2004年10月号
ケース

佐川急便――情報システム

OCTOBER 2004 32 「ペン型」から「レーザー型」へ 街中を走り回る集配ドライバーたちが腰の あたりにぶら下げている情報端末(ハンディ ターミナル)を使って、特別積み合わせ(路 線便)業者は日々、貨物の行方を追跡してい る。
集荷や配達など作業終了時に、ドライバ ーが端末で送り状に貼付されているバーコー ドをスキャン。
そのデータをトラックに搭載 されている発信装置などを経由して吸い上げ、 本社の情報システムで一括管理している。
佐川急便では現在、セールスドライバーや 仕分け作業員たちがPDT(ポータブル・デー タ・ターミナル=携帯型荷物情報読み取り機) を携帯し、?発送人から荷物を集荷した段階 (集荷)、?集荷した荷物を営業所に降ろした 段階(集荷降)、?荷物を方面別に仕分けて 幹線輸送トラックに積み込んだ段階(積込)、 ?幹線輸送を終えて配達店に荷物を降ろした 段階(到着降)、?配達に向かう段階(持出)、 ?配達を終えた段階(配達完了)――の六つ の作業ポイントで、バーコードをスキャンし ている(図参照)。
九〇年代後半からはPDTで集めた情報を インターネット経由でユーザーに提供するサ ービスを始めた。
ユーザーはパソコンや携帯 電話で佐川の貨物追跡システムにアクセスし、 送り状に記載されている問い合わせ番号を入 力すれば、荷物の所在や作業の進捗状況をリ アルタイムに確認できる。
わざわざ佐川の営 顧客の問い合わせに軒先で回答 通信機能が充実した新端末を導入 セールスドライバーが携帯する情報端 末を来年1月に刷新する。
これまでは主 にトラッキング情報の収集に端末を利用 してきた。
今後は端末の画面を通じて発 送人に直接、配達完了情報を伝えるなど 顧客とのコミュニケーション用ツールと しても活用する。
佐川急便 ――情報システム 33 OCTOBER 2004 業所に電話で問い合わせしなくても済むよう になった。
佐川がPDTの導入を開始したのは一九八 四年。
以来、二〇年間で計六回、PDTのモ デルチェンジを実施している。
第一次から第 三次まではペンの先端部分でバーコードをな ぞって読み取る「ペン型」と呼ばれるPDT を活用。
そして九一年に導入が始まった第四 次PDT以降ではバーコードに赤いレーザー をあてて読み取る「レーザー型」と呼ばれる 機種を採用している。
「ペン型」はペンの先端部分をバーコードに あてる角度が適切でなかったり、バーコード をなぞるスピードが遅すぎたり、速すぎたり するときちんと読み取れないことがあった。
これに対して、「レーザー型」はバーコードに レーザーをかざすだけで読み取りが可能だ。
「ペン型」から「レーザー型」への移行はバ ーコードの読み取りスピードや精度の向上に つながり、作業の生産性を高めることに大き く貢献した。
貨物追跡プラスアルファの機能 来年一月、佐川は通算七度目となるPDT のモデルチェンジに踏み切る。
三月までに新 型PDTを約二万台導入。
さらに次年度以降 も導入を続けて、最終的には三万五〇〇〇台 のPDTをすべて新しい機種に切り替える計 画だ。
投資額はシステム開発費などを含めて 総額で約三〇億円を見込んでいる。
過去二〇年間、佐川はPDTを「いま荷物 がどこにあるのか」というトラッキング情報 を取得することだけに利用してきた。
しかし 今回のモデルチェンジではPDTに新たに 「コミュニケーションツール」としての機能を 加える。
具体的には携帯電話のようにインタ ーネットへのアクセスや、メールの送受信を 可能にする。
それによって本社・営業所〜セ ールスドライバー〜顧客間で自由に情報をや り取りできる環境を整える。
佐川では当初、ネットやメールに対応でき る携帯電話を全ドライバーに配布することも 検討した。
しかしPDTと携帯の二つの端末 を持ち歩くようになるとドライバーの作業上 の負担が増す。
「それならば、携帯とPDT の機能を一つにまとめてしまおう。
そんな発 想で開発したのが今回のPDT」とIT戦略 本部ITシステム部の河野哲也SIソリュー ション課長は説明する。
新型PDTには最新の情報・通信技術が 盛り込まれる。
通信手段として採用するのは 第三世代移動通信のFOMA(Freedom of Mobile multimedia Access )だ。
第六次P DTではトラッキング情報を貨物追跡システ ムのサーバーに送信するのにパケット通信方 式のDoPaを活用していたが、これをFO MAに切り替えることで一度に送信できるデ ータの容量をアップ。
通信速度も引き上げる。
このほかにも?業界で初めてWEBおよび メール機能を搭載する、?プリンターなど各 種周辺機器との高速インターフェースを実現 するため、無線通信(Bluetooth )機能を搭載 する、?データの保全や顧客とのデータ交換 を想定してSDメモリーカードの使用を可能 にする、?環境問題に配慮してバッテリーを 乾電池から充電池に切り替える――計画だと いう。
「新型PDTは従来の端末とはまったく異 なるコンセプトで開発を進めた。
機能の充実 ぶりは業界でナンバーワンだと自負している」 と河野課長。
ちなみに今回のモデルは松下電 器産業、パナソニックシステムソリューショ ンズ、エヌ・ティ・ティ・ドコモ関西と共同 で開発した(次ページ写真参照)。
■佐川急便の貨物追跡システム 荷送人 集荷店 配達店 荷受人 集 荷 1 2 集荷降 3 積 込 4 到着降 5 持 出 6 配達完了 佐川急便ネットワーク NTT DoPa網 佐川急便 貨物追跡データベース パソコンから Web対応 FAXから J-Web by ODN iモード Ez Web J Sky H"Link E-mail 携帯電話から 顧客の依頼を放置しない 佐川ではこの新型PDTを使って様々な業 務改善を計画している。
例えば「情報伝達の スピードアップ」。
いつでもどこでも本社や営 業所からセールスドライバーに必要な情報を リアルタイムに提供できる体制の構築を目指 すという内容だ。
現在、佐川では営業所・コールセンター〜 セールスドライバー間の情報伝達にトラック に搭載しているMCA無線を使用している。
?音声で直接、?MCA無線端末のモニター に表示、?端末に接続しているプリンターか ら紙ベースで表示――のいずれかの方法でド ライバーに指示を伝えてきた。
ただし、この方法には問題点も少なくなか った。
MCA無線はトラックの運転席に固定 されている。
そのため、ドライバーが集荷や 配達の作業でトラックから離れている間は指 示が伝わらないのだ。
その結果、集荷や再配 達の依頼を迅速に処理できず、長時間放置し てしまうケースもあった。
しかし新型PDTの導入によって、ドライ バーはPDTを携帯していれば、トラックか ら離れていても営業所やコールセンターから の指示を受け取れるようになる。
営業所やコ ールセンターからメール形式で作業指示をP DTに送信。
ドライバーはPDTでその情報 を受信、モニターを通じて確認できる。
現役のあるセールスドライバーは「ひと通 り作業を終えてトラックに戻ると営業所やコ ールセンターから集荷の指示が入っている。
それに従ってわたしたちはお客さんのもとに 走る。
指示は一日に何回もあり、その度にト ラックとお客さんの間を行き来しなければな らなかった。
PDTに直接指示が入るように なれば、作業時間の短縮につながる」と期待 を寄せる。
集荷から配達へ荷扱いを指示 「トラッキング情報のリアルタイム化」も実 現する。
この取り組みはPDTでスキャンし たデータをリアルタイムに貨物追跡システム に反映させることで、より正確なトラッキン グ情報をユーザーに提供しようというものだ。
PDTでスキャンしたデータをFOMA経由 で一〇〜一五分おきに貨物追跡システム用の サーバーに送信。
システム上に流すトラッキ ング情報を随時更新していく。
従来はPDTで吸い上げたデータを作業終 了時にトラックに搭載した発信装置からまと めてサーバーに送信していた。
そのため実際 に作業を終了した時間と貨物追跡システムで 表示される作業終了時間とのあいだにタイム ラグが生じていた。
例えば、「都市部のビル街で集荷を担当し ているドライバーたちはいったんトラックか ら離れると一〜二時間戻ってこないこともあ る。
それによって、その日最初に集荷した荷 物のデータは一〜二時間、PDTの中に入っ たままで処理されない状態になっていた。
お 客さんから『荷物を出したはずなのにネット で照会できない』というクレームが寄せられ ることもあった」(河野課長)という。
新型PDTは集荷を担当する営業所と配達 を担当する営業所の情報交換にも役立つ。
例 えば、顧客から集荷担当のドライバーに「送 り状に記載されている荷受人以外には荷物を 渡さないようにしてほしい」という依頼があ っても、これまではそうした情報が配達担当 のドライバーまで伝わらないこともあった。
荷 物を逆さまにしないよう「天地無用」のシー ルを貼ったり、配達遅れを防ぐため「配達時 間指定」のシールを貼ったりして、集荷側から 配達側へ荷扱いに対して注意を促してきた。
しかし配達担当のドライバーが発送人の細か いニーズまで汲み取ることは困難だった。
今後はこの問題も解消できる。
まず集荷担 当ドライバーが顧客からの指示(荷扱い方 法)を顧客管理システムにデータ入力する。
翌日、配達担当ドライバーはPDTでその情 OCTOBER 2004 34 来年1月に導入する新型PDT 右:PDT 左:携帯用プリンター 35 OCTOBER 2004 報を受け取る。
「持出」作業時にバーコード をスキャンすると、データがPDTの画面に 表示される仕組みだ。
スキャン時にはPDT から警告音(アラーム)が出るため、配達担 当ドライバーが集荷担当ドライバーからの伝 達事項を見落としてしまうこともないという。
さらにこんな使い方もある。
前日にAとい うドライバーが得意先からクレームを受けた としよう。
Aドライバーは業務終了後、その ことを顧客管理システムにデータ入力する。
翌日に同じ得意先を担当するBというドライ バーに、前日にクレームを受けたという事実 をきちんと伝えるためだ。
BドライバーはP DTを通じてその情報を入手できるため、適 切な対応が可能になる。
「前日にクレームを受けているにもかかわら ず、別のドライバーが何喰わぬ顔で得意先を 訪問するのはとても失礼だ。
『昨日は申し訳 ございませんでした』と一言声を掛けるだけ で相手の印象はがらりと変わる。
新型PDT を活用すれば、そうした心配りもできる」と 河野課長は指摘する。
軒先で判取りデータドライバーは集荷時に軒先で顧客から直接、 前日出荷分の荷物の配達状況や各種サービス の詳細などについて尋ねられることがある。
その場で答えられない場合はいったん持ち帰 り、営業所などに確認に連絡を入れた後、再 び顧客を訪問して質問に答えるようにしてき た。
しかし新型PDTの導入後は顧客の問い 合わせにその場で瞬時に回答できる。
顧客から配達完了情報を求められたとしよ う。
ドライバーは携帯しているPDTに送り 状の問い合わせ番号を入力して貨物追跡シス テムにアクセス。
そこから入手した配達完了 情報をPDTのモニターに表示して直接、顧 客に見せればいい。
「いつ誰が配達を済ませ たか。
そういう細かい情報まで軒先で顧客に 提供していく」と河野課長は説明する。
一般にトラック運送会社では配達時に荷受 人から受け取ったサインや受領印が記された 伝票(判取り伝票)を紙ベースのままで管理 している。
これに対して佐川では判取り伝票 をスキャナーでイメージ画像として取り込み、 データ化して保存している。
発送人から判取 り伝票の提示を求められた場合、紙ベースで 管理していると目当ての伝票を探し出すのに 時間が掛かるが、データ化されていれば検索 が容易になるからだ。
佐川が判取り伝票を発送人に提供するまで の作業の流れはこうだ。
まず発送人から要請 を受けたドライバーが配達担当の営業所に連 絡を入れる。
営業所は判取り伝票のイメージ 画像が入っているディスクの中から必要な伝 票を検索する。
見つけ出したらその写しをフ ァクスで発送人に送信している。
依頼を受けてからファクス送信までのリー ドタイムは五〜一〇分とスピーディーだ。
そ れでも佐川では「実際には配達が完了してい るのに、社内の別の人が荷受けしてしまった など何らかの手違いで荷受人から『荷物が届 かない』というクレームを受けた発送人は、 一刻も早く荷受人に判取り伝票の提示を済ま せたいはずだ。
要請があったらすぐに判取り 伝票の写しを提供できる」(河野課長)体制 を理想としてきた。
ここでも新型PDTが活躍する。
PDTで 問い合わせ番号を打ち込んで、判取り伝票の データを管理するシステムにアクセスすれば、 すぐに判取り伝票のイメージ画像をPDTで 取り込めるようになる。
発送人にはPDTの モニターを通じてその画像を見せればいい。
一 方、荷受人に対しては従来通りファクスで伝 票の写しを送信するかたちとなるが、これま でのように営業所経由ではなく、PDTから 直接、ファクス送信を手配できる体制になる。
これまでに紹介した新型PDTを使った業 務改善や新サービスはほんの一例にすぎない。
来年一月の本格導入まで、まだ時間は残され ている。
佐川では引き続き新たな活用方法を 研究していく方針だという。
(刈屋大輔) IT戦略本部ITシステム部の河野 哲也SIソリューション課長

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