ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年11号
進化のゆくえ
危険水域にある欧米との体力格差

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NOVEMBER 2004 62 わすものだ。
世界の小売事業者の営業利益率を広く比較 すると、日本の総合量販店(GMS)、百貨店、 スーパーマーケットの利益率の低さに愕然とさ せられる。
言い換えれば、危険なほどの低水準 にあり、欧米企業との体力格差に改めて驚かさ れる。
欧米の小売業の営業利益率が一般に四〜 五%台であるのに対して、イオン、イトーヨー カ堂、ユニーといった日本勢のそれは一%台。
スーパーマーケットについても、ヨークベニマ ルなど一部の強い企業を除けば同程度の低水準 にある。
利益率を左右する販管費の差 企業の業績や、業界別の寡占度を分析してい くと、人間にたとえれば?体格〞ともいうべき ものが浮き彫りになる。
日本と欧米の小売事業 者について調べていくと、その歴然とした?体 格差〞に驚かされる。
そして競争の際には、こ れが?体力差〞となってあらわれる。
小売業の?体力差〞を見極めるためには「営 業利益率」に注目するといい。
これは売上総利 益率(粗利率)から販管費率(販売費及び一般 管理費)を除いた指標で、本業の利益率をあら ただし、こうした企業とは対照的に日本勢で もファーストリテイリング(ユニクロ)やニト リ、しまむらなどの専門店の営業利益率は高い。
とくに製造小売業(SPA)と呼ばれる商品開 発型のビジネスモデルをとっているファースト リテイリングやニトリの営業利益率は、ゆうに 一〇%を超えている( 図1 )。
総合量販店とスーパーマーケットは、売上高 が大きいことや、店舗数が多いことで日本の流 通における存在感が大きい。
ところが収益力は 極めて弱いという実態がこれではっきりと分か る。
営業利益率を改善できなければ十分なキャ プリモ・リサーチ・ジャパン 鈴木孝之 代表  第2回 危険水域にある欧米との体力格差日本の小売業の「営業利益率」を欧米企業と比較すると、その実力差に 改めて驚かされる。
最大の要因は現場オペレーションだ。
ウォルマートを はじめとするグローバル小売業の売上販売管理費率は、日本企業とは比較 にならないほど低い。
しかし日本でも、昔ながらの?士農工商〞的な小売 業とは一線を画する、新しいタイプの事業者が台頭してきた。
63 NOVEMBER 2004 ッシュフローも得られず、拡大と競争力強化の ための投資も十分にはできない。
前述した通り、営業利益率は売上総利益率か ら販管費率を除外した数字だ。
営業利益率を改 善するためには、この二カ所にメスを入れる必 要がある。
欧米のグローバルリテーラーと日本の小売業の比較をしていて、まず気がつくのは、 こうした指標に表れている差だ。
米ウォルマー トと比べると、イオンやイトーヨーカ堂、そし て日本のスーパーマーケットの売上総利益率は 高く、その一方で販管費率も高い。
売上総利益率は商品粗利率とつながっている。
これが高ければ営業利益率も高くなって当然な のだが、日本の小売業はなぜかそうなってはい ない。
販管費率が高いため、売上総利益率の高 さが営業利益率に反映されないのである。
数字を分析していくと、販管費率の高さが日 本の小売業の体力を弱める元凶であることが分 かる。
販管費率が高ければ、これを吸収するた めに売上総利益率も高くなければならない。
見 方を変えれば、日本の小売業のハイコスト構造 が、ハイマージンを必要としているということ が言える。
ハイマージンを求めれば、恐らく本来はもっ と安く消費者に提供できるであろう商品に高い 価格をつけることが避けられなくなる。
ウォル マートが低い売上総利益率にも関わらず、イオ ンやイトーヨーカ堂の約三〜四倍という高水準 の営業利益率を確保できるのは、取りも直さず 販管費率が圧倒的に低いためだ。
商品コストに 関する会計処理基準の日米の違いを考慮しても、 日本と米国の有力小売業の販管費率の格差は 明らかだ。
では、どうしてウォルマートの販管費率は、 イオンやイトーヨーカ堂に比べて一〇ポイント も低いのか。
販管費のなかの最大の経費は人件費だ。
つま り、人を使うオペレーションレベルの差が、?人 時生産性〞(一人の作業者が一定の時間に生み 出す付加価値)の差としてあらわれているので ある。
九〇年代のウォルマートは経営規模の拡大を ひたすら追求してきた。
それに加えて商品調達 や情報システム、物流などオペレーションの各 分野で効率的なシステムを構築した。
これが現 在、売上総利益率、販管費率、そして結果とし ての営業利益率のライバルとの差になってあら われている。
こうした世界レベルの小売業に対抗していく ためには、日本の総合量販店とスーパーマーケットも、目標として営業利益率五%の達成を目 指さなければならない。
そこに向けて商品調達 コストとオペレーションコスト(経費)の両コ スト構造の改革に取り組むことが、日本の小売 業にとっては、もはや選択の余地のない至上命 題なのである。
?士農工商〞からの脱却 世界最大の小売業であるウォルマートは、同 時にメーカーなどを含む全企業のなかで世界最 大の売上高を持つ組織でもある。
米フォーチュン誌が毎年発表している「フォ 図1 日米欧の有力小売業の経費率・利益率の比較 1/03 2/03 12/03 03/8 2/04 2/04 2/04 2/04 2/04 2/04 8/03 2/04 2/04 21.5 ★★ ― 27.1 25.3 27.7 24.0 25.8 26.0 23.2 44.7 28.4 50.8 22.4 ― ― ― 30.6 29.0 28.2 28.4 27.9 25.7 ― 28.9 ― 16.8 ★★ ― 21.4 29.2 27.3 26.3 27.3 28.1 21.7 29.3 21.7 40.1 5.6 5.7 4.4 5.7 1.4 1.6 1.9 1.1 1.8 4.0 15.4 7.3 10.7 5.2 5.2 4.0 5.8 1.6 2.9 1.9 0.8 1.8 4.1 15.6 7.2 11.0 3.3 3.6 2.0 3.6 0.9 1.9 0.8 0.4 0.5 2.3 6.2 3.9 6.5 売上総利益率 営業総利益率 販管費率 営業利益率 経常利益率 (税引前利益率) 純利益率 ウォルマート (米) テスコ (英) カルフール (仏) ウォルグリーン (米) イオン イトーヨーカ堂 ユニー ライフ コーポレーション マルエツ ヨークベニマル ファースト リテイリング しまむら ニトリ 外  資 総 合 量 販 店 スーパーマーケット 専 門 店 ★★)会計処理基準が日本と異なるため表示しない。
NOVEMBER 2004 64 で日本の小売業界でトップに君臨していた百貨 店の三越を抜き、ダイエーが日本最大の小売業 になっても、財界における小売業の地位は低いままだった。
産業化で流通構造を変革する しかし時代は変わり、いまや日本でも小売業 が大きな力を持ちつつある。
たしかに百貨店は、 売上高ばかりか経営の近代化においても総合量 販店に遅れをとった。
これに代わって、いま最 も小売業界で存在感が大きいのは一部の総合量 販店だろう。
一言で総合量販店といっても、プレーヤーの 顔ぶれは一昔前とは様変わりしている。
西友、 マイカル、ダイエーが次々に破綻、またはそれ に近い状態に陥った結果、現在の業界構造はイ オンとイトーヨーカ堂の二社を核とするように 変わっている。
従って、正確に言えばこの二社、 とりわけ著しく変化し続けているイオンが、日 本の小売業界全体と流通構造に大きな影響を与 える存在になっている。
もちろんコンビニエンスストア、とくにセブ ン ―イレブン・ジャパンの影響力も大きい。
ま た、古い流通構造に甚大な影響を及ぼしている という意味で、ファーストリテイリングをはじ めとする製造小売業の存在も忘れるわけにはい かない。
かつての伝統的な日本の小売業は、メーカー が作った製品を卸から仕入れることだけで成り 立っていた。
これに対してファーストリテイリ ーチュン五〇〇」のトップは、最近ではウォル マートの指定席になっている。
ウォルマートの 下にはGMやエクソン、トヨタ自動車、GEな ど、そうそうたる世界企業が名を連ねている。
ウォルマートは自動車や石油などの基幹産業を 差し置いて一位にランクされているばかりか、 近年、二位以下の企業との売上高の差は拡大す る一方だ。
売上の伸び率も二ケタ増と二位以下 を圧倒している。
産業界においてこのような位置を占めるウォ ルマートという存在を、どう認識すべきなのか。
そこでは、単に世界最大の小売業というだけで なく、同時に?最も産業化の進んだ世界最大の 企業〞という認識を持たなければならない。
販売アイテムの多さや、グローバルな商品調 達、そしてそれらをコントロールする情報シス テムと物流体制、さらに多数の店舗のオペレー ションシステム――。
こうした事実を知れば知 るほど、ウォルマートがとてつもない企業であ ることが分かる。
単に巨大であるばかりでなく、 優れたノウハウを持つ企業として、世界の産業 界のなかで自動車産業を含む他産業と同等の高 い評価を受けている。
翻って、日本の小売業の立場を考えてみたい。
日本では歴史的に小売業に力がなかった。
商 業を他の職業と比べて一段低いものとみなす傾 向も強かった。
このため産業的にも社会的にも ?士農工商〞という言葉に象徴される立場に長 いこと止まっていた。
一九六〇年代から始まっ た「流通革命」の第一フェーズを経て、それま 図2 日本の主な有力小売業の経営指標 04/2 04/2 04/2 03/12 04/2 04/2 04/2 04/2 04/2 04/2 25.3 27.7 21.8 25.0 24.0 25.0 25.8 26.0 22.7 26.0 30.6 29.0 25.6 30.3 28.2 27.5 28.4 27.9 26.3 31.2 29.2 27.3 24.6 29.2 26.3 26.2 27.3 26.1 22.2 28.0 1.4 1.6 1.0 1.1 1.9 1.4 1.1 1.8 4.1 3.2 1.6 2.9 1.2 0.1 1.9 1.1 0.8 1.6 4.0 3.0 0.9 1.9 1.0 -1.6 0.8 0.5 0.4 0.5 2.2 1.4 売上総利益率 営業総利益率 販管費率 営業利益率 経常利益率 純利益率 04/2 04/2 04/3 04/3 04/2 04/2 04/3 20.4 25.4 25.8 21.7 23.2 26.3 23.7 25.1 28.3 30.1 24.5 25.7 29.5 27.9 23.9 26.4 26.8 20.4 21.7 26.4 22.6 1.1 1.9 3.3 4.1 4.0 3.1 4.4 1.2 1.5 3.6 3.4 4.1 3.2 4.4 0.5 0.8 1.6 1.1 2.3 1.9 2.3 イオン イトー ヨーカ堂 ダイエー 西友 ユニー イズミヤ ライフコーポ レーション マルエツ イズミ 平和堂 フジ 東急ストア バロー 丸久 ヨーク ベニマル オークワ ヤオコー 65 NOVEMBER 2004 ングは、自らのリスクで契約工場に自分たちの 商品を作らせている。
しかも海外でこうした活 動を行うという意味で、従来の日本の小売業を 超える、まったく新しいビジネスモデルを打ち 立てて頭角を現した。
製造小売業は、生産、流通(卸)、小売りと いう歴史的な役割分担の壁を崩した。
川下の小 売りから生産の源流にまで遡って、生産から販 売に至るまでの全過程を自らコントロールしよ うとする。
欧米の小売業界では、こうしたビジ ネスモデルはもはや一般的だ。
しかし日本にお いては新鮮だった。
最近では多くの日本の小売 業が、部分的もしくは会社全体として製造小売 業を志向するようになっている。
ただし、製造小売業を実現するにはいくつかの条件が必要だ。
製造小売業は商品の生産ライ ンを効率良く動かすことによって生産コストを 引き下げる。
そのためには生産数量が多くなけ ればならず、単品の販売力が大きくなければビ ジネスモデルそのものが機能しない。
在庫管理 などをコントロールする情報システムや物流シ ステムも不可欠だ。
生産から販売に至るサプライチェーン全体を コントロールし、効率化によるコストダウンに 取り組もうとすると、小売業はITや物流の高 度化を自ら主導する必要に迫られる。
これまで は直接関わったことのない分野や課題に取り組 まざるを得ない。
現に先頭を走る小売業者は、 ノウハウの蓄積を着実に進めている。
経営規模を拡大した小売業がこのようなノウ ハウを持つことで、日本の小売業も、かつての ?士農工商〞的な立場から脱却しつつある。
最 近では、ウォルマートがそうであるようにメー カーから注目され、評価される存在に変わって きた。
このような動きは、日本の小売業界全体の産 業化を促す結果にもなっている。
もしメーカー がこうした小売業の変化を正しく認識せず、過 去の見方のままで接し続けると大きな間違いを 犯すことになる。
物流業者にとっても同様のこ とが言える。
過去の産業界の構造を根底から覆 す、こうした不可逆的な変化を見誤った企業は 早晩、サプライチェーンから弾き出されること になる。
多くの人は、日本の上場企業の時価総額(株 価×発行済株数)上位五〇社の中に、セブン ― イレブン、イトーヨーカ堂、イオンが入ってい ることを知らないだろう。
予備軍としてファー ストリテイリングも控えている。
時価総額は、いわば会社の値段だ。
世界規模 で活躍するメーカーに混じって、堂々と三社が ランクインしていることは、日本の小売業の力 が高まっていることを雄弁に物語っている。
も はや?士農工商〞的な感覚は通用しない。
欧米 の先進事例を見るまでもなく、日本でも力をつ けた一部の小売事業者は確実に流通の産業化に 動き始めている。
営業収益 前期比増 利益 前期比増 (百万ドル) (%) (百万ドル) (%) 資料)フォーチュン、2003.7.21号 図3 2002年度 世界の500社のトップ10 1 ウォルマート 246,525 +12.2 8,039 +20.5 2 ゼネラルモーターズ 186,763 +5.4 1,736 +188.9 3 エクソンモービル 182,466 ▲4.8 11,460 ▲25.2 4 ロイヤルダッチシェルグループ 179,431 +32. 9,419 ▲13.2 5 BP 178,721 +2.6 6,845 ▲14.5 6 フォードモーター 163,871 +0.9 ▲980 ― 7 ダイムラークライスラー 141,421 +3.3 4,461 ― 8 トヨタ 131,754 +9.1 7,753 +57.4 9 ゼネラルエレクトリック 131,698 +4.6 14,118 +3.2 10 三菱商事 109,386 +3.4 495 +2.7 (すずき・たかゆき)東京外国語大学卒業。
一九六八年 西友入社。
店長、シカゴ駐在事務所長などを経て、八九 年バークレーズ証券に入社しアナリストに転身。
九〇年 メリルリンチ証券入社。
小売業界担当アナリストとして 日経アナリストランキングで総合部門第二位が二回、小 売部門第一位が三回と常に上位にランクインし、調査部 のファーストバイスプレデント、シニアアナリストを最 後に二〇〇三年に独立。
現在はプリモ・リサーチ・ジャ パン代表。
著書に『イオングループの大変革』(日本実業 出版社)ほか。
週刊誌などでの執筆多数。

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