ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年12号
3PL活用術
マークス&スペンサー

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2004 72 ICタグ利用に前向き マークス&スペンサー(以下、M&S)は 英国を代表する小売業者の一つだ。
今年で創 業一二〇年を迎えた。
二〇〇四年三月期の決 算報告書によると、売上高はグループ全体で 八一億ポンド(約一兆六四〇〇億円)。
小売業 の世界ランキングでは常に五〇位前後に位置 している。
M&Sの業態は日本のイオンやイトーヨー カ堂と同じGMS(ゼネラル・マーチャンダ イズ・ストア=総合量販店)で、現在、世界 三〇カ国に店舗を展開している。
とりわけ自 社ブランド商品(PB商品)の開発力には定 評があり、「セントマイケル」というブランド 名のPB商品は消費者から高い支持を得てい る。
かつて同社のビジネスモデルは日本の小売 業の?お手本〞として注目を集めた時期があ った。
そのノウハウを吸収しようと、日本の百 貨店やスーパーマーケットが同社との業務提 携に踏み切ったものの、いずれも結実しなかっ たという経緯がある。
M&Sはロジスティクスの高度化に熱心な 企業としても知られる。
他社に先駆けてIC タグの実証実験も済ませている。
英国のある 店舗を対象に、男性用のスーツ、シャツ、ネ クタイといった商品の一部にICタグを貼付。
その効果を測定した。
使用したタグは「イン テリジェント・ラベル」と呼ばれる使い捨てタ イプのもの。
それを商品の内部に組み込むの ではなく、商品の外側に吊り下げる格好で使 用した。
同じ英国のスーパーであるテスコがカミソリ メーカーのジレットと展開したICタグの実 験は、プライバシー保護団体のConsumers Against Supermarket Privacy Invasion and Numbering (CASPIAN)から批判を受 けてしまった。
ICタグが店舗の外でも顧客 を追跡・監視し続けるなど販売以外の目的に 使用される恐れがあったためだ。
これに対してM&Sは試験方法の透明性を 確保することに重点を置いた。
具体的には使 用するタグに、各衣類に割り振った番号のみ を記録させ、さらにこの番号に関連する情報 をサイズやスタイル、カラーなどに限定した。
データは安全性の高いデータベースに保存。
タ グ自体には信号を発信する能力を持たせなか マークス&スペンサー 英国の小売業であるマークス&スペンサーはガス会 社の物流子会社ジストに物流センターの運営を委託し ている。
マークス&スペンサーは現場改善などコスト 削減に向けたジストの提案力を高く評価しており、両 社の関係はICタグの実証実験を共同で展開するなど 年を追うごとに深まりつつある。
短期集中連載 サン物流開発 鈴木準 代表 第3回 パートナー▼GIST(ジスト) 73 DECEMBER 2004 った。
タグは各衣類の価格ラベルの横に貼付 して、会計後に切り離せるようにした。
「タグの情報と購入者との間に何ら関連性が発 生しない仕組みにした」とM&Sの広報担当 者。
M&Sは収集するデータとその使用目的 を制限することで、実験に対する消費者の理 解を得ようとしたわけだ。
実際、プライバシー 保護団体もM&Sの実験方法をおおむね歓迎 している。
M&Sは今年度中に日配の食品を対象にし た実験も行う予定だ。
店舗配送で使用する折 り畳みコンテナ(トレイ)にICタグを貼付。
配送トラックにコンテナを積み込む前にデータ をスキャンする。
店舗での荷受け・検品の作 業負担軽減や、配車管理などに役立つかどう かを検証する計画だという。
ガス会社の物流子会社M&Sの3PLパートナーの一社であるG IST(ジスト)は英国のBOC(British Oxygen Company )グループに属している。
BOCは工業用ガスの供給や流通サービスな どを世界五〇カ国で展開するグローバル企業 だ。
グループの創立は一八八六年。
従業員数 は約四万三〇〇〇人。
日本では二〇〇二年四 月に大阪酸素工業を吸収合併している。
ジス トはBOCの物流子会社として設立された。
ジストの創業時の社名はBOCディストリ ビューションサービス(Distribution Service ) だった。
これを二〇〇二年にジストと改称し た。
ジストとはLogistics という英単語の中央 部分の四文字(GIST)を抜き取ったもの だ。
ジストという社名にはロジスティクスの中 核、サプライチェーンの中心的な役割を担っ ていこうという意味が込められている。
ジストは本社を英国ハンプシャー州ベイジ ングストークに置く。
年商は二億六四八〇万 ポンド(約五〇〇億円)。
保有する物流施設の 倉庫面積は合計で約二万六〇〇〇平方メート ル。
従業員は約五五〇〇人、車両保有台数は 約五〇〇台。
物流センターにおける商品の通 過金額は年間約九〇〇〇億円に達する。
M&Sとの取引は、七〇年に物流の低公害 化と定温輸送について相談を受けたのがきっ かけだった。
以来、両社は三〇年間にわたっ てロジスティクスのパートナーとして良好な関 係を続けている。
現在、M&Sは物流センタ ーを十一カ所用意しているが、このうち七カ 所の運営をジストに委託している。
七カ所の うち六カ所は食品用の物流センターで、M& Sの食品物流全体の八〇%をカバーしている という。
ジストの顧客リストには有名企業が名を連 ねている。
M&Sのほかに、BOC Edwards (グループ会社で半導体産業で使用する工業用 ガスを提供する会社)、Blueheath (グローサ リー商品をネット販売する会社)、British Airways (英国の航空会社)、Carlsberg-Tetley (デンマークのビールメーカー)、Sainsbury (英 国のスーパーマーケット)などと契約を交わし ている。
M&Sは物流センター11カ所のうち、7カ所の運営を ジストに委託している。
ICタグの実証実験を共同で展 開するなどパートナー関係を強化している 「ヘメル・ヘンプスティード物流センター」はTC型 センターで日雑品や日配品をクロスドッキングして 各店舗に配送している DECEMBER 2004 74 アパレルの荷扱いに工夫 ジストが運営するM&S向け物流センター の一つが「ヘメル・ヘンプスティード物流セン ター」だ。
延べ床面積約七〇〇〇平方メート ル。
各ベンダーから納品された商品を店舗別 に仕分け・配送するTC型(通過型)センタ ーで、?化粧品、日用品、医薬部外品の流通 加工およびクロスドッキング、?惣菜など日 配品のクロスドッキング、?ランチボックスの 仕分け・配送――業務などを担当している。
センターは三六五日二四時間稼働。
従業員 は約四〇〇人。
店舗供給量は一週間当たり折 り畳みコンテナで五〇万個分に達する。
セン ター運営はM&Sから完全に任されており、セ ンターにはM&Sの社員が一人も派遣されて いない。
入荷〜出荷までのフローはこうだ。
まず入 荷商品はバーコードリーダーでEANコード を読んで検品する。
商品はボール単位以上で 納品されるルールになっている。
検品した商 品には店別のラベルを貼付。
その後、折り畳 みコンテナに格納する。
続いてボールに貼付し たラベルのIDバーコードとEANコードをス キャンして出荷前検品を行う。
センター内で目をひくのはアパレル商品の 作業だ。
真空パック装置でアパレル商品の空 気を抜いて梱包して出荷している。
アパレル 商品の体積を小さくすることで、運賃を節約 するのが狙いだ。
ただし、真空パックにすると 商品にシワができてしまう可能性がある。
それ を防ぐため、センターでは湿気を保った状態 で商品を梱包するようにしているという。
ハンガー納品されるアパレル商品の作業に も工夫を凝らしている。
例えば、誤出荷をな くすため、ハンガーに貼付する「店名カード」 を色分けして管理している。
ちなみにセンター ではハンガー商品の入出荷に「ハンガーコンベ ヤ」を利用している。
?ランチボックスの仕分け・配送する業務 も興味深かった。
この業務は日本で言えば、仕 出し弁当屋の物流を代行しているようなもの だ。
センターではケータリングサービス会社が 調理したランチボックスを店、会社、部課別 に仕分けて昼食時間までに配送している。
作業そのものはとてもシンプルだ。
納品先 別に折り畳みコンテナを用意。
リストを見な がら種蒔き式でランチボックスを仕分けていく。
盗難防止にICタグ 今後、M&Sでは同センターにICタグを 導入する計画だ。
投資額は約一億円。
M&S では今回の投資を七年で回収できると説明す るが、そもそもICタグの導入が本当に必要 なのかどうかは疑問だ。
センターでの入荷〜 出荷までの作業は非常にシンプル。
さらに物 流品質はすでにピッキング精度が九九・九四%、 定時配送率が九九・〇七%とハイレベルにあ 作業員への情報提供には掲示板が用意されて いる。
結婚や出産などプライベートな情報を オープンにすることで、センターで働く人々 の連帯感を高めている オリコンに貼付したICタグをトラッ クに積み荷する直前にリーダーで読 み取る センターのピッキング精度は99.94%。
定期配送率は99.07%。
ICタグ導入で 高水準の維持を目指す Portal Rerder HMI Label Tag Pallet 75 DECEMBER 2004 るからだ。
それでもICタグ導入に踏み切るのは物流 品質を高水準のままで維持するためだ。
ジス トはM&Sと物流品質について特別な契約を 交わしている。
ピッキング精度や定時配送率 が契約条件を下回った場合、ジスト側にペナ ルティーが課せられるというルールだ。
欧米の小売業はかつてPOSシステム導入 の目的は「Sweet Hart (レジ係がレジを打た ずに商品を友人に渡すこと)」をなくすことに あると説明してきた。
今回、M&SがICタ グを導入する目的もその延長線上にあると言 える。
導入の狙いとして、物流品質の維持に 加え、「Theft (盗難)」や「Shrinkage (万引 き・荷抜き)」の防止を挙げている。
欧 米 は日 本 に比 べ Sweet Hart や Theft 、 Shrinkage で商品ロスが発生する割合が大きい。
小売業にとってこうした盗難による商品ロス をいかに減らすかが長年の経営課題となって きた。
現在、欧米と日本では「ICタグフィ ーバー」がほぼ同時に発生しているが、導入 の目的は多少異なっているようだ。
すずき・じゅん58年東京経済大学 卒業、62年セーラー万年筆に入社。
70年長崎屋入社、物流部長、電算部 長、物流子会社社長などを歴任。
92 年に独立し、物流コンサルティング 会社のサン物流開発を設立した。
小 売業を中心に物流センター構築など のプロジェクトに数多く参画する。
欧米の物流センターに詳しいコンサ ルタントとして知られている。
アパレル製品を真空パックにして体積を小さくす る。
コンテナに積載できる商品数を増やして支払 い運賃を削減している

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