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SEPTEMBER 2004 40
無在庫ですべて工場から直送
住宅設備機器メーカーのクリナップは?無
在庫システム〞をいち早く実現した企業とし
て知られている。 部材や製品の在庫を持たず
に、実際の需要に応じて製品を作り顧客に供
給する。 この無駄のない生産体制を支える?動
脈〞が、全国に張り巡らせた輸配送ネットワ
ークである。 ラウンド(巡回)方式と呼ぶ幹
線輸送と、支線とを組み合わせて、クリナッ
プが独自に構築したものだ。
同社は過去に、製品構成の比重が流し台や
調理台などの「単体製品」から、システムキ
ッチンのような「システム化製品」へ移るの
に伴って、受注生産方式の導入を進めてきた。
一般にシステムキッチンの生産は計画的で、
工務店などからの受注時に納期を約束し、こ
れに合わせて必要な部材を調達する。 本来、
受注生産に適った製品といえる。
ただしクリナップは、システム化製品だけ
でなく、納期の著しく短い従来型の単体製品
にも受注生産方式を採用してきた。 かつての
同社は、単体製品の在庫を各地に持ち、受注
した翌日に納品していた。 これを受注の翌日
に生産して、翌々日に顧客へ届けるように切
り替えた。 短納期製品についても、「受注情
報」という?実需〞があって初めて工場に生
産指示が出る仕組みを取り入れることで、無
在庫による供給をめざしたのだ。
この受注生産方式を導入するためには、部
無在庫経営を支える独自の配送網
巡回方式と共同化でコストを削減
無在庫による物流システムを早くから確
立した。 必要な部材だけを毎日調達して生
産し、製品在庫を持たずに工場から住宅施
工現場に直送する。 無在庫システムを支え
るのは、80社近い地場の運送事業者をグル
ープ化し、66カ所の積み替え基地を全国に
配備した輸配送ネットワークだ。 子会社の
クリナップロジスティクスは、この輸送イ
ンフラを武器に外販を強化している。
クリナップロジスティクス
――輸送管理
41 SEPTEMBER 2004
材や製品が滞ることなく流れる物流の仕組み
が不可欠だった。 このため同社では、まず調
達方法の見直しを行った。 従来は部材メーカ
ーに任せていた納品業務を、毎日、生産に必
要な分だけを同社が部材メーカーのもとへ引き取り行く方式に変更。 生産計画に対して部
材をタイムリーに調達する体制を整えた。
さらに製品についても、中間に製品在庫を
一切持たずに、工場から住
宅施工現場や工務店に直送するかたちに切り替えた。 同
社には全国一〇カ所の工場
がある。 このうち八工場が
福島県のいわき市に集中し
ており、残る二工場は岡山
県と大分県に立地している。
この工場立地に対して、製
品の納入先である住宅施工
現場は全国に細かく分布し
ている。 そこで同社は、一
〇カ所の工場から全納入先
への直送を可能にするため、
北海道から沖縄までの主要
都市を中心に「プラットホ
ーム」と称する積み替え基
地を設置していった。
各工場からプラットホー
ムまで大型トラックで幹線
輸送をしたあと、ここで二
トン車に積み替えてエリア
ごとに配送する。 この方法
によって、中間で製品を滞
留させることなく、工場か
ら納品先へ直送することが
可能になった。
この物流態勢では、輸送効率をいかに高め
るかが重要なポイントになる。 工場から各プ
ラットホームまでの輸送量は一定ではない。
ところが無在庫を基本とする物流態勢では、
在庫を活用して輸送量の変動を吸収すること
ができない。 出荷の前倒しなどで輸送量を調
整し、幹線輸送の実車率を上げるといったこ
とは不可能だ。
このため工場とプラットホームの間を単に
直線で結ぶだけの輸送方法では、物量の変動
が車両の積載率にそのまま反映されてしまう。
復路が空車になってしまう点も問題だ。 部材
の調達についても同様のことが言える。
固定費抑えて物流費を年々削減こうした問題を解消する狙いで同社が考案
したのが?ラウンド輸送〞だった。 工場を起
点として、同一方面のプラットホームに向か
う複数の便を一つの「本線」(運行ルート)と
してまとめて配車を行う。 そして本線ごとに
ダイヤを決めて定時定点運行をする。
たとえば「いわき工場」から仙台・盛岡・
青森の各プラットホームへ行く本線では、最
も遠隔地の青森便から配車する。 仮に青森へ
の便が三便あり、このうちの一便は積載率が
五割以下だったとする。 こうしたケースでは、
この便に手前の盛岡のプラットホームの分を
積んで満車にして、盛岡で荷物を降ろしてか
らあらためて青森に向かう。 このように同じ
いわき工場
函館
青森
盛岡
仙台
秋田
酒田
新潟
長岡
金沢
福井
神戸
姫路
安来 福知山
広島 福山
防府
松山
延岡
都城
熊本
鹿児島
那覇
佐賀
長崎
佐世保
福岡
北九州 高松
郡山
水戸
伊勢崎 宇都宮 更埴
塩尻
甲府
東松山
江戸川
さいたま
水海道
千葉
沼津
静岡
岡崎浜 松
四日市
天理
草津
和歌山
岐阜 名古屋
三笠 帯広
釧路
岡山工場
大分工場
山形
川崎
相模原
門真
岡山
図1 本線方式による幹線輸送ネットワーク
66カ所のTC(Transfer Center)=通過型物流拠点
T.T方式(Truck to Truck)=車上渡し、車庫前での積み替え
52カ所の
倉庫を全廃
本線内で積み荷を調整することによって、物
量の変動を吸収することができる。
この?ラウンド輸送〞の大きな特徴は、ト
ラックがプラットホームへ製品を輸送した帰
りに、本線上にある調達先で部材を集荷して
から工場に戻る点だ。 製品輸送と部材調達を
組み合わせることによって、帰り荷を確保し
実車率が上がるようにしたのだ。
これは製品輸送と部材調達とを一元管理す
る体制のもとでないと実現が難しい。 同社で
は調達・生産・販売の各部門間の壁をなくし、
調達と幹線輸送を管理する工場の物流管理課
と、顧客への配送を受け持つカスタマーサポ
ート推進部の物流課とで連携をとることによ
って、輸配送の一元管理を実現してきた。
現在、プラットホームは全国に六六カ所あ
る。 徐々に拠点を分散化し、各配送エリアを
絞り込むことで、時間指定納品など顧客のニ
ーズにフレキシブルな対応ができるようにし
てきた。 比較的大きなプラットホームでも配
送先は二〇〇件程度。 車両数はせいぜい十数
台に過ぎない。 中には車両を数台しか動かし
ていない小規模のプラットホームもある。
在庫がないためプラットホームには製品の
保管スペースは不要で、クロスドック(積み
替え)機能だけあればいい。 しかも作業は特
定の時間帯に集中するため、極論すればその
時間帯だけ利用できれば用は足りる。
同社には、クリナップ運輸、クリナップ岡
山運輸という実運送部門を持った子会社があ
るが、この二社が運営する一部の拠点を除けば、プラット
ホームの運営を外部の物流事
業者に委託している。 物流事
業者の拠点の一部スペースを
借りるなどして専用での利用
を避け、固定費を最小限に抑
える狙いがある。
こうした物流体制のもとで
クリナップは、年々、物流コ
ストの削減を進めてきた。 同
社では工場で製品を出荷して
から顧客に配送するまでの費
用を物流コストとして管理し
ている。 無在庫で保管料がか
からないため、物流コストは
主に、輸配送の運賃とプラッ
トホームの管理費からなる。
そして物流コストの大半を輸
送費が占める。
かつて同社の対売上高物流費比率は八〜
九%を占めていた時期もあったが、一連の施
策の成果で順調に減少。 二〇〇三年度の連結
決算での実績は五・六%だった。
物流費の削減には、「プリントごっこ」で
知られる印刷機メーカー、理想科学工業との
共同化も大きく寄与している。 実はクリナッ
プは輸配送ネットワークの構築を理想科学工
業と共同で進めてきた。 ラウンド輸送の運行
ルートには理想科学工業の工場も組み込まれ
ており、プラットホームと末端配送の両方を
共同で利用している。
ノウハウ活かし共同物流を拡大
異業種との共同物流をさらに発展させるべ
く、クリナップは二年前に新たな一歩を踏み
出した。 二〇〇二年十月に物流組織を再編し、
子会社「クリナップロジスティクス」を設立。
工場の物流管理課とカスタマーサポート推進
部の物流課とに分かれていた、調達・幹線輸
送と顧客向け配送の管理機能を改めて統合し、
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図2 共同配送を支援する情報システム「SLIM」
顧 客
クリナップ 他荷主企業
ド
ラ
イ
バー
運
送
会
社
﹇SLIM﹈サーバー
顧客からの問い合わせ
顧客への回答
配送データの送信
最適配達ルート等確認
運行管理の状況確認
ドライバーの業務確認等
●各企業の配送計画をサーバーが事前に一元管理
●最適配送計画を立案・実行
●運行計画がリアルタイムに照会可能
●運行実績がリアルタイムで判明
●ドライバーは簡単操作にて報告業務
情報の一元化
共有化
可視化
計画系
実績系
理想科学工業 印刷機 クリナップ システムキッチン
43 SEPTEMBER 2004
さらに実運送子会社の配送計画担当部門を吸
収して発足したのがクリナップロジスティク
スだ。
これとともに、クリナップのカスタマーサ
ポート推進部の物流課は、物流戦略の立案や
長期的な企画、予算・実績管理を行う部門
に特化し、それ以外の物流管理業務をすべて
クリナップロジスティクスに移管した。 クリ
ナップロジスティクスは、実運送部門を持た
ず、クリナップの輸送元請け会社として調達
と製品の輸配送を一元管理して、運行計画の
立案や配車の手配を行う会社として位置づけ
られた。 それまでクリナップから直接、業務
を受託していた実運送子会社は、クリナップ
ロジスティクスの業務委託先として、他の協
力会社と並列の立場で競争するかたちになっ
た。
輸送費を中心とする物流コストの削減をさ
らに進めるには、従来の枠組みでは限界があ
った。 そこでこれまでに培ったノウハウと輸
配送ネットワークを活かして、共同物流をさらに拡大して、グループのコストダウンに寄
与していく。 それがクリナップロジスティク
スを設立した一番の狙いだ。
これに先立ってクリナップでは、理想科学
工業と共同で「最適配送計画支援&配送管
理(SLIM)システム」を開発、二〇〇二
年六月に導入している。 プラットホームから
顧客への配送を対象とする管理システムで、
共同化を積極的に拡大していくにあたり、配
車業務の効率化や荷主へのサービス強化を図
るためのツールである。
「SLIM」によって、配送計画を立案し
て、配車結果や配送状況を、インターネット
経由で荷主や協力会社と共有できる。 荷主の
受注情報(配送依頼情報)をサーバーに取り
込み、プラットホームごとに配送計画を立て
る。 これを荷主の営業所でWEB端末の画面
から確認し、時間指定や予定の変更などがあ
る場合には修正を行ってから確定する。
プラットホームでは従来、手作業で配送伝
票の?カルタ取り〞をしながら配車を行って
いた。 「SLIM」の導入後は、作成された
計画の調整を行うだけですみ、業務の負荷は
大幅に軽減された。
配送時には、ドライバーが携帯電話から出
発・到着・配達完了などのステータス情報を
入力。 サーバーでリアルタイムに情報を管理
し、営業所やプラットホームから随時、配送
状況を照会できる。 これによって荷主へのサ
ービスは向上し、プラットホームで問い合わ
せに対応する手間も不要になった。
八〇社近い地場業者をグループ化
すでにクリナップロジスティクスは、共同
配送への取り組みなどを通じて二〇社近い一
般荷主を開拓してきた。 このうち菓子、寝具、
給湯器メーカーなど七、八社が「SLIM」
のユーザーになっている。
クリナップロジスティクスの大竹重雄社長
は「ようやく一般荷主の売り上げ比率が一
〇%を超えるところまできた。 われわれのネ
ットワークの強みをもっとアピールすること
で、近いうちに三〇%までもって行きたい」
と抱負を語る。 クリナップロジスティクスは今年四月に、
ネットワークに参加する協力物流会社と「物
流研究会」を発足した。 同社の協力会社は、
幹線輸送やプラットホームの運営にあたる業
者など七〇〜八〇社で、いずれも地場の運送
業者だ。
同社では特定の業者への依存度を上げない
戦略をとっており、方面やエリアを絞って委
託している。 物流改善を迅速に行うことを狙
って、あえてそうしている。 その結果として、
協力会社の数がこれだけ多くなった。 六六カ
所あるプラットホームの業務委託先もすべて
異なる。
協力物流業者の研究会を発足したのは、協
力会社の結束を強めて輸送品質やコスト競争
クリナップロジスティクスの大竹重
雄社長
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力の強化を図るためだ。 研究会では、燃料な
どの共同購入や「共同物流」、「品質向上」な
どの分科会活動を行っている。 品質向上分科
会では、一定の基準を達成できない業者に撤
退してもらうルールも新たにつくった。 「基準
を明確にして品質の向上を図ることで、ネッ
トワークを一つのブランドに育てたい」(大竹
社長)という狙いがある。
同時にこの研究会は、顧客開拓を効率よく進めるための情報交換の場でもある。 「地場
の業者でも、ネットワークを活用すれば荷主
から全国規模で業務を受託できる。 研究会活
動を通じてグループとしての営業力を強化し
ていく」(同)
このネットワークの最大の強みは、何とい
ってもクリナップ自らが実践してきた無在庫
方式にある。 だが荷主各社の物流態勢によっ
て共同化の取り組みにはバラツキがあり、理
想科学工業のように同じ無在庫の思想でネッ
トワークをフル活用しているケースはまだ少
ない。 「次のステップではそこまで踏み込んだ
提案をする。 ネットワークを利用するメリッ
トを強調することで、さらに取引の拡大を図
っていきたい」と大竹社長は言う。
もう一つ、この輸送ネットワークには、?巡
回〞することで配送と回収を同時に手掛けら
れるという特徴がある。 実際、クリナップと
理想科学工業では、三年ほど前からこのネッ
トワークでリターナブル容器の回収を行って
いる。 顧客への配送時に梱包を解いてそのま
まプラットホームに回収し、次にプラットホ
ームに来る幹線便で工場に回収するという具
合だ。 「ラウンドして必ず戻る仕組みだから
こそ、紛失のリスクもなく確実に回収するこ
とができる」。 これも、このネットワークの強
みだ。
ただ、これらの強みをアピールしていく一
方で、次のステップである外販比率三割を目
標に新規荷主開拓を進めようとしたら、これ
だけでは足りない。 「荷主のニーズに合わせ
て別のメニューを用意していく必要もある」
と同社では考えている。
これまでに述べてきたように、クリナップ
のネットワークは、同社の無在庫による生
産・販売方式に合わせて構築したものだ。 そ
の結果、プラットホームを全国に細かく配置
し、在庫を持たずにクロスドックだけを行っ
て配送する独特のネットワークが完成した。
そして、これを理想科学工業のように同じく
無在庫を志向する企業と共同化することで、
配送密度を高め、なおかつ効率化にも成功し
てきた。
この共同化方式では、クロスドックのタイ
ミングを合わせることが欠かせない要件にな
っている。 だが新規開拓を進めるなかで、荷
主によっては、生産の仕組みや受注時間、リ
ードタイムなどの条件が異なるためタイミン
グが合わず、ネットワークに乗れないケース
もある。
また、分散型ではなく、集約型の拠点によ
る広域配送を希望する荷主もいる。 「集約型
にすると配送距離が長くなりロスも出てくる
が、今後はこうしたニーズにこたえられる拠
点も新たに設置していく必要がある」と大竹
社長。 共同化のターゲットを広げていったと
きに、どこまで同社のネットワークの強みを
維持できるかが、これからの課題となってく
る。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
プラットフォーム
コンベアーの如く巡回運行
共同化メーカ生産拠点
現 場
調達先生産拠点
調達物流、リバース物流(復路)
幹線輸送(往路) 支線配送
生産拠点
1/22 17:00
生産完了
1/22 18:00
出発
1/23 5:00
到着
1/23 7:30
出発
1/23 9:00
納品
1/22 9:00
調達
1/22 13:00
1/22 16:00 部材入荷
生産着工
共同化納品先
調達先
図3 ロジスティクスのモデル事例
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