ラベ ルも袋に貼るようになった。
配送車への商品の積み込 みは、車内で使っている折りコンにドライバーが自ら の判断で商品を収納していく。
紙袋やビニール袋など複数ある包装資材のどれを封 入時に選ぶかは、オーダーの内容に応じてコンピュー タが推奨包材を提示する仕組みになっている。
現場の 作業者の判断で包材を変えることも可能だ。
包材を 選択し、作業者に指示する仕組みは既存の情報シス テムに手を加えることで構築した。
こうして省資源包装をスタートしたわけだが、当初 は商品破損率が高まるなどの問題が発生した。
これを 改善するには、商品マスターとヒモ付けするかたちで 適した包装資材の種類を見直していくなど地道な作 業が必要だった。
ビニール袋のサイズや形状を最適化 するための試行錯誤も続いた。
一番重要だったのは配送ドライバーの荷扱いの品質 向上だった。
スタート時に白かったビニール袋を半透 明に変えたのも、そのための工夫だ。
内容物を目で確 認できるようにしてドライバーに注意を促したのであ る。
効果はてきめんで、その後の破損率は明らかに低 下したという。
包装の改善は輸送や保管に直結するが、場合によ っては輸送や保管を見直さなければ包装を変えられな いケースもある。
まさにアスクルがそうだった。
今後、 同社のライバルが省資源配送を真似ようとしても簡単 ではないはずだ。
一見、似たようなことはできても、 破損率やそこでのコストパフォーマンスをアスクル並 みにするためには高いハードルを越える必要がある。
これも一つの包装戦略なのである。
特集2 パッケージングで勝つ 配送の際の段ボールを 簡易梱包に変えた 「綴りひもの整理に困って いる」というユーザーの声 に応えて、まったく新しい 商品パッケージを開発した。
商品の包装を変えることで 新たな需要の開拓を狙う

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