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NOVEMBER 2004 78
前月号のインタビューで説明した通り、ウ
チの会社は中堅特積み業者の近鉄物流を買収
することになった。 近鉄物流をグループ傘下
に収めて特積み事業に本格参入する。 近鉄物
流の売上高は約五〇〇億円。 買収によってウ
チの会社の売上高はグループ全体で八〇〇億
円超となる。 当面の目標だった売上高一〇〇
〇億円の達成にまた一歩近づいた。
当初、一〇〇〇億円はもう少し先になる予
定だった。 しかし今回の買収で二〜三年後に
は到達できる見通しとなった。 これでウチの会
社も大手の仲間入り、と喜んでばかりはいら
れない。 売り上げという規模の追求も大切だ
が、それ以上に利益をきちんと確保すること
が重要だ。 株主たちに「ハマキョウは特積み
に参入してから利益率が低くなった」と言わ
れないように、努力を続けていきたい。
発表後、いまこの時期になぜ特積み事業な
のかとよく聞かれる。 インタビューでも答えた
が、その理由は簡単だ。 特積みの対象となる
貨物は今後もさらに増えていくことが予想さ
れるからだ。 実際、物流の多頻度小口化で荷
物のサイズはどんどん小さくなってきている。
これからは特積みが儲かる時代がやってくる。
チャンスは大きい。 九州や東北など特定エ
リアでのサービスに限定する特積み会社が多
いが、これに対して近鉄物流は全国をカバー
している。 他社が、自社でカバーしていないエ
リア向けの荷物の配送を外部委託するのに対
し、近鉄物流は自社で一貫したサービスを提
供できる。 それが最大の強みだ。 現在、お客
さんは質の高い特積みサービスを求めている。
買収後に何をするか。 まずは近鉄物流の社
員たちと膝を突き合わせて、ざっくばらんに話
がしたい。 酒を酌み交わしながらでもいい。 現
場で働く近鉄物流の社員一人ひとりの意見を
聞いて回ることが最初の仕事だ。 現場の声に
耳を傾ければ、近鉄物流という会社の良い面や悪い面が自然と見えてくるはずだ。 近鉄物流には労働組合がある。 だからとい
って尻込みしない。 組合があろうが、なかろう
が、人間というのはみんな一緒だ。 こちらが心
を開けば、相手もきっと心を開いてくれる。 ハ
マキョウと近鉄物流は同じ静岡県に本社を置
く。 打ち解け合うことに心配はしていない。
もちろん、頭ごなしにハマキョウ流を押しつ
けようとすれば、近鉄物流の社員たちも反発
するに違いない。 近鉄物流は伝統のある会社
だ。 彼らはウチの社員たちに欠けているノウハ
ウをたくさん持っている。 彼らの意見も尊重
しなければならない。 もっともハマキョウのい
最終回「
五
〇
年
後
に
残
る
会
社
と
は
」
近鉄物流の買収で念願の売上高一〇〇〇億円の達成が現実
味を帯びてきた。 残る大きな仕事は後継者選びだ。 候補者は
たくさんいる。 それだけに選ぶのが難しい。 コミュニケーシ
ョン能力に優れた社員を次期社長に据えたいと考えている。
大須賀正孝ハマキョウレックス社長
――ハマキョウ流・運送屋繁盛記
79 NOVEMBER 2004
い部分、例えば現場のコスト管理手法などは
どんどん吸収してもらうつもりだ。
やらまいか会長業
近鉄物流の買収という大仕事が一段落した
ら、いよいよ次はハマキョウの次期社長選び
に本腰を入れようと思っている。 会社が永続
的なものになるかどうかは経営トップの能力に
大きく左右される。 ダメなトップだと会社はあ
っという間に潰れてしまう。 会社の五年先、一
〇年先、そして五〇年先を見据えたうえで後
継者にバトンタッチしたい。
どんな人材が企業のトップに相応しいか。 頭
がいいに越したことはない。 ただしオレは、勉
強ができる、できないということよりもコミュ
ニケーション能力をとくに重視したい。 話がで
きる。 そして人の話をちゃんと聞ける。 そんな
人材を社長に登用するつもりだ。
運送会社にはオーナー経営者が多い。 その
こと自体は決して悪いことではない。 しかしオ
ーナー経営者が何もかも自分で決めてしまう
ような組織はよくない。 時にはトップダウンで
判断を下すことも必要だが、言うことを聞か
ない部下の首を簡単に切ってしまうような独
裁者になってはいけない。
企業のトップは野球の監督と同じ。 いい成
績を残せる監督はコーチ陣や選手たちの話に
ちゃんと耳を傾けている。 選手のいま調子は
どうなのか。 コーチや選手本人に聞いてから
試合で起用するかどうかの判断を下している。
これに対して、成績の悪い監督は人の話に
聞く耳を持たない。 選手の好き嫌いや過去の
実績などから選手起用を決めている。 そして
起用した選手が活躍せずに試合に負けてしま
った場合、その責任を選手に転嫁する。
ウチの会社では社長になることができるチャ
ンスを社員全員に与えている。 とはいえ、二
〇代の若手社員がいきなり社長になれるわけ
ではない。 物流マンとしての経験が欠かせない。
現場を知り尽くすためにもセンター長の経験
も必要だ。 そうなると自然に三〇〜五〇代の
社員の中から後継者を選ぶことになる。
この年代には有力なメンバーが揃っている。
あえて名前は挙げないが、すでにオレ自身は
数人をピックアップしている。 いきなりタスキ
を渡すと本人もびっくりするだろうから、少し
ずつそれらしいことを臭わせていこうと思う。
一本釣りもいいが、日替わりで社長業をや
らせてみて、その中から適任者を選ぶというや
り方もいいな。 社長のイスに座った途端、態
度が豹変する可能性もあるから、一度やらせ
てみたほうが失敗しなくていい。 センター長資
格制度のように、社長資格制度のようなルー
ルや試験を設けるという手もある。
バトンタッチの時期はまだ決めていない。 し
かしその日はそう遠くはなさそうだ。 もちろん
社長業を終えても、しばらくは会長として会
社を後方から支援していくつもりだ。
二〇〇三年四月にスタートした、この連載
は二〇回目となる今回(インタビュー記事を
含む)で最終回を迎える。 お陰様でたくさん
の方々に読んでいただけたようだ。 色々な場
所で「連載頑張ってください」と声を掛けら
れた。
どうやって物流会社を経営していけば、会
社が大きくなるのか。 そしてどうすれば赤字経
営から脱出できるのか。 そのノウハウを伝える
ことで、少しでも物流業界の役に立てれば、と
いう思いで毎月続けてきた。 文章に少々乱暴
な表現もあったかとは思うが、その点はご勘
弁願いたい。
連載でも紹介したが、最近は講演を依頼さ
れるケースが多い。 話は得意なほうではないが、
そうした依頼にできるだけ応えるようにしてい
る。 講演会場でお目に掛かる機会があれば、遠
慮なく声を掛けてほしい。
いざ最終回を迎えるとなんだか寂しい気持
ちになるから不思議だ。 書き切れなかったこと
は山ほどあるが、このへんで筆を置かせもらう。
しかしまた何らかのかたちで誌面に登場したい
と思っている。 今度は「やらまいか会長業」な
んて連載はどう?
おおすか・まさたか
一九四一年静岡県
浜北市生まれ。 五六年北浜中卒、ヤマハ
発動機入社。 青果仲介業などを経て、七
一年に浜松協同運送を設立。 九二年に現
社名の「ハマキョウレックス」に商号変
更した。 二〇〇三年三月に東証一部上場。
主要顧客はイトーヨーカ堂、平和堂、フ
ァミリーマートなど。 流通の川下分野の
物流に強い。 大須賀氏は現在、静岡県ト
ラック協会副会長、中堅トラック企業の
全国ネットワーク組織であるJTPロジ
スティックスの社長も務めている。 ちな
みにタイトルの「やらまいか」とは遠州
弁で「やってやろうぜ」という意味。
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