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2005年2月号
特集

在庫削減はどこまできたか ここがおかしい! 在庫管理の常識

FEBRUARY 2005 18適正な在庫を維持することは 在庫管理の重要な目的のひとつである 欠品や過剰在庫は収益を圧迫し経営効率を大きく悪化させるからである しかし 在庫管理の判断基準には誤 た考えが少なくない 特定企業が特定条件下で成功させた方針や施策が一人歩きすることがあるからだ 例えば 在庫は悪だ という思想 トヨタ生産方式の基本とされているが 本家本元のトヨタでは合理的な判断の下 必要な安全在庫をち んと保有している しかし トヨタ生産方式を真似て導入しようとする企業ではなんでもかんでも在庫をなくせとムリをしているところが多い これなどは 本来の合理的な思想が一人歩きをはじめて形だけが極端な常識とな てしま た例である このような よく考えたらおかしなことにな ている在庫管理の常識のいくつかを ひとつひとつ検証し 正していこうと思う 在庫はゼロが理想である 在庫ゼロが 究極の理想として改革・改善活動の方向を指し示すだけならば問題はない しかし これを具体的に実現すべき経営目標に掲げるようになると大きな問題となる なぜならば 在庫ゼロは決して実現できないことだからである 理論的に不可能なことを実現しようとすることは 無意味な努力を強制することになり 在庫のムダよりも と大きなムリ・ムダ・ムラを引き起こすことになる 在庫をゼロに出来ない理由は次の通りである 1顧客の要求納期に間に合わせるために見込生産をすると製品在庫が発生する2欠品を防ぐためには需要変動を吸収する安全在庫を持たなければならない3設備トラブルなど 供給能力の変動により仕掛かり在庫が発生する4後引き生産をしても 原理的に工程間に最低一つの在庫を持たなくてはならないこのように 生産・物流システムを円滑に運営するためには ある程度の在庫を保有することが必要である この事実を無視して 自社だけあるいは自部門だけ在庫をゼロにしようとすると無理を通すことになる 取引先に在庫負担を全て押しつけたり 顧客に長納期調達を負担させることになるのである 適正在庫は勘と経験と度胸で決める 在庫をゼロにできないことはわか たが 必要最低限の量までは減らしたい 経営管理上 過剰な在庫を抱えることは収益圧迫の要因となるからである この必要最低限の在庫を決める基準値を適正在庫とい て 在庫管理のベテランが勘と経験と度胸で決めている 少なすぎれば欠品が多発するし 多すぎれば売れ残りの過剰在庫となるので熟練を必要とする仕事である この決め方がおかしなことが多いのである 例えば次のようなことをしている 1一律の削減率で決める 偉い人の鶴の一声で 現状在庫の一律三〇パ セント削減 などと決めるやり方である 現状の在庫をキチンと調べれば 持ちすぎている品目もあれば 少なすぎる品目もあるのであるから こんなことをしたらそれこそ大変なことになるのは目に見えている ここがおかしい! 在庫管理の常識適正在庫が分からない。
実務家がそう嘆くのも当然だ。
在庫管理の世界には誤った常識やゴマカシがはびこっている。
一見、科学的と思える方法でも、蓋を開けてみると担当者の勘と経験と度胸がベースになっている。
古い迷信を捨て、新しい在庫管理の常識を学べ。
TSCコンサルティング 勝呂隆男 代表常識その1常識その2解説 2 19 FEBRUARY 2005特集 2一律の日数で決める これも 幹部の一声で決まることが多い 他社が在庫を一〇日で回していると聞いて うちも一律一〇日にしようなどと決めるのである リ ドタイムの大きさや販売量の振れの大きさなどにお構いなく決めるので 過少在庫になる品目もあれば過剰在庫になる品目もあるので 現場は大混乱である 3リ ドタイムのカウント方法を調整する リ ドタイムを考慮して決める場合でも 実績値と簡単な試算結果などからリ ドタイムの値そのものを変えて調整することがある リ ドタイムのカウント方法は始点と終点の設定次第でいくらでも調整できてしまう これは コンサルタントやSEがよく使う手で こういうところに適正在庫設定を頼むとやたらと手間がかかることになる 4安全係数を経験値で調整する 専門知識のあるコンサルタントやSEは オペレ シ ンズ・リサ チの統計的安全在庫として知られる理論手法 これを筆者は古典理論と呼ぶ を使う 理論値そのままの結果では実用にならないケ スが多か たので 使い物にならない理論として無視されることが多か たようである これを安全係数の調整でなんとか だましだまし使いこなすことがある 需要実績デ タの統計分析やサ ビス率を用いるので理論的な香りがするのであるが 肝心の安全係数を勘と経験に基づく調整値で置き換えるので理論的な正当性は失われることになる 教科書の理論では安全係数一・六五となるところを 私の経験的ノウハウにより一・〇で計算するとより正しい値となる などと言 て調整している 5需要実績デ タから異常値を除去する 同様に古典理論を使うのであるが 理論値がおかしいのは分析に使う実績デ タに異常値が含まれているからだと説明するテクニ クである これも統計理論の専門用語で武装されると ついごまかされてしまう しかし異常値かどうかの判定基準を 結果の値を見ながら勘と経験と度胸で調整しているのである 6あてはめる確率分布を変えてみる以上の調整テクニ クは 当事者にと ては長年の経験に基づいて開発したノウハウであると思い込まれていることが多か た それに対して需要分析に使う確率分布を変えてみるという手法は 高度な数学理論に基づいていると思い込まれているやり方である 在庫理論は需要が正規分布に従うことを前提にしているから使いものにならない 正規分布ではなく 対数正規分布やワイブル分布などにあてはめれば正しい値が求められると主張するのである しかしこれも 結局は経験的に選ばれた既存の理論分布の中からの選択に過ぎないので 有効な方法とは言えない このうち12は論外としても 3 6は古典理論以外には理論がなか たので やむを得ず工夫しながら使 ていたのが実情である それで皆 適正在庫がわからないと困 ていたのである 筆者自身も古典理論をなんとか使いこなそうと苦労しながら在庫削減に取り組んできた実務家の一人である しかし三年前に 古典理論そのものの欠陥に気付き これを是正する技術の研究を進めてきた そのポイントは 古典理論の欠陥を次の三つの理由によ て需要変動と供給変動が正確に把握できていないために図1 適正在庫算出システム APIM販売・出荷実績データとリードタイム傾向データから、安全在庫と発注点を自動的に算出するソフトウェア。
エクセルのアドインソフトなので、ERPなどの生産管理・在庫管理パッケージとの連携が容易に出来る。
エクセルの機能と組み合わせて、在庫計画システムやシミュレーションシステムを開発することも可能。
図は、過去実績値から適正在庫を算出し、それで運用した場合に在庫推移がどうなったであろうかをシミュレーションするシステムの開発例。
FEBRUARY 2005 20生じたと考えている点である 1オ ダ ごとの納期の長さが考慮されていない 2リ ドタイムが変動することを無視している 3毎日は出荷が行われない間欠需要に対応していない 筆者は この欠陥を是正する新しい理論を開発し APIMという名称を付けて普及を進めている そして 図1に示すようなソフトウ アも開発して一般に提供している これにより従来は求めることのできなか た適正在庫が正確に算出できるようにな たと自負している これを在庫管理の新しい常識としたい 以下には 新しい理論によ て明らかとな た知見により これまでの常識を検証していきたいと思う サプライヤ への短納期・在庫負担要請は下請けいじめだ セ トメ カ が部品供給業者に短納期納入を要求する あるいは 小売店が卸業者に即納を要求することは普通に行われている 短納期や即納に応えるために サプライヤ は通常 在庫を保有することになる これが下請けいじめだと批判されることがある 逆の場合もある 材料メ カ や部品メ カ の立場が強い場合は 注文を受けてから生産や調達を開始する受注生産を行う この場合 買い手の方が何カ月も先の需要予測に基づいて発注するために予測誤差による過剰在庫や欠品に悩まされることになる どちらが正しいのか? 理論的に筋道立てて考えれば答えは明白である サプライチ ン全体の在庫量を判断指標として次のような結論が出ている 上流側が在庫負担して短納期供給するのが正しいこれが解答である 図2は ある条件における二段階のサプライチ ンについてト タル在庫をシミ レ シ ンした結果である 最終顧客の需要に応えるために顧客は製品在庫を保有し その在庫が発注点を割 たらサプライヤ から調達する サプライヤ はリ ドタイム一〇日で製品を生産して供給するという条件で 顧客の保有する平均在庫と サプライヤ が負担する平均在庫の理論値を算出した結果である サプライヤ が在庫負担をして短納期で供給した場合と 受注生産をした場合の二通りの結果を比較している 図2により サプライヤ が在庫負担をした方がト タルの在庫水準が低くなることがわかる 条件を様々に変えても同じ結果になることが確認されている したが て 在庫は上流で持 た方が全体最適に近づくことが実験により証明されたといえるのではないだろうか 納期遅れや欠品には粗利分のペナルテ を課す 新しい理論により 納期遵守率向上による在庫削減効果を求めることができるようにな た 調達リ ドタイムが変動する場合の適正在庫を算出することができるからである 図3には ある需要条件下での納期遵守率と安全在庫の関係を示した このグラフから 納期遵守率を上げていくと加速度的に在庫削減が進むことがわかる 条件を変えても同じ現象となることが確認されている したが て サプライヤ に対し常識その3常識その4図2 サプライヤーの短納期・在庫負担とトータル在庫 サプライヤーが受注生産をして、在庫を負担しない サプライヤーが短納期供給をして、在庫を負担する  サプライヤー在庫  顧客在庫  トータル在庫   150  3808  3958    1441  200  1641700 600 500 400 300 200 100 0 90%  92%  94%  96%  98%  100% 安全在庫 納期遵守率 図3 納期遵守率と安全在庫  特集 21 FEBRUARY 2005て一%でも納期遵守率を向上させることを 強く求めることは全く正しいといえる しかし 買い手が強い立場のときはサプライヤ に過大なペナルテ を課すことがある それも 納入価格五円の材料の納期遅れに対して製品粗利分三〇〇円を支払わせたりすることがあるという 人間の活動には様々なトラブルや変動がつきものであるのだから 完全な納期遵守を求めることには無理がある 納期遵守率の実態に合わせた安全在庫が求められるのであるから 買い手もそれなりの在庫保有をすべきである そう考えると ペナルテ は粗利ではなく 在庫負担分と考えるのが合理的である 非現実的な要求を守らせるために過大なペナルテ を課すのではなく 合理的な経済計算に基づく適切なバ フ を持つ方が最終的なコストも小さくすることができるであろう 過剰なサ ビス要求は 業界全体あるいは経済社会全体のインフラコストの増大を招き 回り回 て自社のコストにはね返 てくるからである 発注点・安全在庫・平均在庫 て何だ け 最後に在庫管理の基本用語について常識を正しておきたい ERPをはじめとする生産管理パ ケ ジや在庫管理パ ケ ジのほとんどは 発注点 や 安全在庫 等の在庫基準値をユ ザ に設定させる機能を持 ている マスタ 管理機能である この機能が正しく働いていれば 過剰在庫や欠品の多発の多くは防げる しかし 常識その2に示したように これまでは肝心の基準値を正しく設定することができなか た それどころか 基準値の名称とその意味するところが正しく理解されていなか た 筆者が実際にシステムベンダ に足を運んで調査した結果では A社で発注点とい ている値をB社のシステムでは安全在庫と言 たり 発注点のことを最小在庫と言う間違いが多々見つか ている ERP導入プロジ クトで SEが発注点の意味で 安全在庫 を決めてくれと言 ているのに その値をユ ザ 側では 平均在庫 としてとらえていて いつまでも平行線で議論がかみ合わないとい たことがよく起こ ている これらの用語の正しい意味は次のようになる 発注点 在庫量があらかじめ定められた基準値よりも下が たときに発注を行うという在庫管理方式 発注点方式 をと たときの その発注のトリガ となる基準値のこと 安全在庫 需要変動又はリ ドタイムの不確実性を吸収するために必要とされる在庫 発注点方式では発注点算出式に 定期発注方式においては毎期の発注量計算式に組み入れられて使われる値 平均在庫 在庫有高の一定期間における平均値 生産管理や在庫管理の世界には 不条理がはびこ ている その中には単なる力関係から生じるものだけでなく 誤 た常識や考え方に基づくものも多々あるのである そんな誤 た常識のいくつかを俎上に挙げてみた これがき かけとな て読者がサプライチ ン全体にと て何が最適なのかを考え直し始め ひいては企業間取引の適正化により日本全体の高コスト構造是正に少しでもつながれば幸いである 常識その5著者新刊勝呂隆男 著「適正在庫のマネジメント」日刊工業新聞社(本体2000円+税)▼ ▼ ▼(すぐろ・たかお)1985年、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。
同年、東芝入社。
生産技術研究所勤務。
99年独立。
TSCコンサルティングを設立。
現場改善やSCM構築支援を中心としたコンサルティング業務を数多く手掛ける。
PROFILE

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