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65 OCTOBER 2004
コネが不可欠の中国ビジネス
企業同士のパートナーシップは新
しい概念ではない。 しかし最近にな
ってパートナーシップという言葉は、
顧客とサプライヤーとのこれまでの
基本的な関係を上回る間柄を表す言
葉として使われるようになってきた。
こうした間柄は、必ずしも契約や法
律の文面に明記されているわけでは
ない。
多くの場合、これらの?パートナ
ーシップ〞の下では、所期に目標と
した以上の利益を、顧客とサプライ
ヤーの双方が享受するというウィン
―
ウィンの側面がある。 ビジネスパー
トナーと一緒に成長していくという
この考え方は、ただのお題目にすぎ
ない場合もあるが、中国でビジネス
を成功させようとしたら無視できな
い要因である。
中国では、相互扶助という考えが
ビジネスにおいても社会の生活にお
いても古くから重要な役割を果たし
てきた。 中国人が自分の生活水準や
生活の質を向上させようと思ったら、
重要な人物との?コネ〞を持たなけ
ればならない。 その代わり自分を助
けてくれる人物を助ける義務も生じ
てくるが、それは回りまわって自分
の目標や必要を満たすことへとつな
がる。
とくにビジネスの世界では、この
コネが非常に重要になってくる。 大
半の企業は、契約する相手を公平な
コンペの結果というより個人的なコ
ネを通して決定する。 外国人から見
れば、中国の人的ネットワークは複
雑で、その人間関係は一見すると表
面的に見えるかも知れない。 しかし、
これまでの中国では、コネを大切に
するシステムが地域においても全国
レベルにおいてもきわめて有効に働
いてきた。
コネは契約を結ぶ時にだけ必要な
のではない。 契約を結んだ後で発生
する日々の業務上の問題を円滑に処理するのにも欠かせない。 コネがあ
るからといってすべての問題が消え
てなくなるわけではないが、これがあ
るために相互理解が進み事後処理は
容易になる。
もちろん、いかなる国における経
済活動でも似たような既得権は存在
する。 とりわけ急速に変化が起こっ
ている国や地域では、汚職は付き物
「中国における3PL企業の台頭」《下》
ロジスティクスにおけるパートナーシップ
ジェラルド・チャウ
ブリティッシュ・コロンビア大学
助教授
チャールズ・グウェン・ワング
中国開発研究所 ロジスティクス・マネジメント・センター
主任
ロバート・ヤング・ジュン・ウィーチャイナ・マーチャンツ・ロジスティクス・グループ
チーフ・マーケティング・ディレクター
二〇〇三年一〇月に米CLM年次総会で発表された本論文を、本誌
では三回に分けて掲載してきた。 第一回「中国ロジスティクスの現状と
課題」(本誌二〇〇四年八月号)、第二回「国内市場と主要プレイヤー
の分析」(同九月号)に続き、今回はある飲料メーカーの中国での取り
組みをケーススタディとして紹介する。
(本誌編集部)
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とすら言われている。 そうした国の
多くでそうであるように、中国でも
契約期間は短期間のものが多い。 新
しい契約を結ぶたびに何らかの特典
が担当者の手元に転がり込むからで
ある。
中国における企業の管理職は、西
洋の管理職と同額程度の大きな予算
上の責任を負わされている。 だが給
与は西洋のそれと比べると、ほんの
わずかの額だ。 リベートを受け取り
たいというような誘惑が、ビジネス
上のよりよい判断を上回ったとして
も驚くには値しない。
このコネを大切にする風土は、中
国のロジスティクス分野における技
術的な進歩を遅らせるという負の結
果をもたらした。 ロジスティクス業
務、その中でも特に輸送業者や倉庫
業者を選択する業務は、これまであ
まり外注されることなく社内に留め
置かれてきた。 これは業者選択の担
当者には個人的な特典がついてくる
という?おいしい〞仕事だったから
である。
このことが頻繁に輸送業者を変え
るということにもつながる。 多くの
担当者が輸送業者に十分な顧客情報
を与えないままにしておくので、輸
送業者のサービスレベルは低く、そ
れが次に業者を変更する口実に使わ
れる。
ロジスティクスは複雑な業務のた
め社内のとどめておくのが一番だと
考えられてきたことも、不透明な現
状を維持することにつながった。 全
体を見通した戦略的な計画やIT活
用の不足も、ロジスティクス業務の
効率化を妨げてきた。
しかし、ロジスティクスが経営の
重要な機能であるという認識が広が
った現在では、中国でロジスティク
ス業者を名乗る企業そのものは過剰
気味ともいえるほど存在している。 こ
うした企業の多くは単なる倉庫業者
や輸送業者にすぎず、サプライチェ
ーン・マネジメントについてもほと
んど理解していない。 しかし、自ら
活動する地域では強いコネを持って
おり、業務を行ったり必要な免許を
取るのに力を発揮する。
外資系参入によるインパクト
外資系の荷主企業が参入してくる
ことは、中国におけるロジスティク
ス・サービスの範囲を広げ効率を高
めることにつながると考えられてき
た。 事実、外資系荷主は、品質の高
いロジスティクス・サービスを求め
てきたし、こうした企業と付き合うことで中国のロジスティクス事業者
が提供するサービスの質も徐々に向
上してきている。
情報の共有化やKPI(主要業績
評価指標)を使った業務の分析とい
った、広く外資系の荷主が行ってい
る管理手法を中国企業も取り入れ始
めた。 とくに外資系の大手小売業者
は、中国国内の市場の拡大も視野に
入れながら、巨大なバイイングパワ
ーを背景にして価格交渉を優位に進
めようとしている。 このことがサプラ
イヤーばかりでなくロジスティクス業
者にも、サービスの向上とコストの
削減を求めることにつながっている。
しかし、すべてが期待通りに進ん
でいるわけではない。 外資系の荷主
にとってロジスティクス業務は、し
ばしば初めて地元業者を利用する業
務の一つであるから、そこでは中国
に古くからあるコネの弊害がすぐに
出てくる。 もっとも、現在では管理
職が必要な情報を共有しているため、
以前ほど問題は顕著ではなくなって
きている。
困難な全国ネットの構築
仮にロジスティクス業者が、ゼロ
から中国全土をカバーする輸送ネッ
トワークを作ろうと思ったら、車両
だけでも一億米ドル(約一一〇億円)
もの投資が必要となる。 中国の商習
慣では貨物量に応じて車両を使い分
けるため、五トントラックや八トン
トラックなど多種多様な車両を揃え
なければならない。 LTL(特別積
み合わせ)便は長距離輸送にのみ使
われているが、何度も積み替え作業が発生するので、製造業者は小口貨
物を輸送する際にも敬遠する傾向が
ある。
中国国内で新しく輸送ネットワー
クを立ち上げた業者が、五トン分の
貨物をトラクタやセミトレーラーを
使って北京〜天津間の一七〇キロメ
ートルを運ぼうとすると、すぐに地
場の業者が五トントラックを使って
それより安い運賃を提示して貨物を
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奪おうとするはずだ。 より低コスト
で現実的な輸送ネットワークを構築
するためには、特定の荷主の貨物を
ベースカーゴとして使いながら、そ
れらの荷主に対してより多くの貨物
を出すことがプラスになると説得す
る必要がある。
中国全土を網羅するロジスティク
ス業者となるためには、以下の点が
必須条件となる。
・荷主の物流業務全体を精査して輸
送サービスとコストを最適化する
十分なノウハウを持っていること
・必要に応じて荷主のために車両を
購入したり、物流センターを建設
できるほど財政的な余力を持って
いること
・全国レベルと地方レベルにおいて
それぞれに必要な人的つながりを
持っていて、新規に事業を始める
地域においても円滑に免許を取得
できること
一般に中国におけるロジスティク
ス業務の契約期間は最長でも二年間
に過ぎず、コンペの結果次第で業者
は頻繁に変わる。 このためロジステ
ィクス業者は、新しい物流センター
や車両、ITへの投資に二の足を踏
む傾向がある。
通常、コンペにかけられるのは、新
たに荷主が必要とするいくつかの路
線だけだ。 これが運賃の安い地場の
業者にとって有利に働く。 全国を網
羅する事業者に委託すれば荷主のサ
プライチェーン全体を最適化できる
可能性があるという点は、ここでは
ほとんど考慮されない。
また、多くの外資系の荷主は、過
積載を含む違法行為を知っていなが
ら知らない振りを決め込んでいる。 た
しかに輸送コストは安くなるが、こう
した違法行為で捕まれば罰金はロジ
スティクス業者がかぶることになるた
めだ。
近年のロジスティクス業務のサー
ビスレベルとコスト削減における進
歩は著しいが、まだ望ましいレベル
には達していない。 その理由は、荷
主と事業者が全国規模で業務を効率
化することに取り組んでこなかった
からにほかならない。
これには欧米諸国のように全国規
模のロジスティクス業者が存在しな
いからだ、という説もある。 また、現
在の中国が欧米並みに発展する途上
と仮定するなら、今後、荷主と業者
が協力して全国規模の業者が生まれ
てくるに違いにないと楽観視する説
もある。 いずれにしても、これまでの
中国には、荷主とロジスティクス業者がお互いパートナーシップに基づ
いて発展していくという考え方が欠
けていた。
次に挙げる、ある飲料メーカーの
ケーススタディは、現在の中国でも
例外的には荷主と事業者のパートナ
ーシップが成り立つことを証明して
いる。 これはパートナーシップという
考え方に基づいて、チャイナ・マー
チャンツ・ロジスティクスと大手飲
料メーカーが、中国の広い地域にお
けるサプライチェーンを段階的に最
適化していった事例である。
ある飲料メーカーの事例
チャイナ・マーチャンツは一八七
二年に設立された中国初の商業会社
である。 もともとは船舶輸送会社と
して出発したため、海外企業との競
争関係にあり、同社は自由主義体制
の海外企業との競争で優位なポジシ
ョンを占めてきた。
一九五〇年には中国の企業として
初めて香港に本社を設置。 一九九二
年には中国の企業として初めて香港
の株式市場に上場した。
小平の指
揮のもと、中国で最初のフリートレ
ードゾーン(自由貿易地域)を作っ
て海外からの投資を募った。
その後、チャイナ・マーチャンツ
は次第に複合企業体に発展していき、
現在では約一五〇億USドル(一ド
ル一一〇円換算で一兆六五〇〇億円)
の資産を運営するまでになっている。
一九七九年から蛇口(Shekou
)の工
業地帯で業務を開始しており、銀行
をはじめとする金融事業、ホテルな
どの観光産業、保険やハイテク、ロジスティクスの分野の子会社を持っ
ている。
チャイナ・マーチャンツのグルー
プで物流事業を手掛ける子会社がチ
ャイナ・マーチャンツ・ロジスティ
クスで、本格的な3PL業者として
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サプライチェーン・マネジメントの
分野で一〇年以上の実績を積んでき
た。 同社は外資系の荷主と最初にジ
ョイントベンチャーを作った企業で
もあるし、また小売業者のために複
数の物流センターを運営する唯一の
国内3PL業者でもある。
一九九〇年代の初頭にプロクタ
ー&ギャンブルやコルゲート、エッ
ソといった大手外国企業が中国に参
入した当時、中国国内では彼らの望
むレベルのロジスティクス業務を提
供できる事業者が見つからなかった。
彼らは香港にあるコンサルティング
会社に依頼して事業者を探そうとし
たが無駄だった。
こうした外国企業は結局、ある一
つの企業とロジスティクスに関する
契約を交わしてジョイントベンチャ
ーを立ち上げることになった。 その
企業が現在ではチャイナ・マーチャ
ンツの傘下に入っている。
飲料業界の業務の特徴
中国における飲料業界の繁忙期は、
気温が高くなる八月と旧正月である。
従来は、その時期になって飲料メー
カーが車両を調達しようとすると、通
常の二倍の運賃を支払う必要があっ
た。 しかし、チャイナ・マーチャン
ツは下請け会社を作って一年間料金
が変化しない固定運賃を設定。 一日
平均で貸切便二五〇台分の貨物を、
一〇〇台の車両で配送できるネット
ワークを構築した。
はじめは中国南部の広東地域での
輸送業務だけであったのだが、飲料
メーカーは徐々にチャイナ・マーチ
ャンツに中国全土の輸送を委託する
ようになった。 車両を有効に使うこ
とで不法な過積載をせずに積載効率
を上げることに成功した点や、運賃
を一定水準に設定することで荷主の
利益を保つことに貢献したことを評
価したからだ。
チャイナ・マーチャンツは、主に
三つのサービスを提供している。
一つ目のサービスは基本的な貨物
運送業務で、常時五〇台の車両を飲
料メーカーの複数の工場に待機させ
て、いつでも輸送できる体制を整え
ている。
二つ目は、二四時間までに前もっ
て依頼がある場合に対応する輸送サ
ービス。
そして三つ目は、突発的な輸送に
対応するサービスだ。 割増運賃を請
求する代わりに、いつでも必要なだ
けの車両を手配するというサービス
である。 チャイナ・マーチャンツとこの飲料
メーカーとの契約には、帰り荷とし
て原材料を積むことで片道の運賃を
安く抑えるという条項も加わってい
る。 もし荷主が帰り荷を斡旋した場
合は、運賃収入の一部を荷主と分け
るという条件も含まれている。
つまり荷主は、ロジスティクス業
務に関して一定の義務を負っている。
だからこそロジスティクス事業者は
業務改善のために必要な投資をする
ことができる。 荷主と事業者がとも
に業務に関連するリスクを負うと同
時に、利益も追求できるようになっ
ているのである。
インバウンド業務にも発展
このパートナーシップはその後、ペ
ットボトルの原材料をボトリング工
場に調達する分野にまで広がった。 プ
ラスティックのボトルを作る時には、
小さな?テストチューブ〞から加工
する。 圧縮した材料を使うことで工
場までの輸送コストが削減し、工場
で通常のサイズに膨らませるように
なっている。 荷主は従来、地域ごと
に異なるサプライヤーを使って原材
料を調達していたが、工場を作って
供給先を集約することでコスト削減
を図った。
チャイナ・マーチャンツが解決す
べき課題は、昆山に作った新工場か
ら、中国八カ所に散らばるボトリン
グ工場にどうやって効率的に原材料
を運び込むかであった。 ペットボト
ルの原材料自体は安価なものだが、
それが必要な時になければ大きな売
り上げのロスにつながってしまう。 このためチャイナ・マーチャンツは、鉄
道輸送やトラック輸送、海上輸送な
どを工場間の距離に応じて使い分け
ることで、低コストと安定供給の両
立を図ってきた。
ペットボトルを調達するネットワ
ークができあがると、チャイナ・マ
ーチャンツは、今度は完成品輸送の
帰り便を利用することで、往復の輸
送を効率化しようと考えるようにな
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った。 仮に輸送ルートの近くにペッ
トボトルの加工センターがあるので
あれば、そこへの原材料を納入業務
を請け負う。 また、コンテナを溜め
ておく貨物鉄道の駅や港が近くにあ
るのであれば、そこに立ち寄ること
で荷物を確保する。
このように調べていけば、ある輸
送ルートに取り込むことのできる荷
物はたいてい見つかる。 たとえば輸
送ルートの周辺に、別の車両を仕立
てて完成品を届けるべき顧客がいる
のであれば、そこに寄ることで固定
された往復運賃に見合う荷物を確保
できる。 こうして適切なルートを組
めば、新たに車両を手配して運ぶよ
りコストは安くなる。
完成品の輸送は、顧客に直に提供
するサービスという意味で最も重要
な活動だ。 この際に顧客までの輸送
距離が五〇〇キロメートルを超える
場合、単純に片道を運ぶだけであれ
ば鉄道輸送のコストが一番安い。 し
かし、料金が固定される往復輸送の
貸し切りトラックでは、積み荷の工
夫次第でより安価な輸送を実現でき
るのである。
荷主は原材料の調達料を三カ月前
に正確に予測できるので、チャイナ・
マーチャンツは、トラック輸送のネ
ットワークを比較的容易に組むこと
ができる。 鉄道の輸送枠も早めに確
保することも可能だ。 さらにトラッ
ク車両にGPS(全地球方位システ
ム)を搭載することで貨物追跡も容
易になった。
こうした体制を構築したことで荷
主が得るメリットは、コスト削減は
もちろん、発生するコストを前もっ
て正確に予測できることだ。 地域ご
とのサービスレベルを一定に保つこ
とができ、運賃交渉の窓口を一本化
できる利点もある。
もう一つ重要な点としては、ロジ
スティクス担当の管理職が、賄賂を
受け取る目的で地元の業者を使うことがなくなったことも挙げられる。 サ
ービスレベルの向上を求めたり、K
PIを使って業務を評価し続けるこ
とで、パートナーシップを結んだ企
業と信頼関係が生まれたという好例
といえる。
この荷主と事業者のパートナーシ
ップの次なる段階は、完成品の在庫
を保管するために使っている複数の
倉庫を統廃合して、新たな物流セン
ターを稼働することである。 チャイ
ナ・マーチャンツが出資して新しい
センターを作るのか、あるいは同社
の既存の施設を有効活用することに
なるだろう。
いかなるパートナーシップでも、そ
れを成功させるには時間と、双方の
惜しみない努力が欠かせない。 業務
の見直しは常に行わなければならな
いし、双方が改善提案を出し合うこ
とも大切だ。 ロジスティクス業務と
いうのはもっぱら互いに常識的な考
え方を適応すべき課題だ。 下請け関
係や、独占的な契約の下での改善は
望めない。 これは他国でそうである
ように、中国でも同じだ。
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