ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年11号
特集
中国シフトで変わる国際物流 輸出入管理からグローバルSCMへ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2004 8 年間七千億円のコスト削減を実現 二〇〇二年一月、米IBMは新たにインテグレー テッド・サプライチェーン(ISC)部門を設立し、 それまで製品別・エリア別に約五〇の組織に分かれて いたSCM部門を一つに集約した。
七万八〇〇〇ア イテム以上の製品を販売する同社には、北米分だけで も年間約九万トンに上る物流が発生する。
膨大な規 模のサプライチェーンをグローバルに統合して最適化 することが狙いだった。
そのために、新設されたISCはまず世界各地に散 らばる主要サプライヤーの工場のシステムを統合。
そ の上で調達部品の工場渡し価格とロジスティクス・コ ストや課税額、保険料などをマトリクスに整理し、パ ソコン端末を使って最も条件の良いサプライヤーを簡 単に見つけ出すことのできる電子調達システムを構築 した。
さらに同システムに基づき業務プロセスを改革 することで、購買サイクルを始めとした受注から納品 までのリードタイムを大幅に短縮した。
一連の改革によってISCは同社の年間約四〇〇 億ドル(四兆四〇〇〇億円)の支払い経費のうち五 六億ドル(六一六〇億円)を削減することに成功。
翌 二〇〇三年度にはコスト削減額は年間七〇億ドル(七 七〇〇億円)に達した。
現在、同社の在庫水準は過 去三〇年間で最低のレベルにあるという。
しかも「サプライチェーン改革は、コスト削減以上 の効果をもたらした。
例えば、我々はソリューション を支援する新しい能力を開発することができた。
今や 我々はハードウエアとソフトウエア、そしてサービス を容易に、かつ効率的に組み合わせて顧客に届けるこ とができる。
顧客の要求により良く反応すること。
そ れこそ究極の目標だ」とISCの責任者は述べている。
輸出入管理からグローバルSCMへ 急速な中国シフトの影響はグローバル・ロジステ ィクス全体に及ぶ。
従来の国別・リージョン別のマ ネジメントはもはや通用しない。
地球規模でサプラ イチェーンを最適化する統合管理が求められている。
既に先進企業は動き出している。
解説 9 NOVEMBER 2004 特集 中国シフトで変わる国際物流 九〇年代以降、多国籍企業のグローバル・ロジス ティクスは、EU統合に伴う欧州エリアの拠点再編か ら、協力輸送業者の集約によるコストダウン、そして 中国を始めとしたアジア地区の生産集約へとテーマを 移してきた。
それが今日、さらに新たな段階に進もう としている。
次のテーマはグローバルな統合管理だ。
これまで多国籍企業のロジスティクスは通常、世界 を三つから五つの市場に分けた地域別に管理されてい た。
しかし今やモノの動きは、地域の枠を越えて極端 に複雑化している。
既存の情報システムではロジステ ィクスを捕捉できない。
情報の欠落は結局、在庫を厚 く持つことで埋めるしかない。
その突破口として「ビ ジビリティ(Visibility: 可視性)」が新たなキーワー ドに浮上している。
二〇〇一年六月、パイオニアは連結情報戦略部を 設立。
同部を中心にプロジェクトチームを組織し世界 約一五〇カ所に散らばるグループ会社の在庫を一元 管理するSCMシステムの構築に乗り出した。
目標は リードタイムの短縮による三〇%以上の在庫削減だ。
そのためにプロジェクトチームは大きく以下の三つの 方針を打ち出した。
?計画系――生産計画のサイクルを月次から週次に 短縮 ?実行系――変化に即応できる調達・生産・販売プ ロセスの実現 ?情報系――グローバルSCMシステムの構築による 情報の可視化 ?生産計画のサイクルを短縮すれば需要予測の見 込み違いによるムダな在庫の発生を減らすことができ る。
また?調達から販売に至るリードタイムを短縮す ることで全体の在庫保有水準自体を下げられる。
ただ し、それには?市場の動きや在庫状況を常に把握でき る仕組み、すなわち可視性の確保が前提になるという 考え方だ。
ビジビリティ(可視性)が前提に それまで同社では世界各地のグループ会社の販売・ 在庫情報を月単位で管理する体制をとっていた。
本 社には翌月の半ばにならないと実績が報告されない。
それでも月次で生産計画を回すのであれば大きな問題 はなかった。
データ的なトラブルが起きてもリカバリ ーする時間的な余裕があった。
しかし計画サイクルが週次になると、上がってきた データをその日のうちに処理しないと間に合わない。
「データの流通精度を上げて、リアルタイムもしくは 日次単位でグローバルな実績情報を把握しなければな らなかった」と連結情報戦略部の平石厚部長はいう。
全てのシステムを連結すると同時に、グローバルな在 庫情報を集約したデータベースが不可欠だった。
同社では全く同じ商品でも生産部門と販売部門では異なる商品マスターを使っている。
また販売地域に よってもマスターは違う。
一つの商品に複数のマスタ ーが振られている以上、それを足し合わせなければ正 しい在庫量はつかめない。
通常であればマスターの標 準化を実施する必要がある。
しかし、各部門で使って いるマスターは、それぞれの部門が置かれた環境や商 慣習と結びついている。
マスターをグローバルに一本 化しようとすれば各部門の抵抗が避けられない。
シス テムにも修正が発生する。
「実現するには、それこそ 一〇年かかる」と平石部長は考えた。
そこでマスター自体を標準化するのではなく、コー ド変換によって同じ商品の複数のマスターをマッチン グさせることにした。
もっとも当初、自動変換できた のは五〇%程度。
残りは担当者が手作業でマスターを パイオニアの平石厚 連結情報戦略部部長 NOVEMBER 2004 10 つき合わせるという状態だった。
その後、商品を一つ ひとつ潰していく形で現在では九〇%以上を自動変 換できるようになっている。
「まだ完全とはいえないが、それでも大勢には影響 ないレベルにはなった。
そもそも当社の売り上げの九 〇%は上位一〇〇アイテムで占めている。
その他のア クセサリー類などは後回しにしても構わない。
それよ りも改革のスピードを上げることのほうが大事」とい う判断だった。
試行錯誤はあったものの、二〇〇四年 三月には新たなSCMシステムがカットオーバーした。
これによって実績データを日次で把握する可視性の獲 得と、生産計画を週次で回す体制は整った。
その安 定稼働を見て五月にプロジェクトは解散した。
しかし肝心の在庫は減っていない。
それどころか二 〇〇四年三月末時点の同社の在庫は五三日分で前年 と比べて七日分増えている。
調達から販売までのリー ドタイムの長い商品が増えたことも一因だが、平石部 長は「情報システムを作っただけでは在庫は減らない。
在庫削減はむしろこれからが正念場だ」という。
残された課題は実行系だ。
システムの構築と並行 して各部門の業務プロセスの標準化は済ませた。
し かし変化に即応するための見直しはまだ始まったば かり。
各地の販売動向を集計して製造部門が月曜に 生産計画を立案。
水曜に販売部門と調整といったル ールは決まっても、できあがった計画が市場の実勢 とは乖離した努力目標や属人的な見込み値であれば 意味がない。
「実際の製販調整の現場はエゴとエゴのぶつかり合 いだ。
各部門の考え方の違いをグローバルに調整して 適切なバランスをとらない限り在庫は減らない。
その ために各部門の間に立って意見を摺り合わせて、時に は尻を叩くことが連結情報戦略部の役割だ」と平石 部長。
それによって今年度中に在庫を二〇%削減す るというノルマが同部には課せられている。
物流子会社をシェアードサービス化 可視性の確保はサプライチェーン改革の出発点に過 ぎない。
改革の成否は、その後に実施されるプロセス の見直し如何で決まる。
そこでは既存のサプライチェ ーン上にある不要なプロセスを省略して、変化に即応 できる新しいモデルに組み替えるビジネス・プロセ ス・リエンジニアリング(BPR)が実施される。
同時に、ヒト・モノ・カネといった自社の資源をコ ア・コンピタンスとなるプロセスに集中し、それ以外 のプロセスを外部化する?選択と集中〞が実行される。
これによって既存の物流子会社の多くは、改めてその 役割を問われることになる。
実は平石部長は現在の連結情報戦略部に就任する まで、二〇〇〇年に設置されたパイオニアシェアー ド・サービス(JPS)の初代社長を務めていた。
同 社はBPRによってコア・コンピタンスではないと判 断された物流・経理・ITなどの業務を、物流子会 社のパイオニアロジスティクスの定款を変更する形で グローバルに統合した新しいタイプの子会社だ。
BPRによって外部化が適当と判断されたプロセス は通常、アウトソーシングが検討される。
しかし第三 者へのアウトソーシングには既存社員の雇用問題がつ きまとう。
九六年に一〇〇〇人規模の人員削減を行 っているパイオニアにとっては、あり得ない選択肢だ った。
そこで同社は当時、欧米で注目され始めていた シェアードサービスという手法に目を付けた。
事業 別・地域別に分散している機能を別会社に集約して 業務の効率化を進めコストを削減する。
同時に、外部 の顧客を取り込むことで間接部門のプロフィットセン アクセンチュア、スタンフォード大学、INSEADの共同調査より 販促輸送と注文充足 調達輸送と注文充足 製造 アフターサービス・ 保証・返品 流通チャンネルや パートナーとのリンク 調達・購買 顧客とのリンク サプライチェーン計画 新製品開発 サプライヤーとリンク 0% 20% 40% 60% 80% 100% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 0% 20% 40% 60% 80% 100% ほとんど、もしくは全て アウトソースしている 一部をアウトソースし ている アウトソースしたい アウトソースしない その他 3PLを利用しているメーカーの比率 図1 多国籍企業はアウトソーシングの活用を拡大させている(多国籍企業636社の分析) サプライチェーンオペレーションの予算のうち アウトソーシングが占める割合 1991 1995 2001 2001 2002 2003 2000 1999 1998 11 NOVEMBER 2004 ター化を図るという手法だ。
もっとも「JPSの場合、プロフィットセンター化 は念頭になかった。
シェアードサービスといっても法 人格を本社から分けただけではコストは下がらない。
そんな状態で無理に外販を進めればグループ会社から 高く取って外部に安く売ることにもなりかねない。
狙 いはコストを透明化して業務を効率化するという一点 に絞った」と平石部長は説明する。
ソフトランディン グを重視した日本的なシェアードサービスだ。
同社とは対照的に、ほぼ定石通りの改革を実施し たのが富士通だ。
今年四月、物流子会社の富士通ロ ジスティクスを外資系大手3PLのエクセルに売却し た。
エクセル・ジャパンのサイモン・ミリントン社長 は、このM&Aでは「先方も当社もシェアードサービ スというコンセプトを強く意識していた」という。
売却によって富士通ロジスティクスは親会社との資 本関係を失い、エクセル・ロジスティクスに名称も変 わった。
しかし富士通は子会社時代と同様に今後も同社をパートナーとして活用する。
しかも業務範囲が 国内物流に限定されていた富士通ロジスティクスとは 違って、売却先のエクセルはグローバル3PL分野で 世界最大規模を誇る。
富士通がSCMの統合を進め る上での有力なパートナー候補だ。
昨年、アクセンチュア、スタンフォード大学、IN SEADが多国籍企業六三六社を対象に行った調査 によると、多国籍企業による3PLの活用は九〇年 代以降、一貫して増え続けており現在、その利用率は 七〇%以上に上っている。
またアウトソーシングして いる業務範囲も年々拡大している( 図1 )。
これに伴 い3PLに対するニーズも否応なくグローバル化して いる。
日本企業だけが例外ではあり得ない。
( 大矢昌浩 ) 特集 中国シフトで変わる国際物流 ――多国籍企業のニーズは、どう変化しているか。
「とりわけハイテク業界と自動車業界のセクタ ーにおいてはグローバルな統合の重要性が高ま ってきている。
そうした企業は原材料を国際輸 送して加工をほどこし、さらに別の国で完成品 にして世界中の顧客に配送するといった複雑な ロジスティクスをコントロールしなければならな くなっている。
これに伴い国際間の輸送だけで はなく、各国内のロジスティクスを含めたグロー バルかつトータルな統合サービスをどう提供する かが我々にとって重要になってきている」 ――新しいニーズに対応するに当たり、3PLは どのような課題に直面しているのか。
「最大の課題はやはりシステム開発だ。
荷主のシ ステムがSAPだろうがオラクルだろうが、全て の端末からグローバルなモノのステータスを把握 できる仕組み、可視性のあるシステムを構築し なければならない。
システム構築は容易ではなく、 メンテナンスには手間がかかる」 ――九〇年代から多国籍企業は世界規模で協力物 流業者の集約を進めてきた。
ただしその狙いは単 純な運賃の値 下げだった。
それが今は違 ってきている のか。
「全体として 見れば国際間 輸送を特定の 業者に集約する動きは今でも進んでいる。
しか し、先進企業のグローバル・ロジスティクスは 既に新しいフェーズに入っている。
輸送はロジス ティクスの一部に過ぎない。
運賃をいくら下げ ても全体のコストに対する影響は限定的だ。
例 えば路線別に輸送会社を集約した結果、複数の 輸送会社を使うことになれば管理は複雑になっ てしまう。
それによって可視性が損なわれる。
そ のデメリットに荷主企業は気づき始めた」 ――しかし、実際には欧米の多国籍企業でもグロ ーバルなロジスティクスを一つの3PLに全て集 約するケースは希だ。
「その通りだ。
しかし、懸命に数を減らそうと はしている。
そしてハイテクを中心に多くの荷主 企 業 は L L P ( Lead Logistics service Provider )や4PL(Fourth Party Logistics ) を使って、彼らに複数の3PLを管理させよう とする傾向にある」 ――これまで多国籍企業は、リージョン単位でロ ジスティクスを管理していた。
それがグローバルに 統合されようとしているのか。
「そういう企業が出てきている。
今でも大多数 の企業がリージョン単位で管理しているが、今 後はだんだんとグローバルに統合する企業が増 えていくはずだ。
ただし、一気には進まない。
グ ローバル・ロジスティクスを一つに統合するのは 荷主にとっても、我々サービスプロバイダーにと っても容易なことではないからだ。
そこに今日の 最も大きな葛藤がある」 「国際物流は新しいフェーズに入った」 エクセル・ジャパン サイモン・ミリントン 社長

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