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DECEMBER 2004 58
連結営業利益は四倍に
全日本空輸(ANA)の二〇〇五年三月
期中間決算は連結売上高が前年同期比八・
四%増の六五九五億円となった。 主力の航
空運送事業の売上高が五四六五億円、同一
〇%増を記録したことが売上高全体の伸びに
大きく寄与した。
イラク戦争やSARS(重症急性呼吸器
症候群)の影響で旅客数が落ち込んだ前年
の反動で、「国際旅客」の売上高が一一〇五
億円、同二九%増と大幅な伸長を記録。 貨
物事業の売上高も事業規模こそ小さいものの、
三七一億円、同十一%増と堅調に推移した。
連結営業利益は五九八億円で、前年同期
比の四・一倍となった。 原油価格高騰に伴
う燃料費上昇を、人件費などのコスト削減効
果と国際線の旅客需要回復を中心とする増
収効果で吸収できたと判断している。
部門別にみると、航空運送事業(国内線・
国際線の旅客および貨物事業の合計)の連
結営業利益は五四二億円で同四・五倍、旅
行事業は二八億円で同三・〇倍の大幅増益
を達成した。 ただしホテル事業は同一%の増
収となったものの、赤字幅は拡大しており、
依然として回復の兆しが見られない。
今回の中間決算を通じて、二〇〇六年三
月期を最終年度とする中期経営計画の効果
が原油高という逆風下でも主力の航空運送
事業を中心に足元で予想以上に顕在化して
いることが再確認できた。 その意味で野村證
券金融経済研究所では今回の決算をポジテ
ィブに評価している。 ちなみにANAの中期
経営戦略(二〇〇五年三月期〜二〇〇七年
三月期)の数値目標は最終年度の二〇〇七
年三月期に連結営業利益で七四〇億円を達
成することである(ただし原油価格一バレル
当たり二五ドルが前提)。
野村證券金融経済研究所では、ANAの
二〇〇五年三月期通期の連結営業利益を前
期比八七%増の六四一億円、翌期が同一五%
増の七四〇億円と予想する(原油価格は一
バレル当たり三六ドルが前提)。 燃料費の上
昇は予想以上にネガティブだが、国内・国際
線の運賃値上げ効果に加え、コスト削減計
画の前倒し、使用機の中・小型化へのシフトなどの自助努力を背景に、増益基調を維持
できると分析している。 二〇〇一年三月期の
過去最高益(連結営業利益八二二億円)に
は及ばないものの、利益は高水準を確保でき
る見通しだ。 ANAの場合、一バレル当たり
一ドルの原油価格変動が生じると、営業利
益への感応度は二一億円と推定される(ヘッ
ジ考慮前)。
二〇〇五年三月期〜二〇〇六年三月期の
利益拡大は、?人件費を中心とする固定費
の削減、?国際線(旅客と貨物)・国内線
の運賃値上げ、?使用機材のダウンサイジン
グ化、?需給の最適化や収入極大化を図る
ためのシステムの導入――などがカギとなり
第8回
全日本空輸
全日本空輸は原油価格高騰に伴う燃料費負担増を、人件費削
減や使用機材のダウンサイジング化といったコスト削減策でカ
バーすることで高い収益力を維持している。 市場規模の拡大が
続く航空貨物の分野で、同業他社との競争に勝つためには今後、
グループとしての戦略を明確にする必要がある。
尾坂拓也
野村證券金融経済研究所
企業調査部アナリスト
59 DECEMBER 2004
そうだ。 原油価格高騰に伴う燃料費増加と
いうマイナス要因はあるが、?〜?といった
プラス要因で十分吸収できると見ている。
貨物を第三のコアビジネスに
ANAは二〇〇五年一月、国内線につい
て三〇〇キロメートル以上の路線で三〇〇円、
三〇〇キロメートル未満の路線で二〇〇円の
運賃値上げに踏み切る。 今回の値上げは二
〇〇六年三月期に八〇億円程度の増益イン
パクトとなるだろう。 一方、国際線では二〇
〇四年七月と二〇〇五年一月(予定)の運
賃値上げが二〇〇六年三月期に約六〇億円
の増益寄与となると試算している。
需要に見合った適正な機材投入や座席当
たり売上高の極大化を
目指した戦略が奏功し
ている点も評価できる。
構造改革という観点か
ら野村證券金融経済研
究所が注目しているの
は、二〇〇五年三月期
の第2四半期(七〜九
月)の国内線の動向だ。
度重なる台風の上陸な
ど外部環境の悪化があ
ったものの、座席キロ
当たり売上高(座席利
用率と、旅客キロ当た
り単価を示す「イール
ド」の掛け算)が十
一・九円/人キロと、
前年同期比四・三%増であったためである。
旅客キロ数が同四・六%減と低迷する中、
座席キロ数(供給量)も中小型機へのシフト
を主因に、同四・八%削減し、座席利用率
を前上期の六六・〇%から今上期には六六・
二%へ〇・二ポイント改善できた。 さらに需
要動向に応じた座席配置の設定によって収
益極大化を図るシステムの導入で、イールド
は一八・〇円/人キロと同四・一%増とな
った。 二〇〇三年七月に実施した運賃値上
げの効果が薄まりつつある中でのイールドの
上昇は機材適合戦略など経営努力の賜物だ
と判断している。
座席当たりコストを最小化するための航空
機のダウンサイジング化も順調だ。 二〇〇五
年三月期の上期には大型ジャンボ機の「ボー
イング747SR
―100型機」を三機売却
し、その一方で大型機の「ボーイング777
―200型」を一機購入、中型機の「ボーイ
ング767
―300型機」を二機リース導入
した。 燃費や空港使用料が割高となる大型ジ
ャンボ機の売却は、燃料および燃料税、空港
使用料といった費用の削減につながっている。
実際、二〇〇五年三月期上期の燃料および
燃料税の売上構成比(航空運送セグメント
における)は前期の一五・〇%から一三・
六%に。 同様に空港使用料の売上構成比も
一〇・四%から九・一%に低下している。
ANAでは貨物事業を「第三のコアビジネ
ス」と位置付けている。 航空貨物市場は年
六%のペースで拡大が期待されている成長分
野であるからだ。 国内線では二〇〇四年七月、
東京〜佐賀線にボーイング767
―300型
機を一日二便投入。 関東〜九州間の輸送力
アップを実現した。
一方、北米向けのパソコン・携帯電話用
電池、中国向けの電子部品および自動車部
品などの輸送需要が旺盛な国際線についても
輸送力の増強を急いでいる。 具体的にはボー
イング767
―300型貨物専用機の投入な
どを進めている。 今後は輸送量の高い成長率
が見込まれる中国を中心としたアジア地域で
の拡販に重点を置いていく方針だ。
貨物事業での課題は持分法適用会社であ
る日本貨物航空(NCA)を今後どう位置
付けていくかということになる。 NCAとの
棲み分けを明確にするのか、それともこれま
でのように競合関係を続けていくのかなど、
ANAグループとして貨物事業の競争力をい
かに高め、ライバル企業に対抗していくのか
に注目している。 貨物事業を本当の意味で
「第三のコアビジネス」へと飛躍させるため
の経営判断が求められそうだ。
全日本空輸の過去10年の株価推移
おさか・たくや
一九九三年慶応義塾大学経済
学部卒業、野村證券入社。 入
社以来、証券アナリスト部隊
に所属し、プラント業界、環
境ビジネス関連で装置・プラ
ントメーカーから処理サービ
ス会社まで幅広く担当してき
た。 二〇〇四年七月から、運
輸業界を担当している。
著者プロフィール
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