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佐高信
経済評論家
49 OCTOBER 2004
TBS系テレビで、新装「時事放談」がス
タートしている。 政治評論家の岩見隆夫を司
会とし、中曽根康弘、宮澤喜一、後藤田正晴、
塩川正十郎、野中広務の五人が常連ゲストで
ある。 その一〇回分までがまとまって講談社
から刊行されたが、たとえば第三回で、後藤
田はこう憂えている。
「どうも世の中が、少し国家主義的な傾向が
強くなってきている。 しかも強者の論理、す
べてがね。 これはちょっとやはり心配だなあ、
と。 気をつけてもらわなきゃいけないな、と
そんな気がしているんですよ」
この回のテーマは「小泉政治の三年を総括
する」。
これを受けて野中は、与野党とも「言葉が
荒っぽい」とし、「議員内閣制を無視したいま
の小泉さんの手法、これはたしかに国民の支
持を得るかもしれないけれども、日本のこれ
からの一〇年、二〇年先に本当にどういう形
になっていくのか」と心配している。
小泉の議員内閣制無視の手法とは「民間人
の諮問機関がつくった政策を、民間人の大臣
に実施させるやり方」だが、野中の批判の矛
先は、それに迎合しているマスコミにも向け
られる。 その端的な例が、イラクのサマワに
いる自衛隊の取材活動について、日本新聞協
会と民間放送連盟が自衛隊と協定を結んだこ
とである。
「私はあれを聞いて、これはマスコミの自殺行為だと思った。 何のために、ああいう協定
を結ばなくちゃならないんだと。 むしろ一〇
〇パーセントを譲って、百歩譲って、やっぱ
り派遣している職員の安全と取材の確保をす
るために協定をする、と言うんなら、内閣府
とするべきです。 軍隊である防衛庁とやると
いうのは、内閣総理大臣の下にあるシビリア
ン・コントロールを、マスコミが否定したこ
とです。 これは本当に情けなく、腹立たしく
思いました」
野中の指摘する通りだろう。 こうした原則
をマスコミは野中に教えてもらわなければわ
からないのか。 単純で奥行きのない小泉に迎
合している間に、マスコミ自身も浅薄になっ
てしまったらしい。
保守の長老が、というより、保守の長老で
さえ、次のように批判するイラク戦争「支持」
に対しても、マスコミの論調は極めて弱い。
後藤田にこう代弁させて事足れりと思って
いるのだろうか。
「イラク戦争それ自身も、つくられた情報に
基づいて、そして、国際的な承認も得ないま
まの、アメリカの先制武力攻撃だったんです。
私は必ずしも大義はないと思いますね。 それ
に対して、いち早く小泉さんが、どういうお
考えかわからなかったけれども、まあ、日米
同盟をお考えになったんでしょう。 それから
北朝鮮の問題も頭にあったと思いますね。 ま
あ、そういうことで、いきなり『支持する』
と、こうおっしゃったわけですね。 しかし、
もともと大義そのものが疑わしい英米の単独
武力行使に、日本が支持をするということで、
しかも、本来専守防衛の自衛隊をイラクに派
遣するということになりますと、もう少し、
イラクの今度の戦争の先行きがどうなるんだ
ろうかなあ、国際的などういう動きが出てく
るんだろうかなあ、ということもお考えにな
って、もう少し慎重に判断をしたらよかった
んではないか」
後藤田や野中はもう自民党の現役の議員で
はない。 現役で反対したかに見える加藤紘一、
亀井静香、古賀誠などが圧倒的少数派である
ことを考えれば、マスコミはもっともっと小
泉政権に批判的であるべきだろう。 私は小泉
は、アメリカ、銀行、財務省の三つに極端に
弱いと指摘してきた。 沖縄の米軍ヘリの事故
に何も言えないこと、銀行が喜ぶ郵政民営化
を遮二無二進めようとしていること、スキャ
ンダルにまみれた財務省の元次官や元主計局
長を復権させたことで、それは明らかである。
保守派の長老が憂える小泉政治の暴走を
文民統制の原則すら忘れマスコミが煽る
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