ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年10号
値段
日立物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2004 42 3PLは二ケタ増で推移 日立物流は日立グループに属する物流子会 社だ。
親会社である日立製作所の出資比率は 二〇〇四年三月期末で五三・二%。
とはい え親会社への依存度は低く、近年は外販を伸 ばしている。
業界内では日本における3PL (サードパーティ・ロジスティクス)のパイオ ニア企業として知られる。
二〇〇四年三月期の業績は売上高二六四 八億円、営業利益七三億円だった。
上場陸 運企業の中では売上規模が日本通運、ヤマト 運輸、西濃運輸、山九に次ぐ第五位に位置 する。
部門別の売上高は国内物流一八〇九 億円、国際物流五一五億円、その他三二四 億円。
一方、営業利益の規模は福山通運、日 本梱包運輸倉庫に抜かれて第七位となった。
現在の時価総額は一〇〇〇億円程度であ る。
ヤマト運輸(七七〇〇億円)、日本通運 (六〇〇〇億円)、西濃運輸(一九〇〇億円)、 福山通運(一四〇〇億円)に次いで五番目 の規模を確保している。
日立物流を評価する際のファンダメンタル ズ(経済活動状況を示す基礎的要因)上の ポイントは、?3PL事業の成長性と収益 力、?日立グループが及ぼす影響、?グロー バル物流の取り組み、?こうした事業がもた らす全体の収益性――の四点に集約されよう。
?3PL事業については総じて高い評価が 定着しつつある。
八〇年代半ばに業界内でい ち早く同事業に着手して以来、順調に成長を 遂げている。
「システム物流」と呼ぶ3PL 事業の売上高は二〇〇四年三月期に前期比 二三・〇%増の九五四億円を記録。
売り上 げ全体に占める割合も三六・〇%に達した。
二〇〇三年二月に稼働した京都のイオン 向け大型物流センター(関西NDC)や、新 たに立ち上がったプロジェクト一八件が増収 に大きく貢献した。
二〇〇五年三月期の第 1四半期(四〜六月期)も前年同期比で十 一%の増収を確保するなど依然として好調を キープしている。
3PL事業の成長率は過去五年間(二〇 〇〇年三月期〜二〇〇四年三月期)、年平均 で一四・四%に達する。
コア事業に経営資 源を集中させるため、物流をアウトソーシングする企業が増えており、日本の3PL市場 が急速に拡大したことが追い風となった。
ただし、陸運会社や倉庫会社、さらに商社 や卸売業者など3PL事業に新規参入する プレーヤーは年々増加しており、3PLをめ ぐる競争は激しくなる一方だ。
それでも日立 物流の場合は先行者として蓄積してきた物流 センター運営やシステム開発のノウハウ、実 績に裏打ちされた高いブランド力を有してい る点、ターゲットとする分野を流通・医薬関 連に絞り込んでいる点などが強みとなって事 業規模の拡大に成功している。
課題とされてきた収益性についても、赤字 案件が一掃されるなどプラス材料が増えてき 第6回 日立物流 日立物流は親会社の日立製作所が過半の株式を保有する物流 子会社でありながら、事業的には親会社への依存度が低い。
3 PL事業を中心に外販を伸ばしている。
当面の課題は他の有力 物流企業に比べ見劣りする利益率を改善することにある。
久保雅裕 メリルリンチ日本証券 シニアアナリスト 43 OCTOBER 2004 た。
国内物流事業という括りで比較すると、 「一般物流」よりも「システム物流」のほう が利益率が高くなりつつある。
3PL事業の 収益性は改善しつつあると言えるだろう。
3PLとは対照的に?日立グループ向け 事業は縮減傾向にある。
二〇〇四年三月期 の売上高は前期比四・六%減の七六三億円 (単体ベース、売上構成比は三八・〇%)だ った。
過去五年間は年率六・四%のペースで 減少している。
日立グループ全体での事業リ ストラクチャリングに伴い、生産拠点の海外 シフトや、電力プラント関連など重厚長大型 事業の縮小などが進み、運賃やサービスの収 受単価見直しを余儀なくされたことが響いた。
グローバル競争に晒されている日立グルー プを取り巻く環境を踏 まえれば、こうしたト レンドが短期間で変化 する可能性は極めて低 い。
コスト合理化に加 えて、グループ向け3 PL案件の提案といっ た対応策が期待されて いるが、現時点では十 分な成果を上げている とは言えない。
?グローバル物流は 中期経営三カ年計画 (二〇〇四年三月期〜 二〇〇六年三月期まで が対象)の中で、3P L事業と同様にコアビ ジネスの一つに掲げられている。
中期計画期 間内での増収目標は一一〇億円。
これをメキ シコボーダー物流の拡販と、中国事業の強化 で達成しようという戦略を打ち出した。
とりわけ中国マーケットの開拓には熱心だ。
二〇〇二年八月には華東地区で上海航空と の合弁事業をスタート。
さらに華南・深 地 区でも合弁会社を設立し営業を開始している。
ビジネスの対象地域を拡げると同時に、輸配 送ネットワークを整備。
アパレル関連を中心 とした物流需要の取り込みを図っている。
もっとも輸出入フォワーディング業務も含 めた国際物流事業セグメントの売上構成比は 全体の一九・五%にとどまっている。
営業利 益率は二・四%(二〇〇四年三月期)にす ぎない。
他の事業に比べ利益貢献度は小さい。
今後どうやって収益を底上げしていくかに注 目が集まりそうだ。
国際、旅行の収益性改善を ?全体の収益性では営業利益率が二・八% と低水準にとどまっている点が気掛かりだ。
業界内の優良企業として知られるヤマト運輸 の営業利益率は四・六%に達する。
また、経 営規模は小さいものの、3PLに特化してい るハマキョウレックスは八・三%を確保して おり、この二社と比べるとやや見劣りする。
ROE(株主資本利益率)は三・七%で、 資本コストを下回ると推計される(二〇〇四 年三月期実績)。
国際物流事業、さらに旅行 事業を含めた「その他事業」の収益性の低さ が響いていると考えられよう。
以上の四つのポイントのうち、?3PL事 業への評価が高まりが、最近の同社の株価に 反映されているようだ。
3PL事業が二〇〇 三年三月期以降の業績好転の原動力になっ ていること、中期経営三カ年計画において成 長シナリオの核として位置付けられているこ とが資本市場(マーケット)で認識され、株 価が回復基調に転じている。
業績悪化で大幅な下落に転じた九八年夏 以前に、同社の株価は一〇〇〇円を超える 水準にあった。
現状のレベル(現在、九〇〇 円前後)は本格的な回復に至る前の段階で ある。
株価バリュエーション指標でもPER (株価収益率)が二〇倍程度と業界平均レベ ルにとどまり、PBR(株価純資産倍率)で は〇・八倍と一倍を下回り、純資産以下の 評価となっている。
こうした状況を打破して、資本市場から現 在以上の評価を受けるには、3PL事業のさ らなる強化はもとより、日立グループ向けの ビジネス、グローバル物流、収益性の改善と いったそれぞれテーマに対して、明確な成果 を上げていくことが欠かせないと言える。
くぼ・まさひろ 八八年東京大学法学部卒。
九 一年ジョージタウン大学大学 院(MBA)卒。
大和総研、ク レディスイス信託銀行を経て、 二〇〇〇年よりメリルリンチ 日本証券。
九三年よりアナリ ストとして運輸業界を担当。
著者プロフィール 日立物流の過去10年の株価推移

購読案内広告案内