ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年12号
判断学
ダイエー問題の本質

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

奥村宏 経済評論家 第31回 ダイエー問題の本質 DECEMBER 2004 66 ダイエーがついに国家管理会社になった。
競って無謀な融資をしてきた銀行 の責任は大きい。
だが銀行の経営陣はいっさい責任を取らず、逆に高木社長に 詰腹を切れと迫った。
返せないようなカネを貸した側の責任を問う声はどこか らも聞こえてこない。
国家管理の会社に 「やはり」と言うか、「とうとう」と言うか、ダイエーが産 業再生機構送りとなった。
ダイエーの経営破綻はずっと以前から明らかになっており、 二度にわたって銀行が債権放棄をしたにもかかわらず、経営 はいっこうに立ち直らなかった。
そしてダイエーをどうする か、ということはバブル経済崩壊以後十数年間にわたって 日本の経済政策のひとつの焦点になっていた。
もしダイエーが倒産したら、それが与える社会的ショック は非常に大きい。
ダイエーの従業員はもちろん、ダイエーに 商品を納入している多くの業者、そしてダイエーの店舗があ る地域社会、さらに多数の消費者、と数えあげていけば、そ れによってショックを受ける人の数は非常に多い。
それだけにダイエーがつぶれると社会不安が起こるから、 つぶすにつぶせないといわれてきた。
そこでダイエーのメイ ンバンクの影にあって政府はダイエーを倒産させはしないと いう方針をとってきた。
しかしそのことがダイエーの処理を遅らせ、銀行の不良債 権を大きくしていった。
ダイエーはこうして銀行の不良債権 問題の象徴となっていたのである。
今回の産業再生機構送りのきっかけになったのはUFJ ホールディングスの不良債権問題であり、政府がUFJの 不良債権かくしを問題にしたところからダイエー問題が一挙 に浮上してきたのである。
産業再生機構はいうまでもなく政府の公的機関であり、ダ イエーはこれによって国家管理会社になったのである。
国有 化と違うのは、ダイエーを産業再生機構が再建するという 名目でこれを解体し、そしてそれを国内か、あるいは外国の スポンサーに売り飛ばすということであるが、しかしダイエ ーはもはや民間の会社ではなく国家の管理下におかれたので ある。
民間にできなくなったら…… 「民間にできることは民間に任せる」というのが小泉内閣 のモットーである。
このために道路公団も郵政事業も民営 化するというのであるが、一方「民間にできなくなったら政 府に任せる」というのが小泉内閣のやり方である。
そればかりか、ダイエーは民間で処理するという方針を打 ち出していたのだが、それをけってあえて国家管理にしたの である。
民間の企業を国有企業にするというのはかつてのソ連や 東欧諸国、そして中国などの社会主義国のやり方であった が、それと同じようなことを日本もバブル崩壊後やってきた。
日本長期信用銀行や日本債券信用銀行を国有化したのがそ れだし、またりそな銀行を実質国有化したのもそれである。
産業再生機構というのは国家の資金によって企業を再生 させるというものだが、それが国家管理であることは前述し た通りだ。
日本は市場経済の国だとか、株主資本主義にするのだと か言っている一方で、実際にはかつての社会主義国が行っ たことと同じようなことをやっているのである。
それはあえ て社会主義とはいわないが、経営が破綻した企業とそしてそ れに貸し込んだ銀行を救済するためである。
国民の税金をこのように使っているのがいまの政府で、そ れはとても市場経済などといえたものではない。
かつて国家独占資本主義という言葉が左翼の間で流行し ていたが、いつのまにかこの言葉は死語になった。
しかしダイエー問題を考えるにつけ、この死語が生き返っ てきた。
それはまさに国家によって独占資本、すなわち銀行 を保護するということである。
国家がこれほどまでして民間企業に介入していくというこ とはこれまで考えられなかった。
あの悪名高い通産省もそこ まではやらなかった。
67 DECEMBER 2004 銀行の貸手責任 ダイエーの問題はいうまでもなく、なによりも銀行の問題 である。
中内さんの無謀な拡大政策に対して銀行がカネを貸した からこそダイエーはここまで大きくなった。
中内さんのやり 方が批判されるのは当然だが、それはずっと以前の問題であ って、せいぜいダイエーが一回目の経営危機に陥った一九 八三、四年ごろまでのことである。
そこで手術をして立ち直っていくのだが、それ以後のダイ エーの無謀な拡大政策に対して銀行が競って融資した。
ダ イエーのメインバンクとして三和、東海、住友などがお互い に競合していたが、メインバンクというのは一行であるのが 普通であるにもかかわらず、ダイエーの場合には複数のメインバンクがあった。
これは中内さんの政策でもあったが、しかしメインバンク がお互いに競争してダイエーに貸し込んでいったのは銀行の 責任である。
土地の値上がりを見越して土地担保でダイエーに銀行が カネを貸し、ダイエーはそれでつぎつぎと土地を取得してい った。
それがバブル崩壊によってこういう結果を招いたので あるが、そこで問われているのは銀行の貸手責任である。
ところがダイエーに無謀な融資をしたことの責任をとって 辞めた銀行経営者は一人もいない。
それどころかダイエーに 対して強圧的な態度をみせ、ダイエーの高木社長を退任さ せろとまで意気込んでいた。
これは「優越的地位の濫用」にあたり、独占禁止法の不 公正取引行為であるのだが、それについてマスコミも評論家 もなにも言わない。
そして日本経団連の奥田会長のように 「借りたカネは返せ」と言う人もいるが、返せないようなカ ネを貸した側の責任については何も言わないのはどうしたこ とか。
おくむら・ひろし 1930年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『会社はなぜ事件を 繰り返すのか』(NTT出版)。
会社更生法で再建 経営が破綻した企業を再建するために作られたのが会社 更正法である。
これはアメリカの破産法第十一条をまねて 戦後作られたものだが、これまで日本の大企業が倒産した 場合はこの会社更正法によって処理されてきた。
具体的には裁判所に会社更正法の適用を申請し、裁判所 が会社更生の見込みがあると判断すればこれを受理し、そし て裁判所が管財人を選定し、それに経営を任せる。
それま での経営者は全員辞め、そして銀行などのその会社に対す る債権を棚上げして、その後の経営を管財人に任せる。
会 社が更生した段階で債権債務を精算するが、たいていは債 権者に債権がすべて返ってくるということはない。
これでは裁判所の手続きに時間がかかり、そして経営者 が全員辞任しなければならないので困るというので民事再生 法ができた。
いずれにしても経営破綻企業はこういう法的手 続きによって処理すべきである。
ダイエーは少なくともバブルが崩壊した段階で会社更正 法によって処理すべきであった。
それによって不採算部門を 切り捨て、スーパーとして利益のあがる部門だけを残して会 社を再建していくべきであった。
その際、ダイエーの従業員、そして地域の自治体も加わ って各店舗の生き残り方法を考える。
できれば地域ごとに 各店舗が独立し、仕入れは協同仕入れ方式をとっていく。
な によりダイエーがつぶれて最も困るのは従業員と地域社会だ から、それが出資して新しい会社を作っていくべきである。
私はずっと以前からこのようなことを提案してきたのだが、 誰からも支持されなかった。
それというのも従業員や地域社 会が主体になって会社を作るなどということは不可能だと考 えられていたからである。
しかしヨーロッパにはこういうや り方で再生した企業もある。
なぜ日本でそれをしないのか。
それは思想の貧困と言う以外にはない。

購読案内広告案内