*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
1 DECEMBER 2004
KEYPERSON
一つの組織に全てを集約
――IBMは二〇〇二年一月に新た
な組織として「インテグレーテッド・
サプライチェーン(ISC)」を設立
しています。 その後の二年間の活動
によってIBMのビジネスモデルは
大きく変わりました。
「当社が『オンデマンド・サプライ
チェーン』と呼ぶ新たなモデルを実
現したことで、それまで年間四〇〇
億ドルかかっていた支払経費のうち
七〇億ドルを削減することができま
した。 加えて七億ドルのキャッシュ
を新たに生み出すことができました。
約二日分に当たる未収金を削減しま
した。 現在の当社の在庫水準は過去
三〇年間で最低のレベルにあります」
――ISCの機能と業務範囲は?
所属する社員数は世界で一万九〇〇
〇人に上ります」
――統合によって、どういうメリット
があるのですか?
「例えば九〇年代まで当社では一般
製品の購買のうち三五%以上を各地
の購買担当者の裁量に任せていまし
た。 それが現在は〇・二%以下です。
グローバルに購買を統合したことで一
般製品を十二%安く購入できるよう
になりました」
――ロジスティクスの分野では、どの
ような改革を行ったのですか。
「ロジスティクス分野の統合はIS
Cの設立に先立ち、七年前から着手
しています。 最初に世界全体のロジ
スティクスを網羅する組織を作りま
した。 そして全ての業務をアウトソ
ーシングしていったんです。 それまで
当社のロジスティクス・コストの約
五〇%は固定費でした。 自社で物流
関連の資産を持ち、オペレーション
を行っている地域が少なくありませ
んでした。 資産を売却し、アウトソ
ーシングに切り替えたことで固定費
の比率を一〇%まで下げることがで
きました。 コスト自体も一〇億ドル
削減できました」
――その結果として、社内のロジステ
ィクス部門はどうなったのですか。
「現時点でも当社には世界に一五〇
〇人余りのロジスティクス担当者が
います。 しかし、年間二〇億パウン
ドもの物流を管理していることを考
えれば、その数は少ないと言えるで
しょう。 二〇億パウンドといえば、象
二〇万頭分ですからね(笑)。 ロジス
ティクスの仕事で社内に残っている
のは、購買、ネットワークの最適化、
それと輸出入管理の部分だけです」――ISCは時限的なプロジェクト
チームではなく、恒常的な組織なの
ですか。
「その通りです。 恒常的な組織です。
そのベースになっているのは従来の事
業別の縦割り組織より機能をグロー
バルに統合したほうが良いという考
え方です。 もっとも組織を作ったか
らといって、すぐに統合が果たせた
わけではありません。 実際には縦割
「まず購買、これは製品や材料、サ
ービスの購買も含みます。 そして生
産、ロジスティクス、フルフィルメン
ト、アフターサービスまでです。 これ
らに関わる情報システムからオペレ
ーションまでの全てをISCが管理
しています。 セールス以外の全ての
オペレーションを管理していると理
解してもらって結構です」
「ISCを設立するまで、当社には
事業部ごとに異なる三〇ものサプラ
イチェーンが存在し、それぞれを分
散して管理していました。 データベ
ースも一〇〇以上に分かれていまし
た。 それをISCという一つの組織
に統合しました。 七万八〇〇〇以上
の製品と三〇〇万以上の製品の組み
合わせを一手に管理するグローバル
な組織を作ったわけです。 ICSに
ブライアン
T・エック
IBM シニアテクニカルマネージャー
米SCC
ボードメンバー
THEME
八千億円を生んだサプライチェーン統合
昨年度、米IBMは七六億ドル(約八〇〇〇億円)の純利益を上げた。
その大部分がサプライチェーン改革の成果だ。 それまで事業部別に分か
れていたSCM機能をグローバルに統合することで年間七〇億ドルに上
るコスト削減を実現した。 改革のキーマンが同社の新しいビジネスモデ
ルを解説する。
(聞き手・大矢昌浩)
KEYPERSON
DECEMBER 2004 2
りの事業部と横割り機能のバランス
をとりながら統合を進めてきました」
――統合する領域と、地域別にカス
タマイズする領域は、どのように切
り分けたのですか。
「地域別のカスタマイズが必要にな
るのは、製品自体と顧客とのインタ
ーフェースです。 これに対してSC
Mの領域は、開発とインターフェー
スのちょうど間に挟まっている。 つま
りSCMの領域に関しては同じモデ
ルでグローバルに統一することができ
る。 それによってメリットを得られる
と判断しました」
――パソコンのサプライチェーンでは、
デルがベンチマークの対象になってい
ます。 デルのモデルを踏襲しようとは
考えなかったのですか。
「もちろんデルについては徹底的に
研究しました。 そしてデルモデルの最
も良い部分は当社のサプライチェー
ンにも活かしました。 ただし、当社
には当社の置かれた?生態系〞があ
ります。 サプライヤーとの関係では当
社とデルで大きな違いはありません。
しかしデルとは違って当社には非常
に多くの流通パートナーがいます。 そ
の全体を考慮して新しいモデルを作
りました」
「具体的なサプライチェーンの評価
と分析には『SCOR』を活用しま
した。 まず現状のサプライチェーンの
パフォーマンスを競合や業界平均と
比較して、革新の機会や効果の大き
さを測定しました。 そして各事業部、
各地域のサプライチェーンをSCO
Rによって記述し、それを比較分析
し、ベストプラクティスに統一する形
でプロセスを改革しました」
SCMのパラダイムシフト
――その結果として実現したIBM
の「オンデマンド・サプライチェー
ン」は、グローバルな統合という点
以外に、従来とどのような違いがあ
るのでしょうか。
「従来のSCMにおいては、需要は
与件として認識されていました。 最
初に?ありき〞だったわけです。 そ
れを現在は、需要を調整できるもの
として認識しています」
――需要をコントロールできると考え
ているのですか。
「コントロールという言葉は強過ぎ
ると思います。 需要は支配できませ
ん。 ただし、条件付けによって需要
を導くことはできる。 例えば、あるハ
ードドライブが品薄になって手に入
りにくい状態になった場合には、そ
のハードドライブを使っていない製品
を広告の前面に押し出す。 そうやっ
て販売と製造を統合することで需要
自体をコントロールすることはできな
くても、ある程度は条件付けられる」
――SCMは今後、どのように変化
していくと予測しますか。
「現在のSCMは最初に予測を立て、
それに基づいて準備をして、その後
で状況の変化に合わせて供給を調整
するという流れが基本になっていま
す。 最適化計画を中心として、その
周りにITなりプロセスなりがあって、それが上手く機能しなかった場
合に人が介在して調整するという手
法です」
「これに対して将来は、イベントが
ドライバーとなって需要と供給をバ
ランスさせる手法に変化していくと
考えています。 ここでいうイベントと
は、需要や供給の変動をもたらす様々
な事象を指しています。 そうした事
象は残念ながら予見できません。 そ
こで逆に事象に対して素早く反応す
る仕組みを構築するわけです」
――計画がなくなるわけですか。
「少なくとも計画が中心にはなりま
せん。 計画というプロセスが残った
としても、その頻度がリアルタイムに
なるため、計画の意味は曖昧になっ
てきます。 『PDCA(計画・実行・
評価・行動』というサイクルが極端
に短くなり、最終的には常にモニタ
ーをしながら変化していく形になる。
そのためにはICタグが必須ツール
になります」
「『センス&レスポンス(知覚と反
応)』がキーワードです。 ただし、実
際には知覚した変化に直接反応する
わけではありません。 知覚した変化
に、どう対応するのが最適なのかを
判断する必要があります。 ICタグ
によるリアルタイムのビジビリティ
(可視性)も、物流情報があるだけでは意味をなさない。 それをフィルター
にかける能力が必要です」
「その仕組みを作るのは容易なこと
ではありません。 ICタグの活用も
含めて、残念ながら現在はまだ成功
しているとは言えません。 しかし、将
来もできないとは思いません。 インタ
ーネットやeビジネスだって、最初
はできないと皆に考えられていたわけ
ですから」
《プロフィール》
ブライアン トーマス エック
IBMコーポレーションシニアテクニカ
ルマネージャー/サプライチェーンカウン
シルボードメンバー。 コロンビア大学オ
ペレーションリサーチ博士号取得。 AAL
保険会社の品質戦略部門副社長を経てI
BMに入社。 購買、サービス部門でグロ
ーバルリソース戦略と適材労働配置に携
わる。 IBMの利益増大を促進するプロ
ジェクト支援の重要人物。 SCCが開発し
たSCOR(サプライチェーン・オペレー
ションズ・リファレンス・モデル)をI
BM内の様々なビジネスユニットに適用
させることにより大幅なコスト削減を実
現させ、社内改革を成功に導いている。
|