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NOVEMBER 2004 34
食品の余剰在庫を寄付
米国ではホームレスや孤児など経済的に恵まれてい
ない人々に食糧や雑貨などを供給し、生活を援助する
システムが確立されている。 メーカーや小売業が余剰
在庫や賞味期限の迫っている製品、包装に傷があって
店頭に陳列できない製品などを食糧支援団体に寄付
すると、全米各地に用意されているフードバンクや、
給食施設などを経由して人々に配布される仕組みにな
っている。
米国最大の食糧支援団体である「アメリカズ・セカ
ンド・ハーベスト」では毎年、傘下に収める全米二一一
カ所のフードバンク経由で、約五万カ所の施設に食糧
や雑貨を提供している。 受給の対象者は延べ二三三
〇万人。 供給量は年間八二万トンに上るという。
大口寄付者のリストにはクラフトやケロッグ、P&
Gといったメーカーや、ウォルマート、Kマートなど
の小売事業者が名を連ねる。 このように寄付者の多く
は食品や雑貨を取り扱っている企業だが、段ボールな
どの梱包材や倉庫スペースの無償提供というかたちで
物流企業も活動に貢献している。
アメリカズ・セカンド・ハーベストが運営するフー
ドバンクの一つがフィラデルフィア・フードバンク
(PFB)だ。 一九八一年に設立された。 PFBでは
現在、フィラデルフィアの郊外に物流センター(延べ
床面積五万平方フィート)を用意。 そこから約八〇
〇カ所の施設に食糧や雑貨を供給している。 二〇〇
三年度の出荷量は四七六〇トンだった。
ここ数年、PFBの物流センターでは庫内オペレー
ションの改善に力を入れている。 米国ではポピュラー
な
品
質
改
善
手
法
で
あ
る
「
P
D
C
A
サ
イ
ク
ル
」
(
Plan,Do,Check,Act
)を活用。 センターで働く作業員
たちをメンバーにプロジェクトチームを立ち上げ、改
善活動を展開してきた。
プロジェクトチームは昨年、荷受け業務の改善に焦
点を当てた。 寄付者から送られてくる食品を荷受け・
検品してラックに格納。 そして在庫管理システムに
「食品が入荷された」ことを示すデータを反映させる
までの作業時間を大幅に短縮しようという試みである。
食糧援助を希望する施設はインターネットを通じて
フードバンクの情報システムにアクセス。 フードバン
クの備蓄リストをチェックして必要な食品を発注して
いる。 今回の改善活動は荷受け〜データ入力までを迅
速に処理することで、一刻も早く各施設に最新の食
品備蓄状況を公開できる体制を構築するのが狙いだ。
荷受け業務の改善をテーマに選んだのは二〇〇二
年に起こった?ある事件〞がきっかけだった。 事件と
はセンターで荷受けし、保管していた食品の一部デー
タが情報システムに反映されずに二週間以上放置され
たままだったというもの。 幸い賞味期限切れによる廃
棄処分という最悪の事態こそ免れたものの、危なく物
流センターの作業ミスによって寄付者の善意が水泡に
帰すところだった。
「食品を荷受けしてデータ入力を終えるまでの作業
時間にはバラツキがあった。 数時間で処理されること
もあれば、今回のように数日間放置されることも。 恵
まれない人々はわれわれからの食糧提供を心待ちにし
ている。 起きてはならないミスだった」とPFBでオペ
レーションディレクターを務めるダン・ディブリーズ氏
は説明する。
プロジェクトチームではまず荷受け〜データ入力ま
でのオペレーションの現状をきちんと把握することに
した。 作業ミスが発生する原因を特定するためだ。 寄
付者から送られてくる食品を?トラックから荷下ろし
フィラデルフィア・フードバンク―現場改善
全米各地に設けられているフードバンク(食糧貯蔵所)の
1つ。 ホームレスの収容施設や孤児の給食施設などに食糧を
供給している。 食品メーカーや小売業から寄付された食品の
備蓄リストのデータ更新を迅速化するため、物流センターで
荷受け作業の改善に取り組んだ。 (刈屋大輔)
Case Study
35 NOVEMBER 2004
特集 中国シフトで変わる国際物流
して、?段ボールを開梱、?入荷票を作成して、最後
に?データエントリーを完了させるまでに各工程で要
する作業時間を細かく測定。 作業手順などに問題点
がないかをチェックした。
その結果、最終的に備蓄リストにデータが反映され
るまで平均で三六時間掛かっていることが判明した。
最長は五〇時間だった。 工程別では?〜?にかけて
作業に最も時間を費やしていた。 つまり荷受けのセク
ションで作業が滞っているため、?以降の工程の処理
が遅れていたのである。 これを受けてプロジェクトチ
ームでは荷受け業務にメスを入れることを決めた。
作業の先送りをなくす
実際にはそれほど難しい問題ではなかった。 荷受け
作業の処理に時間が掛かっていたのは単に人手が足り
ないためだった。 全米各地から集まる大量の食品を勤
務時間内に入荷処理できず、翌日に後回しにする。 そ
して前日に食品が運び込まれたことを忘れてしまう。
そんな単純ミスが遅れの原因だった。
そこでプロジェクトチームでは荷受け業務を担当す
る作業員の数を増やすことにした。 採用の条件は「残
業が可能」であること。 物流センターに到着した食品
の物量がどれだけ多くてもその日のうちにすべて入荷
処理できる体制にするためだ。 残業代の発生によるコ
スト増も予算の中に組み込んだ。
他のセクションで働く作業員たちにも協力を要請し
た。 時間に余裕がある場合には荷受けのセクションに
応援に駆けつけ、作業を手伝うというルールを新たに
設けた。 物流センターで働く作業員が協力し合うこと
で、翌日への「作業の先送り」をなくし、ミスの発生
を未然に防ぐというものだ。
さらに寄付ではなく、PFBが格安な値段で購入す
る食品については、供給先である食品メーカーなどに
対して事前に荷物の到着予定時間を報告するよう義
務付けた。 あらかじめ物流センターに入荷される荷物
の物量を把握しておけば、柔軟な作業員配置が可能
になるからだ。 残業代の抑制にもつながる。
「作業員たちは自分の持ち場だけではなく、他セク
ションの作業の進捗状況にも目を配れるようになった。
協力を受けるのは荷受けのセクションだけではない。
荷受けの作業員たちは自分たちが忙しくない時には他
のセクションの仕事を手伝っている。 互いの仕事をバ
ックアップできる体制になった」とダン・ディブリーズ
氏は満足そうに語る。
一連の活動の成果は大きかった。 改善後、荷受け
〜データ入力までのオペレーションはスピーディーに
処理されるようになった。 従来、「二四時間以内」で
の処理は全体の五六%にとどまっていたが、これが七
五%に。 さらに「四八時間以内」での処理は八四%
から一〇〇%に向上した。 つまりセンターに寄せられた食品のデータは最低でも二日以内には備蓄リストに
掲載されるようになったのだ。
もっとも、プロジェクトチームは今回の改善結果に
必ずしも満足しているわけではない。 最終的にはすべ
て二四時間以内にデータ更新までの作業を終了させる
ことを目標としている。 さらに他のセクションからの
バックアップや、残業なしでもその日のうちに荷受け
作業を終了できる体制を目指しているという。
「在庫管理の精度を高めたり、現在は手書きで行っ
ている入荷票記入作業の自動化など、物流センターに
はまだまだ課題が残されている。 プロジェクトチーム
の活動は今後もしばらく続くだろう。 荷受け業務の改
善は最初のステップにすぎない」とダン・ディブリー
ズ氏は説明する。
PFBの物流センターは約800カ所の施設に食品や雑貨を供給している
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