ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年8号
CLM報告
中国における3PL企業の台頭

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2004 66 新世紀を迎えた中国の物流 中国が岐路に立っている。
他の 国々の追随を許さないほど低コスト かつ高品質で工業製品を生産できる ようになった結果、中国は?世界の 生産拠点〞として急成長した。
それ とともにロジスティクスに関する多 くの課題が顕在化してきた。
過去に香港や台湾といったアジア の他地域に拠点を構えていた企業が、 続々と中国本土に拠点を移している。
なかにはメキシコから移転してくる 企業もある。
こうした企業の多くは、 国際的な製造業者か、あるいは欧米 に本社を置く小売業者だ。
彼らは中 国で生産した製品を海外で販売する だけでなく、中国国内のマーケット においても徐々に販路を拡大しよう としている。
言うまでもないことだが、中国は 広い国土と十二億人超の人口を擁す る巨大な国だ。
地域ごとの収入格差 も大きい。
同じ中国国内であっても、 どこで生産するのか、またどこで販 売するのかによって、そのために要 する経費や売れ行きは大きく異なっ てくる。
中国の小売り市場は、国民の可処 分所得の増大とともに拡大し続けて きた。
収入の増加は主に沿岸の大都 市に集中しているが、それらの地域 に住む人々だけでも極めて数が多い ため、すでに巨大な購買力を形成し ている。
同様に輸出ブームで潤った 地域に住む人たちの所得も増えてい る。
ただ一部地域における収入の増加 は、他地域との格差を生み出した。
これが沿岸地域の生産コストを押し 上げることにつながり、最近ではコ ストの安い内陸部へ生産拠点を移そ うという動きが出始めている。
また、多国籍企業と中国国内の主 要企業は、取引先に生産効率やサー ビスの向上を求めるようになってき た。
中国国民の所得が増えるにつれ て、企業の国籍にかかわらず中国国 内で事業を展開する小売業者はサプ ライチェーンにおける影響力を強めようと躍起になっている。
納入業者 (サプライヤー)がこれからも有力な 大企業との取引関係を維持しようと 思ったら、サプライチェーンにおけ る効率を高め、コストを下げる必要 がある。
こうした事柄は、企業の生産拠点 が内陸部に移るにつれて、ロジステ ィクスに関する大きな課題として顕 在化していくはずだ。
「中国における3PL企業の台頭」《上》  中国のロジスティクスの現状と課題 ジェラルド・チャウ ブリティッシュ・コロンビア大学 助教授 チャールズ・グウェン・ワング 中国開発研究所 ロジスティクス・マネジメント・センター 主任 ロバート・ヤング・ジュン・ウィーチャイナ・マーチャント・ロジスティクス・グループ チーフ・マーケティング・ディレクター 本論文は二〇〇三年一〇月に米CLM年次総会で発表された。
急速 に変わり続ける中国では、ロジスティクスもまた日進月歩で変化してい る。
その意味で本稿の情報は最新のものではないが、米国から中国の物 流事情がどのように見えているかを窺える興味深い資料だ。
今月から何 度かに分けて全訳を掲載する。
(本誌編集部) 67 AUGUST 2004 経済発展を牽引する三地域 中国には大きく分けて三つの工業 地帯があり、いずれも内陸の生産拠 点につながっている。
一つは広東の 珠江デルタ、もう一つは上海を中心 とする長江デルタ、そして北京付近 にある渤海沿岸地域だ。
これら三つ の地域の一人当たりのGDP(国民 総生産)は平均で五〇〇〇米ドル (一ドル一一〇円換算で五五万円)で、 これは中国全体の平均の五倍に相当 する。
長江デルタは中国発展の象徴的な 存在だ。
なかでも上海は最も成長著 しい地域であり、その経済的な影響 力は日を追って増すばかりだ。
一九 九〇年代には上海の人口はわずか九 〇〇万人に過ぎなかった。
それが二 〇〇五年までには一六〇〇万人にま で増え、二〇一〇〜一五年にかけて 二五〇〇万人に増えると予想されて いる。
二〇〇一年に上海とその近郊で生 産され、消費された商品の価値は、 四一二億米ドル(三三九六億人民元、 四・五兆円)に達した。
これは中国 全体が生み出した価値の二〇%を占 める。
これが二〇〇五年には四六八 億米ドル(五・一兆円)になり、二 〇一〇年には六七二億米ドル(七・ 四兆円)になると予想されている。
外資企業が直面している障害 中国の生産力を活用し、かつ中国 国内のマーケットに参入する足がか りを得ようと、多くの外国企業が中 国に投資している。
シンガポールの ナショナル大学が行った調査による と、中国に投資した外国企業のうち 「調査対象となった企業の五五%が、 ビジネスにおける最も大きな課題は ロジスティクスと輸送」と答えてい る。
そして「二〇%がより効率的な ロジスティクスと輸送の手段が利用 できるまで、中国への投資を見合わ せる」とも回答した。
こうした反応の一因として、中国 の輸送インフラの不備がある。
ナシ ョナル大学が各国の輸送インフラを 指数化したものによると、シンガポ ールの輸送インフラは九・三ポイン ト、ドイツが八・七ポイントなのに 対して、中国は五・五ポイントとい う低い評価しか受けていない。
その結果として、中国のロジステ ィクスコストは諸外国に比べて割高 になっていると同調査は指摘する。
こ れは現状ではGDPの一六〜二〇% にも上っていて、欧米諸国や日本の 一〇%台の前半という数値と比べる と確かに割高になっている。
また別 の研究によると、ある製品を中国の 内陸部に輸送しようとすると、北米で同じことをするより五割増しか、場 合によっては二倍のコストがかかる という結果もでている。
トラック輸送における課題 エクアドルから中国に渡った貧し い男が、かつて中国の道路事情を評 して「道路のない地域社会は袋小路 のようなものだ」と語ったという。
確 かに道路インフラの不備はあるが、後 述するように事態は急速に改善しつ つある。
ロジスティクスにおける問 題は、むしろ道路を使って実際に貨 物を動かす人材の確保や育成にある。
つまり効率的なトラック輸送サービ スを欠いていることこそが、中国の ロジスティクスにおける緊急課題に なっている。
中国においてトラック輸送は、小 口貨物や完成品の輸送に最も用いら れている手段だ。
トラックによる輸 送量は年間一〇〇億トンを超え、輸 送全体の七七%を占める。
これまで は主に短距離の輸送で使われてきた。
五〇〇キロ以内が中心で、平均する とわずか五〇キロに過ぎない。
しか し今後多くの多国籍企業が中国国内 のネットワークを拡大し、生産拠点 が内陸に移るにつれて、都市間をま たぐ長距離のトラック輸送が大きな 課題として浮上してくるはずだ。
中国にもLTLと呼ばれる特別積 み合わせ便や、LTと呼ばれる貸切 り便が存在する。
しかし、いずれの 便を使っても、たいてい輸送リード タイムは長く、内陸部への路線とな ると所用時間も一定ではない。
ドラ イバーが二人一組で一日に一六時間運転しても、わずか三一〇マイル(約 五〇〇キロ)しか進まず、一時間当 たりにすると二〇マイル(三二キロ) しか移動できない。
もちろん高品質 の輸送サービスも存在してはいるが、 非常に高くつくため企業が利用する AUGUST 2004 68 と採算が合わない。
LTLはもっぱ ら長距離輸送に限って使われており、 途中で何度も積み替えを行う。
もっとも長距離輸送であっても、製 造業者がLTLを使うことはまずな い。
というのも、彼らが長距離を輸 送する場合は、トラック一台を満載 にして運ぶのが一般的だからだ。
こ れは、例えば五トン分の貨物には五 トントラック、八トン分の貨物には 八トントラックという具合に、さま ざまな積載量の車両を使い分けるこ とで可能になっている。
こうしたことをできる理由の一つ はトラック業界が細かく分かれてい るからであり、これは以前の国有企 業の時代の名残でもある。
見方を変 えれば、中国のLTLは今後、北米 市場のように大きく成長し、それに よってトラック輸送全体の効率化を 図る切り札にもなりうるのだ。
中国では、地域ごとの縦割り行政 も非効率なトラック輸送の一因にな っている。
長距離輸送ではしばしば、 行政区域が変わるごとに車両を変え なければならないために積み降ろし 作業が発生する。
米国のように異な る都市間で一定の輸送を保障するよ うな取り決めが存在しないため、中 国ではこういうことが起きる。
例えば、上海以外のトラックは、交 通制限のため午前七時から午後十一 時まで上海に入ることができない。
上 海の免許を持つトラックでさえ、い つでも自由に出入りを許されている わけではない。
輸送許可証を習得し ようとしたら多額の資金が必要にな る。
しかも中国では道路料金も高い。
中国における道路料金はトラック輸 送のコストの一五〜二〇%を占める という見方すらある。
トラック輸送の非効率をさらに助 長している要因として、この業界が 多くの零細企業によって形成されて いることが挙げられる。
新規参入が 容易なこともあって、二〇〇万社の トラック会社が五四〇万台のトラッ クを保有している。
つまり平均する と一社二〜三台くらいしかトラック を持っていない計算だ。
計画経済の時代の名残で、多くの 国有企業が自社専用のトラックを持 っていた。
そして、こうしたトラック は積載効率が低いまま利用されてい ることが多かった。
これが一九九〇 年代から二〇〇〇年のはじめにかけ て一般市場に入ってきたため、トラ ック業界は輸送力の供給過剰に陥っ た。
参入が容易なこともあって、業 者間の競争は破滅的なものになり、トラック業界全体が利益の上がらな い産業となってしまった。
さらに車両の装備も不十分だ。
中 国における一般的なトラックは、平 ボディーに防水シートをかぶせただ けの簡素なもので、積荷の品質保持 に問題を抱えている。
それらの車両 のほとんどはコンテナ貨物に対応で きないし、たいていの業者は車両装 備を充実させる資金的な余裕を持っ ていない。
中国のトラック輸送の最も重要 な特徴として、貨物が人手で積み 降ろしされていることが挙げられる。
しかも現場の作業者のほとんどが効 率的に貨物を積み降ろすトレーニン グを受けていないため、ここでも貨 物の破損が発生する。
統一したパレ ットが中国にないことも、長時間に わたる積み降ろし作業による非効率 と、輸送品質の劣化の原因になっ ている。
中国では多くのトラックが過積載 を行っている。
これは中国で輸送に かかわる、ほとんどすべての人が直 面する問題だ。
法廷積載量の五〇% 増しで走行するのは当たり前で、ひ どいケースになると法廷積載量の三 倍を積むことさえある。
過積載は中 国では例外ではなく、一般的な商慣 習なのである。
多くの企業はこれまで過積載が引 き起こす問題に目をつぶり、コスト 削減の手段に使ってきた。
ようやく 積み降ろし作業がすべて人手によって行われているのが トラック輸送の大きな特徴 69 AUGUST 2004 最近になって警察の取締りが厳しく なり、罰金も高くなったことで、企 業も過積載に起因するコスト増や輸 送の遅れといったマイナス面に目を 向けるようになってきた。
トラック輸送会社には優秀な人材 も多いが、業界全体を見渡すと優れ た輸送戦略に欠けていることが分か る。
原因はIT(情報技術)インフ ラの欠如にある。
貨物輸送を全体と して串刺しにできる情報システムが ないため、トラック輸送の品質を一 定水準に保てずにいる。
また、トラック業者は輸送中の貨 物の位置を確認する術をほとんど持 っていない。
衛星を使った貨物追跡 システムは、コストが高く実用には 至っていない。
最近では、より安価 な手段として、携帯電話や通常の電 話回線を使った貨物追跡システムが 普及しはじめているところだ。
トラック輸送の業界が多くの零細 企業で成り立っていることと、国有 企業時代の自社トラックの名残があ ることは、帰り荷を確保するネット ワークが存在しないことにつながっ ている。
このため荷主は、片道輸送 のサービスを購入するときでも往復 の料金を支払わなければならない。
ドライ貨物のドア・ツー・ドア輸 送サービスの場合、大都市の発着で あれば料金も安く、業者を手配する のも簡単にできる。
だが地方都市へ の輸送や、冷凍貨物や危険物の輸送 となると輸送業者を見つけるのは容 易ではない。
多くの大企業や多国籍企業は、発 展を遂げる沿岸地域を超えて輸送網 を確保しなければならなくなってい る。
つまり地域ごとに複数のトラッ ク業者と取引しなければならないこ とを意味している。
こうした問題の いくつかは今後、サードパーティー・ ロジスティクス業者と取引すること によって解決できるようになると思 われる。
過去には、中国のトラック輸送サ ービスが不十分な理由は、高速道路 のインフラの不備に原因があると指 摘されてきた。
しかし、この一〇年 で道路事情は急速に改善されつつあ る。
中国政府が何十億ドルもの資金 を高速道路に投じてきたためだ。
二 〇〇二年には二万五〇〇〇マイル (四万キロ)を超す高速道路が建設さ れ、これによって国内一〇万マイル のネットワークが完成した。
二〇〇 五年には、合計で一五万二〇〇〇マ イルが完成する予定だ。
さらに二〇 一五年には二万二〇〇〇マイルの有 料道路が追加される。
これによって 東西に五本、南北に七本の「五縦七 横」の高速道路網が完成する。
もっとも道路の整備状況は、今後も地域によって異なると思われる。
大 都市や海岸沿いの地域では十分に使 える一般道路や高速道路ができてい る。
しかし、内陸部や発展途上の都 市では今後さらなる道路整備が必要 だ。
山岳地帯や砂漠地帯における道 路網をどうするかは、常に問題とし て残るはずだ。
中国では全体の二 五%の村が、依然としてきちんとし た道路へのアクセスすらないという 状況にある。
ただトラック輸送の課題という意 味では、高速道路のインフラは二次 的な問題だ。
むしろ、これを使うト ラック業者自体が、今後どうやって サービスを向上させていくのかが焦 点になる。
もう一つの課題・鉄道輸送 トラックに次いで、中国で二番目 に利用されている輸送手段が鉄道だ。
鉄道輸送は中国全体の輸送量の十 三%を占める。
外国企業が参加した ジョイントベンチャーまで含めると、 この数字は八%となるが、いずれに しても中国における鉄道輸送にはい くつかの有利な特徴がある。
?中国全土を網羅するネットワーク がすでに敷かれており、大部分の 都市の駅付近には十分な倉庫施設 がある ?多くの駅は大都市の中心部に位置 している ?鉄道輸送のネットワークは大型コ ンテナに対応しており、一二四駅 において一〇トンコンテナと二〇 フィートコンテナをさばくことがで きる ?駅には旅行客のスーツケースや小 口貨物を運ぶ特別なサービスがあ る中 国 で 鉄 道 輸 送 が 使 わ れ て い る 理 AUGUST 2004 70 由は、利用者がこうしたサービスを 評価しているからというより、単純 にトラック輸送に比べて運賃が安い ためだ。
とくに輸送距離が五〇〇キ ロメートルを超えると、運賃はトラ ックより格段に安くなる。
その一方で中国の鉄道輸送サービ スは、非効率で信頼できない輸送手 段ともみなされている。
所要時間が 長く、サービスの信用度は低い。
こ のため、たいていは急ぐ必要のない 貨物の輸送だけに使われている。
さらに重要なことは、鉄道の輸送 容量が市場の要請に応え切れていな い点だ。
北京〜上海間のように需要 の多い路線であれば、一週間前まで に輸送スペースの予約をすればいい。
しかし、それ以外の路線では、たと えそれが北京発着の便であっても、出 発の三〇〜四〇日前には予約をしな ければならない。
このため中国の鉄 道輸送において、荷主がその時々の 需要に応じてスペースを確保するの は難しい。
鉄道輸送にはまた、季節ごとに輸 送枠の不足に悩まされるというマイ ナスの面がある。
一般に輸送枠の割 り当ては旅行客が最優先となる。
次 に農業貨物と鉄鉱貨物が優先される。
また、あらかじめ四〇%の輸送枠は 石炭輸送のために確保されているた め、収穫期にはしばしば農作物でさ え運べなくなってしまう。
五月、一〇月、十二月の旅行シー ズンや、農産物の収穫期になると、一 般貨物に割り当てられる輸送枠は極 端に少なくなる。
このことが荷主に とって、季節によって輸送枠の確保 が容易になったり難しくなったりす るという事態につながっている。
よ うするに中国の鉄道輸送では、一年 を通して安定的に輸送枠を確保する のも困難なのだ。
大部分の貨車は積載六〇トン用の 屋根付き車輌で、コンテナ輸送には 対応していない。
発着時に駅構内で 貨物の積み降ろしをしなければなら ず、荷さばき費用が割高につくばか りか貨物の破損が増えてしまう。
一 部では五トンコンテナや一〇トンコ ンテナに対応できる貨車も導入され ているし、海上コンテナをそのまま 積み込める貨車の導入も始まった。
それでも現在の鉄道用コンテナは、荷 主にとって使い勝手のいいものでは ない。
この点は今後、改善される必 要がある。
さらに中国の鉄道輸送では、北米 や欧州諸国で当然のように利用され ているサービスが、まだ一般的ではない。
例えば、到着駅への貨物到着 時間の連絡や、貨車の追跡システム、 駅間の情報をつなぐIT技術――な どがそうだ。
いったん冷凍貨物を積 み替えると、常温貨物と一緒に輸送 されてしまうことがあるというのも問 題の一つだ。
トラック輸送のインフラの問題と 違って、鉄道インフラは今後も大き な問題であり続ける。
現在、中国は 七万キロの鉄道網を誇り、年間二・ 八七%の割合で線路を増やし続けて いる。
しかし、その輸送枠は現状で はまだ需要を大幅に下回っている。
マ ルチモーダル輸送のためのコンテナ システムのニーズも満たしていない。
西側地域への拡大計画を持ってはい るものの、現実の鉄道システムの近 代化は、高速道路網の急速な発展と 比べると大きく立ち遅れている。
政府の規制と、政府が鉄道産業を 所有しているという事実が、鉄道の 惨たんたるサービスの一因だ。
中国 では政府内の複数の省庁が鉄道サー ビスのいくつかの部分を所管してい る 。
中 国 政 府 の 鉄 道 部 ( T h e Ministry of Railways )が鉄道サー ビスの大半を統括しており、鉄道部 の十二支局では、列車がそれぞれの 管轄地域を越えることを禁じている。
大切な輸送機材を統制するためだが、 このことが結果として輸送時間を長 引かせ、輸送時間にばらつきを生じ させる原因になっている。
国家発展計画委員会(The State Planning Commission )は、鉄道輸 送サービスを誰に割り当てるかに関 する権限を持っている。
中国遠洋運輸総公司(COSCO =China Ocean Shipping Company )とシノトラン ス(Sinotrans )は、限定的ながら旅 客サービスや貨物輸送サービスを提 供している。
世界貿易機構(WTO)は今後、 中国に対して鉄道輸送のこれまでの 慣習を改めるように要求するだろう。
規制緩和は避けて通れない。
だが近 い将来に鉄道が民営化される可能性 71 AUGUST 2004 はきわめて低く、国有化の状態は当 面続くと思われる。
それでも鉄道が 発展を遂げるにつれて海外からの投 資も受け入れることになるだろう。
鉄道システムは現在、より多くの 商業ビジネスを惹きつけ、より効率 的になるための構造改革を求められ ている。
その試案として、旅客や貨 物、鉄道のインフラ整備などの部門 ごとに独立した組織を作るという案 がある。
これによって各省庁は鉄道 輸送に関する支配の手を緩め、徐々 に市場経済に対応していくようにな ると考えられている。
3PL業者は鉄道にかかわる諸問 題を、輸送枠を買い切ることで乗り 越えてきた。
例えば、鉄道部と長年 にわたって良好な関係を維持してき たGタイム・ロジスティクス(G-time Logistics )という事業者は、南北間の輸送枠を買い取り、南からは生鮮 野菜や工業製品を、北からは穀物を 運んでいる。
このやり方は米国で七 〇年〜八〇年代初めにやられていた のと似ている。
当時の米国では、貧 困な鉄道輸送サービスを補完するた めにAPLが東西間の輸送サービス を買い取っていた。
ネプチューン・オリエント・ライ ンズ(Neptune Orient Lines )の子 会社となったAPLロジスティクス は現在、中国で同じことをやろうと している。
APLロジスティクスは 中国東部鉄道エクスプレス(Eastern China Railway Express )と覚書を 交わして、六〇カ所のハブ駅を鉄道 ネットワーク・サプライチェーンの 構築のために使うことで合意してい る。
他にも鉄道輸送を使った3PL 業者としてPGロジスティクスなど がある。
ようするに一定量以上の貨 物を集められる大規模荷主や3PL 業者なら、鉄道輸送枠を買い切るこ とによって、そのサービスを安定し たものにできるのである。
顧客に評価されない倉庫業者 中国の伝統的な倉庫業者は、これ まで顧客の要求にほとんど応えられ なかった。
倉庫施設の九〇%は国有 時代のものだ。
なかには倉庫スペー スを借りているケースもあるが、た いてい倉庫業者の自社物件である。
八〇年代半ばまで国有企業は自ら 倉庫を構えていた。
それが八五年に なると、倉庫スペースが余っている ことに気づき余剰スペースを売り始 めた。
このとき多くの倉庫スペースが市場に出回ったが、たいてい商業 用途で使える基準に達しておらず、ま た立地条件も悪かった。
多くはばら 積み貨物のための施設であり、二階 建て以上の建物も多く、ましてや倉 庫同士をつなぐ情報ネットワークと AUGUST 2004 72 なると皆無に等しかった。
例えば、中国北西部に工場を持つ ある自動車メーカーは十分な倉庫ス ペースを持っていなかった。
工場内 の敷地に原材料や部品を保管するた めのスペースがなかったため、軍の 基地の近くの施設を確保した。
しか し、この倉庫は三〇年代に日本軍が 占領していたときに作られたもので、 電気設備も不十分で、温度調節もで きず、害虫駆除にも手を焼くという 劣悪な設備だった。
もちろんマテハ ン機器など一つもなかった。
当然のことながら、古い施設にな るほど使いにくい。
保管用のラック にも事欠く状態では近代的な在庫管 理など望むべくもない。
それ以前に、 中国の倉庫には雨や雪をしのぐこと すら十分にできない施設すらある。
ま た、設計自体が効果的な業務フロー を妨げている古い倉庫では、何度も 手作業を経るため貨物の破損が増え る。
古い倉庫のほとんどは貨物を出 し入れすることを念頭においておら ず、貨物を保管するためだけに作ら れている。
現存する倉庫の中から、物 流センターとして機能する施設を見 つけ出すのは困難だ。
トラック輸送のところでも触れた が、統一した規格のパレットがない ことも中国の倉庫業界が抱える問題 に挙げられる。
現在の中国には、欧 州やオーストラリア、アメリカ、日 本などから多様なパレットが入って くる。
一番多く使われているのは欧 州型の一〇〇〇ミリ×一二〇〇ミリ 型だが、現場ではバラバラのパレッ トがそのまま流通している。
他のロ ジスティクス機器の利用も遅れてい て、現時点ではパレットをプールし ておく施設も存在しない。
このような状況にあるため、在庫 管理の精度はきわめて低い。
在庫が 大幅に狂うのは日常茶飯事で、貨物 の破損や大量紛失もしばしば発生す る。
リアルタイムで在庫を確認でき るシステムが確立されていないこと が大きい。
こうした事情から荷主企 業は、営業倉庫を使う代わりに自社 倉庫を建てることになる。
ロジスティクスセンター構想 WTOに加盟したことで、中国の 民間企業や外資系企業は、これまで 以上に政府系企業の運営する倉庫を 敬遠するようになると思われる。
そ れを見越した政府系企業と民間企業 は、大都市で近代的な物流機能を提 供する?ロジスティクスセンター〞 (編集部注:ロジスティクスパークとも呼ばれる流通センターのような場 所)を作るプログラムを立ち上げた。
ハブセンターの利用法というのは、 荷主企業や物流業者の活動エリアや ビジネスの内容によって決まる。
多 くのハブセンターは動きの速い貨物 を想定して作られ、ここに集荷した 貨物を積み替えて目的地へと送り出 していく。
つまり、物の流れを改善 するような場所に建てる必要がある。
また新しく建てられる物流拠点には、 ITシステムや適切なマテハン機器 が備え付けられることが望ましい。
こ うした機能を装備した最新のロジス ティクスセンターを増やすには、国 の政策による後押しが欠かせない。
国家発展計画委員会の統計による と、すでに大都市の多くが各地にロ ジスティクスセンターを建設する計 画を持っている。
同様の施設を集約 することによって全体の効率を高め られると考えているため、政府はロ ジスティクスセンターに対して数々 の優遇政策を打ち出している。
いまやロジスティクスは、中国で 最も重要な産業の一つとみなされて いる。
多くの地方自治体もロジステ ィクスをその主要産業と位置づけ、最 も成長著しい産業であるとみなして いる。
例えば、長江デルタでは、自 治体が過去の業績とサービスレベル に基づいて「主要なロジスティクス 企業」を選び出した。
このお墨付き を得た「主要なロジスティクス企業」 は、以下のような優遇政策を享受で きる。
?新規のロジスティクス事業にかかる資金を、自治体が債務を保証す るか、あるいは直接融資してもら うことができる ?上海における事業参入基準を容易 にしてもらえる ?地方税制において優遇を受けるこ とができる ?土地を安価に取得できる(中国の 土地の値段は使用目的によって異 なる。
最も安いのが製造用に使う 73 AUGUST 2004 レート・フォワーダーが入居してい る。
三つ目は北西ロジスティクスセ ンターと呼ばれ、ここを多くの小売 業者や卸業者が自らの物流センター として使っている。
上海は現在、数百億ドルを投資し て新たに港を作る計画を進めている。
これが完成したら、中国における国 際ロジスティクスの新たな拠点とな るだろう。
現状における課題のまとめ 中国に進出している多国籍企業は、 すでに発展を遂げている沿岸地域の みならず、未開発の内陸地域でもロ ジスティクス業務を遂行できる能力 を求めている。
多国籍企業の多くは 中国の国内市場に参入する意欲も高 い。
そのためには信頼できるトラッ ク輸送サービスを見出し、輸送枠の 逼迫している鉄道輸送サービスを有 効利用する方法を見つけなければな らない。
物流センターの確保も容易 ではない。
それでも中国は現在、新しい高速 道路網の整備に力を入れているし、 ロジスティクスセンターに近代的な物流センターを作る計画も進めてい る。
鉄道産業における構造改革も進 みつつある。
こうした問題の根元に は経営や産業構造にかかわるものが あり簡単ではないが、すでに変革や サービスの向上はさまざまな地域で 起こり始めている。
第一部の最後に、この研究結果を 読んでいる皆さんにお願いしたいこ とがある。
中国は大きな国だ。
一つ の情報から中国のロジスティクスの 全容が理解できたとするのではなく、 すべての情報に何らかの真実が含ま れているということを理解してもら いたい。
そして中国でロジスティクスにお ける迷路から抜け出す一つの方法と して、3PL業者の活用を挙げたい。
中国に進出している多国籍企業の複 雑なロジスティクス業務を肩代わり して、輸送品質を高いレベルで安定 させることこそが、中国における3 PL業者の仕事なのである。
(以降、次号に続く) 用地で、最も高いのが商業用に使 う用地。
先に挙げた「主要なロジ スティクス企業」が新しいロジス ティクス事業のために土地が必要 になった場合は、最も安い製造用 の値段が適用される) すでに上海にはロジスティクスセ ンターが三カ所ある。
上海における ロジスティクスの今後の発展を見越 して、いずれも望ましい場所に立地 されている。
その一つは上海港の近くに設置さ れており、主に輸出貨物を取り扱う 計七〇〇社がここに倉庫や物流セン ターを構えている。
二つ目は新空港 近くにあり、主に航空貨物を扱うフ

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