2004年9月号
特集
特集
物流の「現場力」 流通センターの「複雑性」はこう扱う
SEPTEMBER 2004 22
IEやABCは販売物流には使えない
生産管理技術として開発されたIE(Industrial
Engineering
)、あるいはABC(Activity Based
Costing:
活動基準原価計算)などの手法が今日、流
通センターの管理にも適用されようとしている。
IE やABCは生産物流の改善で過去に多くの成果を挙 げてきた。
そのため販売物流の計画・改善手法として も何の疑問も持つことなく用いられているのが現状だ。
しかし生産物流と販売物流の特性は全く異なって いる。
生産物流の使命は最低のコストで最良の製品を 作ることにある。
これに対して、販売物流は完成した 製品を客先のニーズにあわせて間違いなく届けること が使命である。
特性が違えば当然、適切な扱い方も違 ってくる。
例えば同じ在庫問題でも、生産物流では生産性と コストが重視され、「無在庫」が最終的な目標になる。
そのためのジャスト・イン・タイムの調達も実現は可 能である。
しかし販売物流においては、何より顧客サ ービスを重視しなければならない。
客先からの注文に 対して欠品しないためには、どうしても一定の在庫が 必要になる。
いつ、何の注文が来るか正確には予測で きない以上、ジャスト・イン・タイムはあくまで理想 であっても不可能である。
平準化の点でも大きく違う。
生産、物流の違いを 問わず、毎日の処理量が平準化するほど効率は高くな る。
そのため工場では変動をできる限り少なくするよ うに作業スケジュールを組む。
一方、販売物流は作業 の生産性とは無関係に客先の注文次第でその日の処 理量が左右されてしまう。
当然、販売物流の波動は 大きくなる。
同じ月でも販売物流の繁閑差は二〜三倍、年末に は月平均の一〇倍になるという例が珍しくない。
現場 作業が定時に終わるか残業になるかは注文が確定しな ければわからない。
しかも客先に納入する時間帯を始 め、販売物流には制約条件が多数ある。
生産物流の ように都合が悪いからといって条件を自ら変更するこ ともできない。
こうした生産物流と販売物流の特性を まとめると左頁の表1のようになる。
販売物流のような大きな変動幅を持つ物流を処理 するには、平準化を前提とした生産物流とは異なる、 波動対応の仕組みが必要だ。
生産物流と販売物流を 同じ考え方、同じ手法で管理しようとしても上手くい くはずがない。
実際、IEやABCを販売物流に用い ても、諸条件が工場倉庫に近い例外的な場合を除き、 多くの場合で機能しないはずである。
米国の研究機関による調査でも、ABCを導入し た倉庫のうち、約半分がABCは使えなかったと回答 している。
この半分とは販売物流を担う流通センター であったと考えられる。
ABCは作業ごとのコストを 細かく算定し、それを積み上げて全体の物流コストを 把握するというアプローチをとる。
この考え方が販売 物流には馴染まないのである。
物流現場においてモノは、川の水のように滔々と流 れているわけではない。
物流とは実際には「物留流」 である。
モノの動きは「流」と「留」の繰り返しだ。
しかも「流」よりも「留」が大きく、「流」も「留」も 大きく変動しながら全体の流れを形作っている。
とこ ろがABCで算定されるのは、「物留流」の「流」だ けのコストである。
「留」が度外視されている。
生産 物流以上に波動が大きい販売物流ではこれが決定的 な問題になる。
さらに重要なのはコストの算定基準である。
作業コ ストを測定するには、ピッキング作業なら一人が一定 要素積み上げ式の生産物流とは大違い 流通センターの「複雑性」はこう扱う 工場倉庫と川下の流通センターでは、その役割や特性が全く 違う。
工場倉庫の管理で効果を挙げたABCやIEなどの生産技術 を、そのまま流通センターに適用しても上手くいかない。
販売物 流の技術は、生産技術とは別に存在する。
鈴木震 物流システムコンサルタント 第3部 第4部 第5部 KEY PERSON Case Study 特集 物流の 現場力 23 SEPTEMBER 2004 時間当たり、棚から何個ピッキングできるのか、基準 値を把握しなければならない。
仮に測定をした結果、 一時間に二〇〇個ピッキングできたとする。
一時間の パートの費用が八〇〇円であれば、一個ピッキングす るコストは四円である。
この基準値を元に一〇〇個で あれば四〇〇円、一〇〇〇個であれば四〇〇〇円と いった具合に、「数量×単価」という形で物流コスト を弾くのがABCのやり方である。
このように理路整然と正確にコストを算定できるこ とが、ABCの大きな魅力となっている。
ただし、こ の方法は基準となっている一定時間当たりの処理量が 正しいことが前提になる。
果たして正しいと言えるだ ろうか。
もちろん測定を行った担当者は、複数のピッ カーを対象に、数時間作業をさせて測定したのである のだから基準値は正しいと言うだろう。
しかし、それ を基準として一〇〇個、一〇〇〇個のコストを弾いた 結果はどうであろう。
一〇〇〇個のピッキングといっても、一〇〇〇アイ テムを一個ずつピッキングするのと、一〇アイテムを 一〇〇個ずつピッキングするのでは当然ながら生産性 は大きく違う。
基準値を使用できるのはピッキングの 内容が測定を行った時の条件と同じである場合に限ら れる。
インプットする条件が違えば、基準値自体が変 わってしまう。
それでも生産物流であればインプットする条件も揃 いやすい。
基本的に生産物流の作業コストは、「アイ テム(I:Item )」と「数量(Q:Quantity )」の二 つを変数として扱うだけで測定できる。
実際、生産物 流ではIとQを用いた「IQ分析」あるいは「PQ ( Product Quantity )分析」と呼ばれる手法が通用す る。
生産物流は実質的に作業内容を個数だけで表せ るため、ABCも有効に機能する。
しかし、販売物流の作業指示条件は工場倉庫のよ うに単純ではない。
アイテムと数量の他に、「注文件 数(E:Order Entry )」を加味する必要がある。
販 売物流の場合は一〇〇〇個のピッキングといっても、 その内容は千差万別である。
その点を見失って無理に 基準値を設定すると今度は実態に合わない基準値が 一人歩きし始める。
ここにABCの大きな落とし穴がある。
数字に化か されてしまうのである。
販売物流にABCを導入する とすれば、アイテム別の基準値だけでなく、注文のバ リエーションごとに作業コストのベンチマークを行う 必要がある。
それではあまりにも測定作業が繁雑にな って現実的ではない。
それができない以上、ABCを 販売物流のコスト計算に用いることは危険でさえある といえる。
販売物流のコスト管理 それでは販売物流のコストはどのように管理したらよいのだろうか。
その手法として筆者はABCならぬ 「YBC」を提唱している。
「よい加減Bases Costing 」 の略である。
「よい加減法」とも呼んでいる。
ミクロ を緻密に積み上げていくABCに対して、「良い加減 法」は文字通り、荒っぽくマクロを把握することから 始める。
そもそもABCの目的は物流コストの削減であろう。
そのために、まず正確に物流コストを算出しなければ ならないというのがABCの発想だ。
しかし実際には 物流コストの細目を把握しなくとも物流コストは下げ られる。
作業内容を細かく分析するのではなく、簡単 に物流コストの概略を把握し、物流コストを下げる方 法がYBCである。
YBCでは基本的に「注文件数(E)」、「アイテム 生産物流 生産性重視 作業量が平準化されている 作業がスケジュール化されている 少数制約条件 自ら条件決定できる 販売物流 顧客サービス重視 作業量の波動が大きい 作業のスケジュール化が難しい 多数制約条件 顧客中心なので自ら条件決定できない 問題が多い 表1 生産物流と販売物流の違い SEPTEMBER 2004 24 数(I)」、「数量(Q)」という三つのデータを元に、 分析対象となっているセンターのトータルな生産性を 計算する。
表2はある配送センターの五日間分の処理 実績データを取り出したものだ。
「DCスケール」と 名付けた公式を使って、このセンターの日々の生産性 を計算すると表3のようになる。
生産性の最も高い「D1」を一〇〇とすると、最も 低い「D6」の生産性は六四%。
残りの三日は八〇% 程度の生産性になっている。
仮に「D1」の日のパー ト社員の実働時間が八時間だったとすると、他の日は 八時間×八〇%=六・四時間で終わる計算だ。
この結 果から、センターに勤務するパートの契約を一日八時 間から六時間に変更することで、コストが下がるとい う予測が立てられる。
六時間勤務で物量の多い時だけ 二時間程度の残業にする体制を組めばいい。
このように作業別のコストを厳密に把握しなくても、 全体の概略をつかむだけでコストを下げるという目的 を達成することはできる。
反対にいくら緻密にコスト を測定しても、その適用精度には大きな幅が出てしま う。
しかも、そこでは「物留流」の「留」が抜け落ち てしまう。
複雑な販売物流はミクロではなく、マクロ で見た方が実状に即した管理ができる。
巨大なマグロ を最初から刺身庖丁で丁寧に切ろうとしても刃がこぼ れるだけだ。
必要なのはまずは出刃包丁というわけだ。
販売物流の分析・管理には、要素の積み上げによ って全体を把握するのではなく、最初に全体を把握し てしまう「複雑系」の考え方こそ相応しい。
多少理論 的にいうと生産物流は「原因」と「結果」が直線関 係にあるので単純系の思考でよいが、販売物流は原因 が複雑なので、細かく分析するのではなくマクロに全 体像を把握する複雑系思考を用いる必要がある。
ゴル フ場のグリーンで芝目を読む時に、芝生の一枚一枚の 葉の向きを全て調べる人はいない。
同じことが販売物 流の管理にも当てはまるのである。
ただし、ゴルフと同様、的確に物流の?芝目〞を読 むには本来であれば多少の経験が必要だ。
この点を補 強するのが、私の開発した「EIQ法」である。
EI Q法はYBCと同様、基本的に「注文件数(E)」、「ア イテム数(I)」、「数量(Q)」の三つの要素から物流 を分析する。
より具体的には、EIQから派生するい ろいろなデータを使うが、いずれも注文伝票に記載さ れている情報から簡単に算出することができる。
多少、精度は落ちるがEIQの三つの情報だけでも、 複雑な物流問題の全貌を的確に把握することは可能 だ。
まずは体験することが何よりだろう。
以下に例題 を示すのでチャレンジして欲しい。
限られたデータか ら、複雑な物流をマクロに捉える訓練である。
ある配送センターのある日のEIQデータは、 注文件数 E=八件 注文アイテム数 I=一六種類 注文量 Q=四六〇〇〇ケース である。
これだけのデータを基に、 ?どのような特性の配送センターか。
?配送センターの規模はどれくらいか。
?どのような物流機器が用いられるか。
?どれくらいの物流機器の台数か。
?入出荷のトラック台数はどれくらいか。
?どのような業種の倉庫か、メーカか、問屋か。
?どのような配送センター・システムになりそうか。
?どれくらいの面積の倉庫か。
?どれらいの売上規模の会社か。
などを想定しなさい。
EIQ法の例題 日付(D) 注文数量(Q) 注文件数(E) 種類数(I) 行数(EN) 作業時間(T) D1 3757 86 418 2108 44.5 D2 3122 85 364 1929 50.5 D3 3084 85 400 1893 46.0 D4 2605 95 342 1506 40.5 D5 2293 84 355 1425 51.5 表2 あるセンターの5日分の実績データ 日付(D) 注文数量(Q) D1 3757 1216 27.3 100 D2 3122 1065 21.1 77 D3 3084 1099 23.9 87 D4 2605 948 23.4 86 D5 2293 903 17.5 64 表3 各日の生産性 DCスケール (DC) 作業時間当たり DC(DC/T) % DCスケール 配送センターの作業量は1日の出荷数量でも概略わかるが、 これだけではなく、注文件数(E),出荷種類数(I)行数(EN)な ども関係あるのでこれらを含めて配送センターの作業量を現 す物差しとして、次の公式を用いて表す。
DC―スケールを全作業時間でわると時間当たりどれくらい の作業量を行ったかがわかる。
DC−スケール=平方根((E+I)×(EN+Q)/2) 25 SEPTEMBER 2004 特集 物流の 現場力 ?どのような特性か? このセンターは注文件数(E)と注文アイテム数(I) が少なく、注文量が多い。
小品種多量出荷の配送センタ ーである。
一般にパレットの1枚当たりの積み付け数は 12〜48ケースである。
1パレット48ケースと仮定する と注文量(Q)=46000ケースは約1000パレットになる。
入荷も同じ量と考えられるから、入出荷合わせて1日 2000パレットを処理する配送センターと考えられる。
?規模はどれくらいか? 配送センターの在庫は通常、20〜30日分のところが 多い。
20日分と仮定すると在庫量は4万パレットになる。
?どのような物流機器が用いられるか? 1日に入荷1000パレット、出荷1000パレット、計 2000パレットが動く倉庫である。
フォークリフトは必要 であろう。
また、パレットの保管用として、パレットラ ックや立体自動倉庫などの使用が考えられる。
?物流機器の台数は? フォークリフトで保管場所からトラックヤードまで1 パレットを搬送するのに5分かかるとすると、1時間に 12パレット、1日6時間稼動で12×6=72パレットを 処理できる。
したがって、出荷1000パレットの処理には 1000/72=約14台のフォークリフトが必要である。
入 出荷を同時に行うとすると、倍の28台になる。
立体自動 倉庫を用いている場合でも、入出荷用としてかなりの数 のフォークリフトが必要だ。
?入出荷のトラック台数は? 10トン車1台に10パレットを積載するとして、出荷 1000パレットであるから100台が必要である。
6時間稼 動とすると時間当たり16台となる。
入出荷では30台以 上になる。
その分のトラックバースも必要である。
?どのような業種か? このセンターの特徴は1日当たりの注文アイテム数 (I)が16種類と少なく、出荷量が1000パレットで、アイ テムあたりの平均出荷量が約60パレットと大きいことで ある。
ビールや清涼飲料の工場の配送センターであると 考えられる。
また、一日当たりの注文件数(E)は8件 と少なく、客先別の平均注文量は125パレットと大きい。
注文アイテム数は16であるから、客先ごとのアイテム別 平均注文量は125/16=約8パレットである。
客先は各 種類をパレット単位以上で注文している。
ここからメー カーの営業所が客先(E)だと推測できる。
?どのようなシステムか? アイテムごとの出荷単位は平均60パレットである。
多 く出るアイテムでは1日当たり200パレット程度は出荷 されているだろう。
同じアイテムを大量に出荷するとな れば、パレットの山積み保管が考えられる。
また1日当たりの受注量4万6000ケースを、1パレッ トの積付単位となり得る12ケース、24ケース、48ケー スのいずれの単位で割っても端数がでる。
これはパレッ ト単位だけでなくケース単位の出荷もあるということを 示している。
しかし、E・I・Qのデータだけでは、パレ ットとケースの比率は分からない。
そこでケース単位の 出荷を全体の20%と仮定すると1日当たりのケース出荷 は4万6000×20%=約9000ケースになる。
このようにパレット単位とケース単位の出荷が両方発 生する配送センターでは、保管ロケーションをパレット 出荷エリアと、パレットからケースをピッキングするエ リアに分けるのが普通である。
しかし、このセンターで は注文アイテム数が16種類と少ないので、その必要もな いであろう。
以上のことから、このセンターはパレットの山積みと フォークリフトで構成するシステムであると考えられる。
なお立体自動倉庫はアイテム数が多いときと、スぺー ス・セービングにその特徴を発揮する。
このセンターの 場合は、スペース・セービングの視点から用いることが あるかも知れない。
?どれくらいの面積か? パレットの山積みの仕方を、奥行き5パレット分、そ れを3段積みとすると、1ラインの保管量は15パレット となる。
1000パレットでは1000/15=66.6ラインが必 要である。
在庫量を20日分とすると66.6×20=1332ラ インである。
パレットサイズを1100×1100ミリとすると1枚当た りの使用面積は1.21平方メートルである。
1ライン当た りの使用面積は1.21平方メートル×5枚=6平方メート ルに。
1332ラインでは1332ライン×6平方メートル= 約8000平方メートルになる。
保管効率を60%とすると、 8000平方メートル/60%=1万3000平方メートル、約 4000坪という大きなセンターである。
?どれくらいの通過額か? 1ケースの金額を3000円と仮定すると4万6000ケー ス×3000円=1億3800万円。
月当たりの稼動が20日で 27億円、年間320億円の通過額となる。
E・I・Qのデータから以上のような推定を行った。
途 中、いくつかの仮定を設けている。
仮定が変れば当然、 システムの概要も違ってくる。
仮定の妥当性に経験と常 識が求められる。
パレットの積付数のデータなどが分か ればシステムの姿も、より絞られてくる。
それでもこの センターの場合、パレットの山積みとフォークリフトに よって構成したシステムであることは変らないであろう。
こうしてマクロから入り骨格を決めて、ミクロを詰める。
その結果を改めてマクロに検討する。
その繰り返しで管 理するのがEIQ法である。
EIQの活用法 《解答例》
IE やABCは生産物流の改善で過去に多くの成果を挙 げてきた。
そのため販売物流の計画・改善手法として も何の疑問も持つことなく用いられているのが現状だ。
しかし生産物流と販売物流の特性は全く異なって いる。
生産物流の使命は最低のコストで最良の製品を 作ることにある。
これに対して、販売物流は完成した 製品を客先のニーズにあわせて間違いなく届けること が使命である。
特性が違えば当然、適切な扱い方も違 ってくる。
例えば同じ在庫問題でも、生産物流では生産性と コストが重視され、「無在庫」が最終的な目標になる。
そのためのジャスト・イン・タイムの調達も実現は可 能である。
しかし販売物流においては、何より顧客サ ービスを重視しなければならない。
客先からの注文に 対して欠品しないためには、どうしても一定の在庫が 必要になる。
いつ、何の注文が来るか正確には予測で きない以上、ジャスト・イン・タイムはあくまで理想 であっても不可能である。
平準化の点でも大きく違う。
生産、物流の違いを 問わず、毎日の処理量が平準化するほど効率は高くな る。
そのため工場では変動をできる限り少なくするよ うに作業スケジュールを組む。
一方、販売物流は作業 の生産性とは無関係に客先の注文次第でその日の処 理量が左右されてしまう。
当然、販売物流の波動は 大きくなる。
同じ月でも販売物流の繁閑差は二〜三倍、年末に は月平均の一〇倍になるという例が珍しくない。
現場 作業が定時に終わるか残業になるかは注文が確定しな ければわからない。
しかも客先に納入する時間帯を始 め、販売物流には制約条件が多数ある。
生産物流の ように都合が悪いからといって条件を自ら変更するこ ともできない。
こうした生産物流と販売物流の特性を まとめると左頁の表1のようになる。
販売物流のような大きな変動幅を持つ物流を処理 するには、平準化を前提とした生産物流とは異なる、 波動対応の仕組みが必要だ。
生産物流と販売物流を 同じ考え方、同じ手法で管理しようとしても上手くい くはずがない。
実際、IEやABCを販売物流に用い ても、諸条件が工場倉庫に近い例外的な場合を除き、 多くの場合で機能しないはずである。
米国の研究機関による調査でも、ABCを導入し た倉庫のうち、約半分がABCは使えなかったと回答 している。
この半分とは販売物流を担う流通センター であったと考えられる。
ABCは作業ごとのコストを 細かく算定し、それを積み上げて全体の物流コストを 把握するというアプローチをとる。
この考え方が販売 物流には馴染まないのである。
物流現場においてモノは、川の水のように滔々と流 れているわけではない。
物流とは実際には「物留流」 である。
モノの動きは「流」と「留」の繰り返しだ。
しかも「流」よりも「留」が大きく、「流」も「留」も 大きく変動しながら全体の流れを形作っている。
とこ ろがABCで算定されるのは、「物留流」の「流」だ けのコストである。
「留」が度外視されている。
生産 物流以上に波動が大きい販売物流ではこれが決定的 な問題になる。
さらに重要なのはコストの算定基準である。
作業コ ストを測定するには、ピッキング作業なら一人が一定 要素積み上げ式の生産物流とは大違い 流通センターの「複雑性」はこう扱う 工場倉庫と川下の流通センターでは、その役割や特性が全く 違う。
工場倉庫の管理で効果を挙げたABCやIEなどの生産技術 を、そのまま流通センターに適用しても上手くいかない。
販売物 流の技術は、生産技術とは別に存在する。
鈴木震 物流システムコンサルタント 第3部 第4部 第5部 KEY PERSON Case Study 特集 物流の 現場力 23 SEPTEMBER 2004 時間当たり、棚から何個ピッキングできるのか、基準 値を把握しなければならない。
仮に測定をした結果、 一時間に二〇〇個ピッキングできたとする。
一時間の パートの費用が八〇〇円であれば、一個ピッキングす るコストは四円である。
この基準値を元に一〇〇個で あれば四〇〇円、一〇〇〇個であれば四〇〇〇円と いった具合に、「数量×単価」という形で物流コスト を弾くのがABCのやり方である。
このように理路整然と正確にコストを算定できるこ とが、ABCの大きな魅力となっている。
ただし、こ の方法は基準となっている一定時間当たりの処理量が 正しいことが前提になる。
果たして正しいと言えるだ ろうか。
もちろん測定を行った担当者は、複数のピッ カーを対象に、数時間作業をさせて測定したのである のだから基準値は正しいと言うだろう。
しかし、それ を基準として一〇〇個、一〇〇〇個のコストを弾いた 結果はどうであろう。
一〇〇〇個のピッキングといっても、一〇〇〇アイ テムを一個ずつピッキングするのと、一〇アイテムを 一〇〇個ずつピッキングするのでは当然ながら生産性 は大きく違う。
基準値を使用できるのはピッキングの 内容が測定を行った時の条件と同じである場合に限ら れる。
インプットする条件が違えば、基準値自体が変 わってしまう。
それでも生産物流であればインプットする条件も揃 いやすい。
基本的に生産物流の作業コストは、「アイ テム(I:Item )」と「数量(Q:Quantity )」の二 つを変数として扱うだけで測定できる。
実際、生産物 流ではIとQを用いた「IQ分析」あるいは「PQ ( Product Quantity )分析」と呼ばれる手法が通用す る。
生産物流は実質的に作業内容を個数だけで表せ るため、ABCも有効に機能する。
しかし、販売物流の作業指示条件は工場倉庫のよ うに単純ではない。
アイテムと数量の他に、「注文件 数(E:Order Entry )」を加味する必要がある。
販 売物流の場合は一〇〇〇個のピッキングといっても、 その内容は千差万別である。
その点を見失って無理に 基準値を設定すると今度は実態に合わない基準値が 一人歩きし始める。
ここにABCの大きな落とし穴がある。
数字に化か されてしまうのである。
販売物流にABCを導入する とすれば、アイテム別の基準値だけでなく、注文のバ リエーションごとに作業コストのベンチマークを行う 必要がある。
それではあまりにも測定作業が繁雑にな って現実的ではない。
それができない以上、ABCを 販売物流のコスト計算に用いることは危険でさえある といえる。
販売物流のコスト管理 それでは販売物流のコストはどのように管理したらよいのだろうか。
その手法として筆者はABCならぬ 「YBC」を提唱している。
「よい加減Bases Costing 」 の略である。
「よい加減法」とも呼んでいる。
ミクロ を緻密に積み上げていくABCに対して、「良い加減 法」は文字通り、荒っぽくマクロを把握することから 始める。
そもそもABCの目的は物流コストの削減であろう。
そのために、まず正確に物流コストを算出しなければ ならないというのがABCの発想だ。
しかし実際には 物流コストの細目を把握しなくとも物流コストは下げ られる。
作業内容を細かく分析するのではなく、簡単 に物流コストの概略を把握し、物流コストを下げる方 法がYBCである。
YBCでは基本的に「注文件数(E)」、「アイテム 生産物流 生産性重視 作業量が平準化されている 作業がスケジュール化されている 少数制約条件 自ら条件決定できる 販売物流 顧客サービス重視 作業量の波動が大きい 作業のスケジュール化が難しい 多数制約条件 顧客中心なので自ら条件決定できない 問題が多い 表1 生産物流と販売物流の違い SEPTEMBER 2004 24 数(I)」、「数量(Q)」という三つのデータを元に、 分析対象となっているセンターのトータルな生産性を 計算する。
表2はある配送センターの五日間分の処理 実績データを取り出したものだ。
「DCスケール」と 名付けた公式を使って、このセンターの日々の生産性 を計算すると表3のようになる。
生産性の最も高い「D1」を一〇〇とすると、最も 低い「D6」の生産性は六四%。
残りの三日は八〇% 程度の生産性になっている。
仮に「D1」の日のパー ト社員の実働時間が八時間だったとすると、他の日は 八時間×八〇%=六・四時間で終わる計算だ。
この結 果から、センターに勤務するパートの契約を一日八時 間から六時間に変更することで、コストが下がるとい う予測が立てられる。
六時間勤務で物量の多い時だけ 二時間程度の残業にする体制を組めばいい。
このように作業別のコストを厳密に把握しなくても、 全体の概略をつかむだけでコストを下げるという目的 を達成することはできる。
反対にいくら緻密にコスト を測定しても、その適用精度には大きな幅が出てしま う。
しかも、そこでは「物留流」の「留」が抜け落ち てしまう。
複雑な販売物流はミクロではなく、マクロ で見た方が実状に即した管理ができる。
巨大なマグロ を最初から刺身庖丁で丁寧に切ろうとしても刃がこぼ れるだけだ。
必要なのはまずは出刃包丁というわけだ。
販売物流の分析・管理には、要素の積み上げによ って全体を把握するのではなく、最初に全体を把握し てしまう「複雑系」の考え方こそ相応しい。
多少理論 的にいうと生産物流は「原因」と「結果」が直線関 係にあるので単純系の思考でよいが、販売物流は原因 が複雑なので、細かく分析するのではなくマクロに全 体像を把握する複雑系思考を用いる必要がある。
ゴル フ場のグリーンで芝目を読む時に、芝生の一枚一枚の 葉の向きを全て調べる人はいない。
同じことが販売物 流の管理にも当てはまるのである。
ただし、ゴルフと同様、的確に物流の?芝目〞を読 むには本来であれば多少の経験が必要だ。
この点を補 強するのが、私の開発した「EIQ法」である。
EI Q法はYBCと同様、基本的に「注文件数(E)」、「ア イテム数(I)」、「数量(Q)」の三つの要素から物流 を分析する。
より具体的には、EIQから派生するい ろいろなデータを使うが、いずれも注文伝票に記載さ れている情報から簡単に算出することができる。
多少、精度は落ちるがEIQの三つの情報だけでも、 複雑な物流問題の全貌を的確に把握することは可能 だ。
まずは体験することが何よりだろう。
以下に例題 を示すのでチャレンジして欲しい。
限られたデータか ら、複雑な物流をマクロに捉える訓練である。
ある配送センターのある日のEIQデータは、 注文件数 E=八件 注文アイテム数 I=一六種類 注文量 Q=四六〇〇〇ケース である。
これだけのデータを基に、 ?どのような特性の配送センターか。
?配送センターの規模はどれくらいか。
?どのような物流機器が用いられるか。
?どれくらいの物流機器の台数か。
?入出荷のトラック台数はどれくらいか。
?どのような業種の倉庫か、メーカか、問屋か。
?どのような配送センター・システムになりそうか。
?どれくらいの面積の倉庫か。
?どれらいの売上規模の会社か。
などを想定しなさい。
EIQ法の例題 日付(D) 注文数量(Q) 注文件数(E) 種類数(I) 行数(EN) 作業時間(T) D1 3757 86 418 2108 44.5 D2 3122 85 364 1929 50.5 D3 3084 85 400 1893 46.0 D4 2605 95 342 1506 40.5 D5 2293 84 355 1425 51.5 表2 あるセンターの5日分の実績データ 日付(D) 注文数量(Q) D1 3757 1216 27.3 100 D2 3122 1065 21.1 77 D3 3084 1099 23.9 87 D4 2605 948 23.4 86 D5 2293 903 17.5 64 表3 各日の生産性 DCスケール (DC) 作業時間当たり DC(DC/T) % DCスケール 配送センターの作業量は1日の出荷数量でも概略わかるが、 これだけではなく、注文件数(E),出荷種類数(I)行数(EN)な ども関係あるのでこれらを含めて配送センターの作業量を現 す物差しとして、次の公式を用いて表す。
DC―スケールを全作業時間でわると時間当たりどれくらい の作業量を行ったかがわかる。
DC−スケール=平方根((E+I)×(EN+Q)/2) 25 SEPTEMBER 2004 特集 物流の 現場力 ?どのような特性か? このセンターは注文件数(E)と注文アイテム数(I) が少なく、注文量が多い。
小品種多量出荷の配送センタ ーである。
一般にパレットの1枚当たりの積み付け数は 12〜48ケースである。
1パレット48ケースと仮定する と注文量(Q)=46000ケースは約1000パレットになる。
入荷も同じ量と考えられるから、入出荷合わせて1日 2000パレットを処理する配送センターと考えられる。
?規模はどれくらいか? 配送センターの在庫は通常、20〜30日分のところが 多い。
20日分と仮定すると在庫量は4万パレットになる。
?どのような物流機器が用いられるか? 1日に入荷1000パレット、出荷1000パレット、計 2000パレットが動く倉庫である。
フォークリフトは必要 であろう。
また、パレットの保管用として、パレットラ ックや立体自動倉庫などの使用が考えられる。
?物流機器の台数は? フォークリフトで保管場所からトラックヤードまで1 パレットを搬送するのに5分かかるとすると、1時間に 12パレット、1日6時間稼動で12×6=72パレットを 処理できる。
したがって、出荷1000パレットの処理には 1000/72=約14台のフォークリフトが必要である。
入 出荷を同時に行うとすると、倍の28台になる。
立体自動 倉庫を用いている場合でも、入出荷用としてかなりの数 のフォークリフトが必要だ。
?入出荷のトラック台数は? 10トン車1台に10パレットを積載するとして、出荷 1000パレットであるから100台が必要である。
6時間稼 動とすると時間当たり16台となる。
入出荷では30台以 上になる。
その分のトラックバースも必要である。
?どのような業種か? このセンターの特徴は1日当たりの注文アイテム数 (I)が16種類と少なく、出荷量が1000パレットで、アイ テムあたりの平均出荷量が約60パレットと大きいことで ある。
ビールや清涼飲料の工場の配送センターであると 考えられる。
また、一日当たりの注文件数(E)は8件 と少なく、客先別の平均注文量は125パレットと大きい。
注文アイテム数は16であるから、客先ごとのアイテム別 平均注文量は125/16=約8パレットである。
客先は各 種類をパレット単位以上で注文している。
ここからメー カーの営業所が客先(E)だと推測できる。
?どのようなシステムか? アイテムごとの出荷単位は平均60パレットである。
多 く出るアイテムでは1日当たり200パレット程度は出荷 されているだろう。
同じアイテムを大量に出荷するとな れば、パレットの山積み保管が考えられる。
また1日当たりの受注量4万6000ケースを、1パレッ トの積付単位となり得る12ケース、24ケース、48ケー スのいずれの単位で割っても端数がでる。
これはパレッ ト単位だけでなくケース単位の出荷もあるということを 示している。
しかし、E・I・Qのデータだけでは、パレ ットとケースの比率は分からない。
そこでケース単位の 出荷を全体の20%と仮定すると1日当たりのケース出荷 は4万6000×20%=約9000ケースになる。
このようにパレット単位とケース単位の出荷が両方発 生する配送センターでは、保管ロケーションをパレット 出荷エリアと、パレットからケースをピッキングするエ リアに分けるのが普通である。
しかし、このセンターで は注文アイテム数が16種類と少ないので、その必要もな いであろう。
以上のことから、このセンターはパレットの山積みと フォークリフトで構成するシステムであると考えられる。
なお立体自動倉庫はアイテム数が多いときと、スぺー ス・セービングにその特徴を発揮する。
このセンターの 場合は、スペース・セービングの視点から用いることが あるかも知れない。
?どれくらいの面積か? パレットの山積みの仕方を、奥行き5パレット分、そ れを3段積みとすると、1ラインの保管量は15パレット となる。
1000パレットでは1000/15=66.6ラインが必 要である。
在庫量を20日分とすると66.6×20=1332ラ インである。
パレットサイズを1100×1100ミリとすると1枚当た りの使用面積は1.21平方メートルである。
1ライン当た りの使用面積は1.21平方メートル×5枚=6平方メート ルに。
1332ラインでは1332ライン×6平方メートル= 約8000平方メートルになる。
保管効率を60%とすると、 8000平方メートル/60%=1万3000平方メートル、約 4000坪という大きなセンターである。
?どれくらいの通過額か? 1ケースの金額を3000円と仮定すると4万6000ケー ス×3000円=1億3800万円。
月当たりの稼動が20日で 27億円、年間320億円の通過額となる。
E・I・Qのデータから以上のような推定を行った。
途 中、いくつかの仮定を設けている。
仮定が変れば当然、 システムの概要も違ってくる。
仮定の妥当性に経験と常 識が求められる。
パレットの積付数のデータなどが分か ればシステムの姿も、より絞られてくる。
それでもこの センターの場合、パレットの山積みとフォークリフトに よって構成したシステムであることは変らないであろう。
こうしてマクロから入り骨格を決めて、ミクロを詰める。
その結果を改めてマクロに検討する。
その繰り返しで管 理するのがEIQ法である。
EIQの活用法 《解答例》
